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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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第75節 アーベントイラー マンテル・フォン・プラッテン

クラウディアさんは、アグネス様より、新しい鎧をいただきました

 やはり傭兵団の倉庫小屋には、ジャベリンの在庫が無かった。本当に矢しかない状態だった。矢は束になって紐で縛られて上向きに保管されている。倉庫といっても粗末な小屋なんだけど、中に入って少しづつ矢の束を横にどけながら探していると、後ろから声がした。


「あれ、だれがいるの?」この声はクラウディアさんの声だ。

「あ、僕です。ミヒャエルです」

「なんだ、使徒様か・・・どうしたの? びっくりさせないでよ・・・」

 クラウディアさんは、ナイフを仕舞いながら中に入ってきた。そうか、警戒されていたわけね・・・間違えて刺されたら大変だった。


「・・・いや、遠征にいくんですよね? 僕、ポーターとして、荷物の準備しようかなって思って・・・でも、ジャベリンがないんです・・・」


「ああ、それでそんな奥までがたがたしちゃっている感じなのね? 探しても無駄よ。

ここはね、私の矢だけになったの。クラウディアちゃん専用弓矢倉庫になったのよ」


 僕は矢の束をどけながら、かつ戻しながら、やっと表に出てこれた。クラウディアさんは倉庫の扉の正面に戻り、腰に手をあてて立っている。


「ほらほら、見てみて。扉にちゃんと書いてあるでしょう? クラウディア様の矢専用倉庫って」クラウディアさんは、僕が出てくると、両開きの扉の片方を閉めて、指で、字が書いてあるところを指した。確かにラテン語でそう書かれている。

(あ、気づかなかったよ・・・だから他のがないのか・・・)


 僕は、あまりうまいとは言えない、なんとなく可愛らしいラテン語の文字を読んでから答えた。

「・・・本当だ。気づきませんでした。探してもないはずですね・・・」

「でしょ? で、使徒ちゃまは、ジャベリン探しているんだっけ?」


(うーん。可愛い呼び方だけど、使徒という言葉と、ちゃまって違和感があるんですけど・・・)

僕は、気にしないようにして、会話を進めた。

「そうなんですよ。矢専用になったのなら、探しても出てこない筈ですよね」

「でしょ? ジャベリンとかは、もう少し奥にぼろっちい小屋をアレクシスが建てたから、そっちに移したのよ・・・で、今回も運んでくれるのね?助かるわ」

「まぁ、仕事ですから」僕はそう言いながら、自分でも仕事って言えるなんて格好いいななんて感じていた。


 ふと気づくと、クラウディアさんは、なんか変わった服をきている。白い、胴鎧のようだけど、鋲がいくつも打ってあって、袖がない。その下にはいつもの長袖の緑色の服を着ている。


「あれ、クラウディアさん。そんな服もってましたか?」

 僕が尋ねると、クラウディアさんは嬉しそうに、目を輝かせた。

「いいでしょう? アグネス様がくださったの。新型の胴鎧なんだよ。こう見えて、この中には鉄板が入っていて、それなりに重いの。ただ、難点は白いのよ・・・でも見てみて、後ろで、ベルトで留めなの。ここが格好よくないかな? なんか戦士って感じなの」


 そういうと、クラウディアさんは、僕に見せるために、ぐるりと回転した。確かに背中の3本のなめし皮のベルトで締められている。

(これは一人では留められないから、従者がいないと脱ぎ着ができないよね・・・そこが格好いいと感じるって結構マニアックだな)


「これ、マンテル・フォン・プラッテンっていうらしいけど、凄く近くで打っても、鋼鉄の矢じりが通らなかったんだって。鉄板が厚いのよね。この部分に鉄板が入っていて、それを布地に鋲で留めているのよ。なんだか、今度、砦の制式鎧になるらしいよ。その試作品をアグネス様が私に下さったということなの」

