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第十一話「クリスマスイブ?今日はただの水曜日だ。」

「ごめん。お待たせ。」


「遅ーい。女子を待たせるなんて。なってないんじゃない?」


「ごめんごめん。ってか、まだ時間になってないと思うんだけど。」


「女子と行動する時は30分前行動が常識だよ!そんなんじゃ彼女できないよ!」


「そ、そうか…。」


会って早々に盛大なダメ出しをされてしまった。


いや、俺、君の2倍生きてたんですけど…。


俺は、拓のことを確かめたくて、でも俺だけだと会ってもらえないだろうと思い、唯に声を掛けた。


今の拓は智美が好きなようだが、これまではずっと唯が好きだったということと、智美に2人で出かけるなどと声を掛ける勇気が俺にはなかったからだ。



「拓君は出てきてくれるかな…。」


「会うのが無理だったら、せめて声ぐらい聞けたらいいんだけど。」


「えっ、やっぱ顔見ないとダメでしょ。なんで最初からむりっぽな感じになってるの!あんなに仲良かったじゃん。」


「そうなんだけどな…。」


「じゃあ、大丈夫だって!えっと、拓君の家は何階?」


「えっと、12階。」


「12階ね。」


やはり、昨日唯を誘って正解だった。俺一人だったら引き返していたかも知れない。


ムードメーカーとでも言うのだろうか、彼女の勢いには頭が下がる思いだ。




拓の家はマンションだ。結構、以前から建っているマンションだが、同時期に建った建物としては、この辺りで一番高い。


だからか、年に数回、飛び降りる人が居るなんて、嘘か本当か分からない噂も流れていたりする。


しかし、全くの嘘というわけでもなく、実際に新聞に載ったこともある。


そういえば…、前に拓の家に来たのはいつだったか…。そうだ、確かGWの時だったか。




えっと、1203号室はっと…。


「あ、ここだ。」


「じゃあ、リョータ隊長。インターホンを。」


「えっ。俺ですか。」


「女子を誘っておいて、エスコートできないなんて、本当に女子の扱いが下手だなー。将来彼女も出来ず、お父さんお母さんが可哀そうになってくるよ!」


「そんなですか。」


「はい。リョータはもっと女扱い上手くならないと、本っ当に彼女できないよ?好きなだけじゃ、誰も付きあってくれないよ?」


「結構、グサグサ刺してくるね。俺のHPは残り僅かだよ…。」


「はい。ホ〇ミ!」


「でも誰か出たら、唯が返事してもらっていいか?俺だと出てもらえない気がして。」


「うん。良いよ。そう思ったからこそ、今日、私を呼んだんでしょ?」


「気付いてたか…。」


「当然でしょ。」


仕方ない。押しますか…。


日曜を狙ったんだ。ここまで来たんだ…、出てきてくれよ…。


俺は祈るような気持ちでインターホンを鳴らした。



『ピンポーン』


よくあるインターホンの音が家の中から聞こえてくる。


1秒…、2秒…、3秒…。4秒…、5秒…。…出ない。仕方ない、もう一度鳴らすか…。


「はい。」


おっ、誰か出た。女性の声だ。母親だろうか。


「おはようございます。私、中学校のクラスメートで、拓君に会いに来たのですが…。」


「…少しお待ちください。」




鍵が開く音とともに、玄関の扉が開く。


「どういった御用でしょうか。…あれ、リョータ君…?」 


出てきた母親は、怪訝そうな顔を唯に向けていき途中で、俺に気が付いた。


だが、俺の方こそ、訝しい顔となってしまった。


「お久しぶりです。おはようございます。」


とりあえず、挨拶はしたものの…。


「おばさん…、どうしたんですか、それ…。」


そう、拓の母親は、頭に包帯を巻き、右目のあたりにも眼帯をしていた。


凄く痛々しい…。


「ちょっと転んだのよ…、それより、どうしたのかしら?リョータ君まで。」


「えっと、私、クラスメートでいつも仲良くしてもらってまして…、本日は拓君の様子を見に…。」


「ごめんなさい。あの子には会えないわ。」


「ずっと、学校に来てなくて、私たち皆心配してるんです。」


「そう。ありがとうございます。あの子にも伝えておきます。」


「おばさん、声を聞くだけでも駄目でしょうか?」


「ごめんなさい、ちょっと家の中も片付いてなくて…。」


