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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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第75節 アーベントイラー 早朝の困った人達

おそくなりました。

身体が弱い人なので、風邪をひきやすいです。

風邪ひきさんになると、途端に生産能力が低下します。

目が覚めると、もう夜が明けていた。肌寒いので、おかしいと思ったら、藁ふとんをかけていなかった。

どうやら服を着たまま藁ふとんの上で寝てしまったようだ。多分、風邪をひいたみたいだ。だるいので、とりあえず横になったまま、考えた。

(今日は何か予定あったかな・・・だるいなぁ・・・一日寝ていたいよ)


 色々思い出そうと昨夜のことを思いめぐらしていた。

まず、剣のお稽古は、フィリップさんがバイエルンに出かけたから、しばらく休みだし。というか、ここ数日怒涛の日々だったなぁ・・・あまりの変化についていけてないと思う。いや、考えるのを止めているだけかもしれない。なんだか周りの言うままに、僕は殿下ということになっているけど、もしも違っていたらどうなるんだろう。王子を騙った罪で処刑とか・・・嫌だ。


(逃げちゃおうかな。今なら逃げても・・・いやダメだ。ご飯が食べられなくなる。そうなんだよ。ご飯が一番の悩みだ。鉱山地下に最近行ってないな。なんかすごりドロップとかで、一生食べ物に困らないようになれないかな・・・くそ)


 僕は、なんとなく感じた怒りに、ガバッと上半身を起こした。

(あれ、筋肉は痛くないな・・・それに二日酔いもない・・・すっきりしているよ。小さいジョッキだけだもん・・・あ、そうそう、風邪ひいてだるいと思っていたんだけどね。そして、不安から逃げようかとか思ってしまったんだっけ・・・なんだか支離滅裂だ。どうしちゃったんだろう。お酒のんだせいかな・・・)


 ふと、レオン様の馬鹿でかいジョッキというか、取っ手のついた花瓶というか、あの映像が頭をよぎった。笑いがこみあげてくる。すべてが規格外だからなぁ、レオン様。

体の大きさもオーガーみたいだよね。手の指なんて、全部が親指みたいだし。聖書にでてくるペアリジットの巨人、ゴリアーツみたいだよ。僕はすっかり気分が良くなっていた。


 その時、ドアをノックする音がした。

「起きてるかい?殿下。空飛ぶ傭兵団のカールだよ・・・」


 僕は返事をして、ドアのところに歩いていき、ドアの鍵を開けた。すぅっとドアが開き、表情の暗いカールさんが立っていた。


「やぁ、おはよう。殿下。早起きだね。頭が痛くないかい?」

「グーテン・モルゲン! いや、痛くないですよ。カールさんこそどうなんですか」

 なんか、カールさんがすまなそうにしている。どうしたんだろう?


「・・・昨日はすみませんでした」

カールさんは、ぼそぼそと何か言っているんだけど、よく聴こえなかった。


「・・・えっと、何かありましたっけ・・・」

「え?俺、何か粗相してないかな・・・」

「記憶にございませんが・・・何か?」本当に何も無かったはずなんだけどね・・・


カールさんは、ほっとした感じで、苦笑している。瞳に少し安堵した感じが宿った。

「・・・いやぁ・・・実は、昨夜の記憶がないのでね・・・

 気づいたら寮の入り口で、コンラート達に両肩を持たれていて、アポロニアが腰に両手をあてて立っていてさ・・・なんか怖い雰囲気だったけど、俺に聖なる癒しをかけてくれて、酔いが醒めたんだよ。そして、とりま、寝なさいと怒られてさ・・・」


「そうですか・・・カールさんは、昨夜は普通でしたよ。ただ、眠いようで、オットー様の隣に座りながら寝てました」

「そ、そうなのか・・・昨日は作戦会議だったんだけど、使徒様の剣のお稽古が終わらなくてさ・・・待っているのは辛いからって、レオン様が、新しくできたエールを持ってこさせて・・・宴会だよ。シュトルムより強いんじゃないかな・・・あのエール。

でも、これがまた美味くてね・・・発酵が止まってないから濃いーのよ・・・でもさ、口当たりがよくて、シュワシュアしててね・・・あ、おっほん・・・酒の話をしにきたんじゃないんだ。えっと、こんなに早くきたのは・・・昨日話ができなかったので・・・ちゃんと話しておかないとと思って・・・」

