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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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第75節 アーベントイラー 銀鉱山を探して

予告詐欺になりました・・・ごめんなさい。


Ⅰ 実験


「え?本当にいいの? スリングショットって、顔とか頭に当たったら死ぬよ?」

「いや、だから、盾で防御しますので・・・変なとこ狙わないでくださいね」

「だったら、クレメンスかコンラートの盾、借りなよ・・・」

「はーい」


 僕は、朝、お願いしていた、術の実験を行おうとしていた。クラウディアさんには、スリングショットで、盾に当ててもらう。盾は、万が一のことを考慮し、双子の盾を借りた。この盾なら、鉄板が貼ってあるから、大丈夫だろう。アレクシスさんの木製のラウンドシールドだと、心許ないもんね。


「なついな・・・スリングショット。チビッ子の頃は、これで遊んでたからね。スケルトンとか、バラバラになっちゃうんだよ」クラウディアさんが遠い目をしてぶつぶつ言っている。この人の子供時代は、どんなだったのだろう。スケルトンばらばらって・・・


 僕は、今にも投げだしそうなクラウディアさんを止めて、プリニウスの博物誌に載っていた呪文を唱えた。

「フリューグシュッツ」

 そして、今か今かと、スリングに小石を挟んでぐるんぐるん回している、クラウディアさんに、ゴーサインを出して、顔を盾の内側にひっこめた。この後、ひょっこり顔をだしたら、命の危険だ。


凄い勢いでスリングから石が放たれた。

 空気を切り裂き、石が飛んできた。でも、少し手前で不自然に減速し、石は落ちたようだ。

「凄いよ・・・使徒様。どうやったの? それとも私の腕が鈍ったのかな?」

 クラウディアさんは、自分の腕を確かめるために、練習場の矢の的に向けて、石を放った。ドーンという凄い大きな音がして、的が壊れてしまった。怖っ!


「よし、もう一回行くわよ」

 クラウディアさんが、また僕のほうを見て、スリングをもう一度試した。前回と同じく、僕の数メートル手前で石は勢いを失って落下した。

「すげぇぞ、使徒様、すげぇじゃんかよう。俺にも試させろや!」

 参った。アレクシスさんに火が着いたようだ。


「いいですけど、盾を狙ってくださいね」

「よおーし。ビビるなよ」


 アレクシスさんはジャベリンを連続で投げた。渾身の一投を3発という感じだったが、数メートル手前でジャベリンはあえなく落下した。

 アレクシスさんは、普段からジャベリンを3本持っていて、矢継ぎ早にすぽぽんと投げる。まぁ、職人技だよ。投げると、すぐ僕の背中に回り、ジャベリンを補充するんだ。


「すげぇ・・・使徒様、おめぇすげぇカッコいいぜ! マジ最高だぜ!」

 なんだか、嬉しい。アレクシスさんという人は裏表がない。そのまんまだ。少年のような人なんだ。なんか掛け値なしの直球で来る人なんだよ。


「すごいな・・・アポロニア、これは、異端扱いってことはないよな」カールさんが念を押すように確認してきた。修道女様が、ヤーとかオウケイとか言ってくれると安心だ。


「うーん。難しいところね。悪魔軍がいなければ、異端よ。人間の汚いところだけど、そんなもんよね。

まぁ、身分的に、使徒様なら大丈夫じゃないかな? どうよ、軍人さん。カールから見て、これ異端ですって、避ける?」

「そんなバカな。これは、恩寵だよな? 神様が、ご自分の兵士たちに下さる、甘美な恩寵じゃないのか?マリア様なら、ご自身にすがる、哀れな子供達をあの青いマントで匿まってくれるはずだ。この術は、マリア様のマントって名付けるべきだよ」

 アポロニアさんが微笑んでいる。想像通りの回答だからだ。自分たちの生存率が上がるものを退ける軍人はいないだろう。効果が切れた時が怖いけど。


「・・・マリア マンテルね・・・ベーネ、ベーネ(ラテン語でGoodという意味)」アポロニアさんが感心していた。

「そうそう・・・本当にそう思うんだ。使徒様って、神様が俺らに与えてくださったんだってね・・・結局さ、俺たちの果実が正しいかどうかって思うんだよ。

 戦いに勝ってもさ、最終的に、俺たちが地獄にいくのなら負けだ」

「カール、そうね・・・言いたいことは分かるわ。私たちは、使徒様を与えられたから、タラントを沢山預かった、しもべ(マタイによる福音から)なのかもね。知っているでしょう?聖書のたとえ話」

