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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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第75節 アーベントイラー 悪魔の支配地へ再び

謎のアーチャーの正体は?


クラウディアの探求心に火がついているのですが、どうなるのでしょうか

Ⅰ 現場検証 


クラウディアさんとアレクシスさんが別々の方向から帰ってきた。同じあたりに行ってたんだけど、一緒だと危険だから、別行動するわけだ。


「どうだ? なにか確認できたか?」

「痕跡というか、木に簡単に登れる細工がしてあったわ。捕まるところと、足を掛けるところがあって、目立たないように巧妙に隠してあったの。あとで見てみて」

「俺の方は、特に目立つ者はなかったが、何者かが、常に森の奥に入っては出てくるような痕跡があった。クラウディアの見た木のさらに北側だ」

 カールさんは頷いた。

「で、どうだ、二人はそれを作った者が何者だと思った?」


「・・・ゴブリンじゃないわね。足が長くないと届かない間隔で設置されているから」

 クラウディアさんは、簡潔に答えたが、アレクシスさんは、少し考えている。


「・・・判断がつかなかった。ただ、靴を履いているようだ。ゴブリンは普通裸足だからな。跡が残りやすい。特に親指とかだな。こいつらは、痕が残らない。多分、柔らかい皮底か布底の靴だろう。フェルトが詰められているかもしれねぇ。体は、比較的大きいみたいだ。少なくとも俺らぐらいはあるな」


 アレクシスさんは、更に少し考えてから言った。

「いや、通ったっぽいところを歩いてみると、見事に頭に木の枝とか当たらないんだよ。走っても当たらないような感じだ。それは横幅方向もそうだ」

「なんだか、今日のアレクシスは頭が回っているようだな。話し方が知的だぞ」

「なんだよ、それ。たまには地を出してもいいじゃねぇか?」なんか威張っている。


「おやおや、いつものアレクシスに戻ったぞ」

「からかうなよ」アレクシスさんは、笑っていたけど、カールさんがいつも言わないようなことを言うので、ちょっと不安な顔に変わっていった。

 アポロニアさんが話に割り込んできた。

「いや、途中でね、二人が悪魔がすり替わっていることもありえるねって話したから・・・」

 アレクシスさんの眼が点になっている。

「怖いこというね・・・」


「実際にあった話なんだよ。アレクシス。

オーストリア大公の山岳戦線では、いつも山城付近を、兵士を斥候に出しているのだが、ある時、午前中に斥候に出ていた筈の兵士が、午後、死体で見つかったんだな・・・別の斥候部隊にだ。でも、その、死んだ兵士は、午前中に砦に戻っていたのが確認されているんだよ。

あれ、午前の交替の時、こいつ居たよな?今は城に居るはずなのに・・・ってな。

つまり、斥候中の兵士を攫って殺して、死体を隠しておいて、その兵士に成りすまして、城に入ったわけさ。午後の斥候隊はすぐに砦に戻って、偽の兵士を捕まえようとしたのだが、急に正体を現して、空に飛んで逃げたらしいぜ。悪魔な」


「おいおい、もっと怖いじゃねぇか・・・てことはなにかい。もしかして、俺の死体がそこらの藪の中に転がっているかもしれねぇんだな・・・まずいな、探しにいかねぇとな」

「なにをバカなことを言っているんだ・・・やっぱり、お前は・・・正真正銘のアレクシスだな」

「しかし、本当に怖いな。オーストリア大公領の担当している山岳戦線って、そんなに厳しい闘いをしている所なんだ・・・」

 アレクシスさんは、しみじみ言った。カールさんは、その言葉を受けて更に言う。

「うむ。飛竜に乗ったトカゲ男もいるしな。なんか話を聴いていると、俺らのところが生ぬるい感じがしてくるぜ」

「そうだな。それは俺も感じた・・・」


 カールさんは、周囲を警戒してから、思い出したように言った。

「あ、そうそう、その事件以来、斥候は必ず二人で離れないようにって規則が変わったらしいぜ。いいのか悪いの分からんがな」

「え、そりゃまた困るな。二人でいくとかえって危険だと思うぜ」

「難しくなるよな。気づかれる確率が上がるからな」


クラウディアさんが、なにか言いたくて、うずうずしているようだ。

何しろ、朝一に折角、昨日の場所に来たのに、ゴブリンの死体が無かったのだ。

つまり、誰が射抜いたのかというのが、自分の眼で見れなかったわけだ。だから、ますます謎が深まり、もっと探索したいとなったのだ。今のクラウディアさんは、知りたがりの子供並みに厄介だ。