カールさんがいつもの感じに戻ってきた。


「なんか、斥候に行くんですよね。最前線の砦よりも向こう側に」

「あ、そうそう。なんだ。知っていたのか。殿下は誰からきいたの・・・ですか?」

「昨夜、オットー様から聴きましたよ。隣にカールさんも居たじゃないですか」


 カールさんは、「うっ」と短く小さな声をだし、赤くなった。僕もちょっと意地悪したくなっただけなのだけど結構恥じ入っているので、可愛そうになってきた。


「・・・殿下、申し訳ありません。殿下の参加というか、ご加勢をブルーノ神父様にお願いしたのは、私です。勿論、我が傭兵団の総意であります」

 カールさんは申し訳なさそうにうなだれている。


「いや、カールさん。逆に僕がチームに呼ばれていなかったら、なんとなく寂しかっただろうから、気にしないでください。僕、荷物持ちぐらいしかできないけど、空でも飛んじゃうし、どこへでもいきますよ。一応、傭兵団の下働きだと思っていますので・・・」

 僕は、できるだけの笑顔で応えた。

「ありがとう存じます。殿下。本当に・・・」赤くなったと思ったら蒼くなってきた。

カールさんは泣きそうだ。

(でも、僕の気持ちは事実だ。この街に来たときに、仕事をくれて、ご飯を食べさせてくれたのは、カールさん達、傭兵団だったからね。恩義があるというものだよ)


「おー」その時、野太い歓声とともに、いきなりドアが開き、空飛ぶザクセン人傭兵団のメンバーがドアからなだれ込んできた。驚いて、僕の猫が足元の隙間から飛び出していった。うは、尻尾が太くなっている。

「やっぱ、我らの使徒様だよな」とアレクシスさん。盾職の二人も、もそもそしているけど嬉しそうに微笑んでいる。

皆でドアの向こう側で聞き耳を立てていたようだ。気になっていたんだろうね。


壁がドンドンと叩かれ、アーデルハイトの叫び声が・・・「ちょっと変態君、静かにしてよ・・・まだ明け方なのよ。男たちだけで朝から何してんの?」

(一番うるさいのは、アーデルハイトの声だと思うけどね。ていうか、久しぶりに変態君って呼ばれたなぁ・・・彼女にとって僕はずっとそうなのだろう・・・訂正する気もなくなっているけど・・・せめてクリスタみたいに使徒様ぐらい言ってほしいよ)


「しー! 皆、だめじゃないか。まだ夜が明けたばかりなんだから・・・」カールさんが小声で傭兵団のメンバーに言った。

(・・・あとでアーデルハイトに会ったら、きっとネチネチ嫌味を言われるな・・・嫌だいやだ・・・参った。なんか対策を考えておかないとね)


「というわけで、いつから出かけるのかという話をしたいんだが・・・」と小声のカールさん。

「じゃ、外にいきましょう」僕もつられてコソコソと答えた。


「そうだね・・・」

「・・・じゃ、とりあえず、外に出ましょう」

「いいね。皆、出よう。いいか静かにだぞ。ハイジのやつ、根にもつからな」


 カールさん達は、ゾロゾロとかつ、コソコソと背中を丸めて出て行った。僕は、扉を閉めて、最後に後に続いて出た。

(カールさん、アーデルハイトを愛称のハイジっていってたな。僕なんかいまだに愛称で呼べないんですけど・・・)


 アーデルハイトに遭わないように、明星亭と隣の建物の間の細い通路を、皆でおそるおそる通って、ぞろぞろと大通りに出た。まだ朝早いので誰もいない。砦や城壁の当直衛兵の交代もまだのようだ。朝独特の空気の臭いがする。結構朝露がかかっているようだ。


 カールさんは大通り、といっても街には通りは一本しかないのだが、の真ん中まで歩き、振り返った。ここは第2門の前で少し広くなっているところだ。通称門前広場だったかな。

