第31節 初めてのお仕事
子供の頃って、筋肉痛になった記憶がないのですが・・・
成りにくいんだそうです。
勿論、知らない人だった。武装していないので、鉱夫さんだろう。
「ちょっと、塩の出荷を手伝ってほしいんだ。今日のうちに出しておかないと明日の馬車隊に載せられないんだよ。悪いけどすぐこれる?」
鉱夫さんの後について、歩きだした。条件を聴いてなかったけど、まぁ大抵ご飯食べさせてくれるぐらいらしいから、いいかな。
坑道が明るい・・・鉱夫さんが魔法使っているみたいだ。
「ライト使ってるんですか?」
「あ、そうだよ・・・俺ら鉱夫はライト使えないと仕事にならないからな。塩を運ぶ時に両手が使えないとだから」
僕らはハインリヒの大広間を通って、右側の坑道に入っていった。坑道の入り口にプレートがあったが、先に鉱夫の人が坑道に入ったので大広間側が暗くなってしまい、読み取ることができなかった。
鉱夫さんは、どんどん先に進んでいく。どんどん下に降りて行っている。数百メートルは下っただろうか、坑道は折り返しでぐるっと曲がって更に下にくだっっていく。同じくらい下ったところで、急に坑道が開けて大きくなった。
そこでは数人の人が働いていた。
「お、応援来たか。助かるぜ」親方のような人がニコリと微笑んでくれた。
武装している人は一人だけだ。働かないで巡回しているようにうろうろしている。この人が働けば僕は不要かもしれないけど、いくつかの岩の割れ目をチェックしながらぐるぐる回っているので、やはり魔物対策なんだろう。
さっきの先導してくれた人が手招きした。そこに行くと、壁一面に円錐形の上部分をスパッと平らにしたような、八角形の白い塊が集積されている。これが塩の固まりらしい。
横には、木の箱に車がついた台車のようなものがあり、ロープが結びつけられている。
「そういえば、お前、街に来たばかりだったよね。ま、はじめてだろうけど、教えてやるから頑張れよ。じゃぁ、この白い塊をトロッコに載せてくれ」
先ほどの人が積み方を見せてくれた。早速僕もやってみたが、かなり重い。立てた状態でトロッコの端から2段に積んでいく。30個でトロッコはイッパイになった。
「じゃ、次はトロッコを押してくれ。トロッコには巻き取り装置がついていて、俺が前で一緒に巻き取りながら上がっていくから。ずっとあの坑道からレールで上にあがるようになっているんだよ。行き止まりになったら、そこに同じ形の空のトロッコがあるので、死柱を積み替える。積み終わったらそのトロッコでまた上がっていく。次はハインリヒの大広間で、今度は台車にのせて、出口まで押してあがるから。さぁ行こう」
僕は言われたとおりにトロッコを押して登っていった。僕が押して、鉱夫さんが巻き取りながらなのだが、押しが弱いと上手く巻き取れないらしく、押すスピードで色々と注意された。そのうちに押すペースを上手く一定にできるようになったらしく、うまいうまい、はじめてにしては上出来だぞと誉められた。
汗でぐっしょりしてきたころ、折り返し箇所についた。これから載せ替えだ。べとべとしていて、しかも塩を抱えるので、なんだか体が気持ち悪い。でも40cmぐらいの塩柱は固く結晶化しているようで、意外とベトつかないようだ。
載せ替えたら、またトロッコ押しだ。鉱夫さんはぐるぐると大きな巻き取り機をカチカチと鳴らしながら巻き取りだした。このカチカチというのは、鉱山の入り口の吊り鉄格子にも使われていたなと思いながら、カチカチ音が一定になるようにトロッコを押していった。
時間が長く感じられた。カチカチ音を最初は数えようと思ったが途中で嫌になった。肩が肘が、手首も、腿も、ふくらはぎもすべてが悲鳴を上げ始めていた。もう限界かも・・・
「よーしついたぞ。頑張ったな。すこし休憩して、塩柱を積み替えるぞ」
10分ぐらい休憩したが、回復はしていない。でも始めようと言われたので、また積み替えを開始した。台車に積み替えると、鉱夫さんが紐を腰に結んで引っ張り始めた。もちろん僕は押す係りだ。しばらく坑道を進むとハインリヒの大広間だった。あれっと僕は声を出した。
