第1章:始まりは突然に…
そう…始まりの場所はこの公園だったね…
忘れないよ…あれは高校生になって三ヶ月の時だったね…
「なぁ、ソラって好きな奴いねーの?」
「いないよ。
恋愛って興味はあるけど、特別ーっての感じないんだよね…そう言うスイは彼女いないんだ?」
休憩時間になるといつもそばに来る幼なじみのー橋本 翆<スイ>ー。
「うっせぇーよ。
俺も気になる奴いねぇんだよ。」
はぶてたと思ったら、翆は私の頭を笑顔でくしゃくしゃと撫で回した。
スイはいつも感情豊かで私を笑わせてくれる。
そんなある日の昼休み、私はスイに連れられて初めて屋上に上がった。
「んんー。屋上って気持ちいいね。」
後ろにいるスイを振り返って見るとスイは少し悲しそうな顔をしている。
「スイ?どうし…」
「…なぁ、ソラってこのちっぽけな世界を出てみたいと思わねぇ?」
「いきなりどうしたの?」
スイは私の元を離れてフェンスの方に歩いていく。
「き…今日の夕方さ、あそこで世界を繋ぐ扉が開くんだ。」
スイの方に近寄ってみるとスイは近くの公園を指差していた。
「は?
いきなり…」
「いっ…一緒に行こうな…
ごめんなー…」
私の言葉を遮ってそう言うとスイはいつもベルトに着けている鈴を取り外して、私の目の前でチリンと一回鳴らした。
そこで私の意識は糸がぷつりと切れたように途切れたんだ。
ソラが気を失った後、スイはソラを抱き上げ保健室に運んでいった。
スイが保健室のドアを開けると先生が歩み寄ってくる。
「今日の黄昏時に扉がついに開かれる。
放課後、ソラを迎えに来るから、時が満ちるまで寝かせておいてくれ。
…くれぐれも丁重にな…」
スイはそう言うと眠っているソラを、空いているベッドに横たわらせた。
スイはソラの髪を一回撫でると腰のベルトに着けていた鈴を再び取り外した。
「わかりました。何をなさるおつもりですか?」
「ん…おまじないをちょっと…な?」
スイはソラの頭上で鈴を数回鳴らし額に軽くキスをすると保健室を無言で出て行った。
私が目を覚ましたのは…日が暮れはじめた放課後だった。
「ん…ここはどこ?」
私がきょろきょろ見まわすと保健室の先生が水を持ってきた。
「大丈夫?
翆君があなたをここまで運んでくれたのよ。
屋上で倒れたって聞いて大変だったんだから。」
先生はそう言うと私私に水の入ったコップを差し出した。
コップを受け取り水を一口飲むと、倒れる前の記憶が中途半端に戻ってくる。
「夕方…扉…?
…鈴の音…」
…!?頭の奥が痛い…
突如頭に激痛が走り、コップを落としてしまった。
落ちたコップは無惨にも砕け散る。
コップが割れた音を聞いて先生が駆け寄ってくる。
「時宮さん!?
怪我してない!?」
「だ…大丈夫です。
ちょっと、目眩がしただけなんで…
ごめんなさい。」
先生は急いで割れた破片をほうきではきはじめた。
「それはいいけど…
まだ顔色が悪いわね…
今日はは友達と一緒に帰った方が安全ね。」
先生がそう言うと同時に翆が保健室に走りこんできた。
「ソラー!」
という叫び声と共にー…
「ちょっとスイ!?
どうしたの?」
スイは乱れた息を整え、額ににじみ出ている汗を袖で拭いている。
「もぅ大丈夫かなーって見に来たら…何かか割れる音がして…
ソラっ!怪我ないか?」
「うっうん…大丈夫だよ!?」
スイに微笑みかけるとスイも安心したのか微笑みかえしてくれた。