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第二十二話「罪の意識と」

「な…。」


俺はやっと絞り出した声で、そう呟く…。。


まだ、思考に心が付いていかない。


「そんなの誰が…。」


俺はそう口にしてから、あらためて彼女たちの顔を見て、また声が出なくなる。


彼女たちがなぜ反論しないのか。


普通なら、否定どころか、相手にもしないようなだろう…。


普通は…、恐らく冬田のような反応か…。だが俺は…。




俺の考えが伝わったのか、諦めたように唯が言う。


「…卒業式の前日にね。お父さんが見たらしいんだ。夜中に志穂の家から、荷物が運ばれているところをね。」


「なんか急な引越しだろうか、ぐらいにしか、その時は思わなかったらしいんだけど。」



ぽつり、ぽつりと、唯は話を続ける。


確かに、卒業式の日に、志穂の家に行ったが、家の方からは何の反応もなかった。


単に、急な引越しだったのかもしれない、或いは、何らかのトラブルで夜逃げしたのかも知れない。


それなのに、何故、志穂が理由のような話になっているのか。




「でも、前の土曜日に…、妹の学年の子で…、夜にO公園の前を通った時にパトカーとかが結構止まってたらしくて…。」


「それから…。」


「お。おい…。」


俺の両肩を掴み、寄りかかるように頭を預けてきた。肩を掴む手は震えている。


そして、嗚咽を漏らしながら


「何だろう…、事件かなって、やじ馬根性で近くをすれすれで通ったら…。」


「その時に、逃走とか…、被害者は女子とか…、聞こえてきて、ヤバって思ったらしくて。」


「衣服がありましたとか…。」


「そして警察の人に…、支えられるようにして、パトカーに乗り込むのを見た子が、結構居るらしくて…。」


「そしたら、それが…。」


そこまで言うと…、唯は声を出さずに震えていた。


俺はそっと唯の頭を撫で、恵のほうを見る。


…恵も一人、下を向いて震えていた。





これ以上、言わせる必要はないだろう。


そんな場面に出くわして…、そのパトカーに乗り込む女子の顔を見たとしたら…、何があったかなんて察するだろう。


人の口に戸は立てられない。噂の周りが遅かったのは、余りにもショッキングな内容だったから、すぐに面白おかしく吹聴されることがなかったのだろう。


そして、志穂の家族が引っ越したという事実が、事件があったことを確信させて、少しずつ噂になっている。そんなところではないかと思う。


だから…、志穂は受験に来なかったのだ…。




こんなことが…。


こんなことがあるなんて…。


今まで、こんな事件は起こったことがなかった!何故だ!俺が何かを間違えたのか?俺が過去になど戻されなければ、こんな事件は起こらなかったのじゃないのか?志穂が…被害者となったのは…





俺のせいじゃないのか???


唯の頭を撫でる俺の手が震える。吐き気がする。眩暈がする。


俺は、俺の復讐のために、志穂を犠牲にしたのか?


俺がさっさと、剣太を殺して、少年刑務所にでも入っておけば、こんなことにはならなかったのじゃないのか!?


だとしたら、冬田に俺はどんな顔して会えばいい。何をすれば許される…。俺は…、俺は…。




「リョータ…。」


少し落ち着いたのか、下を向いたままの唯が俺を名を呼んだ。


「…。」


「ごめんね。」


「…?」


「こんな噂、知らない方がいいに決まってるのに。知れば辛くなるだけなのに…。話してしまってごめん。」


唯が辛そうに声を絞り出す。


今、こんな風に唯を苦しめているのも…、俺…?




