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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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第71節 街道の探索と戦闘 その25

スマホだと大変ですね。まずスピードがでないです。伏線回収回です。

リーゼロッテ様の机はすぐ側にあった。


細かな植物の彫刻が施されている脚に目が奪われた。机上には何のデザインもなく、シンプルだ。石はつかわれておらず、全て木で出来ていた。椅子は見当たらなかった。机には引き出しが無く、机の下に箱が置いてあった。

箱は、蓋が付いていて、小さいチェストの様だった。蓋の四隅に装飾金具がある。前面には鍵をつけられる様になっているが、つけられてなかった。

オットー様が箱を持ち上げて机の上に載せた。そして蓋を開ける。


中には、布に包まれた、羊皮紙の本があった。


「この布は、みたことがない布だな。アグネス様、この布は、ご存知ですか?」

アグネス様は興味津々で机の前にきた。手にとって確かめている。

「これは、とても高価なものですね。この滑らかさは、恐らくセレスの布だと思います」

「セレスとは、ここからビザンチンまでの距離の10倍はあるという遠方の国ですか」

オットー様が驚いている。

「昔は、ムスリムからもたらされていたからな。今は、ムスリムもセレスも、存在しているかどうかも分からんが」

ブルーノ神父様がそう呟く様に言った。


「さて、オットー卿、開きましょう」

オットー様は、恐る恐る手を伸ばし、本を開いた。


本は、個人的な物のようだが、贅沢な装飾が施されていた。


「これは職人の手が入っているな。日記かと思ったが、読まれることを想定して書かれているものではないか」


見ると、ラテン語で書かれていて、各ページの最初の文字だけ大きくなって、装飾文字になっている。しかも金箔貼りで、顔料が多く使われている豪華な装丁だ。


「まるで聖書の写本のようだな」聖職者ならではのブルーノ神父様の意見だ。普通、聖書なんて見れないものね。教会に一冊あればいいぐらいだから。


「さてと、どうする?ラテン語でそのまま朗読するか?それとも翻訳して要約を話していくか?」


神父様は皆んなを見て、少し考えて言った。


「では、ラテンの古典に精通しておられる、我らの王子、お願いします」

ブルーノ神父様まで、王子呼びか。そこはスルーして、僕も凄く興味があるから、はいと答えて、読み始めた。


「父が上級悪魔バフォメットを召喚したのは知らなかった。契約は、既に為されてしまったため、私には何もできなかった。いつ契約したのかはわからない。恐らくイタリアが陥落したあたりではないだろうか。

大攻勢が始まり、バイエルン全体の防衛のために、イタリア王国との国境に進軍した父に従って、家族でいくつかの砦に住んだが、やがて戦いは膠着した。

皇帝からもバイエルンに戻ってよいとのお許しがでたのだが、父は戻らなかった。いや、戻れなかったのだ。

契約では、無事に戦いに勝利し、ペグニッツに戻るという内容が含まれていたのだ。

報酬は、父の魂だ。父は、自分が戦闘で死ぬと思っていたので、まさかの展開だっだはずだ。

それでまた、例の忌むべき名の悪魔をまた召喚し、条件の変更、内容の変更を申し出たが、知らないうちに、契約書には条件が追記されていたのだ。

そう、内容変更を申し出た場合は、娘の魂を差し出すと悪魔が示した契約者には書いてあったのだ。

父の契約書は、成立時に自然に燃えてしまっていたのだからわかる由もないが」


僕は目が疲れたのと、内容の重さに疲れて、一旦本から視線を逸らし、ふーっと溜め息を吐いた。すると、アグネスさんが、肩を揉んでくれた。

「疲れたでしょ。かわろうか?」うわ、顔が近いです。アグネスさんの透き通るような青い瞳が僕を優しく見つめてくる。右目を見て、左目に視点を写して、微笑んでくれる。

「大丈夫です、瞬きしてなかったからです。続けますね」


僕は続けた。


「父は、騙されたことが、相当悔しかったようで、なんとか私の魂だけでも守る為に、当時、ローマ帝国一の実力と言われた、錬金術師を、ケルンから呼び寄せた。最初は来れないのではないかと思っていたが、その錬金術師は、易々と砦まで一人で来ることができた。後で知ったのだが、この錬金術師も、他の上級悪魔と契約していたのだった。

しかし、能力は素晴らしかった。

彼は、結界を作るために、地脈がよく、自然の魔力を吸い上げることができる、夏の離宮を改造することを提案してくれた。これにより、騎士団と家臣団がこの地に集結することになった」


