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裏表

作者: 一筆案

最後のくだりが書きたくて仕方がなくて、我慢できませんでした。

実際のところ、探偵というかミステリー要素は皆無なのでご注意ください。


よろしくお願いします。

事件はマンションの一室で起きた。

被害者は男性。歳は28.

第一発見者は職場の同僚。一週間経っても連絡がつかなかったため、自宅に行ったところ部下の変わり果てた姿を見つけたんだそうだ。


「うわ~、これまた悲惨だねぇ。なむなむっと。・・・お、こんないい酒持ってんの?ねぇ、助手ちゃんこれ持ち帰ってもいいかな?」

「ダメに決まってるじゃないですか。それも立派な証拠なんですから。」

「え~、そんな硬いこと言わずにさ、ね?」

仕事そっちのけで火事場泥棒(?)まがいのことをしている犯罪者上司を無視して、僕はこの事件現場を詳しく見ることにした。

まず、この部屋は1LDKのいたって普通広さの部屋だ。そして、被害者の方はリビングのソファの前にうつ伏せで倒れている。血痕はそこまで広がっていない。多分だけど、争った形跡もない。それとテーブルには飲みかけの一杯のコーヒー。

・・・うん、被害者の周りはこんなもんだと思う。

僕はノートを取り出して、今わかったことを書き連ねる。書き終わってから何か閃かないかと文字と対峙してみたが、なにも思い浮かばない。

「何か分かったかい?」

にやにやしながらクズ上司は僕に近づいてきた。

「・・・いや。何も。」

僕の答えにゴミ上司は、さらに表情を緩ませる。正直、とてもムカつく顔をしているので今すぐにでもぶん殴ってやりたいところだけど我慢するほかない。なぜ、神は才能のあるものの性格をこんなにもひねくれさせるのだろう。僕自身も褒められた性格をしているとは思えないけど、この最底辺上司と比べれば雲泥、月とすっぽん、いや・・・ダメだ上手いたとえが見つからない。でもそれぐらいの差があると思う。しかしながらこの男。頭の回転速度、観察力は抜群で、それこそ僕と比べれば、さっきとは逆の意味で冥王星ぐらいまで差がある。

「助手ちゃん的には何が得策だと思う?」

試すように聞いてくる。

「うーん・・・。やっぱり聞き込みしかないですかね?」

「なるほど」

どうやら僕の案は却下みたいだ。

「助手ちゃん。被害者の交友関係をもう一度見せてくれないか?」

僕はここに到着してときに、警部から説明されたことをまとめたノートのページを見せた。本当はこの、頭の回転のおかげでどうにか人間の形を保っている上司も話を聞いているはずだけど、そりゃまぁ、聞いてないか。

「さすが、助手ちゃんだ。とっても分かりやすくまとまってるよこれ。・・・ふーむ。」

言わずもがな自分にしか興味がない上司は少しだけ、考えるふりをした後、二やついた。なぜふりなのか分かるのかというと、僕の上司はそういう人間だからだ。

「助手ちゃん。」

多分、僕のノートで確信を得たのだろう。ドヤ顔で僕を呼ぶ。

「なんでしょう。」

「コインって知っているかい?」

「どこまで僕をバカにするんですか。」

「ああ、ごめんごめん。」

まったく悪ぶれるそぶりもない。

「じゃあ、コインには裏表があることも知ってるかい?」

多分これは悪気がある。

「・・・はい。」

「さすが助手ちゃんだ。吾輩は鼻が高いよ。こんな優秀な助手がいるなんて」

大げさに泣く素振りをする。

「じゃあ、そんな優秀な君に質問だ。」

さっきとは打って変わって真剣な顔になった。僕にも緊張が走る。

「コインの裏の裏は何だと思う?」

「・・・え?表じゃないんですか?」

「おお、さすがだね」

驚くふりをする。僕の最悪上司。

「でも、人間関係はそうもいかないんだ。」

なぜこの人が人間関係を語れるのだろう。

「いいかい、助手ちゃん。これは覚えておくといい。」

たっぷりと間をとる。

「人の裏の裏は、表なんかじゃない。もっともっともっとすごい裏なんだよ」

すごくやり切った顔をしている。

あんまりピンと来ないし、上手いこと言えてるわけじゃないしで、決してかっこつけれられる場面じゃないとは思うけど。それは胸の奥にしまって、称賛の言葉を僕はひねり出す。

「なるほど、さすが先生です」

これで満足だろう。まぁ、さすがに人間失格上司でもこれだけの情報じゃ何もわからないか。よし、聞き込みに行こう。もう少し情報が必要だ。

「先生、僕聞き込みに行きたいんですけどどうします?」

「うーん、そうだな。助手ちゃん1人で行ってきてくれ。もう少し見たい。」

「分かりました。じゃあ見終わったら先に事務所に帰っててください」

正直、この、性格は最悪上司が現場を荒らさないか心配になったけど、致し方ない。

僕は玄関の扉を開けて、外に出た。


・・・バタン


扉が閉まったとき、探偵は言った。

「性格〈は〉だと、それ以外は最高ってことかい?助手ちゃん。・・・そろそろ分かってくれるといいんだけどな。」

探偵は何かを期待している目で扉を見つめていた。

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