第65節 新しい名前
こんばんは。
昨日はアップできませんでした。体調がずっとよくないので、PCに向かう体力とか気力が不足しています。明日からは、書き溜めていた部分なるので、お休みしません。宜しくお願いします。
僕は、スタスタと歩くアポロニアさんの後を付いていった。
アポロニアさん、どこにいくんですか?って聞いたら、振り返って二って笑って、鉱山口にしようと思っているのよって。二って笑った時の白い歯の隙間が、なんか可愛い。
鉱山口に着くと、中に入って、アグネスさんに挨拶し、吊り鉄格子の外にいった。一応、僕は男の子だから、修道女と二人きりで密室とかは、ダメらしい。
「ここならいいかな」
「はい、どこでもいいです。お願いします」
鉱山口の外はお日様も当たっていて、気持ちいい感じだ。手すりの隙間から下をのぞくと、小さな川が流れていて、水の音がしている。小鳥も鳴いているよ。ここから後ろを見ると鉱山の山がそびえていて、正面は鉱山街だ。北城壁と南城壁の合わせ目に、橋が架かっているんだ。木製の吊り橋ね。
この間は、この吊り橋を巻き上げなくてもよかった。防衛ラインの一つだからね。
街にとってみれば、もうほぼ最終防衛ラインの橋だ。
勿論、ここをクリアされるとなると、今度は砦の正門まで、街のメインストリードが、がら空きになる。その場合は、通りの左右に並ぶ建物の入り口がブロックドアになっているので、建物には侵入されにくくなっている。そして各建物のブロックドアが破られたときは、裏側の北城壁や南城壁に逃げて、城壁の上を砦まで逃げる手はずになっている。
最後は、砦が防衛ラインだ。敵の攻撃手段や移動手段により、有利な防衛ラインと不利なラインがあるが、今回は、すべてにおいて有利だった。
「悪者君は、回復系の魔法って、何か使える?」
「何も使えません、僕、できるのは、明かりのリヒトと浮遊だけです。最近は、浮かし屋君とか、浮き浮き君とか言われだしていて、もう嫌なんです」
「あははは、なんか浮き浮き君って可愛くない?」
アポロニアさんは、僕が悲しい顔をしているのを見て、急に真面目な顔になった。
「ごめんね。じゃ、お勉強しましょう」
アポロニアさんはキリッとしてから、話し始めた。
「まず、回復系の呪文には大別して2種類あるのよ。回復したい相手の自己治癒力を引き出して、増幅するものと、外部から強烈な治す力を与えるものね。
止血魔法も、自己治癒型は、自然に止まる力を早めるのに対して、外部付与型は、一気に傷を接着するのよ。たとえば、致命傷にあたる傷、首を切られたとかに対しては、後者を用いるべきね。前者では間に合わず死んじゃうから・・・従って、その人をどうしても救いたいなら、無詠唱で発動するぐらいまで練習しないといけないの。傷は切れていて、重篤なところから治癒してくれるから大丈夫だけど、首と足首みたいに離れていると、治したい場所をイメージしておかないと、外れるわ・・・
自己治癒型も外部付与型も、基本的には、もともと体内にある、聖霊の力を借りるものなの。よく聖性の発露という言い方をするけど、聖職者のうち、よほど敬虔な生活をしている者でないと発露させられないのよね・・・
常に祈り、修道士のような節制する生活をしていないとまず効力がないのよ・・・」
ということは、僕みたいな人間だと、まず無理だよね。お肉大好きだし・・・
「悪者君、ヴェニ・クレアトール・スピリトゥス知ってる?」
「あ、はい、多分歌えます」
「ええええ、そうなの?・・・聖性を発露させて魔法の効力を発揮させるには、最初に、ヴェニ・クレアトール・スピリットゥスという祈りから始まるのよ。どの歌が歌えるのかな?・・・そうだ、ねぇ、歌って・・・聴かせてほしいなぁ・・・」
