あなたは追放されたレベル8の戦士のようです。
あなたは漆黒の鋳薔薇党と呼ばれる冒険者パーティに所属するレベル8の戦士である。
名前はああああ。よくある平凡な名前の一つだ。
種族は人間で、他種族の血は混じっていない純血の家筋だ。
漆黒の鋳薔薇党には発足当時から参列していた最初期のメンバーで、今も昔も皆の前衛係として物理攻撃に対する盾の役目を担ってきた。
ステータスは所謂丸い平坦型。
筋力体力共にそこそこで、器用度は低く、幸運はぼちぼちといった所で、戦士としては不思議と魔力が高かった。
器用度に関わる職業以外であれば何でもこなせそうにも思えるが、実際は何処も突出したものがない、まさに何にでもなれるが何にも向いていないステータスに留まっていた。
こんなあなたに向いていたのは最低限の身体能力があれば誰でもなれる戦士か、倫理属性に運命を大きく左右される僧侶くらいのものである。
しかしすでにパーティには、体力・魔力・精神のすべてが上限値に届いている完全無欠とも呼べる僧侶を始め、優れたステータスの持ち主がすでに五人もそろっていた為、彼は数合わせとして戦士に就くしか選択肢が残されていなかった。
とりあえず、後衛を守っていればそれでいいよ。
彼が最初に言われた言葉である。
主要な攻撃役はすでにそろっている以上、あなたは完全に数合わせの枠埋め役としか認識されていなかった。
だがあなたは期待に反してそれなりの成果を収めていた。
ステータスという数値では言い表せられない、まさに神の寵愛としか呼べない数々の幸運により、幾度となく窮地を脱する結果を残していた。
強敵との戦いの時には他の前衛が死んだ後も最後まで踏みとどまって戦列を支え、手違いで宝箱の罠に触れてしまった時も危なげなくこれを回避し、他の前衛攻撃職が怪我や蘇生の失敗によりパーティから抜けてしまう事があっても、あなただけは大した負傷も無く常に前衛役としてパーティに居座り続けていた。
弱兵、なれど守護名代。
鉄壁とも完璧とも呼べない耐久度しか持ち合わせておらず、攻撃も半分近くは当てられず、例え命中したとしても大した負傷は与えられない中途半端な戦士だが、あなたはこれまでまちがいなくパーティに貢献してきた名戦士の一人と呼べたことだろう。
しかし、何時だって役割というものは新しい世代に奪われてしまうものである。
あなたは漆黒の鋳薔薇党の党主に呼び出されると、この様に言い渡されてしまう。
「ああああよ、お前はもうウチには要らない。パーティから脱退しろ」
この提案に、あなたははいと答え受け入れた。
あなたに拒否する権利はない。
冒険者の雇用契約なんてものは結局そういうものなのだ。
「装備はここで外していけ。もちろん所持金も、最低値を残して全額置いておけ」
あなたは言われるがまま、愛用の剣と盾を置き、鎧掛けに合金鎧を納め、金を金庫に仕舞い込む。
そして離職者の証として、今まで着ていた衣服も全部脱ぎ払い、生まれたままの姿で股間に手をやり世間様に配慮した。
その様に脱退作業を行って、最後に党主から脱退届の書類を受け取り退出すると、あなたの変わりとばかりに可愛らしいお嬢さんがすれ違いざま部屋の中へと入っていった。
きっとあなたと交代で新しくパーティに加わる前衛役の女の子なのだろう。
あなたのような凡庸なステータスなどには留まっていない、優れた数値を誇った新入りに間違いない。
魔力だけならあなたの方が優れているかもしれないが、それ以外なら間違いなく劣っていることだろう。
リアルラックは不明だが、それ以外の面ではまず間違いなくあなたの穴を埋めるに足る才覚を持っているに違いない。
だが何よりも一番の違いは、年若い女の子という点である。
歳の頃は冒険者になれるギリギリ下限で将来性もあり、魅了の数値も申し分ない。
あなたのようなむさくるしいおっさんを使い続けるよりも、見た目も性能も宜しければ長期運用にも適している。
このような新人を手に入れてしまえばあなたの様な戦士崩れを使い続ける理由も無い。
あなたは自分が抜けた後の心配がなくなった事を理解して、股間を両手で押さえたまま安堵の息をつき、漆黒の鋳薔薇党の寮から立ち去った。
