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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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第72節 リーゼロッテ様祭り その12

主人公は、ようやく念願の、お肉食べます。

 それからは、まさに祝宴のような晩餐会となった。参加者は皆、興奮して先ほど見たものを口々に話しながら肉に舌鼓を打っていた。肉汁の浸みたお皿のかわりのパンなら食べたのだから、味はわかるが、やはり、肉とパンでは雲泥の差だった。貴族たちであっても、普段は食べる機会のほとんどない牛だ。お祭りという感じだった。皆、肉を見ながらも、チラチラと僕のことを見ていた。僕も、やはり視線が集中するのは気になる。なるべく平静を装っているが、気持ちのいいものではない。


「殿下、次のお肉です」

「ありがとうございます」

公爵様の従者が、どんどんお肉を運んでくれる。従者のいない僕は、公爵様の従者がサービスしてくれているのだった。


司教様が話しかけてきた。

「殿下、貴方の守護聖人は、大天使聖ミカエル様なんですね」

「え、そうなんですか?」

「そりゃ、そうですよ。図らずも証明してしまいましたね」

「な、なにをですか・・・」


司教様は、面白くて仕方がないような表情で、続けた。

「あの聖剣は、大天使様がオットー卿に下さったもの。それはここにいる全員が知っています。彼らは、フライブルク平原の戦いの時に、悪魔軍と対峙し、絶望的な戦いの中で、劣勢を一気に覆した、オットーの聖剣を目の当たりにしています。私も一人の従軍司祭として参戦しました。

 オットー卿は、大天使の島から蒼い転移門と共に現れ、聖剣を振るい、多くの悪魔を退治したのです。その時、天からも大天使が駆けつけてくださり、敵の大悪魔を我らの眼前で、駆逐してくださったのです。

 思い出します。エメラルドのような美しい緑色の羽。大天使は平原に光の波をノアの洪水のように行きわたらせました。傷ついた者達は再び立ち上がり、命なき地獄の使徒達は消え去り、私達ザクセンの戦士たちは、オットー卿の聖剣に従い進軍し、残りの悪魔軍を駆逐しました。

 この戦いのあと、悪魔軍は力を失い、散発的で小規模な戦いを行うぐらいに衰退したのです。


 その剣を、オットー以上に光らせる能力。それが殿下の力です。つまり、私達は知ったのです。

あなたが、大天使から寵愛をオットー以上に受けていることを。そして、あなたの名前はミヒャエル。父上と共に地獄に侵攻し、悪魔軍の大攻勢から我らの世界を救った伝説の聖騎士の息子で、ローマ帝国皇帝の正統な後継者」


(参ったな、マグヌスさん。なんかすごいスケールの物語を語っちゃっているのだけど・・・僕、記憶ないよ。これって宮宰様の謀りごとなのかな・・・あ、でもお肉美味しいよ・・・すごい幸せ。お腹がパンパンになってきた。喉からお肉が溢れそう)


 宮宰レオポルト様が公爵様の向こう側から僕を覗いている。すごいニコニコしてる。


「ミヒャエル王子?お腹いっぱいになりましたか?」

「はい、レオポルト殿。大層なおもてなし、感謝いたしております」

レオポルト様は更にニコニコした。こうやって公爵様と顔を並べるとよく似てるね。


「マグヌス、お主はどうだ?」

「兄上、大変満足しました。神に仕える者ですから、吝嗇や大食は避けております故、私はこれで大変満足です」

「そうか、では、そろそろ潮時か?」

「はい。よろしい頃合いかと」

「王子はどうか?」

「あ、門ですね。大丈夫かと」

「いや、ちゃんと食べて満足したかという意味ですぞ」

ニヤニヤしながら宮宰様が言った。

「もう、お腹がパンパンです。美味しかったです」

「うむ」

・・・宮宰様は、公爵様を見て、目で合図した。


「皆の者」

全員が公爵を見た。(こういうところは凄い求心力だなと思うよ。強い軍隊はこうなんだね)

「さて、楽しんでいるところ、申し訳ないが、そろそろ殿下は、退席される。このあと、司教と重要な会議があるとのことだ」

司教様が大きくうなずいている。

「では、殿下。ご一緒できて光栄でした」

僕は立ち上がり、通路に進み出た。全員が通路を向いたテーブルについているので、皆の前に立ったことになる。僕は事前の打ち合わせ通り、身内に親しい挨拶をしなければならない。

「では、公爵殿、レオポルト殿、私のために、貴重な食材を賜り、誠に忝なく存じます。

さぁ、マグヌス殿。ご聖体の前で、聖三位一体の神秘について、教えを乞いたく存じます」

司教様が近づいてきて、恭しくお辞儀をした。僕は、天に祈るように、転移門を出した。簡単の声が周囲から聞こえた。

「なんと大天使の門だ・・・」


「では、マグヌス殿、参りましょう」

司教様はニコっとして、先に蒼い輝きの中に消えていった。僕も公爵様や周囲に一礼し、転移門の中に入った。


そこは、カテドラルの横だった。


「おお、ここですか。ふむふむ。殿下、ご聖体にご挨拶をしてから解散しましょう」

僕は拉致されるように、司教様に連れられて、ご聖堂の中に入った。


 カテドラルの中は、暗かったが、あちこちの祭壇の前に蝋燭が沢山灯されているので、歩けないほどではなかった。おずおずと司教様が、会衆席の真ん中を中央の祭壇にむかって歩いていく。僕はそのあとについていった。


 司教様は、公爵様の礼拝堂の中でしたように、跪き、祈りだした。僕もその少し後ろで祈った。祈り終わると、司教の椅子のまえに跪き、なにか床をいじった。それからおもむろに立ち、言った。

