第75節 アーベントイラー 地下洞窟の探索
南ドイツ地方は、もともと銀の産出で知られています。
オーストリアも塩が採れますし。
銀では、チロル地方が有名ですね。
アレマン人は、南ドイツ、チロル地方、スイスに住んでいました。
Ⅰ アレマン人集落のその後
例のダークプリーストの部屋は、封印された。
はっきり言って、何が出てくるかわからない。それどころか、強力な呪詛魔法がトラップとして、仕掛けられている可能性が高いので、うかつには開けられないと、ブルーノ神父様が言ってた。
普通、神父様の部屋で、信仰に関するオブジェのようなものが無いということは、ありえないらしい。入った時に感じた違和感は、まずはこれだ。
まず、十字架の磔刑像を持っていない司祭。ありえないそうだ。
「信仰の神秘だな。当時ローマ帝国で一番恐ろしい死刑の道具だった十字架刑が、復活のシンボルになるんだ。真逆だよな。このご像のない司祭の部屋などありえない。
『主の死を想い、復活を讃えよう、主が来られるまで』という御ミサでの聖句があるように、十字架での死というのは、そのご復活とともに、重要な教義なのだから。
それとだ・・・聖母像を持たない司祭は、信頼できない。
殿下、お分かりか? 悪魔が一番恐れるのは、実はマリア様なんじゃ」
「・・・はい。承知しております」
「うむ。よろしい。それでこそ、ザクセンの王たるべき、お方じゃ」
なんだか分からないけど、その通りだと思う。いや、王子だという意味でなくてね。
そして、教皇庁に使者が送られ、ベルンハルト枢機卿様が、やってくることになったらしい。なんとなく、楽しみだけど、怖いのは確かだ。
塩砦から臨時で、衛兵が送られて、もちろん、僕の門を使ってだけど、今は24時間監視体制が実施されている。そして、ザクセン傭兵団、つまり空飛ぶ傭兵団も、常駐となった。まぁ、泊まらないよ・・・通いなんだ。
今日は、城塞都市から、銀鉱山の専門家がきて、見て回るらしい。その護衛を依頼された。
傭兵団は人が増えていて、2名増えたんだ。僕とクリスタは、荷物のために、砦と往復だ。結構疲れる。今朝の集合場所は、大穴下の広場だ。城塞都市の鉱山の専門家というのは、初めて会う人だ。お城の前で待ち合わせして、転移門で大穴の底まで連れていった。そこにはすでに族長と傭兵団が待っていて、鉱山のほうへ誘うという感じだ。
銀の専門家は、カールマンさんという名前だ。苗字はない。ていうか、ザクセン人だとか、ゲルマン人全般、苗字というのは、ないんだ。僕は王家に属するらしいので、フォン・リウドルフィングというのがつくけどね。
カールマンという名前は、あのカール大帝の弟だった人の名前だ。カールとつけなかったのは、親が気後れしたそうだ。うちの団長は、堂々とカールとなっていますけど。
カールマンさんは、結構年を取っている感じだが、本当の年は分からない。多分40は超えていると思うのだけど。学者さんという感じの品のよいローブを着ている。
「では、族長である私が、ここの鉱山には詳しいと思いますので、ご案内します」
「よろしくお願いします。まず、今採掘している個所を見せていただけますか」
「はい、畏まりました」
「あと、ここでは、魔物やデーモンは出るのですか?」
「いや、出たことがないです。ですので、傭兵団の護衛は必要ないと申したのですが、
オットー様がどうしてもということで」
「・・・オットー様も、まぁ、万が一に備えてということですので・・・坑道が狭いのは慣れていますから」
カールさんが言い訳をしていた。(ほんとは報酬目当てのカールさんなんだけどね)
「いや、別に悪くはないので・・・では、参りましょう」
カールさんが、明かりの魔法を唱えた。族長さんがびっくりしていた。
「あ、消えたら何回でも唱えられますので、ご心配なく」
「塩鉱山では、その魔法を使っているのですか?」
「ええ、子供のころから使っているので、明かりだけは、皆、玄人です」
「へ~便利なのね。クレメンスは使えるの?」
「もちろんさ」
「カッコいい」
「え? コンラートは?」ニコーレさんが聴く。
「勿論、使える」
「素敵!」
盾の二人は、口には出さないが、鼻の下が長くなっている。
なんだか調子が狂う二人だ・・・今回新しく加わったここだけの臨時のメンバーとは、シュテファニーさんとニコーレさんだ。もう、坑道の温度が上がっているような気がする。
まぁ、土地勘あるし、弓の腕は確かだから、パーティ全体の攻撃力が高くなっていいけどね。でも、狭い坑道とか洞窟で弓を使う戦闘をしたことがないので、すこし不安だ。