「それだよ。俺が心配なのは。普通のキリストの戦士よりも、多くの成果を出さないといけないのかな・・・でもさ、その出し方がわからないんだ」


実験は続けられていた。とうとう、クラウディアさんが直接ストレートに僕を弓で射るというところまで、エスカレートしていた。

 もちろん、全ての攻撃は、無意味だった。

「この魔法って、マリアマンテルじゃなくて、アーチャー絶望魔法って名付けましょう・・・ガックシだわ」クラウディアさんが半ば冗談交じりで言っているけど、目が怖いよ。

「いや、こうすれば刺さるんだよ」そういって、アレクシスさんがジャベリンを持ったまま歩いて盾の前まできて、カンっと音を立てて当てた。

「あはははは、アレクシス、それって飛び道具じゃないじゃん」

 クラウディアさんの笑いに、アレクシスさんは肩を竦めた。


「あとは、呪文の効果がいつまで続くかね・・・」クラウディアさんが言った。

 それは重要なことだよね。あとは、悪魔に、サウバーブレーヒャ(呪文破り)みたいなのを使われた時だ。可能性は十分ある。街道に出た悪魔クランプスなら使えるかもしれないのだ。ともかく、千歩あるいたら、かけるとか、誰かが気になったらかけなおすとか、皆が口々に言ったが、結局、かけていないものとして扱うことになった。サウバーブレーヒャが怖いということだ。あてにすると、よくないということになったんだ。


 そして、僕らは、また、銀鉱山を探すために、例の森に戻った。


Ⅱ 銀鉱山を探して


(もう、うんざりだ・・・なんなの、この・・・もう、帰りたいよ・・・)

 僕の忍耐力は、限界に近づいていた。僕は、アレクシスさんから、短いパイクを借りて、地面をつついたり、藪を払ったりしていた。

 まず、鉱山の入り口っていうのは、僕らの塩鉱山みたいになっているんじゃないのって思うよ。大きく山肌に開いていて・・・いかにも魔物が中に棲んでいるように、ぱっくりと口を開けて、哀れな犠牲者を待っているかのような面構えじゃないの?

 そうそう、扉は古代の呪文で開いて・・・現実は全然違う。


 塩鉱山も、古い鉱山で、古代の民から原住の民族とか、綿々と営みが続けられてきたから、なんか、こう、生活がしみ込んでいるイメージがあったのだけど、ここの鉱山は、全く見つけられないというのは、やはり、その使いこまれた感がないからなのだろう。人の痕跡というのだろうか。実際に銀鉱山として、どういう歴史があるのか不明だ。

「カール。見つかんねぇよ・・・帰ろうぜ」

「そういうなよ・・・帰りたいのは皆同じだ。もしも鉱山が見つかって、発見者には鉱山の売り上げの一部がずっと入ってくるとかになったら、大金持ちだぞ・・・」

「おれは要らないよ。槍を投げて投げて、極めて、達人と言われれば、それで満足だ。誰って、金はあの世に持っていけないし、それどころか、金持ちは天国に入れねぇんだぞ」


「そうだけどさ、金があれば、食えなくてひもじい思いをしているチビッ子とか救えるんだぞ。救貧院だって造れるし、そしたら天に徳だって積めるかもしれん」

「なによ・・・二人とも、動機が不純ね。神様はお見通しなんだからね」

 ニヤニヤしながら、アポロニアさんが、二人の会話に加わった。


 後ろを見ると、クリスタが、拾った枝をぶんぶん振っている。スパイクを貸してもらえなかったのが、悔しかったようだ。カバーがついているとはいえ、まかり間違えば死につながる刃がついているから、仕方ないよ。僕は、短く切断したパイクで藪をつついたりしている。遊んでいるわけではないのだ。この待遇の差がクリスタには癪に障ったようだ。

 実際、僕の方がひとつ年上だが、精神年齢は彼女のほうが遥かに上だと思う。同い年のアーデルハイトに至っては、知的年齢は、ほぼ明星亭の女将さんレベル(何歳だか知らないけど)だと思う。でもさ、アーデルハイトのやつ、周囲の評判は高いんだよね。

