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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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第62節 アーデルハイトの指輪 その2

続きです。いよいよ、アーデルハイトの正体が判明します。

アグネスは、鉱山口での任務を終え、明星亭に寄った。シャルロッテは先に砦に帰しておいた。女将さんにあって、個室の予約をしてから、一生懸命働いているアーデルハイトを見つけ、声を掛けた。


「アーデルハイト、今夜時間あるからしら?」

「仕事していますので・・・」

「女将さんには前もって話すので、一緒にみんなでご飯食べない?勿論、砦の経費よ」

「うは・・・いいんですか?残り物も最近少ないので、助かります」急にご機嫌になった。


 そうだ、この子は客の残り物で生きているんだった。

「ちょいと、アーデルハイト、人聞き悪いじゃないのよ。賄いも出てるでしょう?」

「しぃ~女将さん、ダメですよ。ここでアグネス様の同情を引いておけば、1品か2品注文が増えるでしょう?もう・・・」アーデルハイトが女将さんを窘めているが、ばらしたらだめだろうに・・・


「あ~ら、アグネス様、この子は不憫でね~いつも、お腹を空かしていて、可愛そうなんですよ・・・」

「うふふふ、女将さん、大丈夫よ、沢山頼んじゃいますから、オットー卿に何か聴かれたら、援護射撃お願いしますね」

「あいよ、まかしてとき」

女将さんはオーガのような太い腕で、胸をドンと叩いた。いい音がする。


それからアグネスは、ベルタに会いにいった。


収監されている罪人はいないが、地下牢の前の机にベルタは座っていた。地下室への階段を下りていくと、来訪に気づいたらしく、立ち上がってアグネスにお辞儀をした。


「ベルタ、やめて、他人行儀なことは・・・ところで、今夜時間ある?すこし相談に乗って欲しいことがあるのよ・・・」

「アグネス様、今夜は夜勤なんですよ・・・」

「でもね、アーデルハイトのことなのよ」


 兵士も下級役人も皆、均等に夜勤が割りわてられている。どうしても、スタンピードを警戒して、24時間体制の警備が行われているため、順番で夜勤が回ってくる仕組みになっている。夜勤には追加の給金がでるので、他人の当番を代って請け負う者もいた。

 ベルタは、下の街で離れて暮らす子供に、すこしでも仕送りをしてやろうと思っていたので、夜勤は欠かさずやっていた。すこし、躊躇した様子だったが・・・


「アグネス様、代わりの者を見つけてきますので、会合に参ります」

「ベルタ、じゃ、明星亭ね・・・費用は砦持ちね」


 ベルタがやったという顔をしている。ふと、気が付いたという顔をして、

「アグネス様、悪者君やクリスタはどうなのですか?」

 そうか、あの二人も誘ってあげないと、お腹を空かしているだろう。しかし、今夜は、かなりシビアな話になりそうだし、秘密は知るものが少ないほうがいい・・・悩んでいると察したベルタが提案してきた。

「アグネス様、込み入った話のようですね。ということは、個室を予約したのでしょう?あの二人は、普通の客用のテーブルで食べさせればいいのではないでしょうか。勿論、砦の費用で」


 なるほど、それもそうよね。

「わかりました。あなたが声を掛けてくださるかしら?」

「はい、喜んでー」

アグネスは、喜んでいるのかいないのか分からない謎のイントーネーションに戸惑いつつ、地下牢のある、地下室を後にした。


 普段着のドレスに着替えて、アンナのところにいき、事情を説明した。それから、オットー様たちのところに行ったが、まだ帰ってなかったので、給仕に伝言を頼み、シャルロッテと自分の食事をキャンセルした。もうすでに作っているのだが、このキャンセルで料理を下げ渡され、喜ぶものもいるので、まぁ、いいだろう。


 砦の城の階段を下りると、中庭でベルタが待っていた。今夜は帯剣している。今日の南城壁外での魔物騒ぎで、全員武装が命じられているのだった。アグネスは、魔法使いなので、武装しなくてもよい。魔法使いの役得だ。こういう時は魔法が使えて良かったと思う。いざ戦闘となるとこき使われるので辛いが。一緒に明星亭まで歩いていった。シャルロッテにはすこし遅れて、アンナに送ってもらってくるように言っている。


 明星亭に着くと、女将さんにアンナ用のお持ち帰り弁当を頼んだ。また、悪者君とクリスタの分を頼み、個室ではなく、客用テーブルの一角で食べさせてくれるようにしてもらった。


 早速、ベルタと個室に入り、話を始めた。食事がでてないと、会議室のようだなとアグネスは思った。ベルタが話の内容を知りたがっている顔だ。一応、貴族が話すまで待っている。