僕らは、族長さんの案内で、スタートした。
家の並んでいる広場から、四方に道が伸びているが、そのうちの一つを歩いていった。家と家の間を抜けていく。大穴の底から横穴が伸びていた。族長が解説しながら進んでいく。
「この穴は、私たちがここに住むようになった時には、殆ど掘られていませんでした。採掘していた人々は、途中で道具などを全て置いて逃げたようです」
カールマンさんが、無言で色々と調査している。
「族長、この坑道の補強というか支保工は、あなた方が?」
「あ、もともとあったものを真似して、新しく採掘したところは、自分たちでやっています。最初の頃は失敗して崩れたりしたようですが・・・」
カールマンさんは、足でけったりして、壊そうとしているように見えた。
「うん。大丈夫なようですね」
あ、強度を確かめていたのね。
「銀鉱石が出る量はどうですか」
「そうですね、鉱脈に沿って掘っています。結構とれるように思いますが、他を知らないので、なんとも」
「なるほど。ここは元々は、露天掘りだったようですね。あの天井の穴から掘り進めて、こんな壺のような場所になったという感じですか」
「そのようです。私たちが住みだした頃から、この状態でした。最初は穴の底に野宿ですよ。家畜もつれてきていたので、下すのが大変だったのですが、横穴が山の下に開いていたので、そこから、入れました」
「そうですか・・・」
カールマンさんは、族長の話を聴きながらも、壁のノミの跡を触ったりしていた。
「あ、そうそう、銀鉱石からどのようにして銀を取っていますか」
「えっと、あの広場の反対側に、取り出すための設備がありました。それに、取り出し方を書いた羊皮紙が、小さな小屋に掲示されていたので、それ通りにやっています」
「どんな方法なんです?」
「もともと置いていた坩堝に銀鉱石を入れて、火をつけます。これを繰り返すと、小さな銀の粒ができます」
「ほうほう、多孔質な坩堝ですな」
「ああ、そうです」
「水銀は使わないんですね」
「は? ああ、それは知りません」
「まぁ、今のやり方が一番安全ですよ」
坑道が終わったところには、誰も居なかった。工具などがそのままにしてある。
「おや、今日は採掘していないのですか?」カールマンさんは、採掘方法を見たかったようだ。族長は困った顔をして、答えた。
「すみません。今日は作業しておりません。というか、私たちも銀を自分たちのためにしか使う道が無かったものですから、本当に、少量しか取らないんです」
「なるほど。それは分かります。まぁでもこれからは、計画的にとっていただくことになると思いますよ」
「はい。では、別の坑道を、というか洞窟ですが、ご案内します」
引き返すことになったが、狭いので、後ろの人から戻っていくことになった。
「しかし、この魔法は便利ですね。松明などが要らないっていうのが、最高です」
「そうですね。城塞都市のすぐ北側にある銀鉱山も、同じように使っています」
すぐに元居た広場戻った。今度は、反対側の精錬小屋を見学らしい。小屋といっても、壁はない。屋根があるだけで、屋根というより、落石除けのようだった。
「もともと、置いてあった解説が、これです」
族長さんが、箱の中に厳重にしまわれていた、羊皮紙を出して見せてくれる。
「貴重なものをありがとうございます。
ふむふむ。なるほど、バイエルン公の指示で動いていた鉱山師のようですね。悪魔軍がくるとわかって逃げたかな?・・・試掘の状態だが、結構な埋蔵量があるようだと書いてありますよ・・・吉報かもしれぬ」
カールさんが、カールマンさんに心配げな顔で話しかけた。
「この鉱山が明るみに出たら、バイエルン公から、クレームとかありませんか」
「まぁ、可能性はゼロではありませんが、ザクセン公と仲がいいですからね。それに、バイエルン公もリスクを冒さないと思いますよ。今のところ、あちらの銀鉱山も潤沢な埋蔵量で、枯渇する感じはないようですから」
「そうですか、安心しました」
「しかし、皆さん、この鉱山のことは、口外せぬように、お願いしますぞ」
今度は、カールマンさんは、坩堝を見ている。
「族長、取れた銀はどのように管理しているのですか?」
「今までは、平等に分割して、配っていました。お金の代わりにはしていません。皆使い道がありませんからね。殺菌用に使うか、矢じりとかに使うとかぐらいですね」
「これからは、価値を持つものですから、厳重な管理が必要ですよ」
「はい。わかりました」
Ⅱ 洞窟
それから、そのまま、進んでいくと、木の扉でふさがれたところに出た。
