閑話 剣のお稽古
すこし、手を入れて書き直しました。7月11日
城塞都市から塩砦に転移門で移ったフィリップさんは、帝国領に向かう前に、宮宰様が話していた、剣の稽古をつけてくれるという。
なんとなく嫌だけど、仕方なく付き合うことになってしまった。しかも、シャルロッテ様も一緒にお稽古するというのだ・・・嫌な予感がするよ。
乗馬場の東側の草地に、可及的速やかに、集合だって。なんなんだ。可及的速やかって・・・宮廷用語なんだろうけど。
僕は、砦で、オットー様の従者さん達に、着せ替え人形みたいに騎士見習い用の鎖帷子を着せてもらった。
それから、集合場所まで従者さん達と歩いていったのだけど、結構歩くのが大変だったよ。そう、重いからね。
でも、これでも軽いほうらしい。まず、鎖帷子の上は、半袖だ。籠手というか、鎖帷子で編んだ手袋はついていない。
かわりは皮でできた小さい手袋だ。今日の練習内容的には、これで十分らしい。下半身は普段着のままだ。鎖帷子は腿までカバーしてくれる。
足は、皮のブーツを履いている。頭は剥き出しだ。従者さんは、むこうで練習前に鎖帷子の帽子とヘルメットを付けてくれるっていっていた。
練習会場に着くと、既にフィリップさんと、シャルロッテ様が居た。ロッテ様は全身鎖帷子だった。なんか胸当ても付けている。彼女は、僕の事を上から下までジロっと見て、
「あれ、随分と軽装ね」と言った。
フィリップさんはニコニコして立っている。僕をまっすぐ見つめ真顔になって言った。
「お似合いですな。あまり時間もないので、とりあえず始めましょう」
従者さんの一人が顔だけ出ている鎖帷子のフードと、ヘルメットを被せてくれた。樽のような、バケツのようなやつだ。凄く視界が悪い。口のあたりに穴が沢山あいているので、呼吸は問題ないけど、なんか臭い。
そしてもう一人の従者さんが、木製の剣と、お鍋の蓋のようなバックラーを持たせてくれた。剣は小さめにできているけど、バックラーは大人用と同じ大きさだ。結構重いし、でかい。これを持って腕を突き出して保持するとなると、筋肉がプルプルしちゃうかもしれないよ。
ふー、やっぱり、なんか臭いよ。鉄の錆のような、油のような・・・臭いだ。
それと、ヘルメットを頭に固定するためのヘアバンドみたいのが、すこしキツイみたいで、締め付けられるようだ。
フィリップさんは、もう一度僕を見て、ニヤリとした。
彼のヘルメットは、半球型で、鼻当てがついているタイプだ。鼻当てといっても、鼻にくっ付いているのではなく、ヘルメットの前部分から垂れ下がっているだけだ。前にオットーさんから聴いたことがあったなぁ・・・こんな頼りない板だけど、顔への致命傷を防ぐんだってね。
フィリップさんの装備は、宮宰様の執務室で見せてくれた一式だったが、サーコートは着ていない。吊り下げ式の革ベルトに剣を下げている。右手には、木剣を持っていて、左手にはバックラーを持っている。ロッテ様も同様だ。
「殿下、大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
なんか大きな声をだすと、ヘルメットの中で反射してうるさいんだね。
「では、参ります」
いきなり、木剣が凄い速さで打ち込まれてきた。僕はバックラーを構えていたが、構えていたところに撃ってくれたようだ。すごい衝撃だったので、手がしびれてしまい、バックラーを落としてしまった。すかさず第2撃が・・・僕の首のすぐ横で止まった。
「殿下。大丈夫ですか?」フィリップさんは木剣を納め、心配そうに僕のことを見ている。
近くで笑いを堪えているシャルロッテ様が視界の隅で捉えることができた。儀礼としてあからさまに笑わないだけで、内心は大笑いだろうな。
(悔しいというより、情けない)
「殿下。これが実戦なら、あなたは捕虜にされるか、もしくは殺されています」
ひえー、きつい現実を突きつけられてしまった。戦争なんてなければいいのに。でもさ、悪魔や魔物はすぐそこにいるし、例え悪魔軍を地上から駆逐しても、今度は貴族や部族間での戦争があるっていうんだもの・・・頑張らなくてはいけない。
「さて、殿下。 あなたはバックラーを落としてしまいましたが、何故だと思いますか」