「ね?行かないの?とりあえず、見てよ・・・上にも上ってみたいの」

(なんだか、段々、駄々をこね出しているように感じるよ)


「まて、待ってくれ。クラウディア。気持ちは分かるが・・・」

「そうよ。もしかしたら、戻ってきた奴らに鉢合わせるかもしれないし、更に北に向かえば、確実にそのアーチャー達とその一味に対峙することになるし、逆に南にいけば、ゴブリンに当たることになりそうなのよ」

「アポロニアの言う通りだな・・・今、俺も迷っている。正直なところ、北の奴らのほうが脅威だと思う。とはいえ、南に向かえば、北の奴らに後ろを取られる可能性がある。俺たちの動きが掴まれていたらだが・・・」

「でもよう、実験もしたいんだろ?北の奴にしろ、南のゴブリンにしろ、大人しく実験なんてさせてくれねぇんじゃねえの?」

「確かにそうだな。まずは一応、その木とその獣道というか、魔物道を見てみるか?」

「私は見たいわ。本部に報告しないとっていうのもあるから」

「じゃ、ゆっくり行ってみよう。やつらが戻ってないことを祈ろう」


僕らは、昨日のゴブリンの死体を見つけた手前側から北の森に入り、死体のあった場所付近に近づいた。

僕は再度、警戒を唱えた。どうも近くにはいないようだ。アポロニアさんも同じ呪文を唱えているようだ。この術は、例のお師匠の本に載っていたやつだ。敵意のある人や魔物を見つける機能を持っている。頭の中に赤い点が現れ、方向と大体の距離と動きがわかる。今は何も映ってこない。僕らは、アレクシスさんを殿にして森の中を進んだ。


 例の木に到達した。街道から数メートルの距離で、枝は街道の上まで伸びている。双子たちが、木の前で北側に向かって盾を構え、拠点を構築した。

アレクシスさんが槍を構えて、その後ろに立った。カールさんはもうかなり前から抜刀したままだ。僕らは、いつもより、3分の1ぐらいに小さくなった荷物を背にしている。

「ちょっと、登って調べてくるわ」小声でクラウディアさんが言った。

「クラウディア、毒針とか罠が仕掛けてあるかもだから、細心の注意をしてね」

 クラウディアさんは、アポロニアさんの言葉にニコっとして小さい声で応えた。

「は~い。行ってくるわね」


 するすると登っていくクラウディアさんを心配そうにアポロニアさんが見ている。カールさんは、北を見たり、南を見たり、忙しい。でも、双子の判断が正しいと思っているようだ。襲ってくるなら北からだろう・・・すぐに、クラウディアさんが降りてきた。

