第75節 アーベントイラー 司祭館の地下室2
今回はグロイ内容があります。
苦手な方はお読みにならないことをお勧めします。
Ⅰ 司祭館 地下 2
「順当に考えれば、棺についていると思ったのだが・・・」ベルンハルト枢機卿様が、また腕組みをした。考えるときの癖のようだ。
「枢機卿様、探すとしても、この棺の原理というか、例の司祭の命を吸う仕組みについて教えていただけますと、より、探しやすいのではないでしょうか・・・」
「うむ。ブルーノ神父様のおっしゃる通りですね」
「しかし、ここは臭いですね・・・一旦外にでて、綺麗な空気を吸いましょう」
「はい。それは助かりますが、この状態で放置しても大丈夫ですか?」
「例の司祭がここに来なければ何もできないかと思いますが、せいぜい、藁をまき散らす・・・おや、そうか・・・転移門を使ったのか?いや、それなら既に妨害に来ているはずだな・・・もしくは、村に協力者がいるのか・・・」
枢機卿様は、黙ってしまった。しばらくして、枢機卿様は、指示を待つブルーノ神父様の視線に気づいて、口を開いた。
「なにかを見落としています・・・なぜ、ベッドがひっくり返っていたのか・・・藁が散乱していたのかですね。ポルターガイストかと思っていたのですが・・・違うのかもしれません。それにこの臭いがどこからきているのかですね・・・謎です。とりあえず、一旦外にでましょう」
僕らは、ブルーノ神父様の照らす松明の火で、足元を確認しながら、階段を上った。
1階で、枢機卿様は、ベッドを見ている。ベッドは、もともとあった場所とは離れたところにある。箱になっているのだが、逆さまになっており、箱ではなく台のようになっていた。ベッドは、箱状で、その中に藁をいれて使う仕組みだ。僕のベッドもそうだし、普通のベッドだった。
「やはり、ポルターガイスト的な力ですね。ベッドを動かすなら、それで説明が付きます」
「騒がしい幽霊ですか。悪魔憑きもよく起こす力ですよね」
「ええ、その通りです・・・兄弟ミヒャエル、お願いがあります。このベッドを浮遊ですこし持ち上げていただけますか?」
「あ、はい。仰せのままに・・・どれ位まで上げますか?」
「そうですね・・・下が覗ければいいですよ」
僕は、浮遊を唱えた。ベッドはすこしずつ空中に上がっていく。
「はい。そこまで。しばらく保持してくださいね。ブルーノ?覗いてみましょう。松明をお願いします」
枢機卿様は、箱ベッドの下を覗き込んだ。
「おや、こちら側は、底板だと思ったのですが、変ですね・・・箱になっていたので、ひっくり返ったと思っていましたが・・・上も下も底板なら、藁は入れられませんよね」
「はい。私が見たときは、蓋もないし、藁も入っていない箱ベッドでした」
ブルーノ神父様も不思議がっている。
「上も下も板で蓋がされていて、しかし、前回は蓋が無かった。天板に仕掛けがあるのですね。地下室への入り口を隠すためだけではなく、何らかの用途があったのかもしれません」
ブルーノ神父様は、部屋のノックをするような手つきで、ベッドの天板をとんとんとんと叩いた。
「空洞ですね・・・どうなっているんだ?」
「うーん、よく見ると、天板には繋目がありますね。もしかすると、本当に蓋なのかもしれませんよ・・・」
ブルーノ神父様は、また、そこのほうを覗いた。
「ベルンハルト様、底にも五芒星が描かれています」
「え?」枢機卿様は、底を覗きこんだ。
「本当だ・・・この箱ベッドは、前回は、ここまでは持ち上げなかったとか?」
「はい。扉が見つかったので、舞い上がってしまいました。申し訳ありません」
枢機卿様は、ふっと微笑んだ。
「神父様、謝ることはありませんよ。私だって気づきません・・・想像を絶した装置なんですから・・・恐らくですが、底板の五芒星と、地下室の入り口の五芒星は、リンクされていたのでしょう。そうなると・・・まぁ、一旦外にでて、休憩しましょう」
僕らは、司祭館から穴の下にある、広場に行き、先ほどカミルのご両親が座っていたベンチに座った。ベンチから司祭館の入り口が見える。ブルーノ神父様は、松明を消した。
急に枢機卿様が立ちあがり、ベンチの下を覗き込んだ。
「なんと、ここにも五芒星があります」
「ええええ?」ブルーノ神父様も覗いた。「本当だ・・・」
「この村を徹底的に調べないとだめですね」枢機卿様が微笑みながら言った。
「ベルンハルト様、私にわかるようにご説明願えませんか。頭がおかしくなりそうです」
「そうですね・・・話を聴きながら、なにか気づいたら教えてください。私も手探りなので。
まず、五芒星ですが、これは逆さ五芒星でしょうね。しかも丸で囲まれているでしょう?