フィリップさんは、無表情だ。探るように僕の眼を見つめている。そうか、落としても恥ずかしいことではなく、今の一撃の結果から学ばないほうが恥ずかしいのだ。
これはチャンスなんだ。僕はまだジンジンしている左手を意識しながら、斜め下の地面を見つめながら、何を言うべきか整理していた。それから、フィリップさんの瞳を見つめて話し始めた。
「本当なら、バックラーの構えていない、隙のある場所へ打ち込むものだと思っていたので、いつでも動かせるように、多少緩くグリップしていました。しかし、構えているところに来たので、反射的にぎゅっと握って・・・」
フィリップさんが、うんうんと小さく頷いてくれている。
「殿下。その通りです。いくつかの学ぶべき点がありますね。思いつくことをいくつでもいいので教えてください」
(うわ、難しいな。一つじゃないのか)
「・・・まずは、どこに攻撃がくるのか、固定的に予想してはダメなんでしょうね。相手の視線で攻撃を読むというのを考えていたのですが、相手のレベルが高ければ、あてにならないと痛感しました。視線のフェイントとか、もっと上級者だと、視点を集中させないというか・・・」
「ほう。凄いですな。まさかそこまで考えておられるとは・・・」
「そうなのですか?視線があてにならないだけでなく、筋肉の動きや重心もフェイントが可能だと聴いたことがあるように思います・・・」
フィリップさんは、無表情な状態から、いつもの優しい雰囲気に戻った。
「殿下は教えがいがあります。他に思うことはありますか?」
「はい。あの一撃は、盾を落とさせるための打撃ですよね。フィリップさんは盾の上で剣を止めたし。もろに衝撃が伝わりました。しかもぎゅっと握ったところなので、しびれてしまいました。抑え込めるほどの握力もなかったし。また腕も伸ばしていたし、力を逃がす動きができず、肩にまで衝撃が来ました。それで、見事にバックラーを落としてしまいました。完全に失敗です」
「なるほど。よくお分かりですな」
フィリップさんは、傍らで見学していたシャルロッテ様をチラッと見て、ニコリとした。僕らの話を聴いて色々と考えている様子に満足したようだ。
「まぁ、盾が無くても、リカバリーできる剣術や体術があれば気にしなくてもいいのですよ。むしろ、一つの武具や防具に執着し、頼り過ぎてしまうと、破れます」
「え、そうなんですか?」
「オットー卿が聖剣に頼り過ぎていたとします。一番最後のボス戦で、剣が折れてしまったらどうなりますか?」
「オットー様なら、なんとかできるような気がしますが、剣が折れたら、心も折れそうですよね。むしろ、心が折れるほうが怖いです」
フィリップさんは苦笑した。
「殿下、申し訳ありません。例が悪かったですな・・・心が折れるとは、面白いことをおっしゃいますな・・・彼なら聖剣を極限まで使いこなすことができたとしても、それに頼ることはないでしょう。実際、あまり使っていないですから」
「あ、そうですね。ケチって、ここ一番で出す感じですね」
「ほうほう、ケチとは・・・あとで伝えておきますぞ」
「あ、いや、訂正します。ケチってとは、温存をするという意味です」
「ふむふむ」
くすくすとシャルロッテ様が笑っている。
(ふぅ・・・言葉使いは難しい。貴族たちが言葉使いに慎重なのが良く理解できるよ)
「戦いは、単なる技術の応酬でもないし、力の押し合いでもありません。短い戦いでも、心理的な駆け引きや、周囲の環境の利用だとか、総合的な戦術が必要となります。決め技に頼り、頻繁に用いると、そこから破綻します。もしかすると、その強力な技のカウンター技が用意され、相手は今か今かと機会を伺っているかもしれません」
フィリップさんは、また、無表情になった。
「殿下。バックラーを拾ってください。必要なら、本当は、あのあとすぐに拾わないとダメなのですよ。実戦では時間がないのですから、剣だけにして戦うという選択肢もあります・・・さあ、もう一撃参ります」
僕はすぐにバックラーを拾って構えた。そこへフィリップさんの木剣が風を切って飛んできた。いや実際に飛んではいないのだけど、速いよ。飛んでいるようだ。僕は、回転している剣にバックラーをあて、腕を引くように力を逃がし、体を右に移動させた。
すると、フィリップさんは体をくるっと素早く回転させ、さっきと同じ方向から同じように打ち込んできた。
