表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/41

第三十一話「確信」

「ここは変わらないな…。」




警察署から家に戻ってから、ここに来たが、相変わらず人の気配は少ない。秘密基地にしようと口にしたこともあったが、案外本当に秘密基地にできたのかも知れないな。


中学生の時に来てから、5年ぶりだろうか。社宅群から外れた雑草の奥の窪み。




入口を見ると、自転車が1台止まっていた。


どうやら先に来てくれているようだ。


すなわち、俺のメッセージに応えてくれた人物が…。






「本当は、来てほしくなかった…。」






俺はスマホのライトを付け、洞窟に足を踏み入れる。


この洞窟は、中学の時、みんなで来た思い出の場所だ。あの時は、奏も智美も唯も壮馬も、冬田も…、志穂も居た。





『おーい。何で来ないんだよー。』




『読書とかかな?』






あの時の2人の言葉が昨日のように蘇る。


薄暗くヒンヤリした空間。入口が広くなったのだろうか、スマホのライトが無くても、入口近くは薄明かりが入るようになっていた。


不意を突かれる可能性がある。俺は慎重に足を進める。


すると、意外にも薄明かりが見える範囲に俺が呼び出したであろう人物が居た。


背中を向けて…。


俺に気付いていない…、というわけでもなさそうだ。


俺のスマホのライトをそちらに向けたのだから。






「ごめん、急に呼び出したりして。どうしても話がしたくて…。」


「…。」


「あぁ。いいよ。俺からの一方的な話になるかも知れない。まずは聞いてくれないか。」




そう言いながら、俺は手で髪をかきあげてかいた。


奥の人物は振り返る様子もなく、話を聞いてくれるようだ。


この奥に進んでも行き止まりであることは向こうも覚えているはずだ。となれば、とりあえずは話を進めても良いだろう。


話し始めたところで、振り返って冬田のようにというのもなくはないだろうが、不思議とそんな予感はしなかった。


俺の危機感がマヒしているのか。


それとも…、俺が信頼している人物だからだろうか…。





「冬田が刺された…。そして被疑者は第一発見者。俺は今日、その第一発見者を知る人物として、状況証拠とされている…防犯カメラの映像を見に行ってた。」


「…。」


「俺と壮馬で何度も何度も見たよ。何かの間違いだろうって。」


「…。」





俺には智美が冬田を刺す動機が分からなかった。


だが、動機なんて当事者にしか分からない。


壮馬が駆け付けた時には居なかった、冬田を刺して逃げた人物。


もし、そんな人物がいるのなら、ターゲットは智美だったことになる。


実はこの動機も俺は分かっちゃあいない。


だから、智美が冬田を刺したのか、智美が見た人物が冬田を刺したのか…、そこはさておいて、昨日、唯が会ったという智美について、映像を見ながらずっと考えていた。


服装も違和感がない。そして髪型も。


いつもの智美だった。


防犯カメラの精度はあがっていて、人の顔もハッキリと分かる。


最近では様々な犯罪で防犯カメラの映像が決め手となったもの多くある。前の人生ではAIで駅の映像を監視していたなんてのもあったぐらいだ。


だからこそ、警察も智美を知る壮馬と俺に協力を依頼したのだろう。


まだ状況証拠でしかないが、第一発見者たる人物が少なくとも凶器と同じ物を買ったという事実を確定させるために。





「完全に智美だったよ。」


「…。」


「だとすると…、動機は何だろう?」


「…。」


「それに…、俺たちの中で誰か1人でも、冬田を呼び出すなんて可能なんだろうか?高校の時以来、会ってもいない。今は引っ越して、壮馬も連絡先を知らなかったのに。」


「…。」


「思うに…。冬田があの公園に来たのは偶然じゃないだろうか。」


そう言って、俺は一歩足を進める。


向こうの人物は特に気にした様子はない。


俺は突拍子もないことを言っているのかも知れないが、それに疑義を付ける様子もない。




「でも、智美は凶器のナイフを買っている。」