さて、後顧の憂いが亡くなれば、今度はあなたの問題である。
まずは冒険者ギルドに訪れて、脱退届を提出する。
申請はすぐに受理され、あなたの身柄は冒険者ギルド預かりに即座に変貌する。
所謂浪人と呼ばれる状態である。
この時あなたは冒険者ギルドから、三つの選択肢を開示される。
一つ目はこのまま浪人として、新しい雇用先が現れるのを待つか営業活動に勤しむという選択肢。
これは文字通りの意味なので割愛する。
二つ目は国や冒険者ギルド、その他組合等と直接終身契約を結ぶことで、固定で雇用してもらうという選択肢である。
最低限よりやや上な衣食住の保証はあるが、パーティに加わる事に比べると個人の自由度に制限が生まれる傾向がある。
伝説級の実力を有する者や、高位有段者などであれば好待遇でもてなしてもらえるだろうが、レベル8の丸い平凡なステータスしか持ち合わせていないあなただと、大した厚遇は期待できない。
あなたはこの選択肢を選ばない事を真っ先に選択する。
残された三番目の選択肢は、完全に引退して田舎などで隠遁する、ごく一般的な村人へと戻るという道ではあるが、これもあなたは選ばない。
おっさんと呼ばれるような年齢とはいえ、まだ引退するには早すぎる。
肉体の衰えも無ければまだ冒険に熱意を抱いている為、あなたはつまらない平凡な日常に戻ってしまう選択肢を選ぶ気にはなれずにいたのだ。
となると、やはり選ぶ道は最初の選択肢。
浪人として次なる雇用先を待ち構える道である。
あなたはその事を冒険者ギルドの係員にはきはきと伝え、求職中・レベル8戦士と書かれた木札を首に掲げると、斡旋場と呼ばれるギルド内の施設へと場所を移すことにした。
そこにはあなたと同じ様な格好をした老若男女が長い長い廊下で窓に背を向け一列に並んでいる。
その光景はある種の品評会にも似通った、冒険者たちの展示場だ。
新入りの足手まといに不安を持つ者、即戦力を求める者などに向けた、ある程度以上の熟練者たちを紹介し、これぞと思うものが居れば仮雇用してもよい、という制度である。
あなたはここで新しい雇用主が現れることを期待して、所々に開いている列の隙間の何処に収まるかを考えながら、その長い長い廊下をうろうろと彷徨っていた。
この場に居る者たちは皆、あなたにとって新しい雇用主に見いだされるまでの間の好敵手である。
あなたとよく似た背格好でレベル帯、職業が同じ者が隣に立っていたとしたら、どちらが選ばれるかは時の運になってしまう。
かといって全く真逆のものに混じっていても、後になってどこに居たのかを忘れられてしまい、アイツ見つからないし目の前にいるコイツでいいんじゃね? と適当な相手に雇用を奪われてしまう可能性もある。
ある程度目に留まりつつ、自分と同じような、あるいはそれ以上のステータスを持つ同職業の戦士たちが隣近所に立っていない場所を選ぶ事も、此処では必要な駆け引きの一つなのだ。
あなたは以前中途採用された弓手の女の子が助言してくれた内容を思い出し、彼女に感謝の念を抱きながら、ここはと思う場所へと堂々と胸を張りながら、列に加わり雇用主が現れる事を待ち続ける。
その場所は丁度可愛らしい年下の女の子たちが並んでいる場所のすぐ隣であった。
別にあなたはやましさ全開でその場所を選んだつもりは毛頭ない。
そもそも女性は胸下着に限り、元雇用主たちから脱退の際に支給されているのだから、いくら胸を覗き込んでも桜色の突起物が目に映ることはない。
いわゆる女性向け配慮と呼ばれる処置である。
すべての装備や資金を剥奪するとしても、これだけは必ず渡さなければならない。
規則を守らなければ、もれなく国家や冒険者ギルドなどから重い処罰や国外追放される恐れがある為、よほどの悪徳パーティ団体でもなければ胸下着を支給する行為を渋る事は早々無い。
今あなたの隣近所に並んでいる少女たちは、追放される際にも一応の配慮をしてもらえた年若く経験も浅い新入り同然の新古品冒険者たちであった。
需要でいえば、不思議と女の子で固めたがるパーティは割と多く存在する。
彼女たちもそういった傾向のある雇用主に雇われたばかりの新参者であったのだろうが、何らかの理由により即座に解雇されてしまった哀れな犠牲者たちでもある。
