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第十八話「洞窟?」

「…あれは?」


「ああ、なんかあるなーって気になって近寄ってみたら。なんかそれっぽい雰囲気でさ。」


「ああ、なんか…、洞窟っぽいな。すげえ。こんなもんがあるなんて…。」




壮馬が見つけたそれは、切り出した丘を少し抉ったような、少し暗い空間。洞窟と呼びそうなものだった。


入口の光が奥まで届いておらず、そこそこ広そうには見える。入口は俺たちの身長より少し高いといった程度で、洞窟というよりは、窪みといった方が正解なのかもしれない。


中に入ると、光が届ききっていないせいか、少しヒンヤリする。


そして、奥はありそうだが、横幅も人が2人は自由にすれ違えるだろうが、大して広そうではなさそうだ。


そういえば、以前も何度か、冬田が洞窟を見つけたって言っていたいうことがあったが、これのことだったのかも知れない。


その時は話題になったが、結局行くことがなかったため、その存在を見たことはなかったが。





「…ちょっと待ってね。」


唯一スマホを持っている志穂が、スマホのライトで奥を照らす。


「ああ、もうすぐそこが行き止まりだね。」


「洞窟ってか、熊の寝床みたい。」


「そうなの?」


「うん。ここに熊が居るとは思ってないけど、こんな横穴っぽいところを住処にしてるって言うよ。」


「へぇー。」


俺たちは、少し興味深々で歩き回るが、特に何もなかったため、一通り見るとこぞって表に出てきた。


「惜しいなー。小学生だったら秘密基地ーとかやってたんだけどな。」


「あー、分かる。小学生の時って、そういうの作ったよな。」


「へー、男子ってそうなの?」


「ああ、俺も友達同士の秘密の場所みたいなのがあったな、懐かしい…。」


俺たちはこの横穴について、少し思ったことを次々に口に出していた。





「おーい。何で来ないんだよー。」


冬田と剣太だ。みんな横穴に夢中で、あいつら2人が先に行ってたことをすっかり忘れていたようだ。


少し中に入ってきてから出てきた2人は、俺たちと同じような感想を抱き、少し興奮した様子で会話に混ざってきた。


秘密基地か…。俺も小学生の時を思い出してみる。


そういう時もあったのかも知れないな…。俺は中2以降をやり直ししすぎたせいか、中1以前の記憶がドンドン失われつつある。小学校の時も楽しいこと、辛かったこと、多くの思い出があったはずなのだが。修学旅行すら、広島に行ったという事実は覚えているが、どこに行って何をした、どんなことを思ったのか、もう全く思い出すことができなくなっていた。





思った以上に男子たちの食いつきはよく、近道を通って帰るつもりが、時間が余計にかかることとなった。


奥の方には誰かが同じように秘密基地か溜まり場にしていたのか、スナック菓子の袋と空き缶が少し転がっていた。食べカスが溜まった匂いだろうか。奥の方は少し臭い匂いがしたことと、少し地面の湿り気が強く、そして…、こういう場所に付き物のアダルト雑誌があったため、気まずさからか、皆は手前の方まで戻ってきていた。


こういったことに興味がなさそうに見える壮馬も、意外と秘密基地の話に盛り上がる。


今度はここでバーベキューをしようと言い出すものもいた。


どうなんだろうな、これくらいの入口なら、二酸化中毒になったりはしないだろうが、ここだと荷物は全て持ち込みする必要があるし、中学生の俺たちだけで行うことは難しそうな気がする。


もちろん、こんな現実解を皆が求めているわけではなく、想像の話に盛り上がっているだけだ。


こういったところが、きっと奏が言った、俺が大人っぽく見えるというやつなのだろう。


俺は大人っぽく見えるわけでも大人ぶっているわけでもない、逆なのだ…。


子どもになり切れていない中途半端な人間。それが俺の中の大人の正体だ…。


子どものように無邪気になり切れず、大人のように現実に傾倒するわけでもなく、中学生に交じった異物。


偶に自分自身のことをそう考えることがある。


この楽しい時間と対価なのか、俺を襲う地獄のような未来。


どれだけ分かり合えたと思っても、心の底から皆と分かり合えることはきっとないだろう。それは諦めにも似た心境なのかも知れない。





「どうしたの?そんなに洞窟が気になった?」


志穂が俺の顔を覗き込むかのように近づいてきた。


少し、自分の考えに浸りすぎていたようだ。俺は気持ちを切り替えて志穂に問いかけてみる。




「志穂だったら、ここで何かしてみたいとこあってある?」


「うーん。そうだねぇ。読書とかかな?ちょっと道路から離れてて静かそうだし。」


志穂は、少し思案したあと、そう答えた。


「でも、せっかくなら、バーベキューもありだけど、クリパとか皆でワイワイできるようなことがいいかな。」


そうして、少しの間、見つけた横穴のことで盛り上がった俺たちであったが、そのうち飽きて、あらためて家路につくのだった。

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