第67節 ベルンハルト枢機卿 砦にきたる その4
すみません。遅くなりました。
グレートヘルムと言われる、バケツ型のヘルメットは、実際のところ、13世紀ぐらいなんですね。
ちょっと勇み足で、神聖騎士団で採用してしまいました。半円球型のヘルムも好きです。これもまた、13世紀ぐらいだそうですよ。ヘルマン・ヘッセが好きなので、作中では、好きなキャラです。
親を殺された、農民の子。覚えてますか・・・あの農村の神父様がヘルマンだったでしょう?
身体の具合が悪いですが、小説を書いていると、大好きな中世ドイツに住んでいるようで、うれしいです。私の中世愛、ドイツ愛を感じてくださいね。
こんな生き地獄みたいな日本から脱出したいぜ・・・
砦の兵士たちの食堂で晩餐会が始まった。晩餐会というよりは、食事会だ。質素とはいっても、悪者君にすれば、ご馳走だった。
最近は、使徒殿とか言われているが、待遇がよくなったわけではないので、相変わらずお腹を空かせていた。使徒殿の特技が神聖結界であることが分かってからは、迷宮や鉱山のポーターとしての仕事は意外と増えた。逆に、魔物を討伐したい傭兵団からすれば、一緒にいかないほうがいい。魔物が出なくなるからだ。
今や、使徒殿は、自動発生する結界と浮遊の魔法で、安全で便利な運送屋さんになっていたのだ。
食事会は、オットー卿の乾杯のあと、普通の食事で始まった。着席してではなく、立食形式だ。悪者君は、ここぞとばかり、ソーセージを抱え込んで食べていた。飲み物はシードルだ。
途中で、枢機卿様からのお話があった。
「皆、聴いてほしい。今夜は、この場を借りて、パパ様よりのお言葉をお伝えしておこおう。
パパ様は、今回の神聖騎士団の遺体を使った卑劣な死霊術師の退治と、遺体となっても尚、苦しめられていた騎士団員の解放について甚く感謝しておられた。
皆も知っている通り、ここの迷宮は地獄に繋がっている。
悪魔の攻撃を防ぐことができるということは、言い換えれば、地獄に巣くう悪魔の軍団をその出撃前に叩くこともできるということだ・・・パパ様は、イタリア奪還の第一歩として、この砦が次々と戦果を上げることを望まれている。
実際のところ、先日の歩く死体による攻撃も見事に防ぎきった諸君らの手腕と知恵に教皇庁も注目している。そろそろ、第2の大攻勢があるのではないかとの兆候も報告されている。より一層の武芸の精進と、それによる悪魔軍の打破を期待している」
オットー卿たちは、緊張しているようだ。次の大攻勢・・・確かに、一時期よりは、魔物の動きが、組織だったものになってきているようだ。つい数日前のスタンピードもそうだからだ。
皆に言葉が浸透したところを見計らって、枢機卿様が言葉を続けた。
「さて、今回の空飛ぶザクセン人傭兵団に対して、報奨として、獲得した神聖騎士団の具足一式を下げ渡すとともに、開発されたばかりの新しい鎧等も与えたい。帝国隋一の鎧職人レオナルドと相談して、好きなものを取るがよい」
「ははー。有難うございます」カール達が答えた。
「では、引き続き楽しんでくれ。オットー卿、話がある。他の二人と使徒殿もきてくれ」
レオン卿が僕のところにきて、僕は隊長の執務室に連れていかれた。ドアを閉めると、枢機卿様が、全員に椅子をすすめた。会議用の丸テーブルに5人で座った。枢機卿様は、皆の顔を見回すと、にこりと笑った。
「さて、集まってもらったのは、今後の使徒殿の扱いについてだ。もう一人くるので、すこし時間をくれないか」
すぐに扉をノックする音がし、許可の声とともに、扉があいて、枢機卿様のお付の司祭が入ってきた。
「さて、揃ったな、ダミアーノ神父、例のものを見せてやってくれ」
「はい」ダミアーノ神父様は、おもむろに服のボタンを上から外していった。僕は、ああ、例の痣をみせるのだなと分かった。その通りだった。予めここで話すと決めていたのね。
「そして、今度はこれだ」今度は枢機卿様が服のボタンを外し、痣を見せた。
「使徒殿、君も見せてあげなさい」僕は、大人しく従って、上着を脱いで、痣をみせた。
なんか異様な雰囲気がする。変だよね・・・アグネスさんとかが、扉を開けて入ってきて、この光景を見たら、絶対、きゃー不潔、変態とか言いそうだよ・・・
砦の三人は目を見開いて三人の痣を見比べている。ブルーノ神父様が口を開いた。
「枢機卿様、これはどういうことなのですか?」
「ふふふ、もう服を着てもよいかな・・・」枢機卿様が服を戻したので、ダミアーノ神父様もボタンを嵌めだした。しかし、ボタンが沢山あるな・・・僕も上着を着た。僕のはボタンなんてない。紐だよ。紐だけ。ボタンは高級品だからね。
「ブルーノ神父、そなたは、少年が放つ、神聖結界の秘密に気づいているだろう?これは、教皇庁で奉献の子らのうちで、特別な力を持つ子供に施されている秘術なのだよ。
これは、聖性を開放し、力として体より吸い出すための霊的な門の一種だ。
いわば、エーデルスブルートを、魔力として効力を持たせるために用いる魔法の穴と、ほぼ同じ機能を持つ。強制的に子供の頃から放出させることにより、許容量が増える。使える力が強大になるのだ。魂の器が大きくなるのだ
無論、マイナス面もある。場合によっては、放出しすぎて、死んでしまう場合もあるし、身体の成長がうまくいかなくなることもある。このさじ加減が難しいため、この秘術が施される子供は限りなく少ない」
「ということは、使徒殿は、教皇庁の出身なのですか?」ブルーノ神父様が尋ねた。
「いや、それが・・・ここ数年の記録では、該当する子供がいないのだ。ただ、大攻勢直後になら、性別、年齢、容貌などが一致する子供が一人いる。
ザクセン王家、リウドルフィング家の王子の一人だ・・・170年前に神聖騎士団に両親と共に参加した子だ。しかし、おかしいだろう?時を超えたのか?
