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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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第72節 リーゼロッテ様祭り その9

本来、城に来た目的が忘れられてしまったようです。

宮宰様は、一度部屋を出て、下の階に僕らを誘導した。暗い螺旋階段をグルグル降りていくと、下の階の謁見の間に向かった。

謁見の間の入口には衛兵二人が立っているだけで、誰もいなかった。衛兵は、身じろぎもしないし、目も動かさないので、人形のようだったが、急に一人が動いてドアを開けてくれたのでびっくりした。そう言えば、さっき来た時はドアは開いていたっけ。

僕らが中に入るとドアが閉まった。 宮宰様は、僕らに向き直って話を始めた。


「さて、王子。これから大事なことを話します。 オットー卿もよく聴いてほしい

 知っての通り、ザクセンは未だに部族的な社会だ。つまりザクセン族のままなんだな・・・流石に古い因習的なものは無くなってきた。例えば、貴族と一般の民との結婚を禁ずるとかだ。しかし、ザクセン貴族は、未だに閉鎖的だ。それがまた我らの騎士や戦士の強さに繋がっているとは思う。

だから、かつての族長ヴィドゥキント様に繋がる直系のリウドルフィング家に対する忠誠心は高く、リウドルフィング家の一員でもあるワシとしては、嬉しい限りだ。

そこにだ。かつての王子で、ローマ帝国の皇帝継承権を持つ殿下が、地獄から生きて戻ったというだけで、もの凄い反応だった。未だかつて地獄に侵攻して生きて戻った人間はいないからな・・・まして、殆ど歳を取っていない。

フィリップの調査によれば、帝国に侵攻して皇帝に即位させようといきり立つ者もいれば、信じられない者、悪魔の奸計を疑うもの、本当かどうか試してやろうというものもいるらしい」

オットー卿が眉間に皺を寄せて、質問した。

「いったい誰なんですか?その試してやろうなどという不届き者は・・・」

「オットー、可能性があるという話だ。表立った動きにまでは育っていないとのことだから、そう頭に血を上らせるな」

「あ、いや、事前に気を付けておきたいだけです。どんな企みにも対応しないといけないので、ご理解ください」

オットー卿がそう言って視線を床に落とした。すこし時間をおいて宮宰様が話し出した。

「しかし、悪魔軍の侵攻前だったら誰もこんな話を信じないだろう。そういう者達がいるのも致し方ない。

ワシは、王子が本物だと確信している。 切ることのできない血の濃さを感じるのだ。オットーが自分のことのように、そうやって心配してくれるのは、本当に有り難い。血族の私より、オットーのほうが、ずっと一緒に王子といるから、精神的な結びつきが強いのかもな。感謝しているぞ」

オットー卿は、すこし嬉しそうな顔を見せたが、すぐにまた武人の顔に戻った。


「まぁ、とりあえず、ザクセンはまだ一枚岩ではないということを踏まえて、対策を打っていきたい。今日の晩餐会では、基本的に王子と貴族は自由に接触させない。入場時に紹介する形で一人ずつ挨拶させる機会を設けるだけだ。その際に、警護と観察をオットーにお願いしたい」

「畏まりました」オットー卿はきりっとして答えた。カッコイイな。


「そして、一通り料理を食べたあとで、少年であるという理由で、王子のみ退室し、その後の貴族との接触を断つ」

「レオポルト様、王子はどこに退出されるのですか?公爵様の間へ?」

「いや、それも避けたいな・・・どこに滞在しているかを悟られないほうがいい。危険という意味ではなく、コンタクトしようと試みるものに隙を与える可能性もある。城の中は、酔っぱらいばかりになるだろうからな」

「では、転移門で消えてしまえば、よろしいのではないでしょうか。王子の聖性の高さを見せつけ、地獄から生きて戻った話に箔というか信ぴょう性がつきそうではないですか」

「おお、いいのぅ・・・いや、転移門が恐怖をもたらさなければいいが・・・」

「マグヌス様に、事前に口上していただいたらいかがですか?これは聖ミカエル様より与えられた殿下の聖なる力だとか。で、司教様にご一緒いただく。さすがに悪魔の奸計とまでは思わないでしょう。あの堅物、いや失礼、聖人候補の名が高い司教様が転移門にご一緒すれば」

「さすが、オットー卿、口も悪いが・・・マグヌスは酒盛りがあまり好きではないから、途中で抜けられるのは喜ぶだろう」


それから、しばらく、晩餐会の打ち合わせが続いた。今、公爵様の謁見の間は、城の一番奥にあるのだが、晩餐会は、隣の館の大広間を使うらしい。料理はなんと牛の肉だそうだ。


いつか塩砦で、肉の皿の代わりとなったパンを、一番最初にもらったことを思い出したよ。あの時、砦で一番貧しい者として優遇を受けたんだよね。そうそう、アーデルハイトが2番だったな。なんか懐かしい。でもまだ数か月前だよ。とうとう皿のパンではなく、お肉が食べられるのか・・・ううう、感無量ってやつなのかな。涙が出てきたよ。


