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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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第75節 アーベントイラー 伯爵の謁見台

最前線の砦です。

砦というよりは、城でした。

 僕は、フリードリヒ様の控室にいた。伯爵と騎士と僕だけだ。あ、従者さんもいる。

いつも忘れがちだけど、従者さんって、気づけば居るんだよね・・・


伯爵である、フリードリヒ様は、自分の顎髭を撫でながら、僕を見つめて、ニコニコしている。そのうちに言いたいことがあるようで、話しかけてきた。


「殿下は、本当にアグネス様や、シャルロッテ様によく似ていること・・・

この前、レオポルド兄上が、手紙で自分の子供が急に増えたみたいだと嬉しそうに書いておったが、気持ちがわかる」


「そうなんですか・・・」


「うむ。わしは、年は多少離れているが、子供時分から兄上二人と一緒だった・・・

私だけ、父上が、使用人に産ませた子だったが、分け隔てなく接してくれるよう、父上は配慮してくださった。

騎士に叙階されるまでは、城塞都市の城に住み、

それにリウドルフィングを名乗ることをお許しくださった・・・

大兄が公爵となってからも、関係は変わらず、爵位も賜った。もちろん宮宰兄上様もそれを支持していただいた。

それに、兄上達は、この城も下さった。まぁ、最前線を死守するという義務が伴うが・・・


別腹の私は、これ以上を望むつもりはないし、むしろ、この場所を死守し、ザクセンの栄光を見届けたい。それに、殿下という楽しみも得たし・・・」


(なんだか、気になる言い方をされる方だ・・・死を覚悟した人? 死線を幾度もくぐりぬけてきた人なのかな・・・麻痺しているってやつか・・・)


僕は少し考えて、質問した。


「私なぞが、お楽しみになるのですか?」


「勿論。私が望むのは、一重にザクセン族の栄光と繁栄です。殿下は・・・」


 急にノックの音がして、僕の正面のドアがすこし開き、誰かが顔をのぞかせた。


「フリードリヒ様、準備が整いましてございます」


「うむ。わかった。さぁ参りましょう。私が先に出て、椅子のところで殿下をお待ちしますので、そのあと、執事の呼び出しで謁見台へ進んで頂きます。で、集まった、わが守備隊の精鋭達に、労いというか、直々の、お言葉を賜りたいのです」


(なんだか大役になってきたんですけど・・・困ったな)


「え?いきなりですか?」

「勿論。殿下がそういうのが得意とレオポルト兄上から伺っております」


 そういうと、フリードリヒ様は立ち上がり、従者さんが、マントを着せた。なんと、マントは、カールさんたちがオットー様から頂いたものとよく似ていた。高貴なグレーと呼ばれる、すこし青みがかったグレーだった。


「さあ、参りましょう」

「は、はい」

 僕は立ち上がり、椅子の横に立ち、その場で待機した。伯爵はドアに歩いていった。閉められたドアの前に立つと、執事さんと思しき人の朗々たる声が聞こえた。

「黒獅子城、城主。最前線の砦守備隊長、フリードリヒ・フォン・リウドルフィング伯爵」

 ドアがさっと開き、フリードリヒ様が出て行った。

 

 ドアが閉まっているので、隣の部屋の様子は知る由もないが、獅子城の伯爵、フリードリヒ様がなにか朗々と話しているのが分かる。ちゃんとは聴こえないけど。意外と密閉性が高いことに驚いた。この部屋では、密談も可能だろう。いや、むしろ、そういう目的もあるのかもしれない。


 ドアがちょっと動いた。騎士さんが後ろから声を掛けてくれた。

「殿下、出番です」


 部屋の外では、なにか執事さんが朗々と言っているようだ。ドアの隙間から漏れ聞いたのは、多分こうだった。


「ローマ帝国の正統なる皇位継承者、ザクセン王子、ミヒャエル・フォン・リウドルフィング様」


 ドアが勢いよく開けられ、執事と思わしき人が、直立不動で、ドアを押さえたまま立っている。隣の部屋は大広間だった。僕がドアのところに立つと騎士全員が、ざっという音とともに跪いた。僕は、異様な緊張感をもって、部屋から出て、謁見の間の台を歩き中央に設置された、長い背もたれのある椅子のところに向かった。