その理由の大体は、外見重視で雇用したらいまいち適正が薄かったとか、新人だけで構成したせいで安定感が皆無であったなどという、冒険に出ること自体が無謀とも呼べる状態に陥ってしまったのが原因だ。
最初から強者である新人なんてものは早々お目にかかれないものである。
厳選あるいは苦行と呼ばれる行程を挟み、時に数日もの時間を費やして行われる選定を行えば、発足当初からも最下級モンスターであれば安定して狩れるパーティを発足することも可能だが、その日であった者たちが適当に五人あるいは六人組を作って冒険だ、と試みたところで成功する可能性はとても低い。
普通は失敗してしまうので、よほどのこだわりが無い限りはある程度の経験者や駆け出し卒業者を織り交ぜて組むのが最良なのだが、その事を理解していない若者たちはこぞって新人だけで組んでしまうものである。
知識の無い者たちはそうやって何も考えずに適当にくむものだから、何をやっても何度試しても依頼をこなす事が出来ないのだ。
行き当たりばったりに成功を目指して努力しても、必要な技能も適切なやり方も判らないままでは何時までも失敗続きで成功を収める目途が決して立たないので、賢いものが一人か二人、ステータスの低い者や職業的な問題があるものなどを抜いて、変わりに経験豊富な中堅冒険者を雇用するという措置をとることが多かった。
今、あなたのとなりに立っているのはその追い出されてしまった者たちである。
若さと可愛さが取り得なだけの、新古冒険者たちだ。
もしかしたらその様な訳アリ冒険者を雇う人間が現れるものなのかと疑問を抱くかもしれない。
だが彼女たちはあなたと違い、まだしっかりとした方向性をもった訓練を受けていない、経験不足の少女たちである。
一から磨きなおせば必ず光るものがあるはずである。
何とはなしに前衛職を押し付けられたあなたとは、今後の展開が異なるのである。
二軍三軍を一から育てようと考えているパーティが、きっと彼女たちを迎え入れてくれるはずだった。
それよりも他人の心配などをしていられる立場にないのはあなたもだ。
伸びしろの薄い中年に入ったレベル8の丸いステータスをした戦士を雇ってくれる相手に見つけ出してもらわなければならないのだ。
貴方はできうる限りきりりとした顔を浮かべ、正面を見据えながら祈り続ける事に専念せねばならないのだ。
はたしてあなたの目の前で立ち止まる者は数少ない。
ピタッと立ち止まってくれる者など中々現れるはずも無いのだった。
無論多少は目をかけてくれる者もいる。
通りすがりにちらりと顔と胸元にぶら下げた木札を確認し、チェックを入れてくれる者はいる。
しかしあなたよりも上位互換と呼べる相手がよそに居るのか、あるいはあなたより多少は劣っていても、年若い青年か女性を見つけてそっちに目移りしているのかもしれないのだ。
雇用の道は千人に見られてから。
この日は一度も立ち止まってもらえることなく、冒険者ギルドの就業と共にこの日は就寝する。
柱と柱の間に張られた縄にある者は掴まり、またあるものはもたれ掛かる様にして眠る。
ここではベッドも毛布も貸し与えてなど貰えない。
冒険者たるものどのような環境下においても眠れるという事は必須とされる技能である。
あなたは立ち寝がまだ不得手な少女たちの様子を少しだけ伺いながら、浅くとも深くともつかない眠りについて朝を迎えた。
意外に思われるかもしれないが、食事は朝夕二回しっかりと出る。
くず野菜を細かく刻んでしっかりと煮込んだぬるめのスープにかなり固めのパンがそれなり、ハムが数枚にチーズがひとかけ、それと日替わりの果物が一個付く。
浪人としてはそれなりに豪勢ともとれる食事の内容ではあるものの、冒険者とは身体が資本の職業のため、このくらいの量はしっかり提供してもらわなければ鍛えた肉体を維持出来なくなってしまうのだ。
むしろもっと出してもらっても構わないくらいである。
但しそれをすると、何時までもゴロゴロ斡旋廊下に居座り続ける不届き者が現れるやもしれない為、わざと押さえ気味にしているという話もある。
噂の真偽はともかくとして、あなたは別段ここに長居をするつもりは毛頭ない訳である。
