第35節 地底のさらに下へ
いよいよ、悪魔の領域と言われる地下の奥に向かっていきます。
そこには、波打ち際があった。静かに寄せて返す波、でも音はほとんど無い。湖って僕の人生で、はじめてかも・・・しかも海じゃないんだもんな。ま、海も見たことないけどね。南にどんどん行けば、イタリアで、海があるらしい。でも、悪魔軍の支配地だ。
傭兵さんは左へ、左へと波打ち際を進んで歩いていく。幾つが洞窟や坑道のような口があいていた。
僕は初めての湖にハイテンションになり波というかすこし増える水を避けたり、足を水に少しだけいれて、ちゃぷちゃぷとしたりしてた。
「あまり水に近寄ると、魔物に引きずり込まれて、骨だけになっちゃうぞ」
ひえー。早くいってよ~。僕は素早く岸から離れた。
そういえば、傭兵さんのチーム名とか、本人の名前聞いてなかったな。
「すみません、傭兵のおにいさん」
「なんだい?」
「おにいさん、お名前教えてください。あとできればチーム名も・・・」
「お、悪者君、自分の名前は秘密なのに、人には聴くんだね」
あ、そうか、そういう考えもあるよね・・・僕は言い返すことができなかった。
「いやいや、君が記憶喪失なのは、知ってるから。からかっただけだよ。僕はカールだ。そして所属は、空飛ぶザクセン人さ」
「あ、謎肉持ってきた人達ですね」
「なんだよ、謎肉って・・・あ、そうか、明けの明星亭にもっていった肉ね・・・」
美味かったかと聞かれたので、また食べたいですって答えた。
食べてお腹大丈夫だったかと聞かれたので、考え込んでしまった。その聴き方はおかしいよね・・・意味深だ。答えに窮するじゃないか・・・
「あはは、ミーノタウルスってさ、頭だけが牛なんだよ。謎肉ってさ、逆なんだよね。気持ち悪いんだ。あ、これ内緒にしてくれよ」
うはー、気持ち悪い。僕にも内緒にしてほしかったなぁ・・・でも、ミーノタウルスって人間と牛のハーフなんでしょ・・・牛頭か、人頭で、体だけ食べるなら、後者だよね・・・なんか究極の選択だなぁ・・・そういえば、プリニウスの博物誌だと、人の声を真似る魔物が結構でるけど・・・しゃべって騙すほうが怖いな。
カールさんは急に止まった。目の前に石で作った桟橋と船がある。いや船というかボートだよ。カールさんはボートの前のほうに乗るようにいった。中には櫂が何本か置いてあって、カールさんが後ろに乗って、僕に櫂を一本渡してくれた。持っているようにって。
「基本的に君は何もしなくてもいい。周囲を警戒してくれ。決して手を水にいれないこと。引きずり込まれるか、手首から先がなくなるか・・・どっちも嫌だろう?」
怖ろしいことを言う。もしも何かが泳いできたり、顔を出したり、船べりに手を掛けたりしたら、静かな声で教えてといった。
「本当はボートで行きたくないんだけど、近道なんだよ。あと、とにかく岸から離れないように一定の距離で進んでいくから。なんか離れてきているなと思ったら、教えてくれ」
ライト魔法は、時間が経つにつれ照らされる範囲が狭くなってくるって書いてあったけど、カールさんは、結構短い間隔でリヒトって唱えてる。どうしてかなって思って聞いたら、岸から一定距離を保っているかどうか、リヒト魔法の効果が薄れるとわからなくなるからだ。岸の魔物と湖の魔物のテリトリー境を縫って進んだほうがいいらしい。
そうだ、カールさんに魔法について聞いてみよう。
「あのー、質問いいですか」
「どうぞ」
「さっき、リヒトって魔法かけてましたが、ライトとは発音しないのですが」
「魔法は自分の母語でないと掛かりにくいからね。僕はチーム名とちがってバイエルン人だと自分では思っているけど、君のようなザクセン人だって、光という言葉は同じだろう?」
「なるほど、ありがとうございます。僕は、自分がザクセン人かどうかなんて、自分でもわからないんです。ご存じのように記憶がないので・・・」
