閑話「Side唯2」
いよいよ、明日が入試本番。そして、それが終われば卒業式。
長かったような、短かったような、中学校生活が遂に終わりを迎えてしまう。
私学は合格しているから、もしダメだったとしても、中学浪人にはならないことは分かってはいるんだけど、第一志望の学校に合格したい。
ああー、奏に電話したら怒られるかなぁ。誰かと話ししたいよー。
もう、気が気でない。
皆、よくこんなプレッシャーに耐えてるなと思う。
ちょっと机の上が散らかって来たかな…。
駄目だ。部屋の掃除がしたくなってきた。
よし、掃除をしよう。気分転換は必要って言うしね。
公立高校の入試を明日に控え、私は緊張からめっきり勉強に手が付かなくなっていた。
あれほど行きたかったS高だったけど、合格してみると、やっぱりK高に行きたくなって、公立も受験することにした。
机に散らばるノートを片付けつつ、3年間のことを思いだす。
あー、結局、私は彼氏ができなかったなぁ。
彼氏…、欲しかったなぁ。
欲しかった…なぁ。でも別に、彼氏が欲しいから女子高を止めるわけじゃないからね!
何人か告ってきた男子は居たけど、私はうんと頷くことが最後までできなかった。
秋本君とのことがあって以来、私はどうも恋愛から遠ざかってしまっている。
でも、思い返してみれば、私の周りの友だちたちも付きあった女子は少なかったかも知れない。
テニス部の女子は彼氏ができた子が多かった気がするけど。
奏は結局、壮馬と引っ付きそうで、引っ付かなかった。気が付けば、壮馬が1組の女子と付き合っていた。奏はちょっと気にしているような、気にしていないような。
お父さんのこともあったし、恋愛というか、家族というか、そういう話を無意識に避けてきてしまった。
奏は他人の恋バナは相変わらず好きみたいだけど、自分自身の恋愛からは遠ざかろうとしているかのように感じた。
いっそ、奏は私のところにお嫁さんに来ないかな。
智美は、秋本君と引っ付くかとおもったら、秋本君が居なくなっちゃって、よく分からない。
でも、何となくリョータといい感じじゃないかな?って私は思ってる。
高校もK高だと思ってたら、いつの間にか、I高を受験することになってたし。
奏も志穂もI高志望だから、高校も一緒に行きたいって気持ちは分かるけど、リョータを見てる智美の目線はちょっと怪しいなって思う。
私も好きな男子が居たなら、きっとあんな顔で見てるんだろうなって顔をしてる気がするな。
リョータは鈍いのか、全く気付いてなさそうだけど。
本当にアイツは彼女ができそうにない男子ナンバーワンだ。
でも…、私が一番仲がいい男子ってのは、リョータだったのかも知れない。
いつからだろう、小学校は別だったし、1年生の時もクラスが違ったし。
2年生になって、最初の方から何となく目立つ男子だった気がする。
これっていう特徴がある男子じゃないのに不思議なやつ。
勘がいいっていうか、空気を読むというか、なんとなく人がして欲しいことをに気が付く、痒い所に手が届くって感じかな。
頭もいいし。それなのに少し陰がある感じもして…。前ほどは大人っぽさを感じなくなったけど。
アイツが一番、私の彼氏に近かったのかも。
告ってこないし、たまに智美とイチャイチャしてそうだったから、お断りだけどね!
もし…、仲いいっぽい女子が居なかったのだとしたら…、私が告っても良かったかも。
今だから言えるけど…。
意外だったのは、志穂かな。
気付けば、冬田と付き合ってたなんて。いつの間にって感じだよ。私は騙されたよ、ほんと。
冬田も智美狙いかなって、思ってたけど、そこは私の勘は外れたみたい。
ってかさ、好みのタイプは顔と胸は私で、性格は志穂って、ちょっとどころか、かなりムカつくよね。
私は性格がそんなに、男子受けしないのかなぁ。そう言われてもなぁ。
男子受けする性格ってなんだろ。
いいなぁ。彼氏…。
どこに居るのかな私の彼氏…。高校では出会いたいなぁ。
あっ、そういえば、思い出した。咲ちゃん、剣太にバレンタイン渡してた。
マジか!って思ったけど。
咲ちゃん、脅されていたりしないんだろうか、ちょっと心配になるよ。
そして…、拓君は3年でも同じクラスになったけど、結局、顔を見ることなく卒業式を迎えることになりそう。
今のクラスには、もう1人、不登校の女子が居るから、拓君が目立つってことはない。
学年全体では10人より多く、不登校の子が居るみたいで、3年生になってから、一回も来ていない子ばかりらしい。
秋本君は…、不登校って言うんだろうか…。
結局、警察の公開捜査になっても、何の足取りも見つかっていない。
どうしてるんだろう、本当に…。
…泣いても笑っても、あと3日で、私は、私たちは中学校を卒業する。周囲も私も何もかもが変わる。
このままの時が続けばいいのにって、ずっと思っていたけれども、そんなことはないみたい。
時間というやつは、誰にでも平等に過ぎていくものらしい。
この3年間、変わったこと、変わらなかったこと、たくさんの事があった。
全てはもうすぐ思い出というやつに、変わってしまうのかも知れない。
だけど、私はやっぱり、このままが続いてほしい。
変わることにすごく臆病な自分が居る。私は…、未来が怖い。
明日なんて来なければいいのに…。
さて、掃除はこの辺にしておこうかな…。
私は最後のあがきをするために、机に向かうのだった。