オットー卿が心配そうに僕を覗き込んだ。

「殿下、どうされましたか?」

「いや、お肉が食べられるかと思うと嬉しくて・・・」

宮宰様もオットー卿も大笑いした。


「そうか・・・あの時、皿にしたパンをもらったんだったな・・・いや済まなかった」

「いいえ、宮宰様、いいんですよ」

「あの、一応、ワシは殿下の子孫なのだから、宮宰様はやめてくれんか?そうだな・・・レオポルト殿と言ってくれ。それなら貴族受けもいいだろう」

「畏まりました。レオポルト殿」

「いや、かしこまりましたというのもダメね・・・わかったでいい」

「はい。難しいけど頑張ります」


それから、僕らは公爵様の執務室に上がっていった。さっきと同じく、公爵様は司教様とテーブルに座って話をしていた。公爵様は、レオポルト殿を見て、ニヤリとして言った。

「お、秘密の会議は終わったか。で、どうなのか?」

「兄上、秘密ではないですよ。リウドルフィング家を益々栄えさせるための打ち合わせです」


レオポルト殿は、さっきの打ち合わせの内容を話した。最後の退場については、司教様が嬉しそうに聴いていたので、ほぼ問題ないようだ。


「よし、ではそれでいいだろう。準備にとりかかってくれ。あと、吟遊詩人はどうするか?」

「ああ、あのラテン人ですね。まぁ、墨で弾かせますか。曲については打合せしておきます」

「じゃ、王子、私の家族を紹介しよう。ついてきてくれ」

「兄上、お待ちください。王子が私達を呼ぶ呼び方を決めておきたいのです」

「なるほど。確かにな・・・公爵様と呼ばれても変だしな・・・ワシらは殿下の子孫だしな・・・変な感じだが・・・で、どうするのか?レオポルト」

「私は、レオポルト殿としました。兄上は、公爵殿でいいと思います」

「ふむふむ。よかろう。で、マグヌスは?」

司教様がニコニコしてレオポルト殿を見ている。レオポルト殿は一度司教様の眼を見てから公爵様に答えた。

「司教様でいいかと・・・聖職者ですから」

「え?私だけ様づけって寂しいじゃないですか・・・親戚というか子孫なんですよ。マグヌス殿とか呼ばれてみたかったような気がするのですが・・・」

「マグヌス、我慢してくれ。そなたの威厳を維持せぬといかんのだが・・・どうだろう、殿下はどう思われる?」

急に振ってこられて僕は困った。司教様とは会ったばかりだから、どう答えていいのかわからないじゃないか・・・

「じゃ、最後に退出するときのみ、親し気にマグヌス殿っていうのはいかがですか?それ以外は司教様とお呼びして、公私の区別っぽくするとか・・・」


「ミヒャエル王子、あなたは聡明ですね。あなたが先祖であることを誇りに感じます。そのようにお願いします」

僕はニコリと笑った。司教様は僕を見つめて微笑みを返してくれた。堅物ってオットー卿が言っていたけど、そんな感じしないよね。

「ふふふ、王子には誰も勝てんのぅ。本当に皇帝にしたくなってくるぞ・・・」

「兄上、お慎みください」笑いながらレオポルト殿が言うものだから、なんだか、変な気がしたよ。


 それから僕は、別の建物に公爵殿と歩いて移動した。今日の晩餐会会場の上のほうの階らしい。空中歩廊というので渡ったんだよ。建物と建物を橋で結んでいるんだ。初めて見たから驚いた。背が低いから色々とは見えなかったけど、狭間から見るとかなりの高さだった。そして、公爵殿の奥方様に紹介してもらった。美しい人だった。奥方様は僕のことをしきりにカワイイ、カワイイって言って、女の子みたいって・・・ちょっと嬉しくなかった。


 公爵殿の御子息は、みんな帝国に留学しているらしい。お部屋には家族の肖像画がかかっていたので、家族構成は理解したけど、問題は既に亡くなっている人がいるかもしれないから、迂闊に聴けないよね。肖像画にはいない、3才ぐらいの女の子が素敵なドレスで挨拶をしてくれた。エリーザベトちゃんだって。奥方が、エリーザベト、ミヒャエル王子様のお嫁さんになる?とか聴いたら、即答で、うんだって・・・赤くなっちゃった。


 そのあと、シードルと、食べたことのない甘いお菓子を食べさせてもらった。次は、礼拝堂で司教様とお話することになったので、本当に一人で休む時間が無い状態だよ。


 とりあえず、司教様についてお城の礼拝堂に向かうことなった。あれ、元々お城にきた理由ってなんだっけ。なんか騙されているような気がしてきたよ・・・



次回こそ晩餐会です。

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