「ただいま。その西側の木も調べてみて・・・上から射手の使っていた場所を見たら、隣の木の枝が一部抜けていて、良く見えるの。多分、上でコンタクト取っていた筈よ」

 カールさんが隣の木に向かって歩いていく。慎重に、木の枝を踏まないように。

 突然下ろした足をそのまま持ち上げて下がった。そのまま、足を置いたところに足を戻し、ゆっくりと下がってきた。

「カール、どうしたの?」

「多分、落とし穴がある。危なかった。でも、木には同じような、昇降用の細工があったのが見えたよ・・・」

「どうする? ということは、こっち側にもあるってことだろ?」

「アレクシス、ちょっと済まないが、すこし、周囲の地面を槍で突いてみてくれないか?」

 アレクシスさんは、槍で周囲の地面を静かにザクザクと突きだした。しかし、落とし穴らしきものは見つからなかった。

「今のところ無ぇようだが、ここからずらかるときは、要注意だぜ。何があるかわかんねぇ」

「よし、とりあえず、さっきの場所まで戻ろう」


 僕らは、さっきの場所まで戻った。慎重にね。今度は先頭がアレクシスさんだ。少し先の地面を慎重に槍で刺しながら進んでいる。

「ふぅ・・・じれったいというのも割と疲れるな」

「仕方ねぇさ。カールはついてくるだけだからな。まだいいじゃねぇか・・・でもよ、俺は、今夜はエールがうめぇぞ」

「ははは、生きて帰れればだがな」

 アレクシスさんは槍を持ったまま肩を竦めた。

 クラウディアさんは後ろ向きに歩いて、左右を確認しながら、弓に矢を番えたままで歩いている。すぐに初めにいたところに戻った。


 それから、カールさんはキリっと顔を引き締め、クラウディアさんに言った。

「クラウディア、見たものを教えてくれ」

「はい。あのね・・・枝の上に木の板が敷いてあったの。枝に打ち付けてあったわ。釘でね。それに縄で縛ってた。」

「釘か?綺麗に設えてあるなら、まず、ゴブリンのものではないな」

「そうね。私が寝転がれるような大きさだし、落ちないように手すりがついていたわ。それに、幹のほうには、弓矢を差した跡があった。軽くだけど、次に引く矢を差してとっておくみたいな位置ね。矢筒からだと、すぐに撃てないからね。

でね・・・横の木を見たら同じような板があったのよ。反対の木には無かったから、アーチャーは最大で二人って感じね。なんかさ、板にいたずらみたいなナイフの痕みたいのがあったのよ・・・上から削って消されていたから読めなかったけど。魔物って字がかけるのかな」

「ふむふむ。興味深い観察ね。でもさ、そんな設備があるなら、毎日誰か、当番とかで張り込んでいそうだけど・・・今日は、もぬけのからなんでしょう? 不思議よね」

「そうだな・・・もっと大掛かりに、そして広範囲に警戒網があるのかもな、その網に引っかかると、先回りして、あそこで迎え撃つような感じじゃないか?」

 

そんな話をしているので、空気が緊迫してきた。双子さん達は、戻ってきた方向に盾を構えている。クラウディアさんも、矢を番えたままだ。アレクシスさんは、双子の二人の後ろで、腰を落とし、姿勢を低くして、槍を構えている。

想定なのだが、広範囲の警戒網という言葉に、皆が反応しているのだろう。そんな中で、アポロニアさんが口を開いた。

「ここに居ないほうがよくない?」

「そうだな。行こう。とりあえず、街道を渡って、南に進もう」

 僕らは、街道を一人ずつ横切って、南側の森に入っていった。狙撃されることを警戒してだ。僕は、クリスタと一緒に手をつないで走った。狙われているかもと思うと怖かった。


Ⅱ 南へ


森の中は静かだった。天気は良くて、木漏れ日が綺麗だなんて余裕が無かった。

僕らは隊列を組んで、一定の距離をあけて歩いた。相変わらず、先頭はアレクシスさんだ。次にクレメンスさん。カールさん。アポロニアさん。僕ら。コンラートさん。クラウディアさんが殿だ。


アレクシスさんが、手をあげて止まり、しゃがみこんだ。皆にも同じように指示をだした。カールさんが、低い姿勢で先頭に近づく。

「どうした。アレクシス」

「あれを見てくれ」そういって、斜め左前方の木を指さした。6メートルぐらい離れている。

「ゴブリンの死体か?」

 ゴブリンと思われる死体が木に打ち付けられている。矢が胸を貫通して、左と右から、まるで木に打ち付けたようになっている。死体はだらしなく垂れ下がっているが、これは、矢が胸を貫通しているので、肋骨が引っかかっているからだろう。死体のそばには、こん棒らしきものが落ちているようだ。拾って帰ってもゴミだろう。


「多分な。罠かもしれないな。いや、わざと晒しているわけではねぇな。しかし、昨日の夜、矢と死体をご丁寧に回収したやつらにしては、これを回収しねぇっていうのも怪しいぜ」

「また、落とし穴か?」

「それはないと思うぜ。あっちは迎撃用の設備だったろう?こっちは違うんじゃねえか?