実は、城塞都市の司教様より、彼の出現情報を頂いた時に、これは、悪魔の仕業ではないかと、教皇庁でも喧々諤々となった。およそ170年のも間、歳を取らないなどありえない。
ただ、地獄なら、時が止まる可能性もありうるのだが・・・しかし、彼には記憶がないらしいので、彼に訊いても何も分からないだろう・・・一番恐ろしいのは、彼が既に悪魔に身体を取られていることだ・・・このことは、まだ、公爵様には、お話ししていない。もちろん宮宰様にもだ。 彼らは、ザクセン王家の一族だからな・・・あまりに刺激的すぎるだろう?
実際、私やダミアーノも含めて、魂の器を強制的に育てられた人間にとって、一番怖いのは、悪魔の受肉のための土台とされてしまうことだ。現時点でも、その恐れ.はある。能力が高いだけに、敵に回ったら・・・考えただけで身の毛がよだつ・・・」
「ベルンハルト様、使徒殿を、一体どのようにしたいと、お考えですか」オットー様が溜まらず訊いた。
「悪魔に身体を取られているとすれば、悪魔を祓うしかあるまい。しかし、私が調べたところ、その兆候はない。勿論、私の知らない地獄ならではの秘術がある可能性がある。
実際、ある言葉を聞かせない限りは、悪魔が身体を支配することができず、体内に封じられたままという秘術があることはわかっているが、その調べ方がわからんのだ。
わかるか、オットー卿、彼は考え方によっては、恐ろしい危険を孕んでいるのだ」
誰も何も言えなかった。僕も、自分のことなのだが、なんか他人事のように感じていた。だって、170年前の子供って、ありえないよ。枢機卿様が言葉を続けた。
「まぁ、これが、最悪のシナリオだ。そうでないこともありうる。
この痣だって、教皇庁だけの秘術でもない。神聖騎士団では、地獄でこの術を施していたという話も聴く。
しかし、彼らとの連絡はずっとつかないままなのだ。彼らは、かなり深い階層にまで侵攻し、神聖結界による砦を地獄内に築いた。悪魔軍の攻撃は熾烈だったろう。しかし、彼らのお陰で、悪魔軍の侵攻が止まったと聖戦担当省では見ている。
そうそう、カール達傭兵団が見つけた具足は、充分手入れされたものだった。
もしかしたら、つい最近まで、あの具足の持ち主の4人は、生きていたのかもしれないのだ。ただ、先程も申したが、地獄での時間の進み方が、地上とは異なるかもしれない。
オットー卿の質問に答えないとな・・・危険を考えると、使徒殿は、教皇庁で預かったほうがいいかもしれない。しかし、悪魔の常套手段から考えると、彼が教皇庁に来た途端に、身体の中から突然、悪魔が現れるなんてことも想像できるだろう?
無論、身体を取られていないともいえる。私はそうだと感じているが、その場合は、ここにいると危険だ。悪魔が欲しがるような、いい器だからだ。
オットー卿、悪魔側に立って戦略的に考えると、使徒殿の存在は面白いだろう?
