第20節 さあ、ザルツブライへ出発!
ノープランってありますよね。
勢いだけで乗り切ろうとしても、無理があります。
やはり、計画が大事だと思います。
夜があけた。意外に藁って暖かいね・・・すっかり疲れていたので、ぐっすり寝た感じがある。
アーデルハイドは早くから起きて、宿屋のおばさんからパンとかベーコンとかスープをもらってきていた。食堂のおばさんとか、みんなの情けで彼女は生きているんだな・・・
僕は、さらにそのおこぼれで、ご相伴にあずかり、お腹がすこしいっぱいになった。
食べ終わったころには馬丁のおじいさんが来て、僕らは挨拶した。見慣れぬ男の子がいたので、おじいさんが驚いていた。まぁ、お互いに6歳ですから、変なことはしませんよ・・・血のおしっこがでるからと、脅かされたし・・・怖いよアーデルハイド・・・
でも馬丁のおじいさんは、寡黙な人で何も言わずにデッカイフォークで干し草を突き刺して運んで行った。
アーデルハイドは、器を返しにいって、皮袋に水をつめてきた。
「今日、馬車隊が出発するけど、どうするつもりなの?」
昨日は疲れすぎて何も考えられなかったし、相談もできなかった・・・まだ夜も明けきっていないようだし、少し考えないとな・・・
「馬車の下にぶら下がっていこうかと思うのだけど」
アーデルハイドは、鼻で笑った。
「あのさ、馬車隊って、朝明るくなって、門が開いてから出発するんだよ。馬車の下だって丸見えだよ・・・それに門番たちが、出ていくときじっと見てるから、無理だとおもうけど・・・」
そうか全く考えていなかったよ。そういえば昨日はもう夜だったよね。
もう夜が明けだしてきており、結構明るくなってきている。でも外は霧がかかっている。この街は盆地のような地形で霧が出やすいらしい。
うーん、どうやって馬車に乗ろう・・・思いつかないや・・・直接頼んでみようかとアーデルハイドにいってみたら、一言のもとに却下された。荷物は鉱山街の生活物資で、かなり重いらしい。事前申請して、大金を積まないと載せてもらえないらしい。
「そろそろ開門の時間ね。とりあえず、門までいってみましょう?うわ、まだ霧がはれないわね・・・こういう日は魔物が出やすいのよ・・・湿気が好きなんでしょうね」
僕たちはなるべく人目を避けて、道の端を隠れながら進んだ。昨日の門にむかって馬車隊が一列に並んでいる。先頭のほうは霧にかくれてよく見えない。かなり霧が深いな・・・
門のあたりは隠れるものがない。僕らは通りの隅に止めてあった荷車と建物の間に隠れた。荷車は車高の低いオープンタイプの4輪車だ。時々人が通るので気が気じゃない。荷車には幌のようなシートが平らに掛けられていた。雨除けかな?好奇心からめくってみると、中は空だった。
「ね、その中に隠れてシートの隙間から見ましょうよ。そうすれば誰からも見られないでしょ」
お、いいね。それ。僕はシートめくり、彼女を軽く持ち上げて、中にいれてあげ、僕も急いで中にはいった。シートをもとに戻し、すこししかない隙間から覗く。シートは霧のせいで湿っていて触ると気持ち悪かった。
商人らしき人達が辺りをうろうろしだした。僕らは隙を狙っていたが、やはり、衆人環視の中で馬車隊の一番後ろの馬車の下に潜り込むなんて、霧が濃くてもムリみたいだ。10メートルぐらい先が見えないぐらいの霧だから、動くと見えてしまうだろう。なんだか無理な雰囲気が漂い始めた。
「今日はだめみたいね。やはり、作戦をよく練ってから行動すべきだったわ・・・」
「そうだね・・・」
その時、数人が話しながら近づいてきたので、シートを被って平べったく床に寝た。
「これなんだよ。この荷車を後ろにつけて鉱山街に持って行ってっもいたいんだが・・・」
「なんだ。小さいんですね。もっと大きいのかと思ってたから、お断りしようかと思ってたんですが、これならいいかな・・・」
「この前、シュバルツ森の林道の路肩を普請するように命令がきてね。工事してたら、森から魔物が出てきて、工事してる街の何人か負傷したんだ。鉱山の守備隊が護衛についてたから、怪我で済んだんだけど。それで魔物に足を噛まれて歩けないやつを二人運んでくるのにやつらがこの荷車を鉱山街から持ってきて使ったんだよ」