 謁見の台は、部屋の出口と同じ高さでつながっているので、転ばなくてよかった。


 僕は、そのまま伯爵の前まで歩いていった。カールさん達が、僕に背中を見せて横一列に並んで立っていた。謁見台はそこそこ高いので、彼らの後ろの台を歩きながら、カールさん達の後頭部が観察できた。でも、見ないようにしつつ、伯爵の隣にある椅子の前に立った。フリードリヒ様が言った。

「殿下、皆にお言葉を頂戴できますか」

「はい」


 僕がそういうと、片膝をついていた、全員が同時にざっと立ち上がった。統率が取れているので、びっくりした。伯爵は、僕のほうを向いたまま、立ったまま、僕を見ている。


「フリードリヒ伯爵。どうか、お座りいただけますか?」

 伯爵は、待ってましたという感じで、ニコニコしながら発言した。

「殿下。勿体ないお言葉ありがたく存じますが、殿下の尊き血のゆえに、私はここで座らずに、立ったまま、お話をお聞きしたいと存じます」

(え・・・困ったな・・・想定外だ。さっき別腹の子のようなことを言ってたからかな)


「あなたに流れる血と、私の血は同じものです。フリードリヒ殿の言い分を聞けば、私は、きっと父上に叱られます。

それどころか、私たちの始祖、ヴィドゥキント様や、私たちの先祖、リウドルフ様に、天国でまみえたら、私が叱られます。どうかお座りくださいますよう、お願い申し上げます」

(どうだ! これなら座るしかないでしょう?)


 どや!みたいな感じで言ったのだったが、反応は想定外だった。


 フリードリヒ様は、俯いている。きらりと何かが光った。

(ちょっとまって・・・なんで・・・泣いているの? もっと想定外だ)


 大広間に整然と並ぶ伯爵の家臣である騎士たちも、泣いているようだ。時間の流れが、こんなに遅いだなんて、思ったことはなかった。


「殿下、あなたは・・・やはり、ローマ皇帝として、このゲルマンの地を取り戻し、そして統べるべき王として、神に定められたお方だと、確信致しました・・・

私は公爵の家臣ではありますが、この命、殿下のためにも捧げたく存じます。

皆の者、相違はないな?」

「おう・・・」大広間の床を振動させるような、深い決意に満ちた低い声だった。


(困った・・・なんか想定外な感じだよ。どうすればいいのだろう・・・)


 すこし、明るい顔になった伯爵は話を続けた。


「殿下。レオポルド兄上が申してありました。

殿下は、見た目は、弱々しい、女の子のような子供だが・・・失礼、私でなく、レオポルド兄上の言葉ですから・・・神聖騎士団員として地獄で170年戦ってきたお方だと。

我ら凡百の軍人が足元に及ぶことすらできぬと・・・


 今、私はこの言葉を噛みしめております。

どうか、われらの命が天に召されるまで、われらを導いてくださるよう、お願い申し上げます」


(なんだか、展開が読めないよ・・・どうして、こういう方向に話が流れていくのだろう・・・)


「フリードリヒ殿、どうか座ってください。というか、私の願いを聴いていただけますでしょうか・・・私の父と同じ、ザクセンの王族である、あなたに、私は敬意を払いたいのです。お願いします。これは、あなたに対する敬意だけではなく、私達の始祖たちへの愛でもあります。どうか、私の、この弱々しい少年の姿に免じて、お許しいただけましたら、幸いです」


(なんで、こんな言葉が、僕の口から淀みなく溢れてくるのだろう・・・やばくない?)


 伯爵様は、立っていられなくなったように、両手を広げ、崩れるように両ひざで跪き、天井をあおぎ、神に祈りをささげているようだった。


 どれだけ時間が経ったのかわからないのだが、伯爵は、ようやく立ち上がった。


「・・・殿下。我らは、悪魔の支配が終わるまで、この呪われた城を牢獄として、生きなければなりません。いや、すでに死んでいるのかもしれません。

この砦の守備隊長を務める代わりに、お情けで頂いた城、しかも配下の家臣達が、いつ死んでもおかしくないような、悪魔の支配地のまっ只中です。


私は、リウドルフィングを名乗りながらも、このような地に封じられ、どこか、兄たちを恨んでいたのだと思います。私は、争いのもととならぬよう、妻をめとらず、子供を残さないようにしていました。先代の侯爵や、今の侯爵もレオポルドも、縁談を持ってきてくれましたが。子供がいれば、変な気もおきるかもしれませんし、周りの者も私を担ごうとするでしょうし・・・それは、われら兄弟の繋ぐ絆を斧を振るって分かつようなものです。