流石に疲れを覚えたので、僕はまた顔を上げた。

フィリップさんが、隙をついて質問してくる。

「王子、錬金術師の名前が出てないのですね。何か特徴などとか書いてなかったですか?」

「フィリップさん、なんか秘せられているようでわからないんです」

「ペグニッツ伯は、大攻勢を生き延びていたんだな。知らなかった」

「オットー卿、あの頃の諸侯は、消息が分からない方が多いのだよ。中には悪魔に身体を取られていた人だとか、騎士団長が、悪魔にすり替わっていたりだとか、めちゃくちゃだったらしい。教皇庁のエクソシストのお陰で、ほぼ駆逐されたがな」

ブルーノ神父様がオットー様に答えた。


僕は、周りを見回してから、また、続けた。


「錬金術師は、厨房下にある井戸に着目して、地脈及び水脈から、魔力を吸い上げる装置を作った。これが素晴らしい出来で、すぐにペグニッツ伯の部屋が結界となった。それから壁を塗りつぶして通れなくするアーティファクトを作成し、全ては上手く行きそうだった。

様子を見に来たバフォメットが、その結界に激怒した。上級悪魔でさえ、破れない結界なのだから。

そこで奴らは報復にでた。

始めは、使い魔が飛んできて中庭に陣取り、汚い罵りの言葉を吐いた。騎士達により、槍で貫き殺されたが、これは序の口だった。この使い魔は、転移門を開くための捨て石だったのだ。


次の日の夜、中庭に赤黒い転移門が突如現れ、中から、オーガを主戦力とする、地獄の軍団が攻め込んできた。騎士達は、また空を飛んでくる魔物を討ち取るため、中庭で待機していたのだが、まさか、使い魔の骸から転移門が現れるなどとは想像もできなかったわけで、精鋭の騎士団達は、ほぼ全滅してしまった。

警備兵は、逃げまどい、家臣団の戦士達は、大広間で籠城しようとした。父は、原因が自分であることから、大広間の籠城を陣頭指揮した。結界の中には私と錬金術師、側仕えだけが残された。陥落は時間の問題だった。


錬金術師は、あちこちに魔法円を仕込んで、領主の部屋の魔法円をから、館の内部に幽体離脱して転送する装置を使って、状況を確認していたが、それが更にバフォメットを怒らせることとなった。


バフォメットは、必ず魂は頂くと宣言し、攻め落とせない結界を諦め、地獄に戻ったようだった。しかし、人の計画には限界があるのだ。食料が尽きかけてくる。普段は側仕えが毒味をするのだが、それもできなくなってきたので、もう直接食べるようになったところで、毒を盛られたのだった。毒は側仕えが盛った。

側仕えは、バフォメットの部下である悪魔に身体を取られていたのであった。結界ができる前から潜伏していたらしい。

私が死の苦しみの淵に沈んでいると、その悪魔は目的を達成したことを喜び、側仕えの口から身体を裏返して、その本体を悪魔が晒した。そのおぞましい内臓の悪魔は、結界の攻撃により灰になってしまった」


「おや、ここから筆跡が変わっています。ご自身の手によるものかもしれませんね」

僕は先を続けた。


「錬金術師は、解毒を試みたができなかった。せめて、死んでも、魂を取られぬように、父の部屋に、魔法円で守られたベッドを置き、私を寝かせた。

飲まされた毒は遅効性の毒だった。今苦しみながら、これを書いている。


残念なことに、昨夜、錬金術師が、こんな事を言った。


既にお気付きかもしれませんが、私は悪魔と契約を結んだもの。私が生きてここを出るために、私の契約者である悪魔が、バフォメットと取り決めを行いました。それは、姫様にある呪いをかける事です。この呪いは、貴女様が亡くなると同時に発動します。

本当に申し訳ありません。この結界を破ろうとするものに対して貴女自身が死霊使いとなって攻撃を行うという呪いです。

貴女の霊は、バフォメットが先約をつけているので、天に召されることが大変困難な状態です。従って、魂は呪いが解けない限りそのままです。しかし、私の残す魔法円を使って、上手く切り抜けて下さい。悪魔達はゲームを楽しんでいます。この土地は無尽蔵のエネルギーで満ちています。地脈が変わらない限り、結界は破られません。

そう言って彼は転移門の中に消えて行きました。

私はとうとう一人になってしまいました。


大攻勢がなければ、私は次期皇帝になるお方と結ばれる筈だったのに。


呪いは、間も無く発動します。

これを読む方が人間でありますように。


お母様やあの方に、私の代わりに嫁いだ愛しいお姉様に、また、天で会うことができますように、聖母様にお祈りします。私の手に残されたロザリオはそのままにしてください」


「いや、読むのが辛いです。あとはかなり字が乱れていて読めなくなっています。おかしいな。この本を箱に収める程の体力が残っていたのでしょうか?」


「もしかしたらだが、例の錬金術師が戻ってきたのかもしれないな。リーゼロッテ様が亡くなったことの確認と、呪いの発動の確認だ。恐らく契約で縛られているから、そうしたかもしれん」