できれば、クリスタがああいう風には育ってほしくないと願っている。


「退屈だわ・・・やることないから、火でもつけてやろうかしら」

 おいおい、ぶつぶつ言っている内容が怖いよ。僕がじっとみていると、ニコってしてくれた。可愛いんだか怖いんだか、わかんないよ。

彼女の火でもつけてやろうかって、リアルに怖いからね・・・怖い邪眼だ。クリスタは、オッドアイで蒼い目と赤い目をしているんだけど、赤い方だけに力が宿るわけでなく、蒼い方にも力がある。凍らせるというか、温度を極端に低くできるんだな・・・アレクシスさんが、これでエールを冷やしてもらったらうまいんじゃね?って言ってた。


「あれ? なんとなく違和感を感じるが・・・」カールさんがぶつぶつ言っている。

「違和感って大事よね・・・直観って実は重要だって。どこに違和感があるの?」

 アポロニアさんが言うと、なんか正しいって気がするよ。


 そういわれて、その違和感?とやらを、感じさせる場所を、見に行ったが、カールさんは、すぐに帰ってきた。

「どうだったの?」

「アポロニア、山肌の直前が、なんか窪んでいて、その底に小さな穴が開いているんだ。人が通れる感じじゃなかった」

「かつて鉱山だったことがあるのなら、小さい穴から、採掘したやつを外にだせないものね」

「うん。そうなんだよ」

「違和感の正体はなんだったの?」

「うーん。よくわからないな・・・窪みのせいかもしれないな。あんなところに自然に窪みができるのかなって・・・でも行ったら、穴があっただろう。水の通り道になっているのかな。または動物の巣とかね」

「ふーん。そうなんだぁ・・・」

 二人はそこで会話を打ち切り、捜索に戻った。


 確かに、洞窟の内部とかだと、水が通ることによって、穴ができる。塩鉱山でも、雪解け水が多いからか、結構、水が流れていった跡が見られる。地底湖の周囲にも、水が流れていった跡があり、水に削られるのだろう、かなり綺麗につるつるしていたものだ。地底湖自体が、自然にできたものではなくて、貯水湖として、造られていたようだということが分かったのだが、おそらく、地下迷宮を造った高度な技術を持つ古代の民が造ったのだろうという結果に終わったままだ。なぜ、水がなくなったかは不明のままになってしまっていた。


 違和感か。自然でない感じだよね。あ、葡萄がなってるよ・・・

「アポロニアさん、葡萄がなってますよ・・・結構あるなぁ」

「本当ね。使徒様は葡萄はお好き?」

「好きです。でも、あまり食べる機会がないですよね」

「昔は、このあたりも有名なワインの産地だったらしくて、葡萄を栽培していたから、もしかしたら、ここから先は果樹園だったのかもね。熊も葡萄が好きだから、注意しないと熊に遭遇しちゃうかもね」

「こわいです」

「こんなに沢山人がいて騒いでいたら、向こうから逃げていくわよ。あ、まだ、食べられそうね・・・あれ、カール?」

 アポロニアさんが、枝を見て、カールさんを呼んだ。

「どうした?アポロニア」

「違和感よ」

「え?どこが?」

「今、使徒様にも話していたんだけど、もしかしたら、ここは、かつて、果樹園だったかもしれないってね。でもね、ここを見て。切り口」

「鋏の跡か?」

「そう、そして切り口は?」

「新しい感じだ」

「ゴブリンとか熊だったら」

「ちぎるから、鋏跡はできない・・・そうだな。ダークエルフかもしれないな」

 アポロニアさんが頷いた。カールさんは全員を集めて、説明して注意を喚起した。葡萄が収穫されているということは、人間もどきか、ダークエルフに弓で狙撃される可能性が出てきたからだった。


 僕は、ダークエルフって見たことがなかったから、なんとなく、黒い服を着た吸血鬼みたいな人が、葡萄の房を手に持ちながら、一つひとつ摘まんで食べているのを想像していた。