そして、先程、カミルのご両親が座っていた。彼らは、実際よりかなり老けて、身体が弱っていた。なぜなのか?」
「生気を吸われているからですね・・・ということは、五芒星は・・・」
「そうです。中継装置のような門なんですね。奪った生気を流すための門なのでしょう」
ブルーノ神父様の顔が恐怖というか、悍ましいものを見たかのように引きつっている。
「カミルの両親は、あのベンチに、日光があたるので、よく座っていたのでしょう。それは当然、習慣であり、毎日少しづつだが、命を吸われていたという風に考えれらますね」
「そうですね・・・残念ながら。
五芒星を中継して、あの血のルビーに集める。それをまた西の森だかどうかわかりませんが、中継して、アンデッドたちが受け取っていたのでしょうね。
地下室の入り口に焦点を合わせて、ベッドの底板に、そしてベンチに・・・そうか、ベッドを動かしましたよね・・・それで、ますます、この付近の邪気が高くなったのかもしれませんね。
あのベッドを使って、村のあちこちにある五芒星から中継していたのだとすると、位置がずれたために、五芒星がうまく機能しなくなり、吸い取る力が、一番近くにある、このベンチに集中したということでしょう。まぁ、ルビーは破壊しましたから、今は座っていても大丈夫ですよ」
しかし、誰も座ろうとはしなかった。
「あははは、確かにそういわれても座れないですよね。いいでしょう、あっちにあるベンチにしましょう」
ブルーノ神父様が、先立ってベンチを調べに向かった。こちらに向かって、両手をあげ丸印をしてみせた。
「ありがとう、ブルーノ」そう言って枢機卿様がベンチに座った。そして、僕らも横に座った。
「さて、これからの課題を考えないといけませんね。
まずは、血のルビーの先ですね・・・それを突き止めておきたいです。
そして、あのベッドの謎と中身の解明と、村中にあるかもしれない、丸に囲まれた逆さ五芒星の探索。最後は、例の司祭の抜け殻の処分ですね」
「気が遠くなりそうです」
「神父様?でも、今回のことで、確実に彼らの活動を弱らせることができました。これからの彼らに出来ることは、周辺の動物や魔物を狩って、命を吸うことです。だから、ここはかなり危険です。熟知しているでしょうから」
「ということは、例の司祭を滅ぼさない限り、ここは銀鉱山としては、危険ですね」
「確かに。まぁ、皇帝陛下の許可がでないと始まりませんからね。ここが公爵様の領地になるころまでには、なんとかできるでしょう」
「はい、できればそうしたいですね」
ベルンハルト枢機卿様は、にこりとした。
「さて、戻って探索を続けましょう。気が重いですが・・・」
足取り重く、司祭館に戻った。
まず、空中に浮かんだままのベッドの検分から始めた。真ん中に繋目があったので、天板は、扉ではないかということになった。そして、開けの魔法を用いて、開けた。
「開け!」
ベッドの天板は、両開きで、上に向けた左右に開いたが、また閉じてしまった。驚いたことに、天板ではなく、もとの箱のベッドになっていた。
「これはすごい構造ですね・・・暗黒魔法系でなければ、採用したいところですが・・・
開け!」
今度は開いて、そのままになった。松明がないので、中がよくわからない。しかし、見えないほうが良かったのかもしれない。
「ベルンハルト様、松明をお持ちします」
「いや、もう明かりが使えると思います。邪気がかなり薄まっていますから・・・ただ、見えないほうが良かったと思うかもしれませんよ。ライト!」
【ここから、グロイ表現がでます。苦手な方は飛ばしてください】
そこには、藁があった。しかし、藁は、汚れ、萎れていた。そして、藁の間には、たくさんの死体があった。左右の死体が古く、真ん中にいくと新しくなっている。みな、萎れてミイラになっている。
「やはりそうでしたか・・・村長を呼んで、ご遺体の身元を確かめないといけませんね。行方不明者とか、死んだとされている人とか・・・衣類からある程度分かればいいのですが」
「枢機卿様、これはどういうことですか?」
「例の司祭は、弱った人間をここに閉じ込めて、生気を吸い尽くしていたのでしょう・・・ほんとに悍ましいですね・・・地獄行きというより、もはや、完全に悪魔の手先になっているのでしょう」
「かつて、司祭だったものとは・・・思えませんな・・・」
ブルーノ神父様は、かなりショックだったようだ。それに引き換え、枢機卿様は涼しい顔をしているかのようで、淡々としている。