トイレを済まし、軽く身体を動かし調子を整えると、食事を終えた浪人たちの人混みの中から昨日隣にいた女の子を探し出し、今日もまた彼女たちの近くに佇むつもりでいた。
もちろん、何度も明記しておくが、スケベ心で彼女たちの近くに居座る訳ではない。
戦略だ、戦略なのだ、間違いなく。
それはそれとしてあなたはさり気なく隣の少女たちの胸元の木札を観察すると、あなたの真横にいる少女が野伏、もう片方は盗賊と見て取れた。
おやおや、まあ! あなたは思わずため息をつきそうになってしまう。
この二人は雰囲気的に元々同じパーティに所属していたと思われるのだが、似たような役割であるというのに同じところに固まって勧誘待ちをしてしまっている。
普通ならばらばらになっておいた方が採用率は高いはずだと思うのだが、あなたはこの件について彼女たちに忠告するのは止めておく事にした。
似通った職業である野伏と盗賊の新古品浪人女子が固まって滞在しているのはきっと良い目印になるはずだと思ったからだ。
彼女たちの隣に居れば、あなたの事もきっと印象に残るはず。
印象に残るという事は、新たに雇ってもらえる可能性も僅かなりとも高くなるだろうとあなたは予測していたからだ。
そして事実あなたは浪人二日目にして、新たに仮雇いしてもらえるパーティに見出してもらえることになる。
そのパーティの名前は空色の百足団。
初心者や駆け出しを脱却し、そろそろ中堅どころに入り込もうとしている新進気鋭の冒険者パーティで、レベルは平均で見ても6以上で固まっている集団だ。
前衛職は戦士が一人、騎士が一人、聖堂騎士が一人の防御に重きを置いた編成だ。
彼ら彼女らはステータス値ではあなたのそれを上回る数値を誇っている様ではあるものの、あなたのほうが彼らよりも機転の良さや熟練度、最大生命力値においては上回っている。
これなら恐らく即戦力として採用してもらえるはずだろう。
先を見越した当日登板要員を組む為の採用に違いないとあなたは予想をしていた。
しかし残念な事にあなたはあくまでおまけの採用だった。
彼ら空色の百足団が新たに雇用したい職業は、採取と探索を主とした二軍パーティの育成候補の面々だった。
空色の百足団は真っ先にあなたの隣に立っていた、野伏と盗賊の少女二人が目当てであったのだ。
あなたがたまたま彼らに雇ってもらえたのは、彼女たちの近くに居た事と、採取チームの護衛役も一人求めていたからである。
一か所にまとまって滞在していたあなたと少女二人組は、いちいちあちらこちらを徘徊するよりも一発で雇えてしまえる為、彼ら的には便利な雇用と判断されていたのだった。
とはいえ、雇ってもらえるあなたからすれば理由はどうあれ再就職の当てが生まれた事に感謝するほかにすべはない。
あなたは別段最前線で切った張ったを楽しむ類の戦闘狂という訳でもない。
しっかりとした報酬と、きっちりとした雇用契約を結んでいただけるのであれば、どんな役割を任されようとも文句が飛び出す事は無いのだ。
なのであなたは、彼らが差し出してきた下着の類を受け取って、それを即座に着衣する。
隣の少女たちも同様に、渡された下着を着衣する。
下着を着用するという事は仮契約を結んだという意味である。
股間に手をやり世間様に配慮する必要性がなくなったおかげで両手を動かすのが自由になる。
つまりあなたは司法と良心とおのれの身の安全に則って、武器を振ってもよいという立場に収まったのだ。
これはれっきとした義務であると共に権利でもある。
下半身に何もつけていない冒険者は武器を帯びてはならぬ戒律があるのだが、代わりにギルドに保護と援助を求めてよいという権利が発生するのである。
例えこの都市がモンスターの大群に襲われるような羽目になってしまったとしても、両手で股間を隠し世間様に配慮しなければならない状態であれば戦列に加わる必要性も無いという話である。
もっとも、そんな事態に陥ってしまったら、冒険者ギルド側が勝手に六人組を組ませて即席の冒険者パーティを組ませることで、無理やり下着を履かせてひのきの棒と木の盾を片手に防衛に当たらせるだろう事は想像も難くない事ではあるのだが。