話しているのは、この街の顔役とか町長のような人なんだろう。
「でね。守備隊が備品を返せって先週からずっといってきてるんだよ。運ばれたのは、ここの街のやつだから、街が返すべきだっていうんだけど、工事費ていうか、人手は街持ちなんだぜ・・・奉仕作業だよ・・・じゃ返しにいくから守備隊を護衛につけてくれって言ったんだけど、今、魔物が溢れてて、人が足りないらしいんだ」
「え、スタンピードなんですか?」
どうやら馬車隊の人のようだが、声が動揺している・・・そりゃこれから向かう鉱山街がスタンピードだったりしたら、自分たちも危ないからね。
「いや、そこまでではないらしいんだが、迷宮から漂ってくる瘴気が、一向に減る気配0がないからスタンピードの前兆じゃないかって警戒してるんだよ・・・お前さん達も、あっちに行ったら、色々情報を仕入れてきて、帰りに教えてくれよ。また酒おごるから」
「わ、わかりました。仕方ないです。公爵軍にもお世話になっていますし、この街でも中継地ていう00000だけでなく、商売もさせてもらってますし・・・しかも、お代も頂けるってことだし。後ろにつなげて引っ張るだけですもんね。で、そのシートは?」
「結界用のシートらしいので、被せたままなんだ。今縛るから一緒に持っててくれ」
「じゃ、用意できたら、一番後ろの馬車の後ろまで押してきてください。あっしは、繋ぐ算段をしておきますから・・・」
「助かるよ。聖結界が組み込まれた馬車なら楽勝だろ?」
「だといいのですがね。今日は霧が深いので、シュバルツ森の峠とか、魔物がでるかもしれません。まぁ結界があるんで、大丈夫でしょう。でも、魔物に後をつけられると生きた心地がしませんぜ・・・結界の効かない魔物でもでたら、一目散に鞭打って逃げるしかありません。だから荷物は軽いほうがいいですけどね。じゃ待ってますから早めにお願いします」
先ほどの街の顔役だか町長風の男とその仲間がシートの上からロープで縛りつけようとやってきた。ど、ど、どうしよう。ここで騒いだほうがいいのか?アーデルハイドを見ると唇に指をあてて、黙ってって感じだ。しかし、大丈夫なのだろうか・・・とりあえずシートの隙間を塞ぎ、下に隠れた。二人は黙々とロープで縛っている。
「よっしゃ、こんなんでいいだろう。早いとこ厄介払いしたいぜ」
「まったくですね」
「じゃ、持っていこう。後ろを頼む」
前と後ろで、引っ張ったり、押したりして移動を始めた。これじゃもう逃げられない。迂闊に顔もだせないよ。勢いよく動き始めたので、荷台の中ですべりそうになってしまった。やばい・・・荷馬車の中でぼくらは手と足を壁に突っ張って動かないように踏ん張っている。
「しばらく放置してたから動きが悪くなったみたいだよ。すこし重く感じる」
「おーい、御者のにいさん。じゃ頼むぞ・・・」
「へい、もう少し押して近づけてください・・・はい。じゃ今縛りつけますね」
「頼む」
「はい、じゃ、向こうで守備隊に渡せばいいんですね」
「うむ。荷車の横にザルツブライ守備隊って書いてあるだろ・・・シートにも書いてあるぐらいだから・・・しかも早く返せっていってるんだから、大丈夫だよ」
御者さんが、なんかしているようだ。
「じゃ、帰りによってくれ、受け取りに隊長のサインもらっておいておくれよ。約束の金は払うから・・・」
「はい、お願いします」
数人の男は立ち去っていったようだ。なんだか、もしかして、すごくラッキーなのか?
アーデルハイドは、やったわねという感じで、ニコニコしてる。ぼくらは荷車の壁に突っ張っていた手足を緩め、二人並んで上をむいて寝るようにした。
遠くで開門って声が聞こえると、馬車は少しづつ動き出した。僕らの旅が始まったのだ。
さて、いかがでしたか?
お楽しみいただけましたでしょうか。
次回、折角、旅の仲間とスタートした旅も、とんでもないことに
なってしまうようです。
よろしくお願いします。
すみません。投稿先を間違えたようです・・・ごめんなさい
誤字修正しました。