「xxx」


「xxx」


「xxx」


「リョータ?」


「え?」


「変なこと考えたらだめだよ?」


「変なこと?」


俺が思考の渦に囚われている間に、唯が俺の手と掴み、俺の目をまっすぐと見ていた。


「犯人を捜そうだとか。捕まえようとか。今、すごく怖い顔してる。」


…ああ。そういう風に見えたのか。


そうだな。まさか俺のせいで未来が変わったなんて思わないか。


「約束して。」


真剣な…、とても真剣な顔で、唯はハッキリと言った。


俺は単に俺自身を許せなかっただけだというのに。


唯の言葉に、俺は頷く。


唯はしばらく俺の目を見てから、そっと俺の手を離した。


「ああ、約束だ。」


「うん。」


俺の心中はそう返事するだけで精一杯だった。




「そういえば冬田は?」


「先に行ってるって言ってたし、職員室に合否を伝えにいったんじゃない?」


あえて話題を変えた俺に、恵が返事する。


恵も泣いていたのか、やや鼻声だ。


「2人は、もう先生に伝えたの?」


「ううん。まだ。」


「じゃあ、とりあえず、職員室に行くか。」


「うん。そうだね。」


「てか、誰もメールくれなかったんだけど、結果どうだったの?」


「リョータも送ってくれてないじゃん。」


唯の言葉に、俺はたじろぐ。


そういえば、俺も速達を受け取って、その足で学校に来てしまっていた。


「えっと…。俺は合格しました…。」


「2人は?」


「フフフ。」


「「合格」」


「そうか。おめでとう。」


「ありがとう。リョータもおめでとう。」



少しだけ、日常の表情が戻ってきた彼女たちと一緒に俺は職員室に向かう。


ここに来た目的はそれだったのだから。


食員室に入ると、同じように合否を学校に伝えにきた生徒でごった返していた。


藤原先生の下に向かい報告をする。


何度も繰り返してきたことではあるが、自分事のように喜んでくれる先生の顔を見るのは悪いものではない。


唯や恵たちとも喜び合う姿は、先生と生徒というよりも、友人同士の方が近いようにも見えた。







「冬田…。」


先に職員室を出て、自然と足が向かったその先に冬田は居た。俺たちの教室に。


志穂の席の前で立ち尽くす、冬田がそこに。


背中姿の冬田は、志穂の机の前で首を垂れる様にして俯いていた。


俺は教室に入るが、冬田は無言のままだ。


俺が謝罪したとて、冬田は受け入れられないだろう、何の慰めにもなりはしない。それに理解できるはずもない…。


俺は罪悪感に打ちひしがれつつ、冬田に近寄る。


掛ける言葉があるわけでもない。俺が何を言ったとて、冬田に響くことはないだろう。


既に所詮、噂だと流すことができない程になっていることを冬田も知っていたのだろうか。


その冬田の気持ちを考えると、ますます俺は掛ける言葉が思い浮かばなかった。


けれども、俺は彼に近寄れずには居なかった。




冬田の後ろに立つが、しばらく沈黙の状態が続く。


冬田は何も喋らない。俺も何も喋らない。


先ほどの激高のこと、志穂のこと、聞きたいことがある。


結局、近づくだけで、俺は何も言うことができなかった。


時間にすると、数分だったのだろう。沈黙を破り、ようやく、冬田がぽつりと呟いた。


「変なところ見せたな…。なあ、志穂の噂って、聞いたか?」


「…。」


「ああ、いい。多分、聞いてるだろう。そうだな、聞いたかって聞かれて、返事できる類の噂じゃなかったな…。」


俺が返事を返せずにいると、冬田が一人話し出した。



 「実は先週の金曜日にな、メールで、志穂のことを何人かに聞かれたんだよ…。」



 「俺は突然、何のことだって返したら。」



 「ほとんどは、また今度言うよという返事だけでな。」



 「そしたらな、青木っていう、小学生から一緒の奴が4組に居るんだけどな。そいつがさ…。」



 「志穂の家が…、夜逃げしたって。」



 「原因は志穂かもって。」



 「志穂がな…。公園で襲われたのかもって…。」


「冬田…。」


 「なあ。リョータ…。俺のせいなんだよ…。」


「冬田?」


 「あの日さ、日曜日はお互い家で最後の勉強をしようってことで、受験前に最後に会おうってさ。」



 「志穂が俺の家に来てたんだ…。」



 「晩御飯前に志穂は家に帰って…。」



 「この季節だから暗かったけど…。自転車でさ、20分も離れてないんだぜ…?」



 「あの時、俺が一緒に送っていれば…。」



冬田は俺と同じだった…。


俺と同じように、自分がきっかけで起こったと…。


冬田…。


冬田はまた口を閉ざした。


ある意味、俺だけが冬田にそんなことはないと伝えることができるのかも知れない。だがそれに何の意味がある。誰も何も救われない。


…またしばらく、沈黙が続いた。


俺も、冬田も。


また、少し時間が経ち、冬田が俺の方に振り返った。


そして…


「すまない。今日は帰るよ…。」


「冬田…。」


冬田は泣いていた…。


「だから…、お前がそんな泣きそうな顔するな…。」


そう言って、冬田は俺の肩を軽く叩いてから、教室を出て行った。









その夜、俺は覚悟を決めた。俺は復讐を終わらせる。



剣太を呼び出して、そして…。



だが…、あまりにも短絡的にすぎた、その覚悟はあっさりと崩される。



剣太の家に電話すると、剣太は前日、自転車で車に跳ねられて足を骨折したらしく、入院していることを告げられた…。

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― 新着の感想 ―
[一言]  うーむこの段階でジ○ツしてみたらどうなるのか。  そもそも誰がループを仕組んでいるのか。
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