第41節 悪魔の動き
40話超え記念です。
忘れられてしまった、ドミニク神父様です。聖なる右手はまだ炸裂しておりません。
こちらの世界の話です。ドミニク神父再登場ですよ。
ルカスが侍者をしてくれる日は楽しい。ごミサは、毎日司式しているが、どれ一つ同じものはない。ルカスが香炉を渡してくれる。これで祭壇周りを清めるのだ。
いつもだと、院長の当番なのだが、修道院長は管区会議からまだ戻らない。今年は特に長くかかっているようだ。司祭の数が不足気味なので、いつも忙しい。
ごミサの司式は司祭でないとできないためだ。少年が去ってから、まだ数日しか経っていないのだが、なんだか遠い過去のように感じる。あの子はいったいなんだったのだろう。
「神父様、派遣です。派遣」ルカスがささやく。
しまった。考え事してすっかり中断してしまっていた。修道司祭のフェリックスがニヤニヤしている。本当は共同司式という手段もあるのだが、お互いの負担を軽くするために、交代制にしているのだ。
閉祭の聖歌を歌いながら戻ってきた私は、準備室で祭服を脱いでいた。
トントントンとノックの音。「どうぞ」というとフェリックスが入ってきた。
「ドミニク神父様、お疲れではないですか?」
「いあ、すまぬ。すこしぼーっとしていた」
「院長様や副院長様がいらっしゃらなくてよかったです」
「確かに・・・」フェリックスは、すこし変わっている。何か文句か、皮肉でも言われるかと思ったが、そうでもないようだ。
「実はご相談したいことがありまして・・・」
「ほう・・・神父様がご相談とは。いかがされたのですか?」
「いあ、冗談でなく、いささか困惑している儀がございます」
珍しいこともあるものだ。フェリックスはそういう柄ではないはずだが・・・
「実は悪魔憑きではないかという相談を懇意にしている商人から受けまして」
「商人ですか・・・」ドミニクは思い当たる節がある。フェリックスは裕福な商家の出身だ。公爵家よりも自由にできる金額は大きいという噂だ。決して口にしないが・・・出る杭は打たれる・・・打たれずとも利用されるからだ。私が一族のために動くのと同じで、彼だって一族の存亡は大事だ。
「で、ベルンハルト殿にご相談されましたか?」
「いや、それで、神父様にご紹介いただけましたらと思いまして・・・」
フェリックスがルカスに目配せしたので、ルカスは退室していった。
私は言いにくそうにしていたフェリックスを促した。
「一体どなたからの依頼なのですか?」
「隠しても仕方ないので申し上げますが、私の母なんです」なんか悲壮感でてきたぞ。
「なんと御母堂でしたか・・・」ドミニクは記憶の糸を手繰り寄せていた。思い出した。確か公爵家に仕える、宮中の下級貴族から、お金のために嫁いだ方だったか・・・でも、あの方はよくできた方だったな・・・貴族というと、鼻持ちならない奴が多いが、特に平民への態度で人間性がわかるというものだ。何度か話したことがあるが、フェリックス神父の御母堂は、立派な方だった。確かラテン文学に関して話したはずだ。いわゆる文学が大好きな少女がそのまま大人になってしまったような人だった。
我らは貴族ではあるが、微妙な立場だ。赤髭公に忠誠をちかい、庇護のもとにあるが、所詮はフランク族でなく、ザクセン族だ。我らの先祖、ヴィドゥキント様が、カトリックに改宗したお蔭で今があるのだ。そうでなければ、皆殺しだったのだから。
「で、どのような症状なのですか?」
「悪魔憑きそのものです」それからはフェリックスは悩んでいたことを洗いざらい吐き出した。聴いた内容は、独りで抱えられるようなものではなかった。
まず、人格の変容、聖なるものへの冒涜行為、そして自分自身への攻撃だ。
それからの話はとても聴くに堪えない内容だった。
「わかりました。すぐにでもベルンハルト殿のところに一緒に参りましょう」
フェリックス神父は、暗い顔にすこし明るさが増したようだった。
ドミニクは先ぶれとするため、ルカスを呼んだ。ルカスはすぐに出かけた。ベルンハルトに連絡をとり、すぐに面会できない場合は、戻って可能な時間を教える係りだ。
私たちは歩いていった。馬車を使うほどの距離ではないからだ。カテドラルまでの道の中間地点ぐらいで、ルカスに会った。
「先客がいましたが、今からいけば面会できるようです」