「ブルーノ、私の部署にくれば、もっと酷いものを見ることができますよ」
「いやいや、ご勘弁を。私には無理です。どーんと当たって殴るほうが性にあっています」
確かに、従軍司祭は、そうだ。兵士達を鼓舞し、神はわれらと共にありと叫び、倒れたら殉教即天国だなんていいながら、戦っていくのだから。
「さて、これは閉じておきますか・・・おや、自然に閉じていきますね。なるほど、よくできています。兵士を呼んで、外に出しておきましょう。あと、兄弟ミヒャエル?下に下げておいてくださいね」
「はい」僕は兵士さんにも気の毒と思い、自分で箱を押して外にだして、下げておいた。なんだか、心が麻痺していく感じがした。さっき、最初に散らばっていた藁は、この中身だったのか・・・
この強烈に邪悪な意思にかなり参っていた。人を利用し、命をむさぼり、自分が生きながらえる。この箱の中で亡くなった人達に同情した。僕にもできるなら、例のアンデッドは倒さないといけないと思った。
そう思っていると、枢機卿様が司祭館から出てきて、後ろから僕の肩を抱いてくれた。
「ミヒャエル? 怒りに呑まれてはいけませんよ。怒りは神からの恵ですが、すぐ外に出さないといけません。怒りは、とどめておくと、道を誤りますからね。怒りに任せて行動するというのは、悪魔と同じになってしまうからです。
さあ、また、地下室を調べましょう」
僕は、枢機卿様に誘われて、地下室に降りていった。すでに、ブルーノ神父様がいて、明かりが唱えれらていた。松明の明かりとは違って細部まで鮮明に見える。
「さて、皆さん、どこから調べましょう?」枢機卿様がおどけて言った。
ブルーノ神父様は、視線を巡らせている。
「本に何がかかれているのか、気になりませんか?」
「そうですね・・・しかし、読むだけで発動する暗黒魔術か、暗黒呪術かもしれないので、今は読まないほうがいいかもしれません。さっき、ちらっとみたら、日記風でしたが、どうも怪しいです」
「うは・・・そんなものまであるんですか」
「悪魔の小賢しさというか、奸計ですよ。さっき、考えるだけで発動するって言ってたでしょう・・・読むことは頭の中で考えることに通じます。だから、呪い師や、魔術師は、かかりやすいんです」
ブルーノ神父様は、他を当たりだした。視線が空中を泳ぎ、ある個所で止まった。
「あ、この台は、箱かもしれませんね」棺の下の台のことだった。
「先程の五芒星による中継と同じ仕組みということか・・・ブルーノ、鋭いです」
枢機卿様は、ニコニコしている。
「お褒めに預かり、光栄ですが、まだ、そうとは判明しておりませんが」
枢機卿様は、首を横に数回振った。
「直感は、神からの恵みです。考えても分からないことが、ある時急にひらめく。この飛躍こそが、神がもたらしてくださるものです」
枢機卿様は、台を検分し始めた。押してみたり引いてみたりしているが、動く気配がない。
「おかしいな。例の抜け殻は重くない筈だが、びくともしない。兄弟ミヒャエル、箱と棺両方に浮遊はかけられますか?」
「多分できると思います」僕は早速チャレンジした。浮かない。
枢機卿様は眉間に皺を寄せて台を覗き込んでいる。
「うーん。浮いてはいるみたいですよ。ありがとう。なにかが下から引っ張っているような感じです。台の横壁を壊してみますか?ブルーノ、兵士に手斧をもってこさせて、すこし台を壊してもらってください。それと松明を、あと、口をカバーする布を用意してください」
「全員の分ですな?畏まりました」
ブルーノ神父様が、走って外に出ていった。
しばらくして、松明の弾ける音とともに、神父様と兵士さんが二人入ってきた。皆、口を鼻をふさぐ布を顔に巻き付けている。
「ありがとう。この布は?」
「毒霧対策で、作らせたものです。全滅するのは堪りませんから」
「なるほど、では、お借りしましょう。皆さんもしっかり隙間のないように着けてください。ミヒャエル?鼻を出してはいけません」
ぼくはすぐに訂正した。
「皆さんも聴いてください。杞憂だといいのですが、これから開けていただく、この台の中には、恐ろしい植物が隠れていると思います。それは、襲ってくることはないのですが、粉を噴射するかもしれません。それを吸うと命にかかわります。粉が出た場合は、すぐに松明で粉を焼いてください。わかりましたか?」
「はい」二人の兵士さんはすこしビビっている。
「あ、粉を出すだけなので、噛みつかないです」