「ここからは、坑道ではなく、天然の洞窟になります。まぁ、魔物が出るわけでもないのですが、一応、気味が悪いので、ここに住み着くようになってから、ふさいだそうです。鍵は掛かっておらず、単なるかんぬきだけです」
そう言って、族長は閂を外した。扉を外した。
「この扉は、内側からも、閂が取れるように、穴が開いているんです」
ドアを見ると、確かに閂のところの板に穴が開いている。
「それだと、ドアの意味がないですよね?」
「はい、最初、この洞窟を調べたときに、かなり長いし、深いところもあったものですから、子供が入らないようにと、あと、やはり、気味が悪いですからね。実際、遺跡も出たし」
「遺跡ですか?」カールマンさんが驚いた顔をした。
「はい。入口が巧妙に隠されていたのですよ。村の若者が、単なる好奇心から見つけただけなのです。しかし、何かに触れてしまったようで、段々水があふれてきて、入れなくなりました。今は、また扉をしております」
「ほう・・・後で見せていただいてもよろしいですか?」
「構いませんが、水の中で呼吸できないと、無理かもしれませんよ」
「あはははは。それじゃ無理かも」
洞窟は、少しずつ下っている。天然の洞窟なのだろうが、妙に真っすぐだったりする。
カールマンさんは、時々、壁を見たりしていた。そのうち、洞窟は、あがったり、下がったりしだした。そして左右にもくねくねと振れだした。しばらくいくと、大きく地面や、壁、天井が裂けているところに出た。裂け目はそんなに大きくない。石の窪みのところに、人が左右に足を突っ張っていると空中にとどまることができるぐらいの間だ。
「これ、大裂け目と呼んでいます。不思議なところでして、常に風が通っているんです。落ちたら、どこまで落ちるかわからないので、ここから先は通行禁止にしています」
しかし、裂け目には、狭い板が渡してあった。板の端部には、楔が打たれており、固定されている。
「でも、誰か橋を通るようですよ」
カールマンさんが指摘をした。族長は、恥ずかしそうに答えた。
「いや、成人式の時に、ここを通るという儀式をしています。初聖体とか堅信といった儀式がなくなってしまったので、成人になったという意味で、この橋を渡る・・・恥ずかしながら、飛び越せるような幅なのですが・・・一応命綱をつけて渡って、はい大人の仲間入りみたいにしています。それでも、怖がりの子は、大変ですけどね」
「この裂け目って、どのくらい深いかわかりますが?」カールマンさんは、この場所に興味があるようだ。
「いや、下りたことがないんですよ。石を落としても、底に当たる音が聞こえないし、相当深いと思います」
「なるほど。まぁ無理して調べる必要もないですしな。しかし、解せないですな。この空気の動き。気温が高いわけではないのに、上昇する一方だし。族長、いつも下から上の気流なのですか?」
「申し訳ありません。そこまで考えたことが無かったです」
「わかりました。おいおい調べるとしますか・・・じゃ、渡りましょう」
一人ずつ、板の橋を渡った。大きな体の人だったら、一跨ぎでいけるかもしれない。
渡ったといっても、何も変わることはなかった。ずっと単調な洞窟が続いているだけだ。そのうち二股になったり、十字路のようになったりした。
「族長、今こちら側に行かなかったが、行き止まりなのですか?」
「いや、そちら側は、まだ探索できていません。少し行くと、同じように裂け目があって、こちらは、すごく広い裂け目です。向こう側に光が届かないので、果たしてどうなっているのか、わかりません」
「そうなんですか・・・壁を上に上がったことは?」
「何しろ鉄が不足しているので、壁に打つものが無いんです」
「ふむふむ。魔法の明かりなら、対岸が見えるかもしれませんね」
「なるほど。気持ちが悪いので、いつかは探索しておきたいものです」
「族長、知らないほうがいいかもしれませんぞ。因みに、塩鉱山では、地下にいくと、鍾乳洞はあるし、更にその下に、太古の遺跡がありますし、その更なる下には、地獄があるのですからね・・・この洞窟も東に向かっているようなので、このまま探索を続けていたら、ウンタースベルク山の下につながって、あの世だったなんてこともあるかもしれませんよ」
「カールマン様、お戯れはおやめください。心臓によくないです」
族長さん、いじられていて、可哀想かもね。
「一応、洞窟の壁に文字を刻ませていますので、道を間違うことはありません。松明が切れたら大変ですが、皆さまには魔法がありますからね・・・探索の時はご協力ください」