つまり、再び打ち込んでくる方向に僕は自ら進んでしまったわけだ。当然、力が強くなってしまうし、距離が無い分、間合いが小さくなってしまった。また凄い衝撃だ。今度も、腕を縮めて力を吸収したが、バックラーを支えきれず、バックラーから滑り落ちるように、木剣の刃が僕の身体に当たった。
これは痛いかもと思ったが、刃は身体には当たらなかった。あの速さで、身体を一回転させている途中の打撃なのに、刃を止めるどころか、もう、腰のベルトに差し込まれている。
「殿下、面白いでしょ?攻撃には想像できないような沢山のパターンがあるのです。また、剣の捌き方も様々な技術があります。なるべく多くの練習をして、色々な技を覚えておかねばなりません」
そういうと、フィリップさんは、シャルロッテ様の方に向き直った。
「さて、姫様。殿下にいいところを見えて差し上げましょう」
シャルロッテ様は、ニコニコと微笑んで、自分の木剣とバックラーを手にした。ロッテ様は既に鎖帷子のフードを付けているが、顔はむき出しだった。心配していると、すっと現れた付き人が、顔覆いと、兜を付けだした。ロッテ様のヘルメットは半球型で鼻当てが付いているタイプで、フィリップさんと同じだ。しかし、金色の縁取りがあって、工芸品という感じだ。
(やはり、姫様は違うね)
「では、フィリップ。お願いします」
「いざ、参りますぞ」
二人は、木剣を構えて、じりじりと近づいていった。ロッテ様は、バックラーを左手に持ち、前に伸ばして構えている。剣は後ろ側に切先を向け、柄を握る右手を左脇の下に入れている。フィリップさんは、同じように左手にバックラーを構え、右側の半身を後ろに引き、木剣は、右手を耳の横あたりに構え、前に向けている。
数秒にらみ合いが続いたが、いきなり勝負が始まった。隠し剣のような構えのロッテ様が急に前に飛び出した。フィリップさんが、剣を突き出した。身長差があるので、上から突くような感じだ。ロッテ様は、その突きをバックラーで受け流し、フィリップさんのすぐ前まで飛び込むように間合いをつめ、隠し剣を下から振り上げた。フィリップさんはバックラーを股あたりまで押し下げ一撃を受け止め、後ろに飛んだ。そこにロッテ様の振り上げた剣が戻ってきて空を割いた。剣は勢い余って地面に切先が当たった。すうっとフィリップさんが間合いを詰めて、ロッテ様の顔の前で木剣の先を止めた。
「・・・参りました」
ロッテ様が悔しそうな声で振り絞るように言った。
「いや、お見事でした。姫様。また腕を上げられましたな」
「フィリップ、お世辞は結構です」
「いいえ、このフィリップ、姫様を甘やかしたことはございません」
ロッテ様は、はっとして、口覆いをとって、半分側だけを残してぶらぶらさせながら、すこし後悔したような顔で言った。
「フィリップ、ごめんなさい。そうでしたね・・・」
「私は、姫様達が生き残ることができるように、お教えしているだけです」
そこに誰か別の女性の声がした。
「さて、それくらいにしましょう。おやつを持ってきましたよ」
皆が声のほうを振り向くと、アグネスさんだった。その後ろには、お盆にお茶やお菓子を乗せた召使さん達が立っている。
「これは大姫様。見目麗しく、お元気でなによりでございます」
「フィリップ、それだと、大きな姫のようではありませんか?」
「は、これは申し訳ございません。えっと、氷の姫様?・・・あの、なんとお呼びすれば・・・」
アグネスさんは、笑った。
「名前で呼んでくださいな」
「は、アグネス様」
アグネスさんは、今日は非番だった筈だ。だからだろう、お姫様のような恰好をしている。白いロングドレスの上に、青い丈の長い薄手のコートを着ている。頭には刺繍の施された、ベールのような覆いをつけて、その上からティアラを付けている。
覆いから垂れ下がる長い金色の房があるが、それは髪の毛だ。後ろ髪と横の髪で編みこまれている。砦でも、鉱山口でも、鎖帷子を着ていることが多いので、新鮮に感じる装いだ。腰には、各種の宝石が飾られた金属の4センチ四方ぐらいの板が等間隔で何個も付いたベルトを着けている。このベルトの端が長くて、ほぼくるぶしの高さぐらいまで伸びていて、ぶらぶらしている。