まあいずれにせよ創造の話は置いておき、あなたと隣の少女たちは彼ら空色の百足団と仮契約を結ぶことになったのだ。
仮契約とは、端的に言ってしまえば冒険者ギルドが行ってきた、あなたへの食事提供の義務を彼らに移行させるという意味である。
生憎とこの世界の冒険者ギルドは下着を履いている人間に対し食事を提供する義務を持たない。
彼らの奉仕はあくまで世間様に配慮している浪人たちにのみ発揮されるものなのだ。
仮であれ何であれ、きっちりと契約を交わしたからには元浪人の新入りたちの面倒を看ろというのが冒険者ギルドと冒険者パーティが交わした鉄の掟の一つである。
あなたは仮契約を結んでいる間は空色の百足団に衣食住のすべてをまかなってもらう事になったのだ。
あなたと少女二人は空色の百足団のたまり宿に連れてこられ、三日の休息を与えられる。
これは身だしなみを整え冒険の準備を行うという意味もあるが、初心者二人の身体の調子を整えるという配慮と残り三人居る採取班のメンバーたちと自己紹介や対話を重ね、お互いの信頼を得るという必要があっての休暇であった。
いきなり六人組作って冒険に行ってこい、などと命令するのは無茶な行いというものである。
敵が現れた時、危険が迫って来た時などに対する事前の打ち合わせと対処方法を決めておくのは、この稼業を長く続ける上では必須とも呼べる行いなのだ。
その結果判明したのはあなたを除き、他の五人すべてが採取や探索に適した職業である事と、レベル4の野伏を除き、四人ともレベル1の女子であるという事である。
あなたはどうやら本当に、他の二軍メンバーたちの護衛目的として雇われている様だった。
あなたたちはみな下着姿で円陣を組み、夜更けになるまでお互いの意見や考え方を伝え合った。
次の日の朝、あなたたちは採取班のリーダーが決まった事を一軍たちに伝えに向かう。
あなたたちの班は当然採取を主な目的とする集団である為、それに一番適したものがリーダーとなるにふさわしい。
よってあなたたち六人組のリーダーは、レベル4の野伏になる。
彼の名前はあいうえお。これもまた、よくある類の名前である。
もちろんあなたも採取の経験を当然積んではいるし、レベルも一番高いのだが、精通しているとはとても言えない腕前だ。
雑務や指示の類は彼に任せて、護衛任務に専念するのが一番だろうと皆と相談し決めたのだ。
相談と取り決めが済み、英気もしっかりと養って、あなたたちの冒険の準備は整った。
空色の百足団に雇われて四日目、あなたたち採取班は最初の仕事に取り掛かる。
レベル1や2の集団ではまず間違いなく苦戦する、絶妙に危険な森への採取任務の始まりだ。
これは野伏リーダーあいうえおの野外知識への信頼と、あなたの護衛力への期待の表れとも呼べる。
あなたはその信頼に精一杯応えてみせようと、手にした手斧をしっかり握りしめていた。
……結果から言うと、採取任務は一応成功を収めていた。
一応、と微妙な二文字がついているのは既定の量をわずかに上回る程にしか、採取することがかなわなかったのが原因である。
採取の効率そのものには、さほどの問題は見当たらなかった。
皆初心者ばかりの集団とはいえ、一応採取や探索などに向いた職業ばかりで組んだ専門チームの本気である、一軍たちが同じように採取任務に取り組んだ場合と比較して、おおむね4~5割かそこらの採取に成功していた。
これはレベル1が四人居てでの話である。
慣れもなく、まったくの初心者と呼んでも差し支えない者たちばかりで採取したものとしては、割合破格な量と呼べる事だろう。
デビュー戦としては申し分ない効率を発揮できていた。
だが、思ったよりも効率を発揮できなかったのは――つまり、足を引っ張ってしまったのは――主にあなたが原因だった。
……その日のあなたの装備状況は、木材採取も兼ねた右の手斧に左の丸盾、残りは雇われた時のままである。
つまりほとんど半裸のままの、下着姿のいでたちだ。
他の者たちは死なないための簡単な皮製の服などを貸し与えられていたのだが、あなたとリーダーのあいうえおは下着姿のままだった。
あなたやあいうえおはレベルが高い分死ぬ事は無いだろうと判断した上での経費削減と思われるたのだが、そこに関しては何ひとつとして問題ない。