「公爵様も、この地が自分の領土になったら、きっと調べたいと思われるでしょうから、探索費用をお出しくださるかもしれませんよ」
「そうだといいです」
「なんとなく、水のにおいがしますね。地下水かもしれまえんね。しかし、この洞窟は、広くなったり狭くなったりしないですね・・・最初は、溶岩が通ってできたものだと思ったのですが、違いますし、水が長い間をかけて削ったわけでもない。ところどころにノミ跡があったりするが、溶けていたりする。魔法だとか、この世の力ではないもので、造られたものかもしれませんね」
「そうなんですか・・・」
「ええ、塩砦の下に眠る遺跡は、どうやら、北のほうに行った城の地下にもつながっているようなのですよ。もしかしたら、ここの地下遺跡も、塩砦の地下を作った古代の民と同じ民によるものかもしれません。古代の民は鉱物を採って暮らしていたようですから、鉱山のある所には、古代の民の痕跡が見られることが多いのです。とりあえず、今日は、その遺跡を見たことがある、傭兵団に来てもらっていますので、同じ民がつくったものかどうか、確認ができればと思います」
「それで、カールさん達が来ていたわけですか・・・」
族長は、最初は人数が多すぎると文句をいい、邪魔者扱いをしようという勢いだったのだが・・・
洞窟は、急に広がった。というより、巨大な洞窟にぶちあたり、壁を抜け、その底を通るような感じだ。大きな洞窟で天井が見えない。
「これは竜の巣穴ですね」
「え?」族長が震えだした。その反応を見て、カールマンさんは、しまったといった顔をした。
「ふふふ、竜がいるわけではないので、安心してください。まるで、竜が住んでいるような大きさでしょ?鉱山で働くものの隠語です」
「いや~、心臓に悪いです。驚きました・・・確かに、竜の巣穴の壁をぶち抜いたような感じですね」
「これの左右は探索しましたか?」
「いいえ、全くしてません。広大すぎて・・・とりあえず、真っすぐいったら、また洞窟が開いていたので、そちらを先に探索したんです」
確かに、圧倒的な大きさだ。本当に竜が飛んできてもおかしくないような、広さだった。落ち着かないよね。そのまま真っすぐ進むと、反対側の壁があり、底に洞窟が開いていた。
洞窟に入り、少し進むと、大きさが変わったり、壁に凸凹が目立つようになってきた。そして、唐突に行き止まりになった。族長は急に止まり、右側の壁のへこみを指さした。
「ここです。ここに入口があるのですが、巧妙に隠されていました。ほら、中に入ると、外からは見えなくなりますが、実は控え壁のようになっていて、その向こう側に口が開いているのです。たまたま休憩で松明を落としたことで、気づいたのですが、そうでなければ、陰になる分、わからなかったでしょうね。現在は、板で蓋をしています」
「今、板を外しますので、お待ちください」族長さんは、壁の凹みの一つに入ると、振り返るように右を向いた。そして、板を数枚外した。
「わかりますか、一旦戻るように右に曲がり、またすぐに左に回るようにすると、中に入れます。中に入ると狭い踊り場のようなところがあり、水がすぐ下まであるかもしれません。
お気をつけください」
防御の関係で、クレメンスさん達が最初に入ったが、かなり狭くて、苦しそうだ。
クレメンスさんはすぐに、言った。
「水はありません。なんか宮殿の入り口のようなものがあります」
宮殿?みんな色めきだった。族長や双子アーチャーは見たことがあるのだろう。あまり驚いていない。それよりも、あれだけ水があったのにとか言っている。
族長は、すぐに入って、驚いていた。
「あれだけあったのに・・・全くないとは・・・どこに行ったのだろう・・・」
そして、僕らに、主張した。
「本当にあったんですよ。すぐそこまで水があふれてきて・・・なぁ、シュテファニーとニコーレ。君らも見ただろう?」
「ええ、本当です」
二人が同時に同じセリフを、同じ声でいったので、なんとなく、くらくらした。
「いや、だれも疑っていませんよ。それよりも、この遺跡ですね」
正面には、どこかでみたような、建物が、岩にはめ込まれたように立っていた。素材は、白く、少しの光で全体が明るくなるようなものだった。そう、これは、塩砦の地下にある地下迷宮と呼ばれているものと同じだ。恐らく、同じ古代の民が造ったものなのだろう。
もっと、こってり濃密な双子の愛を描きたかったのですが、
難しいですね。僕は恋愛は苦手です。
BLなら、描けると思いますよ・・・
でも異端なので、描けません。
思い切り異端系かいたら、ブクマしてくれますか?