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第三十話「疑念」

この刑事は一体何を言ってるのだろう?


告げられた言葉に智美だけでなく、壮馬も言葉を失っていた。




「私…、知りません。」


智美が振り絞るかのような声で、刑事に言葉を返す。


だが…、


「智美さん、今日、O駅に居ませんでしたか?」


「O駅は大学へ行くときに使います…。」


「O駅で降りませんでしたか?」


「…降りていません。」


「そうですか。」


刑事の口調が変わる。


「智美さん。あなたには…、障害事件の容疑が掛かっています。あくまでも任意のご協力とはなりますが…、


 あなたには黙秘をする権利がありますし、弁護士を呼ぶ権利もあります。弁護士の知己がありましたら、連絡していただきたいのですがどうされますか?」


「…弁護士?」


「ええ。」


「私が…、被疑者…?」


「そんなバカな!」


「冬田さんの意識が戻れば…、詳しい事情も分かるかも知れませんが、今の時点で、智美さんに嫌疑が掛かっています。」


「そんな!冬田の様子は…、どうなんですか?」


「まだ意識は戻っていません。それに面会謝絶の容態と病院からは連絡が入っています。」


「そんな…。」



智美も壮馬も、告げられた内容に驚くばかりであった。



「刑事さん。俺にも容疑が?」


「はい。ただ、あなたはまだ第一発見者という段階です。」


「なんで、俺と智美で扱いが違うんですか?俺も智美と一緒に居たんですよ?」


「そうですね。」





刑事は壮馬と智美に対して、智美に容疑が掛かっている理由を告げた。


O駅の販売店の防犯カメラに


凶器と同じナイフを買う智美が映っていたためとのことだった。




「私、そんなもの買ってません…。」


「そうだ。決めつけるなんて、いくら警察だからって…。」


「そうですね。ナイフを買っただけでは確かにその日にナイフを買った人、みんなが容疑者になってしまいます。」


「?」


「そのとおりです。ですので、智美さん。今から指紋を取らせていただけないでしょうか?」


「え?」


「指紋…?」


「ええ。智美さんの指紋。」


「じゃあ、まず俺の指紋を取ってくれ。」


「…壮馬…君?」


「智美1人に疑いが掛けられるなんて納得できない。俺の指紋も…、取ってください。」


「落ち着いてください。今の段階ではあなた方は第一発見者、そして智美さんは凶器を購入した疑いがあります。

 しかし、逮捕状はまだ請求していません。この状況証拠だけでお2人を加害者であると決めつけているのではないのです。あくまでも、あの場所に居た方として、ご協力をお願いしているのです。」


「だったら、智美だけでなくて、俺も取ってくれよ!」


「それはできません。まずは…、状況から判断して、智美さんにということなのです。ご理解ください。もちろん、今の時点では任意ですので断っていただいて何も問題ありません。強制することは違法捜査となりますから。」


「良いわ…。どうぞ。」


「智美!!」


「いいの。あのナイフからは…、どうせ私の指紋は出るんだから…。」


「え?」


「さっき、抜こうとしてずっと握ってたもの。指紋が出ない方が…、おかしい。それくらい私でも分かるよ。」


「…」


「では、恐れ入りますが、こちら朱肉に恐れ入りますが、左手の人差し指をお願いできますでしょうか。」


「はい。」


「ありがとうございます。」


「それでは、お2人とも、本日はお帰りいただいて結構です。また、ご協力をお願いするかも知れませんので、その際はお願いいたします。」


「帰れるんですか?」


「もちろんです。お2人を逮捕したわけではありませんし、先ほどお伝えしたとおり逮捕状も請求しておりません。逃亡の恐れがあれば拘留という措置もありますが。」


「分かりました…。智美、帰ろう。」


「え。ええ。」






2人は警察署を出ると、外はすっかり暗くなっていた…。


2人は終始無言のまま、駅へと向かい、そして無言のまま電車に乗り、自分たちの駅に着くと、軽い挨拶をして別れた。


まだ、自分たちの身に起きた出来事について、整理しきれていないかのようであった。






「今度こそと思ったのに…。こんなはずじゃ…。」


そして…、誰にも聞こえないような呟きだけが残されていた…。












翌朝、警察から電話を受けた壮馬はリョータを連れて警察署に向かっていた。


「なあ。本当なのか?冬田が刺されたって…。」


「ああ。」


「そんなニュースやってなかったぞ?」


「すまない、リョータ。余り俺も余裕がないんだ…。智美の疑いを晴らすためにも…、黙って付いてきて欲しい。」


「…ああ。すまん。」


「いや。俺の方こそ。」


「それで冬田は…?」


「昨日は面会謝絶だと警察が言っていた。冬田とも随分連絡してなかったから…、どこの病院に入院してるのかまでは…。」


「そうか…。」


いつもは気軽な会話が続く2人であったが、今日ばかりは口も足取りも重かった。


リョータは、余りにも現実離れした話しの気がして、壮馬に確かめられずにはいられなかった一方で…、【智美が刺したかも知れない】という事実に愕然としていた。


(やはり…俺を刺したのは智美で…、今回はそれが冬田に向かったのか…?)






警察署に着くと、狭い部屋に通されて、お茶が用意された。


「かつ丼って出ないんだな…。」


「出るわけないだろ…。」


少し待つと、扉が開き男が入ってきた。


「すみません。お待たせしました。本日はお越しいただきありがとうございます。」





警察に呼び出された内容は、防犯カメラの映像確認だった。壮馬と壮馬と智美の共通の友人を誰か連れてきて欲しいとのことで、俺に白羽の矢が立ったらしい。


映像を見ると…





驚くべきことに、確かにそこには智美が映っていた…。


昨日、唯はO駅で会ったと言っていた。


だとすると、やはり智美なのだろうか…。


そして…あの時、俺を刺したのも…。



「刑事さん、もう一度、再生してもらってもいいですか?」


「ああ、いいですよ。」


やはり智美にしか見えない。


何度か繰り返してもらう。


壮馬も同じ感想なのだろう。段々お互い会話がなくなってきた…。





「すみません、ちょっと止めて欲しい場面があるんですけど。」


俺は少し気になったことがあり注文をしてみた。


「ああ。どこだい。」


「もう少し先です…、あっ、ここで。ここで、ちょっと止めてください。」


やはり…智美にしか見えない。顔、髪型、服装…


智美が良く持っているカバン…。





「ありがとうございました。すみません、無理を言いまして。壮馬、帰ろう。」


「…ああ。」


「壮馬さん、リョータさん。本日は突然のところ、申し訳ない。ご協力に感謝します。」







刑事との挨拶もそこそこに俺は、警察署を出るとスマホを取り出した。


そして、メッセージを送る。



僅かな間のあと、返事が届いた。


『OK』


俺は、即座に来たメッセージを確認し、スマホをポケットにしまった。

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