第56節 送別会の夜
カールさんが反射的に切ったのは、いったいなんだったんでしょうか?
「今、確かに何か切ったよな・・・」カールさんは、驚いている。何か黒いものが迫ってきて、反射的に切ったはずだ。
「どうしたのだろう・・・」カールさんは不思議がっていた。
「確かに今の抜刀と振りぬくスピードはすごかったよな・・・」アレクシスさんが驚いている。
「本当ね。まるでオットー様のようでしたわ」アポロニアが誉める。
「えへへ・・・」そこで、顔をでろんとしなければモテるのにと僕は思ったが、黙っていた。でも女子陣は皆そう思っているようだ。
「ドロップなかったのか?」アレクシスさんが地面を見ている。いわゆるう○こ座りで一生懸命地面を見ているのは、ちょっと滑稽だよね。僕は笑いそうになるのを堪えた。
「今の魔物いったいなんだったのだろう?アポロニアちゃん判る?」クラウディアが不思議そうに訊いた。
「ううん。わからなかったよ・・・でも、今までに遭遇したことがないよね。文献にもないと思う」アポロニアさんも首をかしげている。
アレクシスさんが、何か黒いものを見つけたようだ。
「なんだ?これ・・・」
彼が持ち上げたのは、黒いカギだった。光をすべて吸収してしまうような黒。一切の光がない黒だ。
「鍵だな・・・うわっ」そういって、アレクシスさんが鍵を投げ捨てた。皆、なんだなんだという感じで彼を見ている。
「触るな。それはやばいぞ。体力というか、気力というか・・・そう、生きる気力を奪われるような力がある」普段、能天気でお茶らけている分、真実味がある重い言葉に感じるから不思議だよね。
アポロニアさんが、興味深々で近寄ってみている。もともと小さい上にしゃがんでいるから、なにかの可愛い生き物のようだ。
「これ、地獄のカギかも・・・」
え?皆、驚いた。
「天国の鍵というのは聴いたことがあるが、そういうのもあるのか?」カールが尋ねた。
「うーん、わかんない」皆、ズッコっとなった。
「でもね、触ってみてどうだったの?アレクシス?」
「あ、なんかさ、燃え盛る炎とか、焼かれる人のような形とかが、一瞬見えたんだよ」
「これ、触ってると、地獄に引きずり込まれるかもね・・・鍵の形はしているけど、一種の転移門みたいなものかも・・・つまり、さっきアレクシスが見たヴィジョンは、転移先かも・・・」
「げ、投げ捨ててよかったじゃないか・・・」
まだ、黒い鍵は地面で黒い煙のようなものを上げていた。
「どうする?リーダー?」クラウディアさんが訊く。カールは少し考えて言った。
「二人の話を総合すると、持って帰りたいが、使うのは時期尚早だと思う。しかも触れられないのなら、置いておくしかない。しかし、置いておけば、被害者がでるだろう」
「で?」アレクシス、クラウディア、アポロニアの全員が訊いた。
「アレクシス、槍で触るとどうだろう。同じヴィジョンが見えるだろうか?」
「お、お、おうよ。やってやろうじゃねえか・・・」
強がりを言っても腰が引けてますよ、アレクシスさん。
槍の先でちょんちょんと突いてみているアレクシスさんが言った。
「特段、何もないな・・・ちょと待てよ、長時間触ってみるからよ・・・」
「うん、何もないな。多分だけど、手で触れなければ、問題ないかもしれない」
「じゃ、危険すぎるので、これはどこかの裂け目までもっていって捨てよう」
「カール、ここはドワーフの王宮だぜ、裂け目なんてないぞ」
うはー、なんか詰めが甘いよね・・・でも、それがカールさんのクウォリティなのかもね。
皆目が点になっていた。でも、どこかで捨てるというのは全員一致だった。
「じゃ、そこの瓦礫の穴から、鍾乳洞に上がって、割れ目を探そうぜ」見かねて、アレクシスさんが提案した。
「えー、あっちはここより高いんだよ?」クラウディアが叫んだ。
「いや、この鍵さ、手で持つところに穴があるだろう?そこにジャベリンをさしてだな。持ち上げるんだよ」そう言いながら背中の矢筒のようなところに差している、ジャベリンを引き抜いた。そして、その切っ先をその穴に差した。
「おお、いい感じだぞ」ジャベリンをカギに突き刺したアレクシスが、カギを持ち上げた。禍々しいというのは、これなんだろうね・・・黒い焔のような、煙を巻き上げながら、鍵が空中に浮かんでいる。アレクシスさんは、ジャベリンを手にもったままだ。
「どう?アレックス?例のヴィジョン見える?」アポロニアさんが訊いた。
「う~ん、大丈夫じゃね?」あれ、アレクシスさん軽いよ・・・
「ほんとかよ?」クラウディアさんがキツイ言い方で聴いた。
「うん、多分ね」アレクシスさんも余裕な感じで応える。
「よし、じゃ鍾乳洞のほうへいこう」カールさんが言った。
僕らは少し戻って、瓦礫の坂道を登っていった。アレクシスさんが、ジャベリンの先端に黒い鍵をぶら下げている。
僕は、なんか違和感を感じていた。でも、黙っていた。そのうち、アレクシスさんが変な声を出し始めた。
「うへへへへ、引っかかったなぁ。愚かな人間よ」やばいよ、アレクシスさんの顔が豹変してる。[我は命じる、そのカは全員の血を欲しておる。吸わせてやれ、アレクシスよ!]