 その時、クラウディアさんが、鳥の鳴き声の真似をして、突然しゃがんだ。敵かもしれない。僕らもつられてしゃがんだ。

 残念なことに、隠れるところがないと、座って低い姿勢をしても、目立つような、大きな人が、うちの団には最低でも、3人はいる。特に盾の二人だ。また、この盾が大きいから、座っても大きい。目立つよね・・・低い姿勢のまま、カールさんが、クラウディアさんのところに走った。カールさんって、意外と素早いんだよね。でかいけど。

「どうした?クラウディア」

「今ね・・・人影があったのよ。感じたというか・・・」

「ダークエルフか?」

「いや、ダークエルフは見たことがないから、わからないわ・・・ていうか、子供のような気がしたわ。一瞬目の端で感じただけだから・・・でも、人間みたいだった」

「ゴブリンじゃないのか・・・子供サイズなんだろう?」

「そうかもしれない。でも、ゴブリンより大きいように感じたわ。使徒様よりは大きいかな。ヘルマンおじさんのところの3男ぐらい・・・えっと9歳だったかな。まだ見習い前なのよ。おじさんは帝国のところの鍛冶ギルドか、鎧師のギルドに修行に出したいのだけど、なかなか難しいのよね」カールさんは、後半部分の話はスルーしたようだ。


「子供サイズかぁ・・・吹き矢とか使いそうだな」

「うは、しかも、神経毒付きって感じね・・・」


「どの辺だった?」

「あの斜面の木の横ぐらい」クラウディアさんは正面の山をみて言った。


「わかった。見てくる。向こうについたら大体の場所の指示をしてくれ」


 カールさんが、正面の斜面を登っていった。盾は背に背負っている。その木に近づいたら、振り返って、右か左かジェスチャーでアポロニアさんに訊いた。アポロニアさんも右とか手で合図して、カールさんが正しい位置に立ったら両手で〇をした。

 カールさんが、そのあたりを調べている。そして戻ってきた。


「足跡が残っていたよ・・・幻じゃなかったな。足が大きいみたいだから、男の子だろうな。人型の魔物だろう。吹き矢を持っているかどうかまでは分からなかった」そういってカールさんは笑った。


「木の周りだが、何度も踏まれていて、獣道のように、道ができていたよ。そのまま左のほうに斜面を斜めに上がっていっている。その道を追ってもいいが、罠や囮かもしれないからな・・・」


アレクシスさんがやってきた。少し先まで偵察に行っていたのだ。

「葡萄が結構いけてるぜ。食いすぎたかもしれん」

「何しにいったんだよ」

「いや、ちゃんと見てきたぜ~この二つの目にな、焼き付けてきたぜ」

 面白い人だ・・・


「カール、果樹園だったんだろうな。等間隔で緩やかな斜面にずっと葡萄の木が植わっている。開けていて歩きやすいし、地面はふかふかだ。あまり人が歩かないんだろう。正面は急だが、左にいって回り込んで、ちょっと行くとなだらかに上る感じだ。高い木も殆どないので、左回りで、登っていったほうがいいぜ。見える限りで判断すると、すこし上ると平坦な感じだ。鉱山があるとすると、平場で露天掘りじゃねぇか?」

「アレクシスって、時々知性が煌めく感じがするよね」

「あ、わかっちゃった? バカの振りするのも大変なんだぜぇ」

 アポロニアさんが褒めたので、機嫌が更にいいようだ。

「そうだな・・・さっきの小さな魔物が出たことも考え、なだらかなコースを取ろう。それに、弓の狙撃や吹き矢に注意だ」

「おう、それに落とし穴だな」

 皆、大きくうなずいていた。


 僕らは、目の前の斜面を避け、左側の葡萄がずっと並ぶなだらかな坂を進んでいった。

真っすぐ登っても、左回りのルートを通っても行き先は同じようだが。あ、なんで警戒呪文を掛けなかったのだろう。そうしてたら、さっきの小さい魔物も分かったかもしれないのに。


 僕は、いまさらだが、唱えてみることにした。この時に、頭の中に生まれるイメージは、自分を中心に全方位に現れる点で提示される。悪意のある者は、赤い点として示される。

 確かに、正面の急な斜面の上のほうに、赤い点がいくつか見える。すごい点がすうっと左から右に流れるように動くのも見える・・・これは空を飛んでいるのかな?すごく早く動いている。もう一匹すうっと流れた。人間の動きじゃないよね。解せない。

