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第二十三話「不安」

「今更だけど、校則がないってびっくりしたよ?」


「そうだな。校則はない。心得だけだって。どれだけ自由なのか。」


「ああ、自由すぎて怖いな。だからこそなのだろうけど。」


「というか、教科書が重たいわ。宅配業者の受付があるのが妙だとは思ったけど。」


「そうだな…、何でそんな受付があるんだ?って思ったけど、これは重たい。」


4月に入り、入学式前のオリエンテーションで、高校に初登校していた。


教科書販売も兼ねられていたため、購入したのだが、中学校と比べて圧倒的に多い。


何度も繰り返しているから、本音では宅配業者にお願いしたかったのだが、それを主張すると、4人におかしく思われてしまう。


そのため、俺も渋々、自分で持ち帰っていた。


地元の駅に降りたところで、女子陣からの休憩したいオーラに負け、こうしてマクドで初登校の感想を言い合っていた。


壮馬、奏、智美、小林さん、俺、5人は無事、合格していた。今日は会わなかったが他にも数人、同じ中学から進学した生徒が居るらしい。



「そういえば、話は変わるんだけど、剣太って事故ったん?」


「らしいよ。自転車で車にはねられたって。唯からメール来てた気がする。見舞いに来てくれメールがウザイって。」


「え?唯って、そんな関係なの?」


「違うよ。剣太が一方的にって感じ。」


「そうなのか。中学卒業でカップル誕生かと思ったわ。」


「それ、唯が聞いたら、どうなるか知らないよ?」


「じゃあ、今日は壮馬のおごりだな。」


「お前ら酷いな。ってか、もう会計終わってるじゃん。」


「あはは。」




そう。罪悪感から自棄になった俺は、剣太を呼び出そうとした。すべてを終わらせようと。幸せも掴み、復讐もするなんて、両立はできない。そう思った。


だが、剣太を呼び出すことはできなかった。


事故で入院している剣太を、と考えなくもなかった。だが、さすがに病院に多大な迷惑を掛けることになる。


俺はもうどうなってもいいとは思ったが、剣太以外の人に影響を及ぼすつもりはないと思うと、俺の心にブレーキが掛かった。


気勢をそがれた俺は結局、何もできずのまま、春休みを無為に過ごしていた。


やはり、証拠が残らないようになる年齢まで待つしかないのだろうか。


剣太の事故をざまあみろと思いつつも、俺の手で下すことが出来なかったという虚無感の間に立たされていたような気分だ。


俺が、その日そう考えたことなど誰も知らないのだし、前日に事故していたわけだから、実際は何の関係もない。


この不安定な現在と未来、どちらにも俺は漠然とした不安を抱いていた。




「でもさ、ふみちゃんとか、なっちゃんとか、卒業してから付き合い始めたんだよね?」


「うん。ちょっとびっくり。」


「そうなんだー。いいなー。ふみちゃんって、3組のだよね?」


「そうそう。って、智美ちゃんって演劇部で一緒だったのかな。」



俺と壮馬を置いてけぼりにして、本格的にガールズトークが始まってしまったようだ。


ふと壮馬を見ると、向こうも同じようなことを思ったらしく、俺と目が合った。


「しかし、リョータと同じ高校になるなんてな。」


「ん?嫌だったんか?」


「違う…。お前や奏は、学年でも成績がトップレベルだった。そんなお前たちと同じ高校に行くことができるなんてなと思って。」


「前にも言ったが、お前のそれは謙遜じゃなくて嫌味にしか聞こえないんだけど。」


「そんなことあるのさ。それは俺自身が一番分かってる。別に比べて落ち込んでるわけでも、羨んでるわけじゃない。逆に、お前たちに振り落とされずに付いていけた。それが嬉しい。」