「今日は、急なお願いでごめんなさい。あの、アーデルハイトが、なにか隠して身に着けているのって、知っているかしら?」

「え?あの子は何も持っていなかったはずですよ。着替えも持っていなかったし、本当に何もないはずですが・・・」

「そうよね。あの子の置かれている環境は、想像を絶するものよね」

「アグネス様、下の街では普通ですよ。あの子は住み込みの部屋を出ていかなければならなかったから・・・冬服でここに来たし、持っているものは全部着込んできた感じでした」

「そうなんだ・・・」

 貧しいものの暮らしなど、アグネスには想像もつかないだろう。アグネスは自分の無知を、そして、想像力の無さを悔いていた。私の兄さん達も、そういうことに気配りができ、配慮ができるような統治者になってほしいなと思った。アグネスは、ベルタが何もしらないようなので、単刀直入に切り出した。

「アーデルハイトは、凄い宝石を隠し持っているらしいの。シャルロッテしか見せてもらってないのだけど・・・ベルタは、ロンバルディアの鉄の王冠って知ってる?」

「いえ、存じませぬ。それはなんなのですか?」

「ランゴバルト族の王妃が手に入れた伝説の王冠なの。イタリア王の王冠よ。聖ヘレナって知ってるかな・・・聖十字架を発見した聖女様なんだけど、その息子のコンスタンティヌスに与えたといわれるものなの。で、その王冠で、カール大帝やオットー大帝も即位したの。でね、話長くなったけど、その王冠についている宝石より、大きな宝石らしいのよ」

ベルタは少し混乱したようで、聴き返してきた。

「アーデルハイトは、その王冠の宝石を持っているのですか?石だけで?」


全然通じていなかった。ロンバルディアの鉄王冠を知っていれば、わかり易いと思ったが、逆効果だったようだ。アグネスは話し方を切り替えることにした。

「金の指輪を持っているらしいわ、お母様のお母様というように、先祖から受け継いだらしいの。でね、その指輪に大きな赤い石がついているらしいのよ・・・」

「うーん、指輪ですか・・・指輪をしているのは、身近では、アグネス様だけですからね。それです。私は結婚指輪は貰えなかったし、私達夫婦は傭兵でしたから、その日暮らしでしたから・・・」

 そうか、同じ砦に勤務しているのに、この差というものは、色々大変だわ。ベルタに指差されて、アグネスは自分の金の指輪を見つめながら考えていた。


「お連れ様がお着きですよ」女将さんがドアのあたりから声を掛けている。

「どうぞ、お入りください」ベルタが返事をした。

ドアが開いて、シャルロッテとアーデルハイトが入ってきた。

アーデルハイトが、お招きいただきまして、ありがとう存じますと挨拶した。アグネスは、この子のこういうところにいつも驚かされる。礼儀作法は。母親が娘に伝えるものだ。身なりこそ、貧しさを感じさせるものだったが、立ち振る舞いは、王家のもののようだ。


 グネスは、二人に椅子を勧め、女将に声をかけた。飲み物がすぐに運ばれてきた。

子供たちはシードルで、大人たちは、蜂蜜酒だ。乾杯して、食事が始まった。


食事が終わると、悪者君とクリスタが、みんなの猫を連れてきてくれた。二人は、挨拶をしてから出ていった。もう、お腹もいっぱいで、酔いも回って、猫ももふもふで幸せだわと思っていると、一人だけ猫を飼っていないベルタが、今日の要件を思い出させてくれた。


「今日は突然お呼びしてごめんなさい。毎日が、こうだといいのにね・・・実は、アーデルハイト、お話があるの」

 皆がアーデルハイトを見た。昨日の今日だけに、アーデルハイトは勘づいたようだ。一度シャルロッテを非難するような眼差しでちらっと見て、下を向いた。

「私の指輪の事ですね・・・見せなければよかったわ・・・」そう言って、右腰のあたりを押さえた。

「アーデルハイト、よく聴いてね。あなたからそれを取り上げようというわけではないの。ただ、シャルロッテにちらっと見せただけで、あなたはこういう厄介事に巻き込まれたでしょう?あなたが持っているものが、他に知られたら、どうなるか想像できる?」

「いいえ、わかりません」アーデルハイトはうつむいたまま答えた。


「あなたの持っているものを狙うものがいつかは現れるでしょう・・・そして、それを盗る。更に口封じで、あなたを殺すでしょうし、そのものを知っているものも、殺そうとするでしょう。たとえば、ここの部屋にいる人達を全員です」


アーデルハイトは、激しく動揺していた。まさか、そこまでは、考えが及ばなかったようだ。

「アーデルハイト、よく聴いて欲しいの。あなたがお母様から頂いたものであるということは疑っていませんからね。ただ、あなたやあなたの周囲の人を守るには、そのものが、なんなのか、どういうものなのか、砦の人が知っておく必要があるの・・・