「へ~。よかったですね。新しいタイプの胴鎧なんですか・・・でも、確かに白くて悪目立ちしそうですね」

「そうそう、そうなのよ。矢が通らないといっても、白くて目立つといい的になっちゃうし。・・・それに、腕までは守ってくれないからね・・・」


 クラウディアさんは、すこし困った顔をしている。マンテル・フォン・プラッテンって、なんか語感的に着丈が長い感じがするけど、実際にはお尻が隠れるぐらいの長さだ。鎖帷子の下に着る、綿入りキルトみたいな色・・・白というか生成りの色だ。


 クラウディアさんは、ため息をついた。僕は考えるのを中止し、クラウディアさんに意識をむけた。


(憂えている顔が素敵だ。睫毛長いな・・・ヘルマンさんは睫毛が無いのに・・・あれは燃えて無いのかな。しかし、親族っていいな。こんなに矢じりも作ってくれるし・・・僕にもおじさんとかいるのかな・・・いたら、たくさん食べさせてくれるといいな・・・)


 僕はちょっとひらめいた。

「あの・・・それ、布なんですよね・・・白いのが嫌なら、染めたらいいんじゃないですか?」

クラウディアさんは、ぱっと目を見開いて、顔一面で喜びを表現したというか、嬉しそうだ。

「さすがね。使徒ちゃま、天才。そうか・・・思いつかなかったわ・・・染めたらいいのね」

「でも、鎧を下さったアグネスさんに、一言いったほうがいいと思いますけど」

 クラウディアさんは、また沈んだ顔に変わった。見ていて面白い変化だ。考えが筒抜けだよね。

「うひゃ・・・言えないよ・・・ね、なんかケチをつけたみたいじゃん・・・

使徒ちゃま、言ってきてくれない?」


(え~。それはないよ・・・)クラウディアさんは、反論を許さない勢いで、畳みかけるように言葉をつづけた。


「私が白いために目立って、凶悪なゴブリンに目をつけられ、ゴブリンの毒矢に当たってしまって倒れたら、ちゃんと体を浮かした状態で、ヘルマンおじさんのところまで運んでね。途中でぶつけたりしないでね・・・痛みはもう感じないんだろうけど・・・」


(おいおい、嫌だよ・・・あの人のところに? それって死体でっていう意味なんだよね・・・切り返ししないと、話が変な方向にいっちゃうぞ。なにしろ、クラウディアさんは怒涛の妄想連鎖が得意だったからな・・・)僕はひらめくままに、解決策を捻りだした。


「じゃ、アグネスさんに直接言うより、オットー様から言ってもらったほうがいいと思います。できれば傭兵団の団長から正式にということで・・・なにしろ、遠征の成功がかかっているわけですからね!」


 クラウディアさんは、僕の言葉を、一語一語、咀嚼するように考え、そして顔をまた輝かせた。わかりやすい人だ。僕的には、うまく躱したつもりだったんだけど、結局、僕がカールさんに忠告したようにして、カールさんがオットー様にお願いすることになった。なんでこうなるのかなぁと思いながら、カールさんに会いに行く破目になってしまった。


 カールさんは、傭兵独身寮の自分の部屋にいるようだ。カールさんの部屋のドアをノックすると、すぐにカールさんが出てきた。上半身裸で、下は下着のみだ。しかも、汗をだらだらかいていて、息が上がり気味だ。

「あれ、使徒様。どうしたの?」

すると部屋の奥からも聴き慣れた声が聴こえた。

「おお、使徒様か、どうしたんだよ~」アレクシスさんも続けてドアのところまで出てきた。彼も裸で汗がすごい。

(一体何をしてたんだろう・・・なんか変だな・・・しかも、なんか男くさい)


「すごい汗ですよ・・・二人で何をしていたんですか・・・まさか・・・」


「ああ、俺たち、筋トレしてたんだよ。すこしでも筋肉をいじめて太くしておかないと、初めてのところにいくからな。でも、遠征中に筋肉痛で動けないのは困る。今日が筋肉痛にならない最後のチャンスなんだ」