カールがアレクシスの手から無理やりジャベリンを奪い取り、遠くへ投げた。
「ふぅ、危機一髪だったな」カールがぜいぜい言っている。
アレクシスさんも、すごく荒い呼吸を繰り返しして、苦しそうにしゃがんで左右に頭を振っていた。
「ばかー、アレックスの馬鹿―。こんな時に見え張ってどうすんのよ!」クラウディアが怒った。
「すまん、ほんと、すまんかった」アレクシスさんが、誤っている。
「しかし、投げてしまってどうするのですか?」アポロニアさんがカールさんに質問した。
「あっ・・・、探してきます」カールはうなだれて、地獄の鍵を探しにいった。
ジャベリンは見つかった。しかし、鍵は見つからなかった・・・
ぼくらは、仕方なく、そこで探索を切り上げ、鉱山口へと帰った。
帰ると、アグネスさんが迎えてくれた。残念ながら、成果ゼロだ。入山記録の石板を回収し、文字を消去した。この一件は、砦に報告することになった。例の鍵が見つからない以上、入山者全員に、注意しなければならない。
結局成果がないので、外食はお預けとなってしまった。
「仕方ねえな、悪者君、俺の部屋で肉でも食うか?」カールさんが皆に言った。
「よーし、今日は残念会だな・・・さぁ皆いくぞ」カールさんが誘ってくれた。
「いや、俺パス・・・葡萄酒とパンだけでいいよ・・・」アレクシスさんが落ち込んでいる。フォローが難しいようだ。僕は、ごちそうになるほうだから、黙っていた。
そこへ、クラウディアが飛び込んできた。
「ね、ね、ね、シャルロッテ様が帰るらしいよ。アグネス様に、送別会に誘われたんだけど、みんなもいくでしょう?明星亭だよ!」
皆の顔が輝いた。全員一致で、参加が決定されたことは言うまでもない。
明星亭の2階個室が会場だった。シャルロッテ様だけでなく、父君のレオポルト様もご同席だったため、カールを始め全員が酔うことも許されず、可愛そうなパーティだった。
レオポルト様は大層ご機嫌で、ずっと無礼講の様相を呈していた。
無礼講なんて、上の者の自己満足だよね・・・下層の僕たちは、緊張しっぱなしだからね。
カールさんはチラチラとアグネス様を横目で見ていた。不思議だよね。人の恋心なんて、どうして簡単にわかっちゃうんだろうね。クラウディアさんが、カールを見ながら、ふぅとため息をついていた。
僕は、つまらないので、裏口から抜け出して、裏庭に出て、城壁の上に上った。静かな夜だった。気づくと、猫のシャルロッテが近寄ってきて、すりすりした。猫はいいなと思った。明日は、猫を砦に置いて、シャルロッテ様は、城塞都市に一旦帰るそうだ。
まだ、子猫たちは、親から放すにはまだ時期が早いらしい。社会性を身に着けてからでも遅くないらしい。
それに、帰ってから、親族会議にて、シャルロッテ様の進路が決まるとか。
しばらく月を見ていたら、猫シャルロッテがやってきて、僕の隣に座った。さらに、アーデルハイトもやってきた。アーデルハイトは、もじもじしながら、少しずつ距離を詰め、最後には僕の肩に頭を持たれかけていった。
「悪者君、私のこと好き?」
え、何て答えたらいいのだろう・・・僕は初めてのことにすっかり戸惑ってしまった。
お読みいただきありがとうございました。
明日からいよいよ、荷車の探索が始まります。
宜しくお願いします。