 恐らくだが、下から敵が上がってこようと下までくると、追っ手は、落とし穴にまんまと落ちるってやつだろう。一か所でもそういうのがあると、敵も迂闊に走れなくなるからな。さっきの俺らみたいなもんだ。

ところで、昨日も話があったが、あの街道とこっちの森でテリトリーがあるのかもな」

「よし、興味深いが、スルーしよう。クラウディア」

 カールさんは、クラウディアさんを呼んで、話をしている。クラウディアさんは、えーって言ったが、不承不承だが、納得したようだ。そして、僕らは、脇目で死体を見ながら進んでいった。クラウディアさんだけ、注意されるぐらいゆっくり歩いて、じっと見ていたが。


「街道が見えるぞ」またアレクシスさんがしゃがんだ。もともと下草が殆どないので、木々の隙間から、明るく日光に照らされた石畳が見えている。カールさんがまた低い姿勢で近寄った。あれ、クレメンスさん盾を横にして置いている。そうか、少しでも低くしようという魂胆なんだ。確かに大きな盾は目立つものね。

「ああ、あの十字路を右にいった街道だな?」

「そうだろうな。どうする?」

 カールさんが少し考えて言った。

「とりあえず、街道まで出て、様子を見るか? そこから南にいくのだが、ゴブリンのテリトリーかもしれないから、森と街道を交互に歩くか」

「それだったらずっと森のほうがいいかもな」

「よしそうしよう。皆集まってくれ。クレメンスとコンラートは外側を向きながら耳だけで聴いてくれ」

 僕らはカールさんを中心にしゃがんで集会を開いた。


「さぁ、行こう」

 また歩き出した。街道まではすぐだった。街道の手前で散開し、しばらく様子を伺った。静かに時間が流れていた。本当に悪魔の支配地なのだろうかって感じだ。

 カールさんが、皆にそのままでいるように手で合図して、左右を確認し、それから街道に歩いて出た。それから前方の森に入っていった。その間中、クラウディアさんは矢を構えているし、アレクシスさんも槍をいつでも投げられるようにしていた。次は、クレメンスさんが来いと合図された。すぅと立ちあがると、音もなく素早く街道を渡っていって、カールさんの後ろに盾を構えて立った。次はアレクシスさんだ。そしてアポロニアさん。

 アポロニアさんは、途中で転びそうになっていた。僧服の裾を踏みそうになったらしい。やはり、あの服は探索向きではないよね。

 次は、僕たちだ。クリスタの手を握り、いくよって目で合図して駆け抜けた。なんとなく間抜けな感じだろうなって思ったよ。でも、今日の荷物は小さめだからね・・・そんなに格好悪くはないんじゃないかな。


 そして、コンラートさんが渡り、クラウディアさんが、矢を番えながら渡った。


 結局、何もなかった。相変わらず、鳥の囀りが聴こえる。緊張したので、お腹が空いた。


「よーし、すこし休憩しよう。クリスタちゃん、こっち来て」

 クリスタは、もうカールさんが何がしたいのか分かっているようで、カールさんの前につくとくるっと後ろを向いた。

「お、ダンケ。今日は焼き菓子があるんだよ。昼飯もまだだけど、おやつにしよう」

「やったー」クラウディアさんが喜んだ。

「さぁ、配るぞ。気を抜くなよ。交替で食べよう」


 カールさんは、焼き菓子を一口で食べ、また革袋から何か飲んで、警戒にあたった。

僕もすぐに食べた。美味しい、リンゴが中に入っていて、香りが良かったよ。

 クリスタはちびちび食べている。しかも3分の1ぐらい残して、ポケットにいれた。うーん、リンゴのべたべたがつかないのかな。心配だ。

「じゃ、すこし休憩して、胃が落ち着いたら再出発しよう」


 時間が静かに流れている感じがする。

「よし、行こう。地図によれば、この先に村があったはずだ」

 カールさんは地図を持っていないのだが、オットー様に見せてもらった地図を記憶しているようだ。


 僕たちは、街道に沿って左側の森を進んでいった。やはり、下草はなく、あちこちに古い切り株がところどころにある。

「切り株があるということは、かつて人が住んでいたということだな」

「そうね。いつぞやの修道院も、周りは切り株だらけだったでしょう? あれって、修道士達が労働して切り開いていった跡なのよね。祈りと労働が一体となっているなんて、憧れるわ」

