第二話「21回目の2008年6月18日」
智美は…何のことを言っている?
何のことだろう?
まさか…。
この前、俺にとっては昨日だが、俺の背中を刺したことを言っているのか?
智美も記憶を…?俺は声が出せなかった。が、
そんな俺の様子をよそに智美は、
「昨日の部活でさ、頭にボールぶつけちゃったじゃん。後で謝ろうと思ってたのに、終わったらもう居なくて、
剣太君と先に帰ったって聞いたから。ごめんね?」
そんなことがあっただろうか。正直記憶にはない。
が、そんなことを智美に謝られたのは初めてだ。
「ああ、そうだったかな。うん。全然気にしてないよ。」
「そっか。ごめんね。」
そういって、智美は他の女子との会話の輪に戻っていった。
ボールが当たったかどうかなんてことは、正直どうでもいい。
だが、俺にとって、聞き捨てならない部分があった。
【剣太君と先に帰ったって】
【剣太君と】
【剣太君と】
俺は、文化祭の出し物である、劇の練習をきっかけに、剣太と話すようになり、親友と言っても差し支えないような関係となった。
文化祭は、11月。今の時点では接点は無かったはずだ。
起こった全ての出来事なんて、当然覚えているわけはない。
それでも、要所要所で起こったことは、なるべくノートに書きだしして、思い出すようにしている。
俺にとって、この【6月18日水曜日】は特別な日だ。少しずつ、起こった出来事にはズレがあった。
だが…。
この時点で構築している人間関係が変わっていたことはなかった。
俺は自分の席に座り、カバンから教科書を机に入れながら、少し離れた席で友人たちと話す智美の様子を伺う。
特に変わった様子はない。中学生らしい雰囲気の智美だ。
どうした?ぼーっとして?
声がした、斜め後ろを振り返ると、拓が居た。
この拓とは3年間一緒のクラスとなる。まあ、仲がいい友人の一人だった。
「いや、昨日、少し遅くまでゲームしててさ。ちょっと眠くて。」
「お前もかー。」
何ということの会話を交わしていると、1限目の英語の教師が教室にやって来た。
剣太との関係性については、探ることができなかった。
この授業は、一方的に教師がしゃべり、誰かを当てることなく、ひたすら板書の授業であるため、
正直、寝てる生徒も多い授業ではあるが、俺にとっては、状況を整理するのにいい状況だ。
『1回目…25歳で付き合う→31歳で破局』
『2回目…中2で付き合う→25歳のクリスマスで別れる』
『3回目…中2で付き合う→25歳のクリスマスで別れる』
『4回目…大学1回で付きあう→3年で破局』
『5回目…中3で付き合う→22歳で破局』
『6回目…高1で付き合う→30歳で破局』
『7回目…中2で付き合う→22歳で破局』
『8回目…中2で付き合う→31歳で破局』
『9回目…大学4回で付き合う→半年で破局』
『10回目…高3で付き合う→31歳のクリスマスで別れる』
『11回目…22歳で付き合う→25歳で破局』
『12回目…24歳で付き合う→30歳で破局』
『13回目…22歳で付き合う→30歳で破局』
『14回目…高3で付き合う→23歳のクリスマスで別れる』
『15回目…高2で付き合う→25歳で破局』
『16回目…28歳で付き合う→30歳で破局』
『17回目…高3で付き合う→25歳のクリスマスで別れる』
『18回目…中2で付き合う→30歳で破局』
『19回目…28歳で付き合う→30歳で破局』
『20回目…29歳で付き合う→30歳のクリスマスで別れる』
よくもまあ…、これだけ付きあったものだ。我ながら感心する。
…俺から告白したり、智美から告ってきたり、パターンは色々だ。
クリスマスで別れる率が多いような気はするが…、ここでプロポーズをしたことが多いからだ。
正月や何の思い入れのない日にプロポーズしたこともあったが、何故かクリスマス以外の時は
プロポーズは成功し、その後NTRされるというパターンになる。
正直、NTRされる前に別れる方がダメージは少ないだろう。
クリスマスのプロポーズは、俺の中でリトマス紙的な意味合いがあった。
ここで成功すれば、NTRされないのではないか。という検査である。
今のところ、クリスマスだけは全敗している。うまくいかないものだ。
これだけ見ると、智美のことに執着しているようにしか見えないだろう。
俺もそう思う。異常な執着だ。
…だが、実際はそうではない。それが智美から告ってくるパターンの回だ。
しかも、智美となるべく関わらないようにした回にも関わらず、何となく付き合ってしまう。
10回目くらいからは、それが顕著だった。
特に前回、20回目は笑える。
九州の大学に行き、九州の県庁に就職し、九州で開催された婚活パーティに智美が参加してくるのだ。
俺のストーカーかよ!としか思えない
…だが…、智美をNTRする剣太は違う。
必ずしも毎回接点があるわけではないのだ。
同じく前回の20回目では、剣太とは特に中学のクラスメートである以上の関係性はなく、
成人式や同窓会すら、九州から戻るのが大変なので、と欠席していたのだから。
にも拘わらず、智美は半年前から2股をかけていたらしい。
らしいというのは、俺と付き合ったとき、既に剣太と付き合っていて、俺がNTRしていたという可能性があるわけだが、最早それを確かめる手段はない。
「~~~タ!」
「~~~タ!」
「Hey Mrリョータ!」
ん?俺を呼ぶ声?
前を見ると、先生が俺を当てていたようだ。珍しい。授業で誰かを当てるなんて、明日は雨が降るんじゃないか…。
黒板の板書を見て、今、当てられていた内容と思われる部分を考える。
「I’m going to play soccer with my friends.Are you going to play at the park?」
「よろしい。」
実は、この日までの俺の成績はせいぜい中の上程度だった。
だが、この日を境に俺の成績はとんでもない上昇を起こすこととなる。
当然だ。20回も復習し、さらに出る問題も何となく分かっているのだから。
これこそチートというやつだろう。
目下、気になるのは当然、智美。そして剣太だ。
俺は智美に殺されたのだろうか?そして、過去に戻ったものの俺の自死ではないから、微妙に歴史にズレが生じたのだろうか?
智美に刺されたかについては、最早確かめる手段が存在しない。
俺の振舞い方を決めるためにも…
まずは、今の時点の剣太との関係を探るとしよう。
探ったところで、あまり意味はないかも知れない…。
俺はもう…、幸せなど要らない。…あいつらを…、許せる気がしない…。