公爵様達、いいえ兄上達は、本当によくしてくれました。しかし、それを手放しでは喜べない私もいました。私はむしろ、ここで死ぬことを求められているのではないかと。

戦場で死ぬのは仕方ないことですが、ここは戦場というよりも・・・屠られるのを待つようなところです」


 家臣たちは首を垂れ、静かに主君の話を聴いている。


「殿下、この地に長く暮らすと、段々、心が汚れていくのでしょう。見えない瘴気のせいかもしれませぬ。私は城塞都市から追い出されたのだと感じるようになり・・・

むしろ、爵位を狙うことができる血筋の故に、疎まれ、死ぬ確率が恐ろしく高いこの地に封じられたのだと、僻むようになり、いや、私のことは、これ以上は言いますまい。

むしろ、家臣達の苦しみです。終わりのない消耗戦です」


フリードリヒ様は、悲しい表情をしていた。


「思えば、これこそが、悪魔の罠だったのでしょう。どこかから、瘴気にのって私の心に忍び込み、悪を吹き込んでいたようです。それは、妬み、嫉み、恨みのような気持ちです・・・」


(このまま、この先を言わせてはいけない・・・)

僕は、そう思い、言葉を遮った。


「フリードリヒ殿。それ以上は言わないでください。


 私は、宮宰様から、その話を伺っておりました。前任の隊長は、砦に魔物を入れないために、家臣共々戦死したと・・・

 なんとか砦は落ちずに済んだが、砦には軍人が僅か数人しか残らなかったと。

しかし、城塞都市の貴族は、誰も後任に就きたいとは申さないと。

侯爵様は、領地全体の士気を考え、リウドルフィング一族から人を出すしかないだろうと考えたと・・・一族の者で、指揮のとれるものはフリードリヒ殿しかいなかったと・・・」


「ここに来て、もう3年になります。家臣は一人ひとりと斃れ、その息子たちも、あるものは斃れ、やがては、我らは皆居なくなる・・・そうしたら、また新たな使い捨ての戦士が城塞都市から送られてくるだけ・・・確実に我らは滅びに向かっていると感じていました」


伯爵様は、僕を見つめている。


「しかし、ある時から、急に魔物の数が減ったのです」


(うーん、話の展開についていけないよ。さっきの涙はなんだったの?)


「ある時というのは、一人の少年が突然、中継の街に現れ、塩砦まで歩いていった日からです。その日を境に、魔物の出現が激減したのです・・・その少年は高い聖性の持ち主で、体からエーデルスブルートを用いた聖波動を放出し、魔物を駆逐したのだと聴いています」


(そ、そんなに見つめないでください。フリードリヒ様って眼力強いよ!)


「そう、その少年とは殿下のことなのです」


(困った・・・)


「たまたまの偶然ではないのですか?」僕は、切り返しを狙って突っ込んだ。


「いや、私は隊長として日誌をつけております。今日、出現した魔物の種類と数。そして戦死者を記載しているのです。

また、毎日のように、結界馬車が往復していますから・・・すぐに情報が入ります。

オットー卿達からも、不思議な少年について、すぐに書簡がもたらされました。

俄かには信じられぬかもしれないが、奇跡だと。

さぁ、殿下。私たちに何かお言葉を賜りたくお願い致します」


(うーん。どうしよう。ここで、そうです。僕がその変な少年ですとか言えないよね。

 因果関係はない・・・筈だ。だって、そんなことしてないから。

でも、僕のせいで、地下迷宮の魔物出現が減ったと、砦や鉱山では言われている。実際、地下深く潜る傭兵さん達からは非難されたし。塩砦付近も魔物が出なくなってきたとか聞いたし・・・いや、でもスタンピードあったよね・・・

 そういえば、ボニファティウス様と、エーデルスブルートの放出とか放出しないとかの訓練したよ。今も出さないようにできているはず)