「さぁ、行きましょう。こちらにどうぞ」

司教様はまたずんずん歩き始めた。会衆席の右側の祭壇にまでいくと、祭壇の後ろ側に回り込んで、僕を手招きした。

「こちらです。暗いですのでお気を付け下さい」

後をついていくと、床に穴が開いていて、そこに司教様が沈むように消えていった。


(驚いた。隠し部屋なのか・・・)


階段をどんどん降りていく司教様を追いかけて、僕は必死でついていった。明かりはないのに、天井や壁、階段までが仄かな光を発しており、問題なく歩くことができた。


降り切ると、そこは小さな部屋だった。部屋の中には、棺が置いてある。


司教様が呟くと、部屋の中に明かりが灯った。


「隠し部屋です。そこの棺は空です。実はその中にも階段が隠されていて、更に奥に進むことができます。これは私達血族の者しか知らない隠し通路なんでえすよ。この通路は公爵の執務室につながっています」

「そ、そんな・・・いいんですか、私に話して・・・」

司教様は軽く小さい声で笑った。

「殿下は、我らの先祖ではないですか」

「あ、そうですよね・・・実感がないので。というか記憶がないのです」

「その割には、さっき、東方辺境伯にはなんかすごいこと言ってたじゃないですか?」

「あ、隠しのことですね。我ながら不思議なんです。急にビジョンが湧いてきて、あんなこと言ってしまったんですが、あとで考えて失敗したかもなんて感じています」


司教様は、首を傾げて何か考え事をするように目をそらした。

「殿下、恐らく、そのビジョンは正しいのではないかと思います。なあに、そのうちわかりますよ。心配しないことです。神様を信じましょう」

「はい」

(ところで、どうしてこんな隠し部屋に僕を引き入れたのだろう・・・)

僕は少し怪訝な顔をしたのだろう。司教様はすぐに気づいて話してくれた。


「ふふふ、ここに来たのは、周りに話を聴かれないためです」

(え、なんか怖いな・・・)

「殿下、贖罪規定書はご存じですか?」

「いや・・・なんですか?字義通りに考えると、罪に関することですよね」

「ええ、ヴォルムスのヴルヒャルドゥスが丁度第侵攻の前に書いた、罪に関するカタログのようなものですよ。殿下はご覧になったことはないでしょうね」

「その本は知らないです」

「実は、魔術やまじない、迷信や好ましくない習俗について書かれています。私たちは、大きなくくりで言えば、ゲルマン人ですよね。まぁ、ゲルマン人の前にザクセン族です。しかし、悪魔軍の前においては、そのような区別、フランク族だとかそういったものは意味がありません。神に属するものなのか、悪魔に属するものなのか、そのどちらかです」

「確かにそうですね。司教様は、魔術について、お話されたかったわけですね」

「ふふふ、ご名答です。さすがご先祖様。聡明ですね・・・私達ゲルマンの民は、太古から魔術を使いこなしておりました。エーデルス・ブルート、高貴な血というのは、特にそのような魔術に秀でている、我々貴族の血のことを意味します」

「そうだったのですか」

「そうです。私の姪アグネスの力をご存じですか?」

「ええ、氷属性の魔術が得意ですよね」

「殿下、魔術とか魔法といってはいけません」

「そ、そうなのですか?」

「そうなんです。だから、誰にも聴かれないこの部屋にお越し下さったのです」

「いや、すみません」

「いいんですよ。教皇庁は、魔法や魔術という言葉を封じ込めようとしています。それは当然です。ここで、私が申したいのは・・・殿下、転移門は魔法なのですか?」

「え、そうなのではないのですか」

司教様は眉間にしわを寄せ、目を細めつつ、首を振って否定した。


(参ったな・・・混乱してきたよ)

司教様は、僕の困った表情を読み、それに答えようとしているようだ。


「例を出しましょう。アグネスが、氷魔法を使って、魔物を倒しました。これは魔法や魔術ではありません。では、アグネスは罪のない人を氷魔法を使って殺しました。これは魔法ですか?」


(謎かけみたいだな・・・)

「おっしゃりたいことがなんとなくですが、わかります。正しいことに力を使えば魔法ではない?同じ力でも、その結果で変わるというような意味でしょうか」

「ベーネ、ベーネ、ベーネ。その通りです。


 悪魔はかつて天使でした。つまり、悪魔の力も、天使の力ももとは同じもの。神から与えられたものなのです。悪魔は恐ろしい姿をしておりますが、かつては美しい姿をしていたそうです。


 悪魔が使う転移門は、青くなく、血のような赤だそうです。これは最前線で戦うザクセン人なら周知のことです。オットー卿が現れたのも、青い転移門でしたからね・・・

 魔法や魔術は、神から頂いた力を悪用するものです。アグネスは勿論、殿下が使われる術は、神から頂いた力を正しく使う術。つまり、神の道具となって、聖なる神の御意志を伝える触媒となることなのです。聖性を高め、私心を無くし、只管、神の御心をそのまま対象に向け、解き放つことが殿下の使命なのですよ」

「司教様、すごくわかったような気がします」


司教マグヌス様は、穏やかな表情で僕を見つめた。その眼の色は深く、慈しみに満ちていた。


「ミヒャエル殿下。あなたは、天が我らを見捨てていないという、証のような存在です。共に、いと高き神の栄光のために、働けるようにしたいですね」

「はい」

「では、オットーが心配しているでしょうから、謁見の間に戻りましょう。私はここで失礼します」


僕は、戻るために転移門を出して、その中に歩いて入った。気付いたら、誰もいない公爵様の謁見の間に立っていた。

次回、やっとフィリップさんが戻り、塩砦で、お祭りが開かれることになりそうです。

宜しくお願いします。

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