(おしゃれだ・・・というか高貴な身分の人というオーラがにじみ出ているよ・・・)
「ここのテーブルでお茶にしましょう」アグネスさんがしきりだした。
そういえば、これは小一時間ぐらい前に、兵士さん達が置いていったテーブルと椅子だ。召使さん達がテキパキと準備をしてくれて、お茶の時間が始まった。
「殿下はここね。ロッテは殿下の向こう側。フィリップはロッテの隣にお掛けになって」
召使さんが薬草茶をポットから注ぎだした。いい香りが広がっていく。
「アグネス様。周囲の目がありますので、私は立ったままで結構ですし、お茶もお菓子も遠慮申し上げます」
「フィリップ。そなたは、臣下かもしれませんが、私達の師匠です。教えを乞う者の願いを聴いてください」
「・・・しかし・・・」
アグネスさんは、側仕えの人たちを見て、こういった。
「ここは風が強いですね。風よけをお願いします」
すぐに数人の兵士さん達が、少し離れたところに寝かせてあった、衝立を持ってきた。側仕えさんの時指示で、すぐにテーブルの周りに衝立が立てられ、周囲からテーブルは見えなくなった。
(あれ、事前に仕込んでいたのか・・・)
「フィリップ。これならいいでしょう?」
「は、忝く存じます。お言葉に甘えて・・・」
それから、皆でお茶を戴いた。ハーブのいい香りが疲れを癒してくれる気がした。外でお茶を飲むなんて、いいね・・・さっき、アグネスさんが、風が強いとかいってたけど、実際には殆ど吹いていない。あれは、衝立を持ってきてもらうための遠回しな言い方なんだろう。貴族は大変だ。でも、なんかホッコリしたよ。僕らは何も言わず、しばらくじっとお茶を味わっていた。
口を開いたのは、シャルロッテ様だった。
「フィリップ。教えてくださる?」
「はい、ロッテ様、なんなりとお申し付けください」
うは。フィリップさんの顔がゆるんできている。ロッテ様が可愛くて仕方ないのかもね・・・
「以前から思っていたのですが、フィリップが色々と教えてくれるのは、人間との戦い方ですよね。姉上が教えてくださる馬術や槍術も対騎士です。でも、私達の周りは、魔物だらけではないですか・・・魔物向けの戦い方も教えて欲しいと思うのです」
「姫様。私も若い頃は、そう感じていました」
「え?・・・今はどうなのですか?」
フィリップさんは、すこし真面目な顔をして話し始めた。
「まず、剣や盾の扱い方は基本的なものです。相手が人であろうと、魔物であろうと、切る、刺す、叩く、払う、受け止める、受け流す、ブロックするなどの基本動作は同じです。
この砦が落ちた場合は、少ない護衛で帝国に逃げるとして、護衛も倒された場合、ある程度武器が使えないと、生き残れません。勿論馬術もそうです。魔物が帝国領の直前に立ちふさがった場合、ランスで蹴散らし、剣で切り開かないと帝国領にたどりつけませんからね。まぁ、人型の魔物は大抵同じような武器の操り方をします。力任せで雑な剣技が殆どです。だから、全てが生き残るのに役立つのです」
フィリップさんは、お茶を飲みほして、話を付け加えた。
「また、辿り着いた帝国内でも、政変があれば、戦争で生き残らなければなりません。戦わなくて済むような政治の力が大切なのですが、蛮族が相手とかですと、最初から講和とか無理でしょうし・・・できれば武力は行使しないのが一番なのです」
ロッテ様は、すこし不満げだ。フィリップさんの回答が想像の範囲内だったからだろう。そんな顔をみていたフィリップさんは、更に話を続けた。
「そういえば、この前、アンデッドに襲われたことがありましたね。アグネス様は、どのような敵だと感じましたか?」
「都市の民のようでした。殆ど武器も持っていないし、護身用の短剣を持っていても、素手で襲いかかるような・・・その攻撃も大したものではなかったようです。武装している戦士や兵士なら御しやすい相手だったようです。
ただ、数ですよね。一人で相手にしていると囲まれてしまう。また、相手を切っても死んでいるので、あまり怯まないし、とにかく押し寄せてくるので厄介でした」
「・・・そうですね。とにかく、距離を取って、長い槍で刺すとか、魔法で焼くとかが重要です。殿下。例の山城の時に出てきたアンデッドはどうでしたか?」
「長剣を持っていて、生前は騎士か戦士だったらしいです」
フィリップさんは頷いた。
