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第一話「21回目のはじまり」

もし、過去に戻ってやり直すことができたら。


多くの人たちが一度は夢想したのではないだろうか。


あの時、あの場所に、あの人に。


金、恋人、名誉、そこに至ることができなかったものに。


それは、新入社員の頃?大学生活?高校時代?中学生の時?小学生?それとも幼稚園?


その人にとってのターニングポイントは人それぞれ。


俺は…、20回前の中学時代に戻りたい。


そうして何もかもをやり直したい…。


意味が分からないよな。


そう、俺も意味が分からない。


きっと誰も信じてくれないだろう。


俺は、親友に20回もNTRされて…。


そして、今、21回目の中学2年が始まろうとしている…。






これで通算20回目だ。


20回記念。と喜べるようなものではない。なぜなら、20回目のプロポーズ失敗だからだ。


しかも20回も親友にNTRされるという、俺はどんな業を背負っているのかと、天を仰ぎたくなる。


20回、意味が分からない。





「ごめんなさい」





付き合って1年。少し早いかもと思いつつ、勇気を振り絞ったが玉砕した。理由を聞いてみると、


実は数か月前から俺とのことを迷っていたそうだ。今日のプロポーズで別れる決心がついたらしい。




なんだよこれ…。




中学時代の同級生である智美に振られたのはこれで20回目だ。


何故、20回目なのかというと、俺は振られた後に死ぬと、その都度、過去に戻っているからである。


この異常に気が付いたのは、もちろん、初めて過去に戻った時だ。


仕事に失敗し、職場での執拗なパワハラに疲れ絶望した俺は練炭自殺を図った。


ところが目が覚めてしまった。




【ああ、失敗したんだ…】




死ぬことすら失敗した絶望に襲われた俺はなんと、中学2年に戻っていた。


そうして、俺は2回目の中学生をやり直した。


1回目の人生では、中学時代に付き合うことがなかった智美と付き合うようになり、社会人となった。


そして、25歳のクリスマス。智美からの電話で俺たちは分かれることとなった。好きな人ができたらしい。


2年後、親友から届いた結婚式の招待状で俺は理由を知ることとなった。


結婚式の2次会で、俺は知りたくもない事実を知った。


大学を卒業してから、ずっと2股をされていたらしい。共通の友人たちは言おうとしたが言えなかったと謝られた。





「クソが」






こんな不愉快なことはない。俺は仕事に生きる!そう決めた。

俺は順調にキャリアを積み、仕事面では充実した生活を過ごしていた。




しかし…




いつもの帰り道、横断歩道を渡っているところで、突然の衝撃とともに体が浮かんだと思ったら、次に目が覚めると、また、中学生時代の俺の部屋に戻っていたのだった。






「なんだこれは…。」




また、俺は過去に戻ったというのか。何のために?俺は人生をやり直せるのか?




3回目の中学生でも俺は智美と付き合った。




3回目は、大学卒業後に2股をかけられるという前回の経験を活かし、大学卒業後に同棲を持ち掛けてみた。




あっさりオッケーをもらえた俺は有頂天となり、幸せな毎日を過ごしていた。




しかし、同棲して3年後のクリスマス。




帰ってきた家で見たのは、親友と抱き合う智美だった。




そうして俺はまた智美と別れることとなった。






「クソが!」






俺は考えた。また、死ねば過去に戻れるのでは?


やけになった俺は自死を選択した。






「当たりだ…。」






俺はまた、過去に戻ることができた。


俺は考えた。智美と付き合っても、長続きしているようで最終的にはフラれるようだ。


だったら、智美と付き合うのを止めてみよう。そう俺は考えた。


4回目の中学生活で、俺は唯と付き合った。しかし高2の夏に別れてしまった。


そして、大学入学後、初めての講義で隣の席に座った女子から声がかかった。






「久しぶり。リョータだよね。元気してた?」






智美だった。






「おぉ。この大学だったのか。久しぶり…。」


動揺しつつ、俺は無難な返事をした。




「私たち、付き合わない?」



3か月後、智美から告白された。智美から告白されるとは思ってなかったため、


俺は、考えた結果、やはり付き合うことを選択した。今回は大丈夫じゃないか。




楽しかった。


今回の人生では、親友だったあいつとは、関わりを持たずに過ごしていた。


だから、苦しい思いをすることはないと考えていた。




「この垢、お前の彼女じゃない?」






見せられらた、SNSにより、俺は3度目の絶望を味わうこととなる。


鍵付きの投稿で、キスする2人の写真が載っていた。


智美とあいつだ…。




「なんで…。」




俺は声が出なかった。今回の人生では関わっていなかったはずなのに。


過去に戻ったところで、またこの苦痛を味合わされるのか?回避しようとしても回避できないのか?


