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第N^2話:異世界から帰ってきたら再登場の予定...だったかもしれない不確定幼馴染ちゃん

幼馴染ちゃんの細かい容姿はご想像にお任せします(白目)

 

 

 

 

 

「この世界では私が先輩だから、ヒロくんは私のことを先輩って呼ぶよーに」

「せ、先輩……?」

「そ。だって、たぶん私の名前が『わからない』でしょ?」

 

 頷いてしまう。実際「わからない」。

 

「どうもこの世界はヒロくんの主観が関わる事柄を中心に形成されているみたいだから、異世界転生した後のヒロくんが私を思い出さない限り、私は非常に薄っぺらい設定だったわけで。ということで、こうして新たなキャラ付けを模索して、存在感をアピールしないといけないわけ」

「誰に?」

「ヒロくんと――――ヒロくんを通してこれを見てる『かもしれない』観測者さんたち、かな?」

 

 とりあえずどっかでお茶しながらお話しようか、と。幼馴染――――いや、先輩? は、そんなことを言う。

 いや、ダメだ。歩きながら、僕はお面をかぶった彼女に言う。

 

「いや、やっぱり厳しいよ。先輩って、そういう感じじゃないし。だって僕ら幼馴染だし、仲は別にそんな他人行儀になるほどじゃないよね」

「だけどどんな関係だったか『わからない』し、どんな思い出があるかも『わからない』んだよね? だったら別に私がヒロくんの『先輩』でも『彼女』でも『許婚』でも『前世の宿敵』でも『隠し子の妹』でも、そういった関係性は私が主張したら押しとおせるじゃん?」

「いや、それでもなんか違和感が……。え? その、そっちって、僕のこと好きなの? さっき彼女とか出てきたけど」

「んー、なんっていうかな。まあ、嫌ってなかったんじゃないかっては思うんだけど、その、私も『わからない』からさ。だってほら」

 

 仮面をとる彼女――――その顔が「わからない」。

 輪郭は確かにあるし、可愛い顔つきをしてるような気もするけど、それがどういった形なのか「わからない」。口調から、自嘲気な表情を浮かべているような気はするけど、「わからない」。

 

「どんな容姿をしていたか、『創造主』が設定してなかった(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)からだと思うんだけど、ほら御覧のとおり。おかげでヒロくんとの『わからない』思い出を思い出しても、それに対する私自身のリアクションを私が観測できないもので、結果的にまあ、その、好き? って感じ」

「それはなんていうか……、ごめん、なんか、気持ち悪そうなことを聞いちゃって」

 

 僕自身、自分自身の認識が崩壊した直後という有様なので、ものすごく気持ち悪い。彼女もまた同様の体験をしているらしいということで、これについては酷く同情がわく。

 あはは、と笑いながら仮面をつける幼馴染。

 

「ヒロくんのせいじゃないよ、こればっかりは創造主の責任だ――――いや、創造主からしたら、観測者の責任でもあるのかな? いや、別にだからって、彼らにとっては大したことじゃないんだろうけどね」

「それは一体、どういう……?」

「まぁ長い話にはなるだろうから、喫茶店でも入ろ?」

「といっても、喫茶店ってどこに……」

 

 僕は眼前の光景を見る。

 眼前の光景が「わからない」。

 

「あー、まぁその、私たちの世界って『現代っぽい』ってことにはされてるけど、その現代がいつかっていうのは特定してないっぽいからね。ひょっとしたら近未来かもしれないし。だから極力、現代の描写を避けたんだろうね。ゲームでいうチュートリアルステージみたいなものだろうし」

「ちょっと何言ってるかわからないです」

「ん、でもまぁ、お店が『あるっぽい』のはわかるから、そこ入ろうか」

 

 彼女に手を引かれると、とりあえず人形が看板に描かれてるっぽい喫茶店に入った。

 

「お金は――――」

「あ、私がおごるよ。たぶんヒロくん、お財布の中身が『わからない』でしょ?」

 

 ごもっともなんだけど、それは幼馴染も同様では?