 カールさんは、爽やかに話した。

(よかった・・・そうなんだ・・・)

「傭兵は体が資本だからな」


「・・・そうなんですか・・・」


 アレクシスさんが汗を拭きながら、にやにやして言った。

「はははは、使徒様は、やばい想像でもしてたんだろう?顔に書いてあるぜ」


 カールさんは、アレクシスさんの言葉に、わけがわからないという感じできょとんとしている。


「・・・なんだ?そのやばい想像って?」

「あわわわわ、変な想像なんてしていません! アレクシスさんこそ、変なことを言わないでください」僕はすこし慌ててしまった。

 アレクシスさんは、ふっと笑って言った。

「大丈夫だよ。使徒様は、俺たちが斬首になるようなことを、していたんじゃないかと思ったのだろう?」

 カールさんは、やっと言っている意味が分かったようで、真っ赤になった。


「使徒様。俺たちは、決してそんな関係ではないぞ。絶対他の人には言わないでくれ。誤解を招くからな・・・」

「いや、僕こそ、そんな想像はしていませんから。もうこの話はやめましょうよ」

「そ、そうだな。アレクシスも変なことを言わないでくれよ」

「おいおい。元とは言えば、使徒様が、変な想像をしたからだろう? 俺がかまをかけたら、大当たりだったわけじゃないか。まぁ、少年は多感だからな。仕方ないけどよ。俺だって相手がカールじゃ嫌になるからな・・・」

「ちょっと待て。もう止めよう。増々変な方向にいきそうだ」カールさんが終止符を打ってくれた。


 それから、しばらくの間、誰も何も言わず、僕らはずっと気まずい雰囲気のままだった。


沈黙破ったのはカールさんだった。


「そういえば、使徒様は、なんか用があったんじゃないか?」

「あ、そうなんですよ。クラウディアさんから頼まれたんです」


 カールさんは、片側の眉を吊り上げた。警戒している感じだ。


「何を頼まれたの?・・・嫌な予感しかしないんだけど・・・」

「あの、クラウディアさんは、アグネスさんから、新しい銅鎧をいただいたんですが、色が白なんです。城壁の上で使うなら問題ないでしょうけど、森の中とか外だと、目立ちますよね。それで、色を染めたらどうかなって」

「いいんじゃない・・・なんか問題があるのかな?」

「カール、あれ、アグネス様からの下賜品だろう?」

「ああ、そうか・・・勝手に染めるのはまずいな・・・」

 アグネスさんは、宮宰様のお嬢様だ。つまり、貴族だ。しかも公爵様に続く位の貴族だ。軍に所属しているとはいえ、貴族の階級的には、オットー様より物凄く上だ。


「・・・そうなんです。だから、カールさんが、オットー様に言って下さらないかなっていうのが、クラウディアさんのお願いなんです・・・」

 カールさんの眼が大きく見開かれている。

「なんでそうなるのか、理解に苦しむのだが、なんかトバッチリだよな?・・・」

「カール、可愛い団員のためだろ?ひと肌脱いでやろうぜ。それ以上は脱げないけど」

 アレクシスさんは、真面目な顔でそういっているが、笑いを堪えているのがわかる。


「まいったな。アグネス様に直接言うなんて無理だしな・・・それに、あれは、砦で発注した試作品なんだろうし・・・まぁ、そうだな・・・オットー様経由がいいだろう・・・わかった。今から話にいってくる」

