第十六話「恋バナside男子」
GWの初日。
リョータと壮馬、そして冬田の3人は近所のファミレスで、昼食を取っていた。
「あー、彼女欲しいわー。」
冬田は、ドリンクバーで入れて来たばかりのジュースを飲みながら言う。
「身も蓋もないな…。」
「リョータは余裕があるのか?」
「ははは。あるわけないだろう…。」
「なんだそりゃ。」
冬田のため息混じりの嘆きに、俺と壮馬が絡む。
「あーあ。中学最後のGW初日に男だけって…。」
「お前が言い出したんだろう…。」
冬田のぼやきに呆れたように席を立つと、壮馬はドリンクバーにジュースを取りに行った。
「なあ、恋愛フラグって見えないもんかねぇ?」
「それは世界中の男子の願いだろうな。」
「あー、彼女が欲しいー。」
そんな冬田に対して、リョータはランチメニューのハンバーグを食べながら言う。
「てかさ、女なら誰でもいいって感じなのか?それとも誰か好きな子がいたりするのか?」
冬田がキョトンとしたようにこちらを向く。
「いや、そんなのどっちでもいいに決まってるだろう?好きな子が居ても俺を好きになってくれなきゃ意味ないし。俺は彼女ってやつがほしいんだ。」
「聞き方が良くなかったかな。こういう子がタイプみたいなのはないのか?」
「ああ、それは俺も聞いてみたいな?」
ドリンクバーから戻ってきた壮馬が座りつつ、話に入ってくる。
「そうだなー。やっぱり可愛くて性格がいい子だなー。」
「その条件だといくらでも見つかりそうな気がするが…。な?壮馬。」
「ああ。もっとマニアックな好みでもあるのかと思った。」
「それは、彼女持ちの余裕か?」
「壮馬、お前、裏切者だったのか!」
「へ?俺、彼女いないよ?」
「え、お前って、奏と付き合ってるんじゃないの?」
先日、俺が奏に聞くことができなかったことを冬田はあっさりと聞いた。すると
「いや、付き合ってないよ?」
「嘘?おれ、1年の時からずっと付き合ってるものだと思ってたよ?結構、そう思ってるやつも多いんじゃね?」
「マジか…。」
「そういう噂もあるぞ?」
「知らなかったわ…。」
意外に壮馬はあっさりと否定する。違うのか?
「小学校低学年からずっと一緒のクラスだったからな。仲良くもなるさ。」
「へー。それはすごい偶然だな。」
「好きとかはないのか?」
「ない。と言えば嘘になるかな。」
「おお。」
「向こうも俺を嫌いってことはないとは思うけど…。お互い、好き同士かと言われると、それは違う気もするな。そうだな、幼馴染っていうのが一番しっくりくるかも知れない。」
「恋愛に踏み出せない幼馴染ってやつ?」
「はっきり言わないでくれよ。恥ずかしい…。」
付き合ってはいないが、付き合う直前といったところか。やはり、奏と壮馬がってのは噂だけってわけでもないな。実際、付き合ってたこともあるんだから。
「で、冬田の好みは?」
「そうだなー。他にはスタイルいい子がいいな。例えばさ、唯みたいにさちょっといい感じの胸しててさー。唯の性格も嫌いじゃないんだけどなあ。ちょっときついって言うかさ…。
「胸って…。」
ん?何だ…。壮馬はバツが悪そうな顔をして横を見る。
「な、リョータ!お前なら分かるだろ?あの胸、ちょっと触りたい!って思わないか?ああ、性格がもうちょっとおとなしい感じだったら、顔とかもドストライクなんだけどなあー。」
冬田は隣の俺を見ながら熱く語る。
「そうだな。性格は志穂みたいな感じがいいかな。うん。俺の理想は、顔と体が唯で、性格が志穂。そんな子かな。なあ、壮馬、そんな子いないかな?」
「あ…、ああ。皆いい子だと思うぞ…。」
「ノリ悪いなー。唯の唇とかマジでそそる。めっちゃキスしたいわ。」
「へぇ?それはありがとう…。」
ん?俺の通路後方から、聞き覚えのある女子の声がした。
振り返ると、そこには
邪悪な笑顔を浮かべた唯と、顔を真っ赤にした志穂が立っていた…。
えっ、何この状況…。
「壮馬、ちょっと席詰めて?」
「あ、ああ…。」
「こんにちわ。顔と体だけがタイプの女子が来ましたよー。冬田君、私みたいなのがタイプだったんだー。体だけだけど。あっ、顔もかー。」
冬田は目が完全に泳いでて声が出ない。
「リョータも私の顔と体だけが好きだったのかな?かな?」
俺にまで、邪悪な笑みが向けられる。壮馬は唯の隣にいるにも関わらず、完全に我関せずで空気と化している。お前、なんとか伝えてくれよ…。
「ね?リョータ?リョータも私の胸だけが好きなの?」
「いや、俺はそんなことは…。」
「じゃあ、顔だけ?」
なんだこの拷問…。何を答えてもすべて不正解しかないだろう。冬田、何とか言ってくれよ…。おい冬田…。
「男子ってバカだよね。でも、志穂の性格が好きってところはなかなか見る目があると思わない?」
唯の隣に満を持して、大ボスがドリンクバーのジュースとサラダを持って座る。
「恋バナっていいよね。リョータそっちも詰めて。志穂せっかくだし、隣に座ってあげて。」
「ちょっと、2人とも…。」
志穂を見上げると、恥ずかしそうに眼を逸らす。気まずい。この前、告白されたばかりのこのタイミングで…。
「大丈夫よ。すぐに席に戻るから店には迷惑を掛けないし。それに…、今日は男子がおごってくれるみたいだから接待しないとね。」
「えっ?」
「そうよね。タイプの子が向かいに居るんだもんね?もちろんおごりたくなるでしょ。」
「はい…。」
冬田はあっさりと奏と唯に白旗をあげた。
「あれ?リョータと壮馬の返事がないよ?」
鬼は俺たちを見逃してくれそうになかった…。
奏の様子を見ると、だいぶ調子を戻しているようだった。タイミングとしては最悪だったが、元気そうなところだけを見れたのは良かったのかもしれない。
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その後、時間にすれば、わずか3分ほどだったが、永遠にも感じるかのような3分間を過ごし、俺たちは解放された。
「あー、えらい目にあった…。」
「壮馬もアイコンタクトとかしてくれよー。」
「いや、完全に手遅れだった…。」
「しっかし、女子も同じ時間に居るだなんてビビったわ。」
「俺、中学校最後の学年で、俺の学生生活は終わってしまったんだろうか…」
「大丈夫だろ。あの2人は噂にして陰口にするってより、本人に直接揶揄ってくるだけのタイプだろ。」
「ううう。俺の青春が…」
「それは、そうと…。」
落ち込む冬田を尻目に、壮馬が少し真面目な顔でリョータを見る。
「リョータって、志穂となんかあった?」
「え?何もないけど?」
「そっか。なんか、2人とも意識してるような感じがしたんだけど…。気のせいか」
この男、鋭すぎるだろ…。
「お前、人の観察よりも、自分の恋愛を何とかしろよ…。」
「俺は何とかしようとしてるぞ?」
「ほんとかよ?」
俺たちは、ファミレスを出てからもバカ話が続くのだった。