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特別という幻想  作者: 轟こころ
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僕は仕事ができない

「僕は仕事ができない」


それを認めることが心の底から嫌だった。


「自分はもっとできるはずだ」

「上司や同僚にもっと評価されていいはずだ」


そんなねっとりした思いがふつふつと湧き上がり、眠れない日々を過ごしていた。


僕は世間で大手有名企業と言われている会社に新卒で入社した。


小学校から塾に通い始め、中学高校一貫の私立を受験し合格。


旧帝大と言われる有名国立大学への進学率も県内有数だった。


定期テストの順位は常に10番以内で、部活では主将も経験した。


「自分は人とは違う特別な人間なんだ」という思いが、この頃からでき始めていた。


部活では県大会で優秀な成績をおさめ、部活引退後は全ての時間を受験勉強にあて、見事に最高学府へ現役一発合格を果たす。


卒業した高校では、まるで神のような扱いをされた。


「自分は人とは違う特別な人間なんだ」という思いが、徐々に僕の心を支配していった。


最高学府でも、体育会の運動部に所属し、主将を経験。


部活で勉強はそこそこだったけど、就職活動は順調に進み、世間で大手有名企業と言われている会社に新卒で入社した。


入社してから、1ヶ月は同期と一緒に研修期間だった。


いわば学生の延長みたいな雰囲気で和気あいあいと研修をこなし、楽しい1ヶ月を過ごした。


研修期間後、いよいよ現場に配属され、それから3ヶ月が経過していた。


この3ヶ月は、資料の記載をミスしたり、大事なことを上司に連絡しそびれたり、同僚と相談せずに仕事を進めたり、周りに迷惑をかけることが頻繁に続いた。


そのせいか、今まで築いてきた自信が揺らいでしまった。自信を失いかけていたのだ。


人生で初めて挫折というものを味わった。


今日も仕事が終わり、ようやく家に帰れたのは22時頃。


食欲もなく、ご飯も食べずにスーツのままベッドに仰向けになり、ワンルームの天井を見上げていた。


「お前は人とは違う特別な人間なんだ」


僕の心を支配していたもう1人の僕がふとつぶやく。


「上司や同僚はお前にちゃんと教えていたか?ちゃんと教えてもらってたら、こんなことにはならなかっただろ。そもそも研修期間で学んだことは現場で使い物にならなかったんじゃないのか?人事が企画する新人研修が悪かったんじゃないのか?1ヶ月無駄にしたよな。いや、そもそも仕事のやり方を教えない学校も悪いじゃないか。ずっと机の上で教科書の音読を強制させられて、試験に合格するためにひたすら勉強しなければいけない。仕事とは全く違うことを10年以上やらされて、いざ仕事やってくださいって言われてやれるわけがないだろ?」


早口でまくし立てるもう1人の自分が、最後に怒りの感情を込めて言い放った。


「全て環境のせいだ、周りの人間のせいだ、学校のせいだ、社会のせいだ。お前は悪くない。お前は人とは違う特別な人間なんだ。」


僕は言った。


「そうかもしれない。僕は悪くないんだ。」

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