彼が望むなら、教皇庁に来てもよい。また、彼がここに居たいのなら、いてもよい。その場合は、ブルーノ神父様をはじめ、砦の全員に守ってもらいたい。あと不確定要素は、ザクセン王家の反応だな・・・ま、王子の可能性があることは、秘するしかあるまい?」
「やっぱりそうか・・・どうりでアグネス様にそっくりな筈だ。レオポルト様が、不思議がっていたが、やはり、血のなせる業なんだな・・・」レオン卿がボソッと呟いたが、大きな声なので、全員が聞き取っていた。
「レオン卿、その話を教えてくれないか」枢機卿様が訊いた。
そこで、アグネス様、シャルロッテ様の二人とも、使徒殿によく似ていることが、説明されると、枢機卿様が皆に質問した。
「宮宰様の奥様は、どこのご出身なのだ?」
「ヴィッテルスバッハ家です」オットー様が即答した。
「やはりな・・・170年前に、神聖騎士団に参加した、リウドルフィング家の王子の母親も、ヴィッテルスバッハから嫁いだと記録にある」
「なんと・・・」ブルーノ神父様が驚いている。
「だから似ているのかもしれん。そういえば、アグネス様は、魔法の達人と聞いておるが・・・」
「エーデルスブルート、高貴なる血。二人の能力が高いわけだ・・・ということは、シャルロッテ様も、すごい使い手になるかも・・・」今度はオットー様が呟いた。
「妹君か・・・やはり、使徒殿は、170年前の王子かもしれないな・・・」
知らないうちに、アグネスさんちの先祖にされてしまった僕。まるでおじいちゃん・・・いや170年も前なら、ミイラだよ・・・でもさ、実は王子様とか言われてもね・・・秘密にするらしいから、待遇も良くならないよね。明日のご飯の心配をしなくてもいい生活がいいなぁ・・・
「ダミアーノ神父?そなたとしては、使徒殿を、エクソシストとして育ててみたいのではないか?」
「・・・枢機卿様、そうですね・・・私もそれを考えていました。次世代の、私の後の世代は、今目ぼしいものがおりません。教皇庁としては、喉から手がでるくらい欲しいです」
「使徒殿、どうするかは、君次第だ。オットー卿、この砦でもエクソシストが欲しくはないか?修行させて、戻すこともありうるぞ」
「・・・枢機卿様、私は彼の意思を尊重したく思います。まずは記憶を取り戻すことが先決のようには思いますし、まだ6歳ですので、色々な見識を積んで、選ぶのがよろしいかと・・・」
「・・・・確かに、オットー卿のいう通りだな・・・まずは、記憶を取り戻してほしいところだ」
そのまま、僕の処遇は、保留のまま解散となった。結局、僕が選ぶことになったみたい。オットー様は、できればここに居てほしいって言っていた。砦や鉱山街の拡張計画に僕は欠かせないらしい。うーん、僕的には帝国や避難中の教皇庁とやらに連れていかれるよりは、こっちのほうがいいなぁと思ったけど、黙っていた。そこで会議はお開きになった。枢機卿様達は、会場には戻らなかった。
僕は、お腹いっぱいのままで、鉱山口の入り口上にある、通称、野宿部屋に戻ってきた。元奴隷さん達も戻ってきたから、結構人がいる。ここも、もともとは、この建物が無くて、宿に泊まれない鉱夫さんや、傭兵さん達が、野宿をしていたから付いた名前なんだよね・・・
砦も鉱山街も、もう、沢山人がいるからね・・・あ、そうか、この人たちだって、悪魔に身体を取られているかもしれないんだよね・・・その可能性はゼロじゃないってことか・・・だから、ここで寝かされているのかもね。ていうか、僕もそうなのか・・・ショック。
なんだろう、その、悪魔の受肉が発動する言葉って・・・いや、単なる好奇心だけど・・・ここでいきなり悪魔がでてきても対処できないし・・・知りたくはないけど。
とりあえず、寝ようかな・・・なんだか気になってきた。うわーこれは眠れなくなるパターンだ・・・やばい。
もしもだよ、悪魔覚醒ワードを、僕が間抜けにも寝言でいってしまったら・・・うわ、周囲が皆悪魔になっちゃって、僕は寝たままじゃん・・・確実に死ぬよね。頭からボリボリたべられちゃうかも・・・やばい・・・眠れなくなってしまった。
でも、まてよ・・・いつも使うような言葉じゃないよね・・・絶対。だって、おはようとかだったら、すぐ覚醒しちゃうもん。ということは、普段使わないような言葉か・・・うーん、ぼく語彙少なそうだから、迂闊に覚醒ワードとか、ありえないかな。
・・・あれ、もしかして、もう朝? あー、眠れなかったよ・・・もうお腹が空いたんですけど、減らない魔法とかないのかな・・・あと少しでも寝たい、僕は寝返りを打って、寝ようとした。
最後までお読みいただきましてありがとうございます。
ザクセン騎士とかザクセン貴族というのは、史実です。実際に存在しています。
ザクセン騎士団の豪胆さというか、強さは定評があり、神聖ローマ皇帝も気に入ってました。
もともとは、フランク族カール大抵が、ザクセン騎士を沢山殺したんですけどね。
カトリックに改宗して、ザクセン族を救った族長がヴィドキントです。その直系の子孫がリウドルフィング家なんですね。この王家はのちにローマ帝国の皇帝になります。つまり逆賊のように屠られた騎士たちの残党が、国を盗ったようなもので、好きです、ザクセン人。
どうやら、その王家の王子のようですよ。悪者君。