「さてと、どこで話そうか?」

「まだ第2門が開いてないからな、寮の玄関ホールぐらいしかないんじゃないか?」

「アレクシス、今度は寮の奴らから怒られるぞ・・・」

「じゃ、どうするんだよ・・・鉱山口だってまだ開いてないぞ。例の騒ぎが起きてから、吊り橋も夜にはあげられているから橋も渡れん」

「困ったな・・・」

「お前が朝早すぎたんだよ。老人じゃねぇんだから」アレクシスさんは相変わらず口が悪い。

「急げっていってたのはお前じゃないか」とカールさん。


「じゃぁ、僕、転移門開きますから、好きなところを決めてください」

「お、さすが殿下。気が利くね~」アレクシスさんがご機嫌だ。


「じゃあ、弓の練習場の休憩コーナーはどうだ?」

「いいね~」


話がまとまったようだ・・・確かに、あそこは屋根もあるし、飛んでくる矢を避けるための壁もあって、しっかりしているし、椅子もある。でも、ふと思ったのだけど、男子だけで話していいのだろうか。気になる。


「あの・・・念のため、開きますけど、クラウディアさんやアポロニアさんには、お声をかけなくていいんですね」

 カールさんは、あっていう顔をした。

(やっぱりな・・・そうだと思ったよ)


「そうだよな・・・アレクシス、呼んできてくれよ」

「嫌だよ。女子寮は女くさいから嫌だ。それに朝早いから、変態扱いされるし、入れても玄関ホールまでしか入れないだろうよ。昨日酩酊状態をアポロニアに治してもらったときに話をつけたんじゃないのか?」


 カールさんは、また、「あっ」という顔をした。わかり易い人だね。でも、戦闘となると人が変わったように、優秀な戦士になるんだけどね。でも、キリッと変わって、決断したように、僕に言った。


「よし。殿下。とりあえず、弓練習場に門を開いてほしい。お願いします」

「はい。すぐに開きますね」


 僕は、最近は、意識するだけで転移門を開けるようになっていたので、すぐにその場所への門を開いた。青い縦長の卵のような門が、大通りの真ん中に出現した。周囲の空気を呑みこむようにシューと風を切る音だしている。みんな手慣れたもので、どんどん中に飛び込んでいって、次々と4人が消えて行った。僕は最後に周囲を確認して、ゆっくりと歩いてはいった。転移門は瞬時にこちらの場所とあちらの場所をつなぐだけなので、厚みはない。しかし、見た感じは真っ暗で、光りの射さない真っ暗なトンネルと言った感じだ。厚みがないのだから、入るとすぐに向こう側にでる。振り返ると、入る側と同じで、蒼い輪郭の輪と暗いトンネルのような中身だけが見える。時々、目的地ではなくて、地獄だとか、嫌なところにつながってしまっていたら・・・なんて不安がよぎることもあるが、今回も大丈夫だった。


 そこは、見慣れた、弓練習場の奥にある休憩所だった。一番西側にある、新しい城壁に沿って作られた施設だ。自分の放った矢を回収するまで、ここで待避する決まりだ。下手に的に近づくと射抜かれる恐れがあるので、矢を避けるための屋根と壁がある小屋のようなものだ。

 扉はなく、アーチ状の入り口があるだけ。壁は石を積んで作られた。最近は季節が冬に近づいてきていることもあり、石は冷気を放っていた。


 カールさんが、入り口から中を覗いて、振り返り、こっちへ来いと合図した。なんだか、ダンジョンの中で見る仕草だったので、すこしおかしく感じたけど、黙って皆と一緒に入った。


「あ、パンの焼ける匂いがする。ハンス焼いてるな・・・うー腹減ってきたぜ」

「アレクシス。第2門が開くころには終わるから待てよな・・・というかそもそも大人は一日2食だって教会で決められているじゃないか・・・

 で・・・まずは座ろう」


 休憩所の中にはテーブルと背もたれのない椅子が4脚、セットで据えつけられている。みんなガタガタと椅子を動かして座った。床は石が貼られているので、椅子を動かすと結構うるさい。なんとなく食堂のテーブルみたいだ。


 もともと、西側には川が流れている。この川の流れを利用した粉ひき所が川の側になった。そして、その崖の上に、パン焼き工房がある。旧城壁の内側だ。その城壁に沿った北にエール醸造所やら、その職人らの宿舎が造られている。そうそう、オーガーの奴隷だった人達だね。そして、さらにその北に休憩所があるのだ。