フィリップさんがそう言った。


ふと、アグネスさんを見ると、目が真っ赤で、鼻も真っ赤、目からは大量の涙、鼻からも大量の涙が出て、ぐちゃぐちゃになっている。リーゼロッテ様に思い入れしてたからね。


「ご遺体が随分と整えられていると思ったが、錬金術師が整えたのかもな」オットー様が呟いた。


もう、これ以上リーゼロッテ様を苦しめたくないと僕は思った。


気づいた時には、立ち上がり、振り返って呪文を唱えていた。


ベッドの横には、大きな、青い転移門が出現していた。


「おぉ、王子」

そう言ってフィリップさんが中に消えていき、また戻ってきた。

「王子、流石ですな。塩砦のチャペルの前に繋がっています」

皆が驚いていた。ブルーノ神父様が、叫んだ。

「消える前にリーゼロッテ様をお運びしよう」

「応」

カール達がベッドの周りに取り付いた。僕はまた浮遊をかけた。

オットー様とブルーノ神父様が後に続いた。


そして、オットー様だけ、すぐに戻ってきた。

転移門は青い光を残して小さくなって消えていった。


オットー様は、皆んなを見回して口を開いた。

「もう、リーゼロッテ様は、祭壇前に安置した。神父様が番をしてくださる。護衛でカール、アレクシス、コンラート達は残した。彼らの荷物は、クラウディア達で運んでやってくれ。さて、忙しくなりますぞ。フィリップ殿。城塞都市の全面的なバックアップを期待しております」


もう、日が暮れだしている。僕らは、戸締りを開始した。ゴブリンが侵入した口を板で塞いで、下の暖炉の隠し入り口を塞いで、城門を下ろし、全員で出た。

フィリップさんだけ中から城門を閉めて、ロープで降りてきた。それから、ゴブリンが侵入したと思われる北側の木を調べた。フィリップさんはスルスルと木を上って、城壁に向かって伸びている枝を一本を残して全て落とした。


しかし素早い動きだ。森番と呼ばれるだけはある。


まぁ冬の間の食料となる半野生の豚なども、全て把握して、領主達の狩を主導するなども、森番の仕事だし、また、砦や城で使われる木材の把握や、切り出しも森番の仕事だ。森番はレンジャーであり、戦闘能力は並みの騎士など及ばないことが多い。


大攻勢以降、冬前の豚狩りなどは危険すぎて行われなくなったが、木材の管理はまだ行われている。石切場の掌握は、石工ギルドの仕事だが、危険すぎるので、護衛を森番が行なっている。


「なんで一本だけ残したんですか?」

フィリップさんは嬉しそうに答えてくれた。

「よく見てますね。王子。あの枝は、実は切り込みが入っているんですよ。誰かが乗れば、ぽきっとね。後で誰かが侵入しようとしたのが、折れたことでわかるわけなんです」


僕らは、城の門から石畳の道を歩いて、街道へ、歩いて降りた。

「早急に、ここを切り開かないとですな」

フィリップさんが呟いた。

それから街道を下り、残留していた従者さん達と合流し、砦に戻った。


戻ると、砦の中は、既に聖女の話で賑わっていた。


ただ、チャペルに入ることは禁じられているため、皆の噂となっているだけだ。


アグネス様に似ているというのが、街でも騒がれていて、彼らの情報網の速さと凄さに驚く次第となった。見てないのに、皆が見てきたように喋っている。僕は、アレクシスさんあたりが、怪しいと思っているけどね。


オットー様は、フィリップさんと、やはり、リーゼロッテ様は、他にはお連れできないなって話している。もしも、城塞都市だったら、見せろ見せろで暴動になるかもしれなかったそうだ。


皆、城壁の外には出る事ができないわけで、言い換えれば、収容所に暮らしているようなものだから、やはりストレス溜まるわけだ。ストレスは昇華させる必要がある。そういった意味で守護聖人も聖遺物も持てなかった、というか、教会すらないのだから、無理もないのだが、初の聖人となりうる聖女の降って湧いたような話によせる、鉱山町の民の熱狂と興奮は、分かる気がした。


その夜は、信仰集会があちこちで開かれ、皆が聖歌を歌っていた。

いかがでしたか。


風邪が抜けなくて苦しいです。


さて、また明日から平常運転ですね。1日一話は達成したいです。スピンオフの方もアイデアは出来ているのですが、書く時間がありません。


頑張りますので、応援宜しくお願いします。

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