兵士さんは、すこし安堵したように見えた。
「では、よろしいですか?開けさせます。どのあたりを開けますか?」
「そうですね・・・血のルビーから、遠いところがいいでしょうね・・・こっちの面の床付近をお願いします」
「わかりました。よし、やれ!」
「は」
ブルーノ神父様は、急に威厳のある態度になって命令した。そうだ。この人は公爵軍の軍人なんだよね。枢機卿様の前では、神学生のようだけど。
兵士さんの一人は松明を掲げながら、もう一人が斧を振るった。鋭い斧のようで、どんどん板に穴が開いていった。
「粉が出てきました。松明で焼いてください」
「おう」
台は50センチぐらいの高さだ。棺の短辺方向の下の台の部分を削っている。すぐに30センチ四方ぐらいの穴になった。
「松明を差し込んで・・・そう、多少焦げても構いません」
兵士さんがそうしたが、松明が消えそうになっていた。何回か出したり入れたりを繰り返した。
「清浄!」枢機卿様が言った。あたりの空気が綺麗になったようだ。
枢機卿様が穴から覗き込んだ。
「やはり、想像していた通りでしたね・・・」
「え? どういうことなのですか?」
「説明しましょう。兵士たちは、一度下がったほうがいいです。危険ですから。それと松明だけは置いていってください。ミヒャエル、松明を受け取って。あと、兵士たちは、外にでて、日光を浴びてください。よく、身体の粉を叩き落として。日光を浴びると、粉は死にます。暫くは、マスクを取らないように。あとで、清浄を掛けますから、それまでは苦しくても我慢してください。死にますよ」
最後の言葉に、迫真の演技を加えたものだから、兵士さん達は、かなりビビっていた。今日が当番だったことを呪うように足取り重く地上に向かっていった。
「枢機卿様!」ブルーノ神父様が、説明を求めるような感じで言った。
「はいはい。説明しますよ。
あれは、死人草です。しかも見たことがないような大きなものでした。恐らく地獄から持ち込まれたものではないかと思います。実は、地上にも同じ種類のものは存在します。
死人草の生えたところを掘ると、かなりの確率で、人間の死体が、まあ、動物の死骸がでるものなんですよ。
見たところ、床に穴があって、地下に死人草が伸びていました。これは、例の司祭の抜け殻と、血のルビーとを結びつけているのでしょう。先程から、見つからなかった、送り先は、床の下にあるんですね。恐らく、この下には洞窟か坑道があると思います。
そこに五芒星を設置し、西の森に送っているのでしょう。凄いシステムです」
枢機卿様の顔色が悪くなってきた。ブルーノ神父様が心配している。
「ベルンハルト様?大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ。あまりの悪に胸が悪くなっただけです。
この世への、そして現世の生への執着に気分が悪くなります。もう、天国の存在を信じるものの行為ではないですよね。しかも、これが、司祭だったものの行いとは・・・」
「このあたりの心の動きとか、解明しないと、第2第3の同じようなことが・・・」
「その通りです。私達、エクソシストの部隊は、日夜、研究を続けています。悪魔たちは、成功例だとわかると何回もやろうと試みますからね。聖職者たちで、情報を共有して、奴らの悪だくみを完膚なきまでに、毎回つぶさないといけないのです」
随分大変な仕事だと、僕は思った。
「さて、あとで、死人草は、切断して、焼かないといけませんね。表面だけで大丈夫ですが、例の粉が危険ですからね。これは、教皇庁から専門家を呼ばないといけないかもしれません。とはいえ、私の転移門では、距離に限界があるので、兄弟に協力していただかないといけませんね」
枢機卿様は、そういうと、悪戯っ子のような笑顔を僕に向けてきた。
もしかして、専門家って・・・アポロニアさんの元カレ?いや語弊があるか・・・幼馴染かな?
いかがでしたか?
昔から、人間は悪魔と戦ってきましたが、
未だに、退けることができないでいます。
人の生き血を啜るような政治家や経営者、政商など、
無くなることがありません。
また猟奇殺人や大量殺人など、なくならないですよね。
悪魔との戦いはこの世の終わりまで続くのです。
この話もまだまだ続きます。続きが気になる方は、
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