「…。」


「何故だ?」


「…。」


「壮馬から呼び出されたと智美は言っていたらしい。けど、いつものメッセージじゃなくて、何故メールだったんだろう?」


「…。」


「メールの発信者は壮馬でなかったとしたら、あの公園に智美を呼び出した人物。その人物こそが凶器を買ったのでは?」


「…。」


俺はまだ話を続ける。


防犯カメラに写っていた映像は確かに智美だった。それは疑いようがない。


しかし、もし冬田がその場にいあわさなければ、智美は何のためにあの公園にナイフを持って行ったのだろうか?


その答えを探すのは警察の仕事だ。だが…







「何度か映像を見ていると、少し気になることがあったんだ。」








ふと、俺の脳裏に中学時代の場面が思い浮かぶ。


教室に皆が居て、はしゃいで、最高だったあの瞬間。


絶望に打ちひしがれてもなお、何度となくやり直してきたあの時間。


智美がいて


拓がいて


唯がいて


壮馬がいて


奏がいて


冬田がいて


志穂がいて


秋本がいて


恵がいて


勇人がいて


前田さんがいて


そして…剣太がいて





「今から俺は少しおかしなことを言うかもしれない。だけど聞いてほしい。」


「…。」


俺は人生で初めてこの話を他人にする。


可笑しくなったと思われるかも知れない。モルモットにされるかも知れない。


そんな恐怖から誰にも話すことができなかった話を。



「俺ってさ。どうやら同じ人生を…、何度もやり直しているみたいなんだ…。」


「…。」




そう、俺は何度も同じ人生をやり直している。最初は頭が狂ったのかと思った。


絶望の中、俺が病院で見ている夢ではないかとも。


だが…、何度やり直しても最後には絶望が待っている、そんな人生。


いつかは、きっといつかは報われるんじゃないかと。


そして、俺の脳はもう限界が来ていたのだろう。この人生ですべてを終わらせようと。


俺に絶望を与えることとなる2人を…、先に終わらせてしまおうと…。


だが、結局はできなかった。


それどころか…、今回も人生を楽しんでしまっていた。


だからこそ、感じた違和感に決着を付けたいと考えた。






「映像を繰り返し見ていると、ふと気が付いたんだ…。」


「…。」


「あのカバンに…、小さなぬいぐるみが付いていたんだ。いつだったか、君の部屋に行ったときに見たぬいぐるみ。もちろん偶然かも知れない。」


「…。」


「けれど…、あれを俺は高校時代にも見た覚えがあるんだ。…君のカバンで…。何度も。そう…、前の人生でもその前の人生でも…。」


「…。」


「そして何より、2回目の人生の時に俺が君に初めてあげた…ものだった…。」









そこまで言って、俺は少し息を吸った。


「そして…、俺の送った2つのメッセージ。これに対する返事が『OK』なんてあり得るわけがないんだ。だって意味が分かるわけがない。


 そう。『君が冬田を刺したのか?』『そして…あのホテルで俺のことも。もしそうなら中学の時に見つけたあの洞窟に来て欲しい。』


 絶対に…。2つ目のメッセージのことは意味が分からないはずなんだ。だって…。俺はこの人生でホテルで刺されてなんていないんだから…!


 この話を聞いても、まだ全くと言っていいほど動揺した様子もないなんて…。」

 



そうして、何もない洞窟の天井を見上げ…







「俺は確信したよ。…君だよね。そして…やり直しているよね。俺と同じに前の記憶を持ったままで、人生を…。」







俺は、まだ背中を向ける人物に向けて、語気を強めた。






すると…。


その人物は、こちらに振り返り…、初めて口を開いた…。





「そっか。覚えててくれたんだ…。ここぞという時にはお守りのつもりで持っていたんだけど、それが仇になるなんて思わなかったな。」


そこには確かに…



智美がいた…。

誤字報告、本当にすみません。ここに来て、登場人物の名前を入れ違うなんて…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