カールさんは、なんか悪いことを聴いてしまったような顔をして、話題を変えようとしてきた。
「いやー、しかし魔物が出ないなぁ・・・」カールさんが呟いた。
雑魚(そのまんまの魚だ)魔物や、半漁人のような気持ち悪い魔物が必ず隙を狙って近寄るらしいが、それも全くといっていいぐらい居ないらしい。かえって嵐の前の静かさみたいで、気味が悪いって。迷宮で魔物が出ないって時は、もっと凄い魔物が近づいてて、雑魚がビビッて寄ってこないらしいから、それだったら嫌だなってさ。何それ。怖いよ。
篝火が見えた。対岸が近づいたようだ。出発地点と同じような石造りの桟橋があって、他にもボートが何艘かつながれていて、桟橋の根元に篝火が焚かれている。人が二人、大きいのと小さいのが、立って待っているようだ。手を振ってくるが、声を出さない。やはり魔物を警戒しているのかな。
桟橋につくと一人の人が、ロープでボートを固定してくれた。カールさんの合図で桟橋に乗り移った。続いてカールさんが桟橋に乗った。
「悪者君、紹介するよ。空飛ぶザクセン人のメンバー、アレクシスとクラウディアだ」
「えっと、名前が思い出せないので、悪者君と呼ばれてます。宜しくお願いします」
「アーチャーのクラウディアよ。よろしくね」
「槍使いのアレクシスだ」
クラウディアさんは、若い感じ。たぶんアグネスさんとあまり変わらないかな。緑色の瞳が綺麗だ。アレクシスさんは、中肉中背なのか180cmぐらい。片手剣を腰に差していて、細長い槍を持っている。使いこまれた感じの槍で、突き刺す力もかなりあるような感じだ。スピアってタイプかな。アレクシスさんは20代前半でいい男って感じ。
「さて先を急ごう」カールさんが言った。
僕らは、すこし先に口を開けている洞窟に入っていった。少し上ると、しばらく天然の洞窟のようだ。鍾乳石といわれるようなツララのような石が、上から下がってたり、下から上がっていたりして、見ていると面白い。でも、通路部分には、敷石がずっと敷かれており、結構歩きやすかった。これ敷くの大変だったろうな。
「カールさん、結構地底湖って小さかったですね」
「いや、あれは、ヘリをちょっと船で進んだだけだから・・・まだ、完全な大きさはわかってないんだぞ。でも、右の方へずっといくと、滝になってるらしい。落ちたら助からないよな。たとえ生き残っても、行き先は地獄の底みないたところだろうしなぁ・・・」
さっきから気になっていたが、このあたりには坑道名を示すプレートが一切ない。そうか、坑道じゃないからか。なんどか分岐や合流を繰り返し、大きくなったり小さくなったり、太くなったり細くなったりした。これ、独りじゃ帰れないよね。ライトも使えないし・・・
「さあ、ついたぞ。ここが迷宮の入り口だ」
カールさんがいった。
鍾乳洞の壁の一部が大きく崩れている。がらがらと崩れた石などが散乱しながら、下へと続いていて、その先が迷宮のようだ。3メートルぐらい石だらけの斜面を下ると、急に人工的な石づくりの廊下になった。廊下とはいっても広くて、天井も高そうだ。
「すごいだろう?まさか、こんな地下にこんなのがあるとはな・・・ここは2千年ぐらい前は、ドワーフの地下王国だったらしい。この上の方にドワーフの王宮っていうところがあるが、そっちにいくと、開いた口がふさがらなくなるぜ。ギリシャ人とかローマ人なんてレベルじゃねぇぞ。この迷宮も、下にいくと完全に地獄って感じになる。なんか、地獄を掘り当ててしまって、街を放棄した感じだけどな・・・」
迷宮って、人工物だったんだ・・・なんだか洞窟をイメージしてたよ・・・
さて、気を付けないと、すでに悪魔の領域だよね・・・
お読みいただきありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。
連休はずっと家にいたので、なんだか体力が低下しているように感じています。
次話は、7日の夜の予定です。宜しくお願いします。