「アポロニアは、労働なんてしないだろう?」カールさんが訊いた。

「そもそも女子修道院ですから、木こりさんにはなれませんことよ。おほほほほ」

 皆言葉を失っている。静寂を破ったのはアレクシスさんだった。

「なんかキモイぜ、どうしたんだよ。悪魔のせいか?」と真剣な顔でアレクシスさん。


「あれ、受けないか・・・失敗ね・・・修道女会って、労働するのはするけど、せいぜい農作業ぐらいで開墾とかはしないわ。

普通、男子修道会が開墾して、後から横に女子修道会が出来るって感じかな・・・それも今は悪魔のせいで出来ないけどね。あとさ、出身階級で差別されるのよ。労働専門と祈り専門とかね」

「へー、アポロニアは何やってたんだ?」アレクシスさんが興味深々だ。

「私は食べるの専門・・・嘘よ。私は写本作成が専門かな」

「写本って、本だよな・・・すげぇな、おめぇ」

 尊敬してますみたいな目でアレクシスさんが見ている。

「すごくはないわ。それもやりつつだからね。もっと、女子っぽい作業がよかったわ」


南に向かう街道に沿って、森の中を歩いていたが、横道にあたった。

「これだな、おそらく村に向かう道だろう。街道に比べると道の重要度が下だが、その割に、結構しっかり作ってあったようだな。草も生えてないぞ」

「そうね・・・路盤から作ったんでしょう。厚みがあると、草も生えないらしいから。石畳のすごさよね・・・上に土が被ると草が生えるけど、大雨が降ると流されるようになっているんでしょうね」

アポロニアさんは腰に両手をあてて、石畳を眺めている。


「よし、進もう。左にいくぞ」

「おう」


「なんか残っているかもな」カールさんは、すこし希望を抱いているようだ。

「そんなわけねぇだろう。何か残っていたら、あの森の中の修道院みたいな状態だろう?」

「まぁな・・・名も無いような村だもんな」


 それからは、カールさんの希望を無残に打ち砕くような光景が広がっていた。流石に150年も経てば、家があったところは森に戻るようだ。家は、壁だけが残るような感じだ。それも石積みの壁は残るが、木で軸組みを作っている壁は持たなかったようだ。屋根はもちろん残っていない。中には、家らしき残骸の中から立派な木が生えているのもあった。


 だから、家の中を探るのは止めていた。農村に宝があるわけない。それよりも生活や人生の哀しい跡を見て、心が痛むだけだ。

せいぜい、村の教会に何かがあるかもだ。まぁ、どの村も一番破壊されているのは、教会や修道院だったのは、周知の事実だ。

先頭を歩いていたクラウディアさんが、嬉々として戻ってきた。

「ねぇ、すごい立派な菩提樹があるのよ。来てきて」


 道の先には、立派な木が一人で立っていた。クラウディアさんが指摘した通りの菩提樹だった。


「おお、立派だな・・・人がいなくなっても、村を守る孤高の老人という感じだ」

「そうね。あなた達ゲルマン人は、木が好きよね。帝国でも、どんな村でも必ず広場に菩提樹があるものね」


 そうだ。塩砦の下にある、街道沿いの昔の街も、広場があって、菩提樹が植えられているものね。僕ら、ゲルマン人は、ザクセンとかバイエルンとか関係なく、菩提樹が大切なものだよ。不思議とこう懐かしい感じがする。


「ね? この広場って、手入れされているよね・・・不思議な感じがするんだけど・・・150年も放置されている感じがないんだけど・・・」

 クラウディアさんの言葉に皆が頷いていた。この違和感は何だろう?


いかがでしたか?


シューベルトの歌曲集に、冬の旅というのがあります。


名曲『菩提樹』がこの中に含まれています。

いい曲ですね。短調ばかりの曲の中で、長調で。


菩提樹は、ゲルマン人にとって特別の存在だったんでしょうね。


次回は、結界装置の実験です。


ブクマお願いします。

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