テーブルの上には忘れ物と思われる矢が数本置かれていた。軸に砦の名前が刻まれているので、砦の兵士の忘れものだろう。皆、矢が置かれたテーブルを囲んで座っている。


「さてと・・・今回の仕事の話だが、オットー様たちからは、冬が本格的になる前に帰還するように言われている」

「というか、それまでに結果を出せということだろう?」とアレクシスが突っ込む。

「まぁ、できれば、そうだろうな。殿下には申し訳ないが、毎晩、門で砦に帰るという選択肢もある。そうすると飯には困らないんだよな」

「随分とお気楽な冒険という感じがしてきました」僕は思ったことをそのまま口にした。

「あははは」大人たち4人が笑った。


「・・・でも、殿下。最前線の砦から先がどうなっているのか、200年前の情報しかないんだ。砦から斥候が出されているが、基本的には街道を少し先にしか行かないし、あとは砦の城壁の外側のチェックだけが奴らの仕事だ。

俺らも砦に入ったことがあるが、そこまでの街道の護衛とか、衛兵の補助とか、そんなレベルなんで、あの周囲がどうなっているのか皆目見当がつかない。つまり、土地勘がありそうで・・・ない。すなわち、正直なところ、危険だ」

「そうだよな・・・この付近は悪魔の支配地とはいえ、砦と街道周辺は結界馬車とか聖水噴霧装置のお陰で、魔物が少なくなったものな・・・あの辺りは、完全にデーモンの領土だよ。どうなっているのか・・・」アレクシスさんは、普段見せたことがないような神妙な感じで呟いた。


しばし、誰も語らず、空白が流れた。ちょっと変な雰囲気なので僕はなにか発言することにした。

「・・・あの、任務は探索だけなんですか・・・渡河ポイントの周辺の安全確認のような話でしたけど、そもそも渡河ポイントも決まっていないんですよね」

 オットーさんは目を丸くして僕を見つめた。

「殿下、そこまで聴いてたのか・・・基本、帝国は丸投げ体質そのままなんだよ。ほら、城塞都市周辺のライン川は、千尋の谷だろ?でも、ライン川はその先大きく東に蛇行しているんだ。で、砦の情報では、どうやら千尋の谷ではないらしい」

「え、どういうことなんですか、カールさん。訳がわからないんですけど」

「そのままの意味なんだけど・・・知ってのとおり、城塞都市の西にあるライン川は水面が異常に低い。恐ろしい谷になってしまっている。そして対岸は地獄がせりあがった台地になっている。しかし、誰もライン川沿いに南下したことがないんだ。

川の上空には、ガーゴイルのような有翼デーモンがちょろちょろしているからな。しかし、蛇行した先、まぁ上流にあたるわけだが、そこは依然と同じように普通に流れているという説がある。

というのは、イタリア王国陥落の時に、パパ様の逃避行と同時に逃げてきた騎士達の後発隊が、渡河しているんだよ。いわゆる殿部隊だな・・・この部隊は、壊滅状態だったんだが、既に、ライン以西が地獄にすり替わった後に、こっちに渡ったんだ」

この話は有名なようで、アレクシスが相槌を打つように首を縦に振り、そして話した。

「あ、その騎士達が、聖遺物のいくつかを持ちこめず、どこかに隠したという話だろ?」

「そうだよ、アレクシス。今回の旅の本当の目的は、渡河ポイントの探索とその周辺の敵の警備状況の偵察だ。そう簡単じゃないよな」

「ま、川を渡って、聖遺物を探して来いと言うほど、無茶ではないけどな」


 皆黙ってきいているが、厄介な任務だと感じているようで、あまり表情がすぐれない。それを察したカールさんが、ため息をついて話を続けた。


「おいおい、皆。そんなに気負うなよ。誰も1回の遠征で成果を出してくれと言ってないんだ。俺らには殿下がいるんだから」

(ちょっと、カールさん。それどういうこと?)


 カールさんは僕を見て、ニヤリと笑った。

「オットー様からは、なるべく転移門は使うなとは言われているが、頻繁に使って敵に対抗策を立てられてもこまるからな・・・しかし、一日一回の塩砦、もしくは他の砦への帰還は認めて頂いた。砦内ではなく、砦の城壁の外だ。中継の街はだめだが、砦なら構わないそうだ」

 そこまで言うと、カールさんは僕の方に向き直り言った。

「というわけで、殿下、お願いします」

「は、はい」

「うむ。ダンケシェーン。では、みんな。3日後に出発したい。

最初は、新しい陣形を研究するためにも、殿下を伴わないで、築城中の塔砦まで徒歩でいく。で、砦を見学してから、殿下と合流し、つづらおりを下り、中継の街にいく。結界馬車を使うかどうかは決まっていないが、中継の街から最前線の砦までは、馬車は確定している。何か質問はあるか?」