「少しだけでもいいんです。どうか…。」


「ごめんなさい…。」


「おばさん、拓って家に居るんですよね?」


「ええ、居るわ。」


「そうですか…。」


「?」


「今、拓君って、どうなってるんでしょうか?様子だけも教えてもらえませんか?」


「ごめんなさい。今、ちょっと立て込んでて…。」





ガチャンッ




その時、部屋の中から、ガラスが割れたような音がした。


「ババァー!」



「ごめんなさい!今日はこれで。また来てね…。それじゃ…。」


拓の母親は何かに急かされるかのように部屋の中に入っていった。これは、もう出てきてくれなさそうだ…。


しかし…、今のは…。




俺たちは顔を見合わせると、どちらからとでもなく、来た道を戻っていった。


「ねぇ。さっきのって…、拓君の声だよね。」


「多分…。」


エレベータに乗り込むなり、唯が話しかけてきた。


「それに、あのお母さんのケガ。さっき部屋の中からガラスの割れるような音が聞こえて来たけど、あれってひょっとして…。」


そう、俺も同じことを考えていた。あれはひょっとして、拓から受けたケガではないんだろうか。


それにあの怒鳴り声…。




「ねぇ、警察とか言ったほうがいいのかな?」


「家庭内暴力もあそこまでケガが見えてると、児童相談所に通告か、補導か、何かしらの対処はされるレベルな気がする。けど、あんな音がしてるんだったら、既に近所からの通報はされてそうな気もする。」


「…そっか。」


また会話が止まる。唯の方も今見たことにかなりショックを受けているようだ。


断言はできないが…、恐らく拓の声だ。拓の父親の声にしては若すぎる気がする。拓にきょうだいは居るが、妹だ。あれはやっぱり拓の声だろう。


どうしたって言うんだ。拓はいったいどうしてしまったんだ…。


少なくともアイツは、冗談でも親に暴力を振るうような奴ではなかった。


しかし…、不登校になった理由は分からないままだが、これで拓が行方不明というのは、ないと考えて良いだろう。


ちょっとヘビーすぎる場面に出くわしたようだ。


誘わない方が良かったかもしれない。


とりあえず、今日は引き上げるしかないが、唯の気分が落ち着くまでは一緒に居るとしよう。









今日は終業式。


世間では、クリスマスイブというものらしい。


俺もクリスマスらしいことをしたいものだが、残念ながら相手が居ない。


結局、拓も秋本も2学期の終わりまで学校に来ることはなかった。


あれ以降、改めて拓の家に電話したが、やはり取り次いでは貰えなかった。


拓の母親の痛々しい姿が忘れられない。


実はあれから唯の家に行った。


そして家に居た唯の母親に唯が相談してみたのだが、警察というのは少し難しいということを聞いた。


通報することはできるが、本人たちが何でもないと言い張られてしまうと、民事不介入ということになるらしい。


DVだったら話は早いらしい。近所住民でなくても通報はできるらしいが、殴った場面を見た訳ではなく、転んだと言われている状態では、申し訳程度の訪問ぐらいはしてくれるかもと。妹に会えればその辺りの話も聞けるのだろうが…。



クリスマスの話に戻そう…。


クリスマスを恋人と過ごすのは日本だけということも聞いたことがあるが、どうも完全に違うわけではないらしい。


彼氏彼女が居る場合は、その彼氏彼女を連れて、家族に紹介したり、家族で過ごしてから恋人だけで出かけるというのもあるようだ。


だが、そんなことはどうでもいい。


俺にとって大事なのは、明日から冬休みだというのに、塾に行くぐらいしか予定がないことだ。


独学で励めないわけではないが、入試問題となると、やはり塾なり予備校なりに行っておいたほうが正解だ。


解き方のコツのようなものが居る。これはもう訓練に近いため、俺はその感覚を忘れることのないよう、


学校の成績は取りつつ、塾に通い、常に上を目指すというスタイルで過ごしていた。


はあ。明日はただの木曜日。クリスマスが終われば正月がやってくる。


お年玉の額に期待するとしよう。毎回同じ額だったから貰える総額は分かってはいるのだが、貰えるのはやはり嬉しいものだ。

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