「殿下? 大丈夫ですか?」フリードリヒ様が、僕の様子がおかしいので、訊いてきた。


「あ、いや、なんでもないです。えっと・・・」

「お言葉です」小さい声でフリードリヒ様が言った。


(すっかり調子がくるっちゃったよ。どうしよう・・・少年っぽく可愛くいこうかな・・・)


「皆さん! ミヒャエルです。今、フリードリヒ殿が言ったように、特技は、エーデルスブルートを使った神聖魔法です。なかでも荷物運びが一番得意です。見たままの弱々しい少年ですので、優しくしてくださいね」


「わははははは」大きな声で笑ったのは、フリードリヒ様だった。


「皆の者、殿下は、リウドルフィングの悪い血を濃く受け継いでいらっしゃるのが分かっただろう?公爵様も宮宰様も人が悪い。笑えない冗談をおっしゃるからな・・・」

 家臣団の人たちは、顔をぶんぶんと縦に振っている。

「伯爵様と同じだ・・・すごく寒い」

「血は争えないのか・・・」

(皆口々に酷いことを・・・おかしいな。場を和ませようと思ったのに・・・)


「皆の者、殿下の度を越した謙遜に騙されてはいけないぞ。飛竜を一撃で落とされるかたなのだ」

「おう」家臣団の全員が恐縮している感じだ。

「では、解散。持ち場に戻ってくれ」

「は!」


あれ、みんな解散しない。伯爵様は目くばせで元の部屋のほうを示した。ドアが開いている。

「どうぞ、殿下。ご退出を」


 僕は腑に落ちないまま、さっきいた部屋に向かって歩いた。後ろから伯爵の足音が聞こえる。また、傭兵団の後ろを通った。カールさん達は、前を向いたまま、不動の状態だ。なんとなく寂しい気持ちを感じた。

 ドアを通り、5歩ぐらい歩いて後ろを振り返ると、伯爵様が入ってきた。ドアはそっと、でも速やかに閉められた。

「殿下、ありがとうございました」

「フリードリヒ殿、失敗しました。申し訳ありません」

「いや、楽しかったですぞ。あんまり笑えないギャグは、リウドルフィング独特のものですから、心配なさることはない。というより、私の話がいつも受けないのは、ご先祖様譲りであることだということで、すこし安心しました・・・」


(それって僕のせいってことじゃん・・・)


「殿下、これから、カール達傭兵団もこの部屋に参ります。すこし、お茶でもしていただいて、そのあと、商店街でもご覧いただいてはどうですか。夜には宴がございますので、それまでは時間がございます。また、ぜひ、今夜は泊まっていただけましたらと思います」

「お言葉はありがたいのですが、なんか、いったん砦に戻る約束になっております」

「まぁ、そうおっしゃらず、オットー卿がイケずを申すのなら、このフリードリヒが、オットーに申し付けますゆえ」


トントントンとドアがノックされた。

「はいれ」


大広間ではない方のドアが開いて、執事さんが顔をだした。

「失礼します。傭兵団の方をお連れしました」

「うむ。椅子の用意を頼む。それに、例のものを」

「畏まりました」


カールさんを先頭に皆がゾロゾロ並んで入ってきた。

「あ、クリスタがいない・・・」

「ふふふふ、殿下はクリスタがお気に入りか? 安心召され、厨房でお菓子を食べているはずかと・・・」

(なんだか意味深な言い方を伯爵様はしていたけど・・・)

「いいえ。無・・・いや、行き先が分かるなら結構です」

(やばい、やばい。無事だとか言ったら、伯爵様を信用していないことになるよね)


 執事さんの指示で、給仕さんのような人たちが椅子を持ってきた。テーブルは長いのに、椅子は2脚だけだったのだけど、給仕さん達が持ってきた椅子は、長い背もたれの無い椅子だった。いわゆるベンチってやつだね。僕は執事さんに椅子を引かれ背もたれの長ーい椅子に座った。伯爵様も同様に長い椅子に座った。