「あ、はい、あんまりうまくないですよ・・・」僕は、歌えそうなので、気軽に安請け合いしてしまった。歌い始めてから、すごく後悔した。この歌、本当に歌えるのだろうか、記憶がないんだけど・・・
♪来てください。
創造主である聖霊よ。
人間の心に訪れて、
貴方の作られた魂を、
至高のお恵みによって満たしてください・・・
・・・お願いだからもういいよって言って止めてくれないかな・・・恥ずかしいよ。でも、なんで、この聖歌知っているのだろう・・・どんどん溢れる泉のように言葉とメロディが僕の内部から湧き出してくる・・・
♪主である父に榮あらんことを
死から蘇った聖なる御子、
そして聖霊に
永久に榮あれ
はっと我に返ると、最後まで歌ってしまっていた。
僕の心は喜びというか、平安で満たされていた。涙が溢れて止まらないよ・・・
周囲には、いつのまにか、僕の歌を聴きつけて、多くの人が集まっていた。城壁にも鈴なりだ。アグネスさんも、鉱山口の入り口にもたれて、こちらを見て、ウルウルしながら、涙を拭いている。その陰から覗くようにシャルロッテ様が、こちらを見ていて、やはりデロデロ涙を流している。
目を真っ赤にはらしたアポロニアさんが、狼狽えている僕に声をかけてくれた。
「悪者君、あなたは一体誰なの?今、私は確かに聖霊が白いハトのように天から降ってくるのを感じたわ・・・わからないけど、確信したの・・・見えないけど、父と子から送られた聖霊が、私達を満たしたのよ。まるで、ペンテコステみたいだったわ・・・たぶん」
そういえば、ペンテコステ、聖霊降臨節って6月だったよね。十字架の死刑から復活された主が天に昇られて、残された弟子たちに聖霊を送った日のことを記念する祝日だったよね。その時から、僕ら洗礼を受けた信徒は、聖霊に満たされることになったんだ。
この聖霊がなければ、僕らは正しく考えることもできないし、まず、正しいこともできないよね。このあたりが、ブルーノ神父様がよくいっている、神の道具になれということだ。善行をしようというのではなく、聖霊が働くように祈って、その結果自分が神の様の道具となって、いいことができるってことだよ。すこしわかってきたけど、周囲に人が集まってきていて、まるで祝祭のようになっているよ。
もう、その日はレッスンどころではなくなったよね。
しばらくすると、隠し砦の三悪人、いや、塩砦の、2騎士と1従軍司祭がやってきた。
ブルーノ神父様が、口火を切った。
「やはり、この騒ぎの素は、悪者君だったのか・・・聖歌が聴こえたんだ・・・鉱山の高い山にこだまするように・・・上の方から降りてくるように聴こえたんだが、その歌は、マインツ大司教様が作られた、聖霊来てくださいの歌だった・・・天使が歌っているのか思ったぞ・・・」
オットー様が後を続けた。
「悪者君は、一体何者なのだ・・・私の剣が、大天使聖ミカエル様が下さった、この剣が、歓びに打ち震えたかのように、そなたの歌に合わせて震えておった」
レオン様が更に続けた。
「あの歌のあと、エールの味が変わったぞ・・・絶品の味だ・・・何をしたんだ?デールが上手く発酵する波動か?」
はいはい、レオン様は、ずっと飲んでいてください。
そのあと、あちこちの集団で、祈りの集会が行われ、みんな神様に祈りを捧げたそうだ。いつ終わるかわからない勝ち目がないような、絶望的な悪魔軍との戦いの中で疲弊していた人々の、消えかけていた心の灯し火は、再び勢いを取り戻し愛の炎のように育ちつつあった。
結局、授業は中断されたので、その日は仕方なく諦めた。
昨日は、食べるものがないまま寝たので、朝からすごくお腹が空いている。同じベッドで寝ている森の中の修道院にいた同じくらいの子は、既に居なかった。カールさんの部屋にいってみたが、誰もいなかった。下に降りていくと、僕と一緒に寝ていた子が、女子寮からきた、お母さんと一緒に、ロビーでなにか食べていた。横目に見ながら、そっと出ていくことにした。