 皆が動きだしたので、僕は左に進んでいった。赤い点は右側に移った・・・いや僕が左を向いたからか・・・



Ⅲ 村の防衛隊


 ニコーレが大きな木に登って、村の手前の発射台を点検している。

そう、急いで戻ってきたのだ。とりあえず、ここを第1防衛線にするかどうかだ。防衛とは言えないだろう。足止め線とでもいうべきか。


 私は、マルコやアンドレアス達と相談していた。カミルは事情を村に伝えに先に走っていった。農作業のチームはすぐに招喚されて村に戻された。

すぐに点呼が行われ、ちびっこからご老人まで、安否が確認された。特にチビッ子は、誰も欠けていないことが確認された。


 ということは、あの魔物の一団には、うちの村の子供はいないということだ。あの小さ目な足跡は、村人ではないというだけで、安心したが、変な気もした。悪魔の正規軍と闘ったことはないが、イメージが違いすぎる気がする。誰か言っていたっけ。ファミリー悪魔って。私はふふって笑ってしまった。子供がクランプスそっくりの恐ろしい顔だけど、ちびっこってイメージだ。


 緊急会議の結果、防衛ラインは、村はずれの発射台ということになった。これは、例の天井の穴のすこし手前に位置する木だ。本当の入り口は、もっと手前に、そして低い位置にある。やつらをおびき寄せ、天井の穴の方へ誘導する。本当の入り口は隠されたままになる。最悪の場合は避難口になるのだ。


 逃げる手順も打ち合わされた。やつらは、すぐに天井からは入ってこれまい。となると時間が稼げる。

最後の手段は、鉱山の奥に逃げるしかない。少し前だが、最深部に、閉じられた洞窟が発見された。その先は、古代の民が築いたとみられる精緻な建物だった。

 驚きとともに調査は続けられたが、ある時、誰かが、恐らく触れてはいけないものに触ってしまったのだろう。大量の水が流れ込んで、古代の民の建物は水没してしまった。いまさらだが、これが水没しなければ、逃げ道になったのかもしれない。こういった古代の民の館は、あちこちで発見されていた。大抵鉱山に隣接しているらしい。


 現在、古代の館を隠していた扉は、また閉じられているが、一度開いて調べてみるほうがいいかもしれない。もしかしたら、水も引いているかもしれない。族長の指示で、調査隊が編成された。本当に一縷の望みという感じだが・・・


 家畜は諦めるしかないだろう。幸いにして、冬のために潰した豚は保存食にしてある。これを洞窟の奥に隠した。洞窟や鉱山での戦いになれば、まだ勝機があるだろう。落とし穴になりそうなところも沢山ある。


「シュテファニー、私たちは外よ。例の木に立てこもるの・・・多分帰ってこれないだろうけど・・・猫や家畜が可哀想ね・・・」

「ニコーレ、何言っているのよ。頑張って生き残りましょう?」

「そうね・・・時間を稼ぐだけ稼いで・・・危なくなったら逃げていいって。大穴のロープで降りてくればいいって。でもね・・・木の上から逃げるったって、飛び降りるなんて無理よ」

「あ、そうだ・・・ロープを張って、滑車でおりていけば、いけるかもよ。子供の頃よく遊んだじゃない?」ニコーレは自分の着想に救われたように安堵の表情を見せた。

「なるほど・・・あなた頭いいわね。じゃ、善は急げね。行って用意しましょう?」


 私たちは、大穴の少し手前にある、2本の大木のところにいった。発射台は身長の3倍ぐらいは高いところにある。ここの根元には落とし穴はないが、登れないように途中に柵が水平に設置されており、鍵がないと上に登れない仕組みだ。そして、そのすこし上の太い枝に、デッキのような発射台が据えられている。ここのは、狭間のように囲いがついているので、下から槍や弓で射られても、防御できる。ここでギリギリまで敵を足止めし、可能なら、倒す。まぁ、銀の矢じりでは無理だから、逃げるっと。


 ニコーレと一緒にロープを近くの大木の枝と発射台の木の枝に渡し、テンションをある程度かけておいた。ピンっと張りすぎると弾かれてしまうことがある。この撓みが重要なのだ。子供の頃を思い出した。