「お、気づいたか。さっき入ってきた坑道とは違うだろう?これは搬出用の坑道なんだよ。下の塩柱の集積場から持ってあがるための専用坑道なんだ。ほかの坑道にも同じようなのはあるが、ここが一番楽だろうな」
台車を腰で引っ張りながら前を向いたまま鉱夫さんが進んでいく。
「ハインリヒのお広間が終わるとまた坂が急になるから頑張るぞ」
ベルタさんと朝通った坑道じゃない別の坑道を進んだ。大きく円弧を描きながら進んでいるようだ。比較的勾配は緩やかだ。しばらく進むと分岐箇所があり、そこを左に曲がっていった。鉱山口が見えてきた。篝火と兵士さんが見える。すでに吊り鉄格子は下りているので、よこの鉄格子ドアを開けて、建物に入り、またドアを開けて外にでた。
もう何時なんだろう。涼しくて気持ちいい夜だ。僕らは橋を渡り、街の中心を進んでいった。広場の手前の建物の中に入っていった。倉庫のようだ。中には兵士がいる。
ここは馬車隊へ載せるための出荷用倉庫だそうだ。塩の柱はこの街の主要産物らしく、厳重に重さや品質をチェックされるている。魔物封じの長城からすごく北にいけば、海があるらしいが、冬は氷に閉ざされるし、塩の生産はされていない。また蛮族も多いので、この鉱山から安定供給される塩は貴重品だそうだ。
検品が終わった。鉱夫さんは、ふうっと息を吐いて僕に話かけた。
「まだ、トロッコを下におろしておかなければならないんだが、下の連中ももう上がっただろうし、後片付けは明日だな。坊主、飯にするか?」
やったぁ、つらかったけど、ご飯にありつけるぞ・・・
僕らは、明けの明星亭じゃない食堂に向かった。名前がすごかった。トロールの食卓だって。どんな料理がでるやら心配だよ。
杞憂でした。鶏肉の塩焼きだった。なんかいい匂いのする香草が使われていて、ニンニクも効いてる。美味しかった。昼に食べた料理はすべて坑道で塩水になってしまったような気がする。食べ終わると、鉱夫さんは、ありがとうといってくれた。
「俺は部屋に戻るけど、坊主は野宿か?」
「はい、昨夜から泊ってます」
「そうか、鉱夫は、一定の技能を満たせば、タダで部屋がもらえるんだ。狭いし、2段ベッドでみんなと一緒だけどな。まぁ兵士と同じだ。違うのは街の中の宿舎か、砦の中の宿舎かだけど・・・傭兵は身入りがいいけど宿舎はないからな・・・宿に泊まるんだけど、稼ぎが少ないと野宿だ。坊主は、この街で生きていくなら、どうしたいのか、何になりたいのかよく考えるんだな。また機会があったら頼むな。今日はありがとう」
僕は食事のお礼をいって、鉱山口の2階に戻った。今夜はすでに寝てる人がいた。いびきはかいてないようだ。僕は静かに藁布団を引っ張りだし、また入り口付近に横になった。
次の日、自分の体じゃないようだった。筋肉痛だ。ちょっと動くだけで激痛だ。筋肉痛って、生まれてはじめてかもしれない。昨日寝ていた傭兵さんに、坊主すごいイビキだったぞとからかわれた。ショックだった。
朝ごはん、ないけど、とりあえず仕事探しが優先だと思い、カウンターに行った。
下におりていくだけなので、楽だ。ここに住んで正解かもね・・・
まだ、門の鉄格子は開いてなかった。待っていた傭兵さんに開くのはそろそろですかと聞くと、ハインリヒの大広間まで警備兵が調べてにいってるとかで、戻ったら吊り上げるらしい。なんなら横の鉄格子ドアは開いてるから、入りたいものは入っていいらしいが、夜のうちに魔物でも沸いていたら面倒だから、みんな行かないらしい。確かに、朝いちばんで戦闘というのもつらいよね・・・
吊り鉄格子が開くまで待っていると、アグネスさんがやってきて、声を掛けてくれた。なんか幸せな気持ちになった。昨日お借りした手持ち看板は、カウンターの上に置いておいたというと、どうだったの?って訪ねてくれた。お蔭様で仕事頂きました。ご飯もごちそうになりましたって報告すると、すごく喜んでくれた。仕事の内容を教えてというので、説明して、筋肉痛も訴えておいた。アグネスさんはニコリと微笑んで、頑張ったねと誉めてくれた。
やばいな・・・アグネスさんの目力、眼力というの?
「お、坊主、アグネス様と親しかったのか」
振り返ると、昨日の鉱夫さんだった。
お読みいただきましてありがとうございました。
いかがでしたでしょう?
次話は夜の予定です。宜しくお願いします。




