第72節 リーゼロッテ様祭り その3
遅くなりました・・・昨日はまた体調壊してしまいました。
タイトルに比べ、祭り準備より探索が多めです。
オットー様は、すぐに仕事モードに入った。
「あ、フィリップ殿、装置を置いたままだ。あとで、砦に持って帰るか・・・さぁ、まずはこの部屋を隅から隅まで調べよう」
オットー様は、ウロウロしだした。なんか、変な人みたいだ。笑うわけにはいかないから、僕もウロウロし始めた。
リーゼロッテ様のベッドが置かれていたところは、少し高くなっている木造の台だ。さっきの装置のところは穴があいたままだ。僕は、なんか気になったので、穴に向かって、あーあーとか言ってみた。なんか、エコーがかかっている感じだ。
オットー様がそんな僕を見て、やっぱりまだ子供なんだなって呟いていた。この配管はきっと地下水脈のところにつながっているんだろう。地脈の中に魔力がある場合、水の道に従って運ばれることが多いらしい。一種の生命力のような力だ。そういう水を飲むと、疲労が回復したり、病気が治ったりする。これを濃くしていくと、いわゆるエリクサーになるわけだ。
僕のもっている博物誌によると、薬草で作るというやり方が載っている。錬金術師や魔術師、医者が作れるようだ。ただ、天然のエリクサーとメカニズムが違うようだ。天然ものは、それ自体に生命力の源が含まれているが、人の造るエリクサーは、自然治癒力を高めて生命力を復元、増大させるほうに力点が置かれていると書いてあった。
フィリップさんに訊いてみるかな・・・
おや、部屋が明るくなったり暗くなったりした。目を上に向けると、窓はなくて、北側と思われる壁の一番高いところに明り取りがある。ちょうど屋根にあたる部分だと思うが、天井は斜めになっていなくて、平らだ。どうしても防御を中心に考えると部屋は暗くなりがちだよね。しかし、外からみたときには、屋根に明り取りがなかった。なんか秘密でもあるのかもしれない。
家具は、もう机しか残っていない。本が入っていたチェストは、既に砦のチャペルに安置されている。
出入口は、左右の壁に開いている。左は大広間だ。ここの部屋には、もう何もないようなので、右側の部屋に向かうことにした。左右の出入り口は、ほぼ同じ大きさで、左右対称のように設置されていた。扉はない。あの時、驚いたのは、壁が砂のように崩れていって、しかも砂が流れ去るように消えていったことだった。結界による封砂というものだ。あれ、これ誰情報だっけ。あ、誰からも聴いてないはず。ということは、僕の内部情報なのか・・・
オットー様は背中に回していた盾を前に構えて、手斧を出した。そして、僕についてくるように、隣の部屋に向かうぞって感じで、手で合図した。僕はオットー様からすこし遅れて、ゆっくりとじわじわ前に進んでいく。
隣の部屋に入るのは初めてだ。リーゼロッテ様の結界部屋に比べれば4分の1ぐらいの大きさで、真ん中にテーブルが置いてあった。
うは、最初から死体ですよ。結構良さげなドレスを着ているから侍女さん達かな。そういえば、毒を盛ったのが側仕えと書いてあったよね。死体は3体あった。まだ髪の毛がついたままだ。侍女達は、大抵、貴族の娘だから、仕方ないのだろうけど、別の人生のほうがよかったよね。そういうのは、死んでからわかるのだろう。ロッテ様の側仕えのアンナさんだって、リウドルフィング家の一族の娘さんだそうだ。
侍女さんらしき人達は、中央のテーブルに座ったまま、こと切れたようだ。三人のうち、一人は椅子から落ちたようで、隣の部屋に向かおうとしたようだ。オットー様が調べているが、もう、ここまで経つと死因はわからないらしい。テーブルの上には食事の後のような感じで、お皿やカップがあった。
「たぶん毒殺されたのだろう・・・遅行性ではないようだ。毒を盛ったのは、恐らく悪魔に身体を盗られた、リーゼロッテ様の側仕えだろうな」
「オットー様、悪魔に身体を盗られている人って、どうやったら、調べられるのでしょう。たとえばですが、アンナさんとか大丈夫でしょうか?」
「え?むしろそういうのは、使徒殿の領域ではないのか?」
「・・・いや、記憶にございません」
オットー様は、すこし意外な顔をした。
「まぁ、使徒殿は本当に意外というか、想定外というか、時々わけがわからなくなるよ・・・
わしの場合は、聖ミカエル様より頂いた、この聖剣が教えてくれるから大丈夫だ。振動して、蒼く光るんだ。なにしろ、ミカエル様は悪魔キラーだからな」
「へー、便利ですね。僕もなんかそういうのが欲しいです」
「なにを言っているのやら、バフォメットの時のあの攻撃の素早さ、使徒殿は実は悪の出現がわかるのではないか?」
「うーん、時々、危険なときは自動で体が動くみたいです」
