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第二十八話「予感」

ガクン!


おっと、ちょっと寝落ちしかけていたようだ。


明日提出の講義のレポートを書いていたが気付かない間に寝てしまってたようだ。パソコンの時計に目をやると夜の12時を回っていた。危ない危ない。


このレポートを書くのも何回目だろうか。中学や高校時代と比べて、何を思い何を書いたか、記憶が比較的ハッキリしている。


まぁ…何度も書いているからか、前日でもいいやと放置していたためにギリギリまでかかっているわけだが…。


勉強が面白いと感じるのも、社会に出た経験が何度もあるからかも知れない。初めての学生生活では勉強することは苦痛にしか思えなかった気もする。


そう思えるようになっただけでも、俺のこのやり直せる人生というものに価値はあるのかも知れない。


ふと目線をスマホに向けると、メッセージの通知が出ていた。



誰だろう……。


っと、唯か…。


メッセージを開けてみる。


『22:00 明日、会えない?』


『23:00 スルーすんな!』


『23:12 おーい!』


『23:32 私のこと、もう飽きたの?涙』



…おちおち寝てられないな…。


『OK。何時にどこで?』


それにしても、相変わらず気分屋だ。大学生になって落ち着くかと思ったけど、高校時代の方が落ち着いていた気がする。彼氏と別れて荒れているのだろうか…。


いや、素に戻ったというほうが正解か。


明日は何か分からないが溜まった愚痴があるのだろう。





高校生活か…。充実した3年間だったと言っていいだろう。


俺は希望通り、K大に進学し、壮馬と奏はH大、唯と智美はO大に進学していた。


そして、冬田とは交流が途絶えてしまっていた…。


それに拓、秋山とも…。


無論、秋山は行方不明のままだが。


そして、剣太も事故後、引っ越してしまい、今ではどこに居るのかすら知らない。


俺にとって、人生の目標を失ったようであり、呪縛から解き放たれたようであり、今も複雑な心境のままだ。


そういえば、事故と言えば、壮馬が車にはねられた時も大変だった。


3日ほど意識がなく、奏や智美たち女子陣は、皆、憔悴した顔をしていた。突然のゲリラ豪雨で道路に飛び出した壮馬の不注意だったらしい。あの日は確かに俺もずぶ濡れに記憶がある。




ピコッ



おっと。唯からの返事だろう。


『18時にO駅の時計台で待ち合わせで!』


『了解』



今回の人生は…、波乱も多かったが、最近は落ち着いてきた気がする。


波乱が多かったからこそ、無難な選択をするようになってしまったからなのかも知れない。


俺は高校時代、誰とも付き合うことなく、卒業を迎えた。智美もだった。


智美はそれなりに告白されているらしいことを奏から聞いてはいたが、誰も選ばなかったようだ。


かといって、俺との距離が近くなったということもない。


もちろん、俺が意識して距離を保つようにしていたのもあるが、剣太が居なくなったことも大きかったのかもしれない。


さて、もうひと頑張りして、寝るとしますかね。











翌日の夕方、俺が待ち合わせ場所に向かうと



「遅い。」


「いや、まだ15分前だけど…。」


「忘れたの?私との待ち合わせは1時間前集合よ?」


「…だったら、1時間前を待ち合わせ時間にするべきだろう?」


「女心が分かってないなぁ。だからいまだに彼女ができないんだよ。」


「唯だって居ないじゃな…」


ドカッ


唯のバッグが俺の腹に叩きつけられる。


「ええっ?俺は事実をだな…。」


「今日は、リョータのおごりね。女子に対する配慮が足りてない。」


「その注意何度目だよ…。」


「成長がないってことだね。」


「ほっとけ。」


「そういえば、話変わるけど、リョータが来るちょっと前に、智美に会ったよ。」


「そうなんだ。」


「うん。ちょうどここですれ違って、手を上げたんだけど、急いでたのか、向こうは手を振ってくれたんだけど、そのまま行っちゃった。」


「用事があったのかもね。」


変わらない唯の態度に心地良さを覚えつつ、いつものやり取りを終え、俺たちは食事をする店を選ぶ。


「どこに行く?」


「今日は肉の気分かな。」


「じゃあ、この辺りでどうだろう。」


「うん。いいよ。」


俺たちは少し歩いたところにあった、肉バルに入り席に付いた。


注文を取りに来た店員に一通り注文をすると、唯から話を振ってきた。




「あのさ…。」


「うん。」


「大学生ってさ。」


「うん。」


「もっと楽しいものを思ってたんだけど…。」


「というと?」


「この3か月で智美は3人に告白されたのに、私はゼロってどういうことだと思う?」




何だろう。俺は女子に対する配慮が足りていない回答しかできない問題につきまとわれる宿命でもあるのだろうか…。どうしたものか…。


しかし内面はともかく、見た目だけなら唯の方が可愛いと思うんだが。


これだ!


「男の見る目がないんだよ。唯の方が可愛いのにな。」


「えっ。」


唯が呆然としたように俺を見る。


「どうした?」


「リョータが気が利いたことを言うなんて…。今日は悪い予感がするわ…。」


「俺だってやる時はやる男さ。」


「リョータのクセに…。」


悪態を突きつつも、唯の機嫌は悪くなさそうだ。どうやら正解の選択肢だったようだ。俺は少し安堵した。


だが…。悪い予感というものは間違ってなかった。俺たちは…、俺は怒涛の3日間を過ごすこととなる。

いつも誤字報告ありがとうございます。助かります。

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