第72節 リーゼロッテ様祭り その14 晩餐会の夜
なかなか先に進めません。ごめんなさい。
公爵様は、随分とご機嫌だった。僕は公爵様に誘われるまま、オットー卿とフィリップさんにオヤスミの挨拶をし、上の階に上がっていった。3階は二つの部屋に区切られていた。奥の部屋に案内された。
「では、殿下。良い夢を。身の周りのことは、従者を付けますのでご安心くだされ」
公爵様が扉から出ていくと、どこからともなく、従者がすぅと現れたので、すこし驚いてしまった。よく見ると、晩餐会で僕にお肉を焼いてくれた人だった。
「うわ、どこにいたのですか?」
「殿下が入られた時には部屋におりました。暖炉の火を調整していたのです」
僕は、暖炉に目をやった。暖炉の前には薪が一束ほどかれて置かれており、くべたばかりの薪がすでに燃えている薪の上で、火に包まれて燃え始めているのに気付いた。
「ありがとうございます。暖かいです。あと、お肉美味しかったです」
「喜んでいただけて幸いです」
それっきり従者さんは何も話さないので、僕は、何か気まずく感じてきた。口ごもっていると、察したように話しかけてくれた。
「殿下。 もうお休みになりますか?」
「あ、はい。ここに寝てもいいのですか」
暖炉に平行になるように寝台が設置されていた。天蓋がついている豪華なベッドだ。客間だそうだから、それなりに身分の高いお客様用なんだろう。なんだか申し訳ない気がするよ。寝台の中には藁ではなく、布団が敷いてあった。ちょっと気分が高まったので、座ってみた。おお、でも中身は藁なんだね。掛け布団は毛布と藁の詰まった布団だった。毛布いいなぁ。
「殿下。天蓋の覆いは開けたままでよろしいですか?」
僕は、天蓋を見てみた。確かに、暖炉側に布があり、巻き取られて畳まれていた。寒いときはこれを降ろして、少しでも暖かくしようという仕組みだ。しかし、暖炉がついていれば、開けておいたほうが、暖かい熱が来るので、僕は開けておくことにした。
「はい。開いたままで結構です。じゃ、寝ますね。あ、おトイレはどこですか」
「こちらです」
従者さんはスタスタと歩いて部屋の隅にある、ドアの付いた、家具のような箱を開けてみせてくれた。中には便器というか、おまるが置いてあった。
(うは、なんとなく苦手だよ・・・蓋があって扉もついているから、臭いはそんなにしないだろうな・・・僕の部屋はトイレないけど、外のトイレ使うからなぁ・・・部屋の中でするのは抵抗があるなぁ・・・まぁ、アーデルハイトの牢屋のオマル事件よりはいいか)
「ほかにトイレはないのですか?」
「はい、2階の廊下に共同トイレがありますが、臭いですよ」
「そこも、おまる式なんですか?」
「いや、下まで落ちるように煙突のようになっています。まぁもう寒くなっているのであまり臭いはひどくないですけどね。夏はすごいですよ」
「あ、ありがとうございます。とりあえず、今は大丈夫ですので、確認です」
従者さんはふっと笑った。
そういえば、共同のやつは、砦の中にもあったなぁ・・・あと、塩砦の街のあちこちにあるよ。明星亭の裏にもあるんだよなぁ。ていうか僕の部屋の横のほうだけどね。2階だったら行くのは嫌だな。
「じゃ、寝ますので、おやすみなさい。ありがとうございました」
僕は服を脱いで下着になって布団にもぐりこんだ。あれ、従者さんは出て行かないのかな?僕が寝てから出るのかな・・・ちらっと従者さんの気配がするほうを見ると、暖炉の前の床に跪いて、火かき棒で薪をいじっているようだ。もしかして、ずっといるのかな?
「あの、僕のことは大丈夫ですので、ご自分の部屋に戻ってくださって結構ですよ」
僕は、布団から首を出して、従者さんに話しかけた。
「殿下。朝までの殿下の警護も私の任務です。お気になさらずに」
「ええええ?どこで寝るんですか?」
「いや寝ません」
「そ、そうなんですか」
「どうかお気になさらず。殿下が就寝されたら、椅子に座らせて頂きますので、大丈夫です。騎士叙任式の時は、徹夜で跪いたまま祈りますので、それに比べれば楽ですから」
「徹夜なんですか・・・」
「はい。殿下はご存じないのですか?」
従者さんは意外な顔をした。変なことを言ってしまったのかもしれないな・・・取り戻さないといけないね。
「いや、復活徹夜祭のようなものですよね・・・」
「あ、そうです」
従者さんは、普通の顔に戻った。
「しかも、殿下。扉の外の当番ではないので、楽なんですよ。扉の警備は立ちっぱなしですから。でも交代制なんです」
「なんだか一長一短ですね」
「さぁ、どうぞ、お休みになってください。明日は大変ですから」
「わかりました」
そういうと僕は布団にもぐりこんだ。眠れるかな・・・猫ちゃん、ご飯食べただろうか。まぁアーデルハイトが見てくれるだろう・・・僕はそのまま眠ってしまったようだ。
次回こそ、王子のパレードです。
1年の計は元旦にありですから、明日は絶対更新するつもりです。
来年も宜しくお願いします。
皆様も良いお年をお迎えください。