何だ。顔?性格?趣味?付き合い方?何故にいつもあいつなんだ?


取られるにしても、他の奴であってもおかしくないだろ。気が狂いそうだ。


今度は考えた。金だ!株や競馬、宝くじ。色んなもののうち、暗記できる範囲で暗記して自死しよう。


5度目の人生は、金の力で幸せになってやる。


そうして、俺は5度目の中学生に戻った。






しかし…。






何故か、俺は智美と付き合い、あいつにNTRされる。5度目もNTRを味わった。


そうして、今、俺は20回目のNTRを食らった。


どうすればいい。どうすれば、この狂おしい思いをしなくていいのか。


女は智美だけじゃない。そう思って、智美以外と何人とも付き合った。


しかし、最終的に心が満たされず、智美と付き合ってしまう。


17回目の時など、高校生で親同士の縁から婚約するという、時代錯誤な出会いを果たしていた。


20回も同じ女を親友にNTRされる。これがどんな気持ちかわかる人が居るだろうか。


一度であっても、殺してやりたいほどの怒りを得るだろうに、それが20回である。


この20回目は友人とノリで行った婚活パーティで智美と出会った。


今回は中学時代も意識して避け続け、大学も縁のない地方の大学に行き、そのまま地方の県庁に就職した。


智美と人生が交わったのは、この1年だけだったというのに…。だからこそ絶対大丈夫と信じたのに。




憎い。




ただひたすら憎い。




智美とアイツ。いっそ、21度目の中学時代に戻り、事故を装って再起不能にしてしまってもよいのではないか。


20回もこんなことが起こると、俺の思考も危なくなってきている。


俺は本当に20回も生きているのだろうか?それともひたすら続く走馬灯なのだろうか?


本当は植物人間となってベッドで寝ている俺が見ている夢なのではないか?


そんなことを考えながら、向かいの席にいる智美の顔を見た。


暗く沈んだ顔の智美。




俺は智美を置いて、店を出た…。


21回目を迎えるのはもうごめんだ。


俺は、もう戻りたくはない。幸い、何もせずに怠惰に生きていくだけの金は貯まっている。


毎回、同じように株を購入して、同じように利益を得ていた。


俺は決めた。可もなく不可もなく、毎日を適当に楽しもう。そう決めた。






「今日はここに行こうかな」






風俗サイトを見ながら、適当に好みのタイプの感じの女の子を探す。先にホテルに行き、女の子が来るのを待った。


ピンポーン


「はーい」


女の子が来たようだ。俺は部屋の扉を開ける。


「寒いですねー。こんにちわー。」


ん?聞き覚えのある女の声。


顔を見ると





智美だった…。






「なっ…。」


「こんにちわ!。入りますねー。」


俺の様子を気にもせず、智美は陽気な声で部屋に入ってくる。


何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ。何がどうなって智美が?


混乱する俺をよそに智美は会話をしてくる。


「お兄さん、お仕事帰りですか?今日は私を指名してくれてありがとう!」


「…」


俺はまだ振り返ることができなかった。






ザクッ!!






背中が熱い。痛い。痛い痛い痛い。立っていられない。俺は床にへばってしまう。


何が起こった?目が開けない。


「うぐっ。」


声にならない。薄れゆく視界の中、智美が笑ったような気がした…。






「そんな…」






また、俺は過去に戻ったようだ。ループするしても、限度があるだろう。


もう嫌だ、気が狂いそうだ。いや、もう既に俺は狂っているのかも知れない。


狂った俺が見ている夢なのかも知れない。


翌朝、俺は渋りながらも母親に無理やり追い出されるように、


繰り返してきた学校に行った。


変わらない校舎。変わらない教室。


今回は俺はどう過ごそうか。もう、そろそろ限界だ。同じことを何度も繰り返す。


こんな苦痛はない。




「リョーター。」




振り返ると智美が居た。


この時点では智美と俺は単なるクラスメートで、大した関係性はない。


とはいえ、同じクラスだし、気のいい奴も多く、クラスの雰囲気はいい方だった。


名前を呼ばれるくらい、おかしくはないか。


心を静めながら智美のほうに俺は振り返った。すると…





「痛かった?ごめんね?」




今、智美は確かにそう言った。【痛かった?ごめんね?】


一体何を…。

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