あなた程のレベルと経験があれば、今回向かった採取現場で死ぬことはおろか重傷を負う危険性も無いからだ。
なので防御面に関しては問題は無い。
問題だったのは攻撃面の方だったのだ。
あなたは最初に述べた通り、かなり丸い形のステータスを有している微妙型。
筋力と体力がそこそこで、幸運がぼちぼち、魔力が高くてそのほかは平均的な塩梅だ。
そしてすべてのステータスの中で一番低い数値を誇っているのが、命中率に関わる器用さの数値である。
つまりあなたは不器用なのだ。
大分格下の相手にも、上手く攻撃を命中させることができないぶきっちょさんなタチなのだ。
そもそもあなたは手斧という武器を扱いなれてはいなかった。
前のパーティに所属していた頃のあなたの武器は、右手に長盾左手に片手剣か鈍器持ちという防御が主体の耐久型だ。
盾で受け止めた相手をそのまま他の前衛に向けて押し出して攻撃をし易い様にと連携したり、転んだ相手に得物を振り下ろしたりする戦法が主であり、自ら率先して攻撃をするのには不慣れであった。
また採取目的として渡された手斧は殺傷能力がやや低めであり、あなたの筋力ではうまく命中させたとしても、一撃二撃で絶命支えるのが難しいのも問題だった。
つまりは一度の戦いに手間取ってしまうのである。
味方をかばう事は出来てもすばやく倒す事が出来ないのであれば、採取効率にも影響が出てしまうのも仕方のない話であろう。
あなたは肩を落として空色の百足団の元へと帰還した。
きちんと成果と問題点を報告し、手に入れた素材を受け渡す。
これはあなたも予想していた事ではあるが、彼らにあなたの性能に信頼がおけないと、槍玉にあげられてしまう。
案の定、あなたの仮契約は切られてしまう。
ただし、代替となる前衛護衛が見つかるまでの数日間は、このまま雇ってもらえる扱いとなった。
それから二日後、あなたの代わりの前衛が見つかってしまう。
彼女はレベル3とややレベルが低い格闘家で、筋力と器用が非常に優れ、体力と生命力が低いという非常に打たれ弱いステータスをした、雑魚散らしに適した人材だった。
手斧などを使わずとも素手での攻撃で格下相手なら渡り合え、素早い連撃を確実に叩き込んであっという間に殲滅できる、まさに素材集めの用心棒としては適任とも呼べる相手である。
粘り強さと連携を主とするあなたの戦法とはまさしく対極にある少女であった。
直接の決闘であれば恐らくあなたが勝るであろうが、あなたが彼女よりも優れた面があると証明したところで、空色の百足団の方針に沿っているかどうかと言えば、もちろんそんなはずも無い。
あなたに求められている役割と、あなたが果たせる役割とは全くかみ合っていないのだ。
これでは流石に本契約を結んでもらえるとはあなただって思わない。
すごすごと引き下がり、下着を手ずから脱いで代表にそれを手渡しし、仮契約の打ち切り半紙を受け取った後は世間様に配慮した。
あなたは股間を押さえたままに空色の百足団のたまり宿を退去して、再び冒険者ギルドへ出戻りする。
これもまた諸行無常、需要と供給のすり合わせというものである。
もちろんあなた的にはそれなりに残念な結果に終わったなあと思いはしたが、一度や二度の仮契約の打ち切りなどでクヨクヨしてしまう様な軟弱な精神は持ってない。
またぞろ次なる契約の機会がやってくると心の中の灯火を燃やしながら、世間様に配慮しつつギルドの浪人斡旋場にて列に並んで待ち望むのだ。
あなたは追放されたレベル8の戦士である。
ステータスがどんなに丸っこくて前衛としては凡庸な性能をしていたとしても、必ず需要が向こうからやってくるものである。
今日もまた股間を隠し、世間様に配慮しながら、胸にぶら下げた木札を前に掲げ起ち続けていた。
ちなみに後日、レベル4の野伏のあいうえおもまた斡旋場に返り咲いているのをあなたは見かけてしまう。
どうやら採取班は女の子たちで固めるつもりでいたらしく、彼は男という理由だけで追い出されてしまったらしい。
採取の技術を教わるだけ教わったらポイである。
お互い苦労は絶えないなあと、あなたたちは肩を並べて立っていた。