「カールどうした。早く座ってよいぞ」

「ありがとうございます。フリードリヒ様。皆、お許しがでた、座るぞ」

「カール、気を使いすぎておるぞ・・・」

「は・・・」

 カールさんは皆に目配せして同時に座った。

「その椅子のほうが、剣を差していても座りやすいのだよ」

「おっしゃる通りでございます」カールさんらしくないコメントだ。

「なんだか、借りてきた猫みたいな感じだな・・・殿下? カール達はいつもこんな感じですか?」

「いいえ、もっとフランクで、快活な人たちですよ」

「ほうほう、緊張しているのか・・・すまん。わしのせいか・・・」

 カールが慌てて否定した。

「いいえ、とんでもございません。私たちは田舎者故、伯爵様のような方にお目通りすることなど、初めてです。失礼があってはならぬと肝に銘じていますが、難儀しております」

「まぁ、よい。わしは、リウドルフィングの者として、其方らが、殿下に便宜を図ってくれたということに感謝しておる」

 カールさんは恐縮して、次の言葉を探しているようだ。ワンテンポ遅れて言った。

「もったいないお言葉、恐縮でございます」


(なんか、団長という立場だから、応答しなければならないのだろうね。大変だ・・・)

 フリードリヒ様は、すこし気づいたようだ。

「カール、大変だのう・・・しかし、そのうちに騎士に取り立てられたら、ワシのような変わり者と渡り合わなければならぬのだ」

 僕はすかさず突っ込んだ。

「フリードリヒ殿が変わり者だなんて、思うわけないじゃないですか?」


「ふふふふ。やはり、殿下は社交術に長けておりますな。流石です。

 カール、其方の願いは騎士だろう? 殿下に騎士に任じられる可能性もあるのだ。勿論、私の部下としての騎士任命もありうる。ま、オットーが嫌がるだろうがな」

(あれ、それってどういう意味なんだろう?オットー様にとって、カールさんが騎士になることって・・・わかんないなぁ)


「オットーは、おぬしらのことを高く評価していたぞ。残念なことに、おぬしらを召し抱えるほどの領土?所領はもっていないからな。この砦もわしの直臣と、公爵様の兵士に分かれるが・・・どうしても直臣にはつらい任務を当ててしまうしのう・・・オットーは部下は皆公爵様の兵士だけだから、平等に気を使わなくていい。

 でも、おぬしらのような優秀な部下が欲しいと申しておったぞ」

「そうなんですか・・・」カールさんが感慨深げだが、気持ちを隠した感じで答えた。

「おぬしも傭兵団を率いる者だ。わかると思うが、死を覚悟しなければならない任務もある。その時に、直臣に頼むのか、公爵領の兵士に命ずるのか・・・これは、リーダーとして難しい問題だ」

「なるほど、辛い選択です」

「うむ。わかるだろう?」

その時ノックがされて、使用人さん達がお茶を持ってきた。伯爵様は、お茶を飲んでみせて、皆に勧めた。お茶は薬草茶だった。おいしかった。


「さて、殿下? カールたちもワシの前では緊張して辛いだろうから、ちょっと商店街でもみてきては、いかがかな?」

(僕は心が躍った。商店街って初めて聞く言葉だ)

「え? 商店街って・・・」

殿下は、買い物とかしたことがないでしょうからね・・・どこの店でも伯爵につけてと言えば、大丈夫ですぞ」

 フリードリヒ様は、目配せした。

(ちょっとまって。そういう訳にはいかないよね・・・)


 その時、クリスタが執事さんに連れられて部屋に入ってきた。

「クリスタ様でございます」

 クリスタは、中に入るとコーテシーで膝を曲げて伯爵様に挨拶した。

(一体どこで、そんな所作を覚えたのだろうというぐらい、洗練されていた)


「ほほう。やはり、殿下のお眼鏡に適う少女であったか・・・」

小さい声だったので、皆聞き取れなかった。

「その民族衣装は・・・アレマン人のものか?」

 カールさんが、すかさず、答えた。

「これは、中継の街で頂いたものです」

「そうなのか・・・いや、私の母が、実はアレマン人だったのだ・・・驚いた。アレマン人は、部族としては滅びたと言われているので・・・いや、本当に驚いた。というか期待してしまったよ・・・しかもオッドアイなのか・・・私の母もそうだったのだ・・・」


(どういう意味なんだろう・・・アレマン人って何?)


アレマン人は、ゲルマン人の一派で、スイスからオーストリア、ドイツ南部を支配していました。

伯爵のお母様は、公爵家の使用人だったのですが、実はアレマン人でした。

フランス語では、ドイツをアルマーニュといいますが、これはアレマン人のことを指しています。

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