第二十七話「雨の後」
やれやれ、酷い雨だった。ゲリラ豪雨ってやつかな。
折りたたみ傘があるからと、雨宿りをせずに帰る判断をしたが、何の役にも立たなかった。
まだ、降り続いているところを見ると、結果的には正しかったんだろう。さすがに毎日の天気がどうだったかなんて記憶はない。
諦めて走ったが、雨の勢いが凄まじく、前を見るのも辛かった。
体中がびしょ濡れだ。雨水を十分に含んだ服が重い。靴の中もたっぷり水に漬かってしまって、気持ちが悪い。
家に帰るなり、俺は雨でびしょ濡れになった服を着替えて、頭を乾かしていた。
部屋の窓から外を見てみると、まだ、雨で外の様子がほとんど見えない。かなりの雨が降り続いている。
ピコっ。
机に置いていた、スマホから音が鳴った。
ん?メッセージか…。
『ね、聞いて聞いて。ニュース!大ニュースだよ!』
何だ…?妙にテンションが高そうだ。既読スルーしたいところだが…。
『どうしたの?』
『独り者のリョータには残酷な話かも知れません。』
『は?』
『覚悟はいいですか?』
『何の覚悟?』
『リョータと私の差ができたことについて』
…何となく内容が読めたが、少しイラっとするな。軽くボケて終わらせにかかるか。
『彼女ができましたか?』
『彼氏です!彼氏!!』
しかし、今回は、もう彼氏ができたのか。いい彼氏だといいな。
『先生相手の妄想とかは止めた方がいいですよ。』
『これだから彼女がいないボッチは。まず最初に、おめでとうとか言えないかな。』
久しぶりのメッセージが惚気報告とは。よほど嬉しいんだろうな。唯のやつ。仕方ない。少し付きやってやるとするか。
『おめでとう。』
『もっと、どんな相手とか聞くことあるでしょ。』
『いつできたの?』
『昨日!』
ああ、女子同士の惚気が終わって、他に言いふらしたくて俺が選ばれたということか。この分だったら、壮馬にもメッセージが送られてそうだな。
『どっちから告ったの?』
『彼氏!』
『先輩?』
『同級生!』
『どこの高校?唯、女子高だよね?』
『S高』
『結構距離あるね、どうやって知り合ったの?』
『友達に紹介されたんだ。』
『そうなんだ。高校は楽しくやってるぽいな。』
『うん!リョータの方は?』
『まあ、普通。』
『普通ってことは、普通に彼女はできた?』
…正直、面倒になってきた。これだけ返事が早いということは壮馬はまだ見てないということか。運のいいやつだ。早く救援に来て欲しい。
『彼氏っていいよ。』
『誰か好きな子居ないの?』
『リョーマも頑張れ!』
『紹介しようか(笑)』
駄目だ。俺の助けを呼ぶ思いも虚しく、スルーしようとしたら、どんどん送られてくる。なんとか終わらせよう。
『うん。紹介してよ。』
『どんな子がタイプなの?』
…タイプ。そうだな…。
『唯みたいな子がいいな』
『それってどんな子?』
『明るくて、話しやすくて、気が利く感じ。でもって可愛い。』
『そんなこと言っても何も出ないよ?』
『うん?事実と俺の好みを言っただけだけど?』
お。止まったかな。さて、そろそろ晩御飯だし、ちょうどいい切れ目だろう。
◆
…リョータを揶揄ってたら不意打ちされた。リョータのクセに。
昨日は、奏と長電話してしまったから、電話はまずいとおもってメッセージにしたけど、止まらない。
昨日はそういえば、時計は1時を回ってた気がする。奏に少し申し訳なくなってきた。
…私はちょっと、いや、かなり浮かれている。
初めての彼氏だから、それくらいいいよね。許して欲しい。
彼氏って響きが良い。一昨日までの私とはもう違う気分だ。
それなのに、リョータのやつ。
私みたいな子がタイプだなんて。
…揶揄いづらい。
可愛いとか。
いや、嬉しくないことはない。正直嬉しい。
ってか、俺の好みとか言い出すし…。
一昨日までの私だったら、グラっと来てたかも。
なんで、私は彼氏の事じゃなくて、リョータのことを考えさせられなきゃいけないの。納得いかない!
気を取り直して、智美にメッセージを送ろう。うん。