 極端な例を出すけど、あなたが不慮の死を遂げたとして、そのあとで、あなたの大切なものを、自分が前からもっていましたって言う人を論駁できるかしら・・・

 あなたの持ち物であるとわかっていれば、嘘は通用しないでしょう?それが抑止力になるのよ・・・だから、教えて欲しい」

アーデルハイトは、迷っていた。正直に告げたら指輪を盗られるのではないだろうか・・・迷っている彼女を見て、アグネスは更に話を追加した。

「考えてみて、もしも、もしもよ、あなたがその指輪?を落としたとして、あなたが自分のですって名乗りでても、誰が信じてくれるかしら・・・私たちは貴方の味方のつもりよ。万が一の時には、貴方のものだと証言できるし、貴方の手に戻るように尽くせると思うわ」

「で、でも・・・」アーデルハイトは決めかねているようだ。アグネスはもうひと押しすることにした。

「見せるのが、盗られそうだから怖いなら、これを先にあなたに渡しましょう」

そういって、アグネスは自分の指から、宮宰である父上より頂いた、金の指輪を抜き取り、アーデルハイトの手に握らせた。

「この指輪には、私の父上と、私の名前が刻まれているわ。たとえ奪われても、私のものって、誰もが認めてくれるでしょう。あなたの場合はどうかしら?」

アーデルハイトはアグネス様の言うとおりだと思った。ここで秘密を打ち明けて、周囲の人に認めてもらったほうが、百倍いいのではないだろうか・・・


アーデルハイトは、観念したように、服の隠しから布の袋を取り出し、例の指輪を取り出し、アグネスの手の上に載せた。


アグネスは、正直、ここまでのものだとは思っていなかったので、腰を抜かしそうになった。幅の太い、金の指輪で、台座には、赤い宝石が爪で留められている。宝石は正確な八角形のカットで、角がシャープに鋭くとがっている。アグネスは、宝石の周囲に刻まれている文字を声に出して読んだ。

「赤き石は、正統な者にのみ光を与える・・・」

アグネスは、アーデルハイトの手を取り、親指に指輪をはめた。


赤き石は、激しく光を放ち始めた。


「なんてこと・・・アーデルハイト、貴方はいったい誰なの?」アグネスは腰が抜けそうになっていた。

 まるで神話や伝説の中の話のようだわ・・・アグネスは指輪をそっとアーデルハイトの指から抜き取り、アーデルハイトに断ってから、自分の指に嵌めてみた。全く光らないのだ。もう一度指輪を見た。そして、指輪の内側にも刻印があることを見つけた。アグネスは、声に出してそれを読んだ。


 「ブルグンド王ルドルフが娘アーデルハイトに送る。王女は代々娘に世の終わりまで、この指輪を受け継ぐ」


 ベルタが変な声をだした・・・

「え?アーデルハイトって、貴方はもしかして、あの聖女アーデルハイト様なの?」


おいおい、いくらなんでも、それじゃ200歳ぐらいだろう・・・アグネスは糸のように細工した目をベルタに向けた。


「あ、そんなわけないですよね。あれ、アーデルハイトに話したわよね。聖王女のお母さんがベルタって名前だって・・・」

確かにそうだが、関係ないだろう・・・アグネスは、ベルタの知らなかった一面を知って面白いと感じた。


「アーデルハイト、すごい発見よ。この指輪は確かにあなたのものだわ。そして、刻印が本物なら、貴方は、本物のブルグンド王女の子孫なのよ」


アーデルハイトは、まだ起きていることを正確には理解できていなかった。


アグネスは言った。

「今からブルーノ神父様のところにいきましょう?そして、すべてを打ち明けて、その指輪を調べてもらいましょう?」

アーデルハイトは、大きくなりすぎた話に圧倒されていたが、アグネスのいうことを信じていたし、従うことが最善の策だと感じていた。そして、指輪は神父様のところに持ち込まれることになった。アグネスの指輪は、担保として、アーデルハイトの親指にしばし光ることとなった。


会計を済ましてから、全員で砦のブルーノ神父様のところに向かった。


ほろ酔いで歩いていくと、突然、鉱山口から鐘をかき鳴らす音がなった。


ベルタが叫んだ。

「大変、あの鐘の鳴らし方は・・・」


アグネスが応えた。

「鉱山で、魔物が溢れたようね・・・スタンピードだわ・・・」


全員で砦の城まで走った。


いかがでしたか?

いよいよ、スタンピードが起きてしまいました。

皆生き残ることができるのでしょうか・・・


明日の深夜に、この続きをアップしたいと思っています。

宜しくお願いします。

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