なんか落ち込みそうだから、気分を切り替えないとね。
スタンピードの一連の騒ぎがやっと終わった感じで、砦と鉱山街は日常を取り戻した感じだ。
僕は、アポロニアさんに、昨日の続きを教えてもらおうと鉱山口に行ってみたが、まだ吊り鉄格子は引き上げられていなくて、大勢の人が開門を待っていた。
以前に見た時よりは多くないかな・・・まだ鉱山に入るのを控えているチームもいるんだろうね。カールさん達いるかな?こういう時は半キャップ型のヘルメットをかぶっている、二人組を見つけるのが早いんだよね。そう、盾職の双子の二人だ。いたいた。二人はデカいからね。
その時、吊り鉄格子の向こうから、誰かが大声で話しだした・・・オットー様みたいだ。僕は一目見ようと思ったけど、背が小さいから見えないよ。
「集まっている諸君に告ぐ・・・」
ガヤガヤしていたのが急に静かになった。
「私は砦守備隊、隊長のオットーである。本来は、もう開門時間だが、もう少し待ってほしい。今、鉱山内の安全を確認している。これは、諸君の安全のためである・・・
重大な報告がある。今回のアンデッドの大量発生のきっかけとなったのが、恐らくだが、暗黒魔法の魔法陣であった。しかも、よく聴いてほしいが、この魔法陣は、誰かによって、鉱山内にかかれたものだったのだ。床に普段見たことがないような模様があった場合は、すぐに、聖水を撒いて消してほしい。一部を欠くだけで機能を失うので、全部を消さなくてよい。また、消すときに煙が出ると思うが、その煙は決して吸わないこと。悪魔に身体を取られる可能性がある」
みんな、顔が青くなってきているよ。そりゃ怖いよね・・・オットー様がまた何かいった。
「これから開門するが、内門は開門しない。そして、受付を済ませたものから、一人ひとり、左側の通用口から入山してもらう。その際に、アポロニア修道女より聖水の小瓶が渡される。また、ブルーノ神父様が、聖水を皆に撒く。
とにかく、中で何かあったら、すぐに入口の受付に報告してほしい。ここは、我ら、人間の場所だ。悪魔に明け渡してはならない。そのためには諸君らの協力が必要なのだ。では健闘を祈る。開門」
ガチャンっという音がして、ガラガラと鎖が巻き上げられ、ギ―という音と共に、吊り鉄格子がゆっくり上がっていく。ガチャン、ガチャンと一定のリズムで音がしているが、これは、吊り鉄格子が自重で落ちないようにするための爪が次の歯車にかかる時の音だそうだ。
みんな我先にという感じではなく、警戒しながら、周りの人に順番を譲るようにして、なかなか入っていかないから、外の混雑がなかなか解消しない。僕は、双子のところに行きたいのだけど・・・あ、でも、アポロニアさんが、入り口で聖水を配っているんだよね・・・そうか、ゆっくりしてもいいんだ。
そう思って立っていたら、周りが空きだしてきた。小さい僕も丸見えだ。僕を見つけた空飛ぶザクセン人のみんなが近寄ってきた。僕を丸く囲むように皆立っていた。カールさんが口火を切った。
「今日から君を呼ぶ名前を改めたいと思う。
ザクセン人の使徒だ。使徒様と呼びたい。どうだい?」
ちょっとまってください。使徒って・・・僕は狼狽えてしまった。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
私は破門覚悟で書いています。破門された人って最近みたことないのですが。
ペンテコステは、聖書の中で好きなシーンです。その場面を描いたエル・グレコの絵画が有名ですね。素敵ですよ。みんな弟子たちは聖母様を中心に祈っていたんですね。そこに聖霊が送られたという話です。
ではでは、また明日、宜しくお願いします。