「やった。あの塔の中身が見たかったんだよ」アレクシスさんが嬉しそうだ。

もそもそと双子の盾職の一人が訊いた。

「装備、いつもの感じかい?」

「あ、忘れていたが、公爵正規軍のサーコートを授与された」

「おー。本当か?」アレクシスは喜色満面だ。


「・・・うふふ。そうなんだよ。嬉しいだろう?公務だからな。しかも、元はと言えば、皇帝陛下からの依頼だからな。正式に塩砦の斥候傭兵小隊という位置づけになったし、既に命令書も頂いている」

「すごいな・・・あとで見せてくれよ」

「勿論、あとでな。え?どっちの事だ?」

「サーコートに決まってるだろう・・・書類なんかどうでもいい」

「ま、そうだな・・・お前らしくていいな。で、サーコートは俺達4人分しかない・・・クラウディアには話していないのだが・・・」

「それ、可哀想だろ・・・文句いってやれよ、カール」

「アポロニアにもないんだよ・・・あと殿下にもない」

「そ、そんな・・・俺たちは仲間だろ?」


 ・・・カールさんは、困った顔をして俯いた。


「僕はなんとも感じないですよ。そもそもアポロニアさんは、修道会所属ですからね。そういった意味では、要らないのではないでしょうか。修道服以外の服は着ちゃいけない決まりだとか聴いてますよ。弓兵のクラウディアさんは、どうなのでしょう」


 カールさんは、僕の言葉を聴いて、顔を上げた。

「殿下。ありがとう。本人たちにきいてみるよ。弓兵もサーコート着ているケースがあるからな。問題はサイズだけど。あいつ、小柄だからな。まぁ、アポロニアに至っては、もっと小さいが・・・」

「おい。頼むぞ。オットー様に掛け合ってくれ。俺だったら、サーコート欲しいからな・・・それより、早く、その、授与ってやつか?くれよ!」

「わかった、わかったよ。じゃ、とりあえず解散する。寮に戻ろう」


 僕らは、第2門に向かって歩いていった。もう、門は開いていた。もちろん正面に見える砦外部に通じる第3門は閉じたままだが、第2門は鉱山街の旧城壁と、訓練場などを囲む新城壁を区切る門だから、敵の侵入に備えて夜間は閉じられている。

 門をくぐると、広場になっている。そこで、僕はカールさん達と別れて、自分の部屋に戻った。


 部屋の前に着くと、僕のもふもふ猫が待っていた。猫用の小さいドアがあるのだけど、そこから中には入らないで、ドアの前に姿勢よく座っている。

 僕を見ると片手をすこし上げて、にゃと短く鳴いた。

「そうだ。朝ごはんまだだったよね」

 僕は部屋に入り、明星亭の女将さん特製の、猫ご飯をあげてから、またベッドに横になって考えた。


 僕はまだ少年だから、僕の体に合わせたような、小さいサーコートをわざわざつくらないだろう。まず、公爵様の紋章がでかいから、僕の体に合わせて裁断したら、紋章が切れてしまうと思う。

そもそも、サーコートは欲しくない。あれを着ていると目立つし、そもそも混戦時に敵味方を見分けるためのものだから、つけているだけで、うは、デーモンのターゲット決定だよ・・・

でもクラウディアさんはどうなのかな。確かに、砦の弓兵の人たちもサーコート着ているよね。公爵様でなくて、宮宰様の紋章だけどね。

クラウディアさんは、弓兵よりもレンジャーだと思っているだろうから、武装も弓兵っぽくないものね・・・

 

 僕はクラウディアさんの姿を思い浮かべてみた。ノルマン系の兜に、舐めし皮を張り付けたやつでしょう・・・それに短い皮鎧。その上にフードのついたチュニックを羽織っていて、皮の肩当てに、皮の手甲に・・・えっと。意外と正確に想いだせるのはそれぐらいか・・・あ、そうそう、ウールのズボンにロングブーツだよね。腰には小さなアックスを付けていたっけ。あの小さな斧に、名前つけていたよな・・・なんだっけ。


 そんなことを考えていたら、眠くなって、そのまま寝てしまった。


なかなか出発しませんです。ごめんなさい。


次回は傭兵団女性軍の意見です。

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