「ありがとう。戻っていいぞ。もしも次の日課に間に合わなければ、集会としてくれ」
「かしこまりました」ルカスは怪訝な顔をしている。司祭が聖務日課をすっ飛ばすなどないからだ。魂を磨かなければならぬのに・・・そんな大変なことがあるのですかみたいなルカスの雰囲気だが、その通りなのだ。私は司祭として、フェイリックスやその御母堂の魂を救わなければならない。悪魔に善良な信徒の魂を一つであっても、渡すわけにいかないのだ。
私たちがカテドラルについて、裏手の地下室へのドアを開けて、中に入っていった。
例の部屋で、ベルンハルトが待っていた。ベルンハルトは、私たちを見ると、ニコニコしながら迎え入れてくれたが、フェリックス神父の顔をみて、黙ってしまった。
彼は、私たちに席をすすめ、ワインを出してきた。そして、一息吐くと、いきなり切り出した。「今日は元天使の眷属の活動が活発なようですな・・・」
「ほう、よくお分かりで・・・」フェリックス神父が答える。
「いや、先ほどのお客様が、あなたの御母堂の関係の方でしたから・・・」
「え?。誰だろう?」
ま、依頼者に対する守秘義務について、ベルンハルトが語りだしたのを聴いて、フェリックス神父はその先を知るのを諦めたようだ。実際の処、あとで聞くと、実家側の人だったようだ。離縁されて戻されても困るわけだ。結婚を担保に色々とお金が流れているわけだから。
「で、どうなのですか?ベルンハルト殿はどのようにお見立てですか?」フェリックス神父は若干焦り気味だ。
「ご症状から判断するに、確実に、憑いているでしょうな。どの悪魔か、どの眷属なのか、問答により確かめなければ、打つ手がないのです。弱点を確実についていかねばなりません。また、長時間、長期間にわたれば、お母様の命に係わります。いち早くお母様をお連れくださいませ。よろしいですな?神父様」
百戦錬磨のベルンハルトの言葉の重みは凄いものだ。
「では、私は、ドミニク神父様との打ち合わせがございますので、ここで失礼します」
つまり、フェリックスに帰れってか・・・なんだろう、打合せって・・・とりあえず
フォローしようか。
「フェリックス神父様、私は時間までに帰れないかもしれませんので、その際は、修道院の皆の魂のため、司式お願いいたします。意向をお母様のためにするといいかもしれませんよ。
意向とは、ごミサを何のため、誰のためにあげるのかということだ。もしかしたら、そのミサで意向が神に受け入れられ、お母様の悪魔憑きが治るかもしれない・・・そういうとフェリックス神父は一縷の希望にかけようとして、すぐに退室していった。
なんとなく、申し訳ない気持ちもあるが、これは事実だ。神の目に留まるのは大変なのだ。いや見ておられるのだが、助けてくださるかどうかはわからない。一人で背負うことができるのなら、神はそのまま放置されるだろう。
有名な説話がある。ある聖人が、雪の中を神とともに歩いている。ものすごく辛いときを振り返ると、足跡が一人分しかない。聖人は神に言う。どうして、私が一番つらいときにあなたは私を見捨てたのですか・・・
愚かなことを申すな。その足跡は私の足跡だ。そなたを抱きかかえて進んでいたから、足跡が一つなのだ。私がそなたから目を離すことなどない。私は世の終わりまでそなたとともにあるのだ。ドミニクが好きな話だ。神の愛の性格を如実に表すと思っている。
「さて、ドミニク神父様、この表をごらんください。これは私の処にくる悪魔憑きの相談件数ですが・・・」
「おお、異常に増えてますね」
「そうなんです。あの少年がいなくなってから急に増えました。というより、増える一方です。悪魔はこの街を攻撃していたが、敗れた。ところが、少年がいなくなったので、ここそとばかり攻勢を強めたとも読めます」
「いずれにせよ、非常事態ですね」
「そうなんです。もしかしたら、本当の悪魔の子が顕現したのかもしれないのです」
お読みいただきましてありがとうございました。
スピンオフにして、別小説にしようか悩みましたが、すこし閑話休題風にいれていくことにしました。
よろしくお願いします。
このあと、また鉱山で、その次は砦の外に出ます。もうお話はかけていますので投稿早めにしますね。
明日以降ですが・・・
誤字訂正しました。