「私も、若い頃、最前線の砦付近で、生前は騎士だったと思うアンデッドと遭遇したことがありました。冒険者気取りで、あちこち足を延ばしていたんです。あのときは、しまったと思いましたよ。
・・・そのアンデッドは、すごい剣の使い手でした。最初は、壊れた盾を持っていたのですが、私に盾を壊されると・・・まぁ木製で腐っていましたからね。すぐにバラバラになったんです。
しかし、むしろ、それからのほうが強かった。長剣を振るうのではなく、左手にもった剣の途中を、右手で掴んで、接近して、こちらの急所を直接狙ってくるんです」
「・・・ハーフ・スウォードの使い手だったんですか」アグネスさんが訊いた。
「お、姫様、その通りです。姫様もお使いになりますものね。
まさかと思いました。アンデッド特有の緩慢な動きしか想定していませんからね。そのアンデッドは素早い動きでしたので、人間の手練れの戦士と戦うような感じでしたね。
ロッテ様、元人間のアンデッド戦士ほど戦いにくいものはありません。しかし、基本的に今やっている稽古が生きてきますから、どうか精進してくださいませ」
「はい、わかりました」
シャルロッテ様は、その話が怖かったようだ。不満な感じは無くなっていた。僕も、お茶を飲みながら、ふむふむと聴いていたが、なんだか怖くなってきた。
フィリップさんは、僕らの様子を見て、話しを続けた。
「先程、殿下が視線を読むとか、視線のフェイントのお話をしていましたね。
経験上、視線をフェイントで使う魔物はいます。知能の高いタイプですね。近くの悪魔軍では、リザードマンの戦士が、そこそこ強く、剣や槍、斧などの技術が高く、フェイントも上手なようです。
ゴブリンの視線は殆どフェイントが無いので、そのまま読んでいても大丈夫。
オーガーのようなパワーファイターは、力で押してくるタイプなので、あまり剣技や槍術、斧などの技術というものはないですね。盾で受け止めるのも難しいですから、躱して攻撃が基本です。
アンデッド戦士は、目玉が残っている場合も、眼窩しかない場合もありますから、視線というのは気にしなくてもいいでしょう。目玉がぶら下がっているのは、戦いにくいですが・・・こちらの命というか気配を探って攻撃してくるようです」
うふぁ・・・ロッテ様も青ざめている・・・僕も寒気を感じてきた。
「もう、フィリップたら、目玉ぶらぶらは、子供の時、散々聴かされましたよ」
アグネスさんが、笑っている。
「アグネス様も、幼少のころは、蒼くなっていましたが・・・今は余裕ですね」
フィリップさんも微笑んでいる。
フィリップさんは、お替りのお茶を飲み干すと、そろそろ出発の時が来たようで、お別れの言葉を口にした。
「さて、そろそろ帝国に出発しますが、その前になにか、ご質問はありませんか」
「あの、ハーフ・スウォードというのは、どういう剣術なのですか」ロッテ様が訊く。
フィリップさんは嬉しそうだ。
「長剣の途中を手で握って急所を狙って刺す技術です。素手では無理ですが、籠手なり手袋をつけていれば、容易に持つことができます。こんな感じです」
そういうと、フィリップさんは、剣の中間ぐらいを片手でつかんで、空中を刺す真似をした。
「鎖帷子を着ていても、ピンポイントで首を刺されると、貫通してしまいます。即死です。鎖帷子は、切られる分には刃を防げますが、細い鋭利なもので刺されるとダメなのです」
「矢とか、ランスとかですね」ロッテ様が即答した。
「おお、姫さま、その通りです。殿下のバケツ型兜も、ハーフ・スウォードの使い手にかかれば、その細いのぞき穴から剣を差し込まれてしまいます。
長剣は、リーチが長い分だけ、距離をとって攻撃しますが、ハーフ・スウォードは、間合いを詰め、相手の懐に入って攻撃する技術なんです。相手も長剣だと、瞬間的に近寄り、隙を見て、急所を突くことが可能です。今度、躱し方を練習しましょう。
・・・おっと、出立の時間のようです。では、失礼します」
「いってらっしゃい。御無事で」
フィリップさんは、立ち上がると、姫様達や僕に丁寧に挨拶をし、スタスタと第3門に歩いていった。
いかがでしたか。
いよいよ、新しい章に入っていく予定です。
最前線の砦を超えて、悪魔軍の前線近くへ探索の旅へ出かけることになります。