 

「いや、ヒロくんが『わからない』って観測しない限り、その範囲においては結構自由が利くみたいだから、ここは私にお任せあれ」

 

 意味は分からなかったけど、席をとっといてくれと言われれば引くに引けず。

 座席は大半が埋まっている「ような」気がするが、どういった年齢層の客がいるか「わからない」。学生のような気もするし、サラリーマンのような気もするし。ただとりあえず「人がいる」ことだけはわかる。

 と、ふとみればまるであつらえたかのように二人掛けの窓際の席があいていたので、そこに座る。

 

「おまたせー。とりあえずカフェモカとキャラメルラテ買ったけど、どっちがいい?」

「キャラメルで」

「はいほーい」

 

 間延びした声を上げながら僕の対面に座る、狐面の幼馴染。

 彼女は仮面を少しずらし、カフェモカのストローをかじるように潰して、ちゅごご、と音を出して飲み始めた。

 

「行儀悪いよ……」

「いや、その、キャラ付けを少しでもしないと」

「そのキャラ付けって何なのさって話だよ。あと、その、なんだっけ? え、えた……えたる……」

「『エタるびと』?」

「そうそれ、何さエタるびとって。あと、名前……」

「んん……、じゃあ、その、一緒に考えてくれる? ヒロくん」

 

 考えるとは。

 

「ヒロくんの場合は『ヒロくん』って呼び名だけは決まっていたみたいだからすんなり思い出せたんだけど、私はたぶん『再登場時に決めればいいや』くらいに『創造主』考えてたのか、全然決まってなくってさ。というわけで、こう、なに? ヒロインをもじった感じの名前がいいかなーって思うのじゃ、わらわは」

「何、その、のじゃって口調……」

「だからこう、キャラ付けをね」

「何かこう、一つに決めてもらえると助かるかな……」

 

 それはそうと、なんでヒロインをもじった名前?

 

「名は体を表す、とはいわないけど、それをつけておけば創造主の『世界改変(※改稿)(きまぐれ)』に巻き込まれたとき、消滅しにくいかなーって」

「その、『世界改変(※改稿)(きまぐれ)』って何さ。って、僕、今どうやってこれ読んだの!?」

「おお、段々と気づいてきたみたいだね。そうそう。割とこうやって私たちも地の文で遊ぶ(おあそび)できるからね。まぁ、あんまり意味ないからやらないけど私の場合は」

 

 ますます意味が分からない僕に、彼女はくすりと微笑んだ……ような気がする。

 なにせ狐のお面だし、その下の顔もよく「わからない」ので。

 

「というわけで、名前。名前決めたらこの世界について、あることないこと教えてあげましょー」

「気まぐれな幼馴染だな……」

「キャラが定まっていないということでもあるのです。私も、こう、ころころキャラを変更するのはよくないかなーって思うんだけど、そこはこう、ね? ヒロくんが『エタるびと』になっちゃったせいでハーレムとはか築けそうにないから、私の存在を不確定にすることで実態として色々なタイプの女の子をイメージしてもらえるようにできればなーって」

「そもそもそんな話自体が意味不明だからね? だったら、もう、ヒメちゃんでいいよっ」

「なんで?」

「古くからファンタジーとかで、囚われのお姫様ってヒロインじゃない?」

「あー、なるほど。ふーん、まぁ、ヒロくんとも対応しているから、それでいいや」

 

 対応しているとはどういうことだろう。

 

「ほら、ヒロくんってたぶんヒーローから来てるし」

「英雄?」

「ニュアンスは主人公って意味のヒーローだろうけど、英雄って解釈の余地を残しておくと、まぁ悪くないんじゃない?」

 

 やっぱり彼女の言っていることは意味不明なところも多く、まるで自分を物語の登場人物であるかのように振舞っている。アブノーマル、異常だ。

 いや、それを言い出したら現在の僕らのこの「気持ちの悪い」光景とか含めた世界そのものが、異常そのものなんだけど。

 

「じゃあ話すけど……、ヒロくんは、この世界がなろう(ヽヽヽ)ディメンション」

「ごめん、一体なんだって……?」

「だから、Narrow(なろう) Dimension(ディメンション)――――かなり手狭に設計された時空間ってこと」

「解説を聞いてますますわかんなくなったよ……」

 

 手狭に設計された時空間ってどういうことだい? と。僕が言葉を続けるよりも前に、彼女は肩をすくめた。

 

「われ思う、故にわれあり――――人間原理って訳じゃないけど、私たちの存在っていうのは『ヒロくんを中心に』『必要な分だけ』設計されてるの。いわゆるオープンワールドゲームみたいなやつだね」

 

 だからなんのこっちゃいと。やっぱりよくわからない幼馴染のヒメちゃんだった。

 

 

 

 

 

 

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