そして、滑車のついた棒を持ってきた。これは鉱山でも使っているやつだ。滑車の心棒が左右に延びていて、掴むところがある。

そこに、つかまって滑り下りるのだ。シュテファニーは、最初に滑り下りてみた。楽しいんだけど、こんなタイミングじゃなければよかった。でも、これで助かるかもしれない。たったひと時かもしれないが。ニコーレも滑り下りた。

「これさ、滑り下りているときって、無防備だよね・・・矢で撃たれたら避けられないし」

「ニコーレ、考えすぎよ・・・背中に盾を背負えばいいよ」

「そうね~、あなた冴えてるじゃん?」

「私は、自分の体重のせいで、腕がプルプルしているわ・・・」


そして、それから二人で矢のストックの半分を、もってきた。まだ、家に残してあるので、地下で籠城するなら、それを奥に持っていって、使えばいいだろう。

二人で発射台に乗っかった。敵は、まだ来ないようだ。真っすぐ来ることはないだろう。探しながらだろうから。暫くすると、マルコが食べ物をもってきてくれた。

マルコは、迎えにいった柵のところで、首だけ出して言った。

「足止めだけでいいから。俺ら地上組は、てんでバラバラに逃げてかく乱する。この辺なら土地勘があるからな。逃げるのだけは得意だぜ」

「マルコ。あなたの銀の槍じゃ、あいつらの装甲は貫けないからね。それにあの目のスリット、細いから、変な気起こさないでね。マジでやばいから、あいつら」

「わかってるよ、シュテファニー。勝てない戦いはしないから・・・それに、親父が突っ込んで、足止めするから逃げろとかほざいているから、そんなことしたら、俺も突っ込むって言ったら、やめてくれっていってた。今は爺さんや婆さんを鉱山奥に連れていっているよ」


「・・・お父さん大事にしてあげてね。族長が死んだら、だれが部族を見るのよ・・・」

「せめて、ノルマンの剣があればな・・・」

「無理無理、あれでも全然あいつらの鎧は、突き刺さらないと思う。

逃げて、洞窟で生き埋めとかにした方が倒せるんじゃない?鉱山なんて工夫すればそんなところばかりじゃん」

「そうだな・・・俺は剣士にあこがれていたが、俺らの部族の商売は、今は穴掘りだもんな。鉱山夫らしい戦いをするほうがいいよな」

「そうよ・・・」

 マルコは隣のニコーレを声で激励し、首を引っ込めて、下りていった。滑車で滑り下りたいなぁってぶつぶついいながら。


大穴の脇には、下りおりるためのロープが隠してある。わからないように巧妙にだ。手製のクレーンもあるのだが、少し離れたところに分解して隠してある。これは家畜を上げ下ろしするとか、爺さんや婆さんに日光浴させるときに使っていた。あんな小さな出入口じゃ、年寄には無理だからだ。


大穴はふさがない予定だ。実際ふさぐのが大変だし、逃げてきた外組が、入れなくなるからだ。やつらが下りるのに戸惑ったら作戦成功だ。

採掘担当者たちは、鉄の工具を持っている。つるはしやスコップ程度だ。もともと、放置されていた錆だらけのものだ。しかし、無いよりはいい。銀の槍よりはいいはずだ。各鉱山の坑ごとに、待機しているそうだ。


落とし穴は立て坑を利用する。今、鉱夫達が一生懸命作っているらしい。落し蓋というか、カバーだ。味方が落ちないように見張り番も必要だ。松明を消せば、何も見えないのだ。


 段取りがいいのは、前もって訓練していたからだ。いつかは、組織だった攻撃をする魔物がくるのではないかと思っていたからだ。空気抜きのための立て坑も、非難する梯子が用意されているので、最悪は、そこから地表に逃げることもできるが、老人たちには無理だろう。

上からロープで吊り上げるなんていうのは無理だからだ。地表だってオオカミやクマ、魔物もいる。どちらかといえば、洞窟や鉱山の中のほうが、生存確率があがるだろうというのが、村人の一般的な意見だ。


 そんなことを考えていたら、お腹が空いてしまった。マルコが持ってきてくれたのは、干し肉だった。長期戦に備えて、すこしだけ食べた。


いよいよ、二つの勢力が出会うようです。


まさか、カールさん達は、人間が住んでいるとは思っていない。

シュテファニー達村人は、悪魔軍精鋭部隊が来ると思っている。


どうなることやらですね。

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