「おお、さすが、悪魔ホイホイだな・・・」
オットー様は、そういうと、周囲を調べはじめた。部屋の奥の方には、一人用のベッドが並んでいる。ベッドの傍らにはチェストが置いてある。
チェストには、家紋が入っているようだ。色あせてしまっているが、なんとなく識別できそうだ。チェストは立派なものが多い。オットー様は、チェストを検分しながら、鍵を無理にあけようとはしなかった。
「今は開けなくてもいいだろう。家紋から子孫がいれば、渡してやったほうがいいだろう。大したものは無いだろうが、バイエルン貴族からすれば、やはり、そうしてほしいだろうしな・・・」なんだか独り言のようだったので、答えにくかった。
一つのベッドには、毛布が丸めてあった。広げると、魔法円が織り込まれたものだった。クラウディアさん達が持って歩いた毛布とは模様が違うようだ。
「これは見たことがある模様だな。よく使われている、魔除け用だろう。しかし高価なものだ。今ならオーストリア大公にあたる家だから、侍女にまで配れるのだな。リーゼロッテ様のティアラもすごかったものな・・・あれは、国宝ものだぞ。フィリップ殿が心配していたよ。盗まれたら大変だってね」
「そういえば、指輪もしてましたね」
「お、使徒殿、意外と目敏いではないか・・・さて次の部屋に行ってみよう」
「はい」
次の部屋への出入り口は、また同じ位置に開けられていた。入ると正面すぐに大きな鏡が設置されていて、僕らは驚いた。
「これもまた、すごいぞ。一体いくらするのか見当がつかぬ・・・黒曜石のようだな」
鏡は暗く、深い色をたたえていた。黒い鏡だ。全身が映るように上下二つの鏡がつながれて掛けられていた。普段自分の顔など見たことがないから、驚いたよ。さっき、オルドルフさんに、ロッテ様と間違えられたけど、確かに似ているような気がする。不思議だな。
そこは衣装部屋のようなところだった。沢山のドレスが掛けられている。チェストもいくつもあり、中にも色々入ってそうだ。
「これは姫様の衣裳部屋だろうか。しかし豪華な服が多いぞ。なんか形が古いようだが」
「これも皆、バイエルンに渡してやらないとな。それに、隊長室も設けないといかんし、捨てるわけもいかないし、ここは資料室か?」
「え?オットー様、隊長室はどこにされるのですか?」
「うむ。ワシとしては、侍女の部屋がいいかと思う」
「え?リーゼロッテ様の結界部屋でなくてですか?」
「使徒殿、恐ろしいことを言わないでくれ。あの部屋は格が高すぎる。公爵さまや、宮宰様が来た時用だな」
「え?でも、えらい人が来たとき、隊長室に出入りできなくなるじゃないですか?」
「いや、裏動線があるだろう。探してみよう」
オットー様は、部屋の奥の方、鏡がかかっている壁の右側に歩いていった。服があちこちの棚にかけられていて、森のようだ。一番奥に、扉があった。
「はら、あっただろう。そうでないと、姫様の食事だとか、運べないからな。食堂に近いところにいけるはずだ」
扉を開けると、階段があった。見たことがある階段だ。食堂の奥の扉からつながっている階段だった。
「昨日通った時は、扉なんてなかったよな」
「はい。2階からそのまま屋上まで行ってました」
「うむ。この扉も封印されていたのだな」
それから、僕たちは、階段を下りて2階にいってみた。結界が解けて扉が増えているかもしれないからだ。前回探索してから、変わったところもなく、新しく出現した扉もなかった。
それからオットー様は、3階に戻り、大広間との境の扉から衣裳部屋までの歩数を測り、2階の歩数、1階の食堂の歩数などを測り、また2階に戻った。
「うむ。やはりおかしい。2階だけ短いのだ。この行き止まりの壁の向こうに部屋がある可能性が高い。それに、侍女の部屋の天井や、衣裳部屋の天井が、低いのだよ、屋根は同じ高さだから、4階がある可能性がある。家臣の部屋は4階だったものな。これは、フィリップ殿にも参加していただき、再調査をする必要があるな。そういえば、どうなったかな。フィリップ殿、レオポルト様に会えたかな。使徒殿、申し訳ないが、城塞都市への転移門を開いてはくれぬか?」
「はい、練習になるので、やってみます」
僕はまた、トールの呪文を唱えた。目の前に、青い卵のような形をした、転移門が現れた。
オットー様が飛び入り、僕も後に続いた。
城塞都市のカテドラルの横に僕らは立っていた。
え、なんだろう、悪魔ホイホイって、誉められたのかな。
山城の謎はまだ解明されていません。
自分でも、小説書くために、山城の図面を書いています。
まぁ、見取り図レベルですけどね。辻褄合わなくなるからですよ。
スピンオフを書いてから、こっちに戻ります。
夜か朝に次話を投稿したいと思っております。
宜しくお願いします。