「お前、ほんと中学生か?言い方がおっさんクサい。タイムリープとかしてないよな?」


「それはそっくりそのままお前に返すさ。おっさんクサさではリョータには負ける。」


「なっ。」


「クラスで揉め事があったりしたら、上手く丸くおさめてたじゃないか。あんな真似、俺にはできない。どちらかというと俺も混ざるほうだし。」


「…。」


「だから、おっさんクサさでは負けてる。」


「良い話風に言いやがったくせに。」


「良い話風じゃなくて、良い話にしたつもりなんだけど。」


「お前な…。どこがいい話なんだよ、まったく。」




「そういやな…。」


「うん?」


「最後に、ありがとうってメールが来たらしい。その後は、メアドが変わったみたいで、エラーで返ってきたと言ってた。」


「そうか…。」



まだ、ガールズトークは終わりそうになかった。











俺と壮馬は、小腹が空いたので追加を頼みに行こうと、1階に向かう。


「なあ、あの話、どう思う?」


「あの話と言うと?」


壮馬が背中越しに小声で話しかけてきた。



「志穂の…。」


「あれか…。」



聞かれたものの、俺は何も返すことができず、そのままレジまでたどり着いてしまい、2人分のポテトを注文した。すると、壮馬が奥のテーブルに座り、俺を手招きする。


「どうした?」


「3人の前では話しづらい。少しここで話したい。」


「…分かった。」


少し迷ったが、俺は壮馬の提案に乗った。



「さっきの話、お前はいつ聞いた?」


「俺は、合格発表の日だな。壮馬は?」


「俺はその前の日曜だ。」


「そうなのか。実際、結構噂になってるのか?」


「少なくとも、2年の間では結構噂になっていると思う。」


「そんなことがなんで分かるんだ?」


「志穂が、パトカーに乗るのを見たのって、俺の妹とその友達なんだ…。」


「マジか…。」


「俺の妹は、最初、警察官の話を立ち聞きしたところまでで、その時点では、ヤバいニュース聞いたってだけで、友達にメールしたみたいなんだが…。」


「…。」


「パトカーに志穂が乗ったところを見てしまって、ずっと塞込んでて、あの日から学校に行けてない…。」


「じゃあ、あの噂は?」


「一緒に見てた、妹の友達だと思う。志穂と面識はないらしいが、妹と志穂が話しているのを見たことがあったらしく、3年の先輩じゃないかってところまでを友達にメールしたいみたいだ。」


「そんな…。でも、それなら何で、志穂に噂が結びついてるんだ?」


「そうなんだ…。そこは不思議なんだ。3年の女子なんて山ほど居る。なのに、何故あの噂は志穂になってる?」


「他にも、誰か現場を見てたとか。」


「かも知れない。だけど、そもそもそんな話を俺の妹たちが誰にもしなかったら、こんな噂はなかったんじゃないだろうか。志穂の家も引越しなんてしなかったんじゃないだろうか。」


「壮馬…?」


「出ていくべきは…、俺たち家族の方なんじゃないか…。」


「落ち着け、壮馬。」


「あ…。」


俺は軽く、壮馬の頬をはたく。


「なあ、そんなことを志穂が望んだのか?」


「いや…。」


「だったら、そんなことは言うな。」


「…。」



なんてこった。


壮馬もか。


壮馬も俺や冬田と同じように、内容は違うが、自分を責めていた…。


「…。」


「なあ、無責任な噂話ではある…。そういう噂を流す奴は俺も最低だと思う。だけど、お前の妹もその友達も、志穂とまでは言ってないんだろ。それに、事件の話なんて聞いたら、友達に言ってしまうのなんて、誰でもやってしまうだろう。」


「…。」


「俺はお前を責めない。責められて、謝った気になんてなるな。」


「な…。」


「今、確定している事実は、志穂が引越ししたこと。何らかの事件に巻き込まれたこと。そこまでだ…。それ以上の事は何も分かっちゃいない。それにも関わらず、周りが騒ぎすぎると…。」


「騒ぎすぎると?」


「やはり噂は真実だろうと、皆思うだろう。」


「…。」


「気にしすぎるな。今の冬田に聞かれたら、ただじゃ済まないぞ?」


「覚悟はある。」


「だから、それを止めろっての。まったく。なんでそんなに責任感があるのに、奏のことは放置してるのかね。」


「む。」


「自覚がないわけじゃないだろ?」


「一度、はっきり言っておいた方がいいか。」


「ん?」


「俺と奏の間に恋愛感情はない。」


「恋愛に踏み出せない、幼馴染って言ってたよな。だからってそんなの分からないだろ。」


「うまく言えないが…。」


「ふーん?」


「奏には、いい彼氏ができて欲しいと思ってる。これは俺の本心だ。」


「そうか…。」


なんだ…?過去に付き合っていたというわけでもなさそうだが…。ここまで頑なに否定しなくてもとは思うが、それは2人の話か…。俺が首を突っ込む話ではなさそうだ。





「済まん。ちょっと、妹の事で時間を取らせてしまった。そろそろ上に行くか。」


「ああ。」






「何してたの?遅かったね?3人の中で、誰がいいって話でもしてた?」


「奏…。」


「そんな分けないだろう。」


「それはそれで失礼じゃない?こんなに可愛い女子3人を放置して、ずっと戻ってこないなんて。」


「それは普通に済まん。」


「そ。じゃあ、私は、アップルパイ。智美とコバは?」


「私もアップルパイ。」


「私はねー。皆で食べたいから、ポテトのLで。」


俺たちが戻ってきたら、言うべきコンビネーションが決まっていたようだ。有無を言わせずグイグイ攻めてくる。仕方ない…。


「分かった。買ってくるよ。」


「仕方ない。」


俺たちは、ため息を一つ入れると、やれやれといった表情で、またレジへと戻るのだった。

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