「お願いします」

 カールさんは服を着始めた。アレクシスさんも服を一式わきに抱えて、出ていこうとした。

「アレクシスさん、ちょっといいですか?」

「ん?どうした?」

「ジャベリンが倉庫に見当たらなかったんですよ。遠征で持っていくんですよね?」

「ああ、倉庫、奥に移転したんだよ・・・今から一緒にいこうか。また運んでもらいたいし・・・」

「わかりました。どの倉庫だかわからなかったので、場所教えてください。お願いします」

「こちらこそ。じゃ、カール頼んだぞ」

「うむ」カールさんは、偉い人に会うので、いい服を用意している。僕は、アレクシスさんと部屋を出て、廊下を通り、階段を下り、玄関から出て、裏庭についた。

「あの・・・服を着なくてもいいんですか?」

「まぁ、裏庭だからさ、人も見てないし、まだ暑いんだよ」

「そうですか・・・」



 独身寮の裏庭の一番奥にある、小さな小屋にジャベリンが束にされて置かれていた。

「ここだよ・・・なんか倒れそうなボロ小屋だろ? クラウディアがヘルマン親爺に沢山矢を造ってもらったんで、邪魔だからジャベリンとか部屋に持っていけっていうんだよ。俺だって部屋で剥き出しのジャベリンが置いてあったら。けがする可能性が高いだろう?だから、小屋を俺が自分で建てたんだが、材料が古材だからな・・・新築なのに最初からボロい感じなんだよな。まぁ、雨がかからなければいいんだよ。しかし、本当にクラウディアには敵わんよ。あいつ我儘なんだよな・・・まぁ、可愛いから許しちゃうけど」

一気にそういって、溜飲をさげてから、アレクシスさんは扉を開けた。


中には所狭しと色々なものが置かれていた。基本的に消耗品類しかないようだ。剣や防具など個人装備は部屋に置いてあるらしい。僕は、ジャベリンの束を見つけた。


「・・・あれ、なんか短くなってないですか・・・」

「お、気づいたな。流石だ。ちょっと短くしたんだ。重さは変わらないけど・・・長いほうが安定して飛ぶんだが、材料の節約も兼ねて、軸を短くして、そのかわり手で投げないで、投擲用の道具を使うようにしたんだよ。前から練習してたんだけどさ、いよいよ、本番デビューってわけだ」

「へー、そうなんですか」

「そう。それに、投擲用の道具は、矢も投げられるんだぜ。クラウディアが沢山ため込んでるから、ちょっと使わせてもらおうかなってな・・・腕で投げるより数倍は飛ぶんだ」

「え?矢って弓じゃなくても飛ばせるんですか・・・不思議ですね」

なんか、想像できない感じだ。僕は矢を手でもって飛ばしているアレクシスさんの姿を想像してみたが、ピンと来なかった。


「ヘルマン親爺特製の矢はバランスがよくて、羽もついているからまっすぐ飛ぶんだよ。

親爺はさ、矢じりしか造らないって言ってたんだが、クラウディアにねだられて、矢じりを軸につける仕事もやったんだよ。それが予想外に上手くてね・・・まぁ鍛冶屋は武器のバランスにはすごく気をつかうから、センスが研ぎ澄まされているんだろうな・・・

 あ、そういうわけで、ジャベリン打ち尽くしたら、矢を使うから、よ、ろ、し、く・・・はくしょん。やば・・・寒くなってきた。じゃ、あとは頼む。鍵なんてないから、扉を閉めておいてくれれば大丈夫。使徒様またな」

 アレクシスさんは、服を抱えたまま、走って寮に戻っていった。


いかがでしたか。作中に出てくる胴鎧は、12世紀末ぐらいから使われるようになった、部分鎧です。日本ではブリガンダインのほうが馴染みがあるかと思います。参考文献では、coat of plates です。それのドイツ語直訳ですみません。

あと、話の中で、カールとアレクシスが部屋の中で大汗をかいているシーンがあり、ミヒャエルが変な想像をしていましたが、同性愛に関しての悪意や偏見を表すつもりはありません。ただ、中世では、いわゆるソドミーがばれると、斬首刑になったと言われています。斬首は、斧か、処刑用の剣が使われました。本作中でも、以前、ベルタさんという、女性の処刑人が出てきましたが、彼女が持っていた剣が、処刑用の剣です。先はとがっておらず、剣の幅は太目で先にいっても細くなりません。これは斬首専用だからですね。


このあと、いよいよ、冒険者たちという意味のアーベントイラーになっていきます。

まずは建設中の塔砦に向かいます。


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