第71節 街道の探索と戦闘 その19
今日は、皆さん、台風どうでしたか?
大変な目にあった人が多かったようですね。
お疲れ様でした。
オットー様は、まだ躊躇っていた。僕のところにやってきて、使徒殿はどうかなって訊いてくる んだ。 「さっきは、使徒殿の力で事なきを得たが、今度はどうなるかわからない。どのように思うか」 っていうんだよ。そんなのわかるわけないよ。僕は6歳なんだから。
確かに、商家でも、騎士の子でも、修行を始める歳らしいけどね。
でもさ、見習いだからね。プロじゃないから。
塩砦の上層部三人と、宮宰様の懐刀、フィリップさんの四人は、色々相談しているけど、イマイ
チ、意見が合わないようだ。
あれ、アレクシスさんが居ない。そう思っていると、大広間のドアから駆けてきた。
「どうだった?」カールさんが尋ねた。
「変化はないよ。中庭の方もね」
「そうか、ありがとう」
カールさんは報告を聴くと、オットー様のところにやって来た。
「例の廊下や、中庭に、変化はないようです。先に進まないと解決しないかもしれませんね」
そうか、先に進みたいが、みんなを思う上層部が、優柔不断だから、下の意思を示したってこと
か。
「わかった。早いとこ済まそう。総員、配置につけ」
結局、オットー様が、リーダーシップを発揮する事となった。
オットー様は、扉を蹴った。
扉は音を立てて、向こう側に開いていった。皆構えているが、なにも変化が無かった。
「杞憂とは、まさに、これだな」
オットー様や、レオン様、ブルーノ神父様、そしてフィリップ様が、みんな、くくくっと笑いを
堪えている。
「オットー卿、我らザクセン人の良さは、猪突猛進なところだったよな」
「いや、流石に、仲間は失いたくないからな。しかしながら、貴兄が言うように、我等はザクセ
ン人だ。やはり、我ららしくあるべきという事なのだろう」フィリップさんにオットー様が答え
た。
「そうそう、突撃すれば何とかなるものだ。我等の王子が何とかしてくれるだろう。さっきもそ
うだったしな」
ちょっとレオン様、突撃って、勘弁して欲しいよね。
「さて、先に参るぞ」
そう言ってオットー様は、ドアをくぐっていった。僕らは武器を構えて後に続いた。
ドアの向こう側は廊下が続いていた。その左右には扉が並んでいた。
「これは、何の部屋だろう」オットー様が独り言のように呟いた。
「まぁ、下働きの居住区か?」
フィリップさんが答えた。
「それなら、厨房の方にこの出入り口があるのではないか?」
「確かにそうだな。見て判断しよう」
廊下は真っ直ぐだった。左右にある入り口は、どれも扉がない。右側の部屋には、多種多様な
物が置かれていた。棚があり、大量の食器が並べられている。左側の部屋は、下働きの者たちの
衣類や、椅子、箱などがこれもまた棚に並べられていた。所々に小さな明かりとりがあるが、暗
く、リヒトを唱える必要があった。
「取り立てて、重要なものはないようだな。物置といったところか?」 オットー様が独り言のように呟いた。
僕らはまた廊下を歩いていく。廊下の突き当たりの左側に、上にあがる階段があった。
「この上は、下働きの者たちの部屋かもな」
オットー様が予想した。
「確かに、今までそのような部屋がなかったからな」
レオン様が答えた。
階段は、途中で折り返しとなり、二階にまで上ると、一階のように、また廊下が続いていた。
階段はまだ続いているが、二階を探索することとした。
二階の廊下には、また左右に部屋がある。それぞれ扉があったが、開け放されていた。 左の部 屋は床一面に藁が敷き詰められており、壁際には棚があり、細々とした物が並べられている。大 きめな暖炉が入り口の反対側にあった。
「下働きの者たちの部屋だな。雑魚寝だったようだな」
「棚はさしずめ私物置き場か?」
フィリップさんが、棚の上のものを調べながら言った。
「鉱山口の上の部屋のようなものだな。あそこも雑魚寝だが、まだ藁布団があるからな」
「フィリップ殿、雑魚寝が一番収容できるのですぞ」
レオン様が答えた。
「公爵様や宮宰様の下働きの者達は、皆寝台が与えられている。人数が多くないしな。ここは、
離宮のように、一時の滞在用で、人数もその期間だけ増えたのだろう。そうすると辻褄があうの
ではないだろうか」
「右側の部屋に行ってみよう」
右側の部屋もほぼ同じような作りだった。
棚の上のものを見たフィリップさんは、
「こちらが女用だったのかもな」
「まぁ、普通は、階を変えるがな」
レオン様が答えた。
「上の階へ行こう」オットー様だ。
オットー様は廊下に出て、みんなに言った。
「この廊下の長さは、下の階の廊下の長さと同じだろうか」
「コンラートが同じだと申しております」カールさんだ。
僕はコンラートさん達らしいなと思った。あの二人は職業柄、防衛の為の陣形を常に考えて進
んでいる。その空間での位置の取り方を常に考えているので、部屋の大きさ、高さ、また、脱出
路など、空間把握が的確なのだ。目だけ出しているけど、視界は広いらしい。
「ということは、食堂の二階部分にはどうやっていくのだろう?」
「オットー卿、やはり隠されているのだろう。上の階に行ってみよう」
フィリップさんは、早く上の階にいきたいようだ。みんなも同じ気持ちのようだ。
「この館は謎が多すぎる。面白いとは思うが、どうにも落ち着かん」ブルーノ神父様も呟いて同
意した。
僕達は、部屋を出て廊下を階段の方へ歩いた。
階段を上っていく。
やけに長い階段だ。突き当たりに扉があった。
「また扉だ」
「オットー卿、ちょっと待ってくれ」フィリップさんが何か呟いた。ドアが一人でに開いた。
「おいおい、魔法なのか?フィリップ殿。最初からやってくれればよかったじゃないか」
「すまんすまん。あんまり褒められる魔法じゃないからな・・・盗賊が使うようなものなんだ。
宮宰様に怒られるから、内緒にしてくれ」 「そうだったのか。確かにリウドルフィング家の家臣が盗賊の魔法を使っていたら、名家の名折 れだな・・・でも、我らの命のほうが大事だぞ・・・ま、こんど伝授してもらいたい・・・」 「あははは、喜んで伝授するぞ。皆で使えばわしを盗賊とは言えまい」 「皆で使うと窃盗団じゃないか?」レオン様が釘を差すように言った。フィリップさんは、うぐ ぐぐぐというような顔をしている。
「まぁ、先に進もう・・・」ブルーノ神父様が呟いた。
ドアの先は、塔の最上階だった。この城は、長方形だが、4隅のそれぞれに、塔が建っていた。
今まで調べた二つの塔には、木造の屋根がついていたが、ここは、屋上だけだ。館の屋根は三角
屋根で、塔はその屋根の低いところの高さに合わせてあるようだ。
そして、屋根の一部にドアがついていて、丸い塔の最上階に繋がっていた。塔からは、次の塔に
向かって城壁の一番上の通路が延びて、向う側の塔に繋がっている。
「謎だらけだな・・・向うの塔に上がる階段はなかった。そして、食堂の上や、その上に行けな
かった。また、2階の下働きの部屋の上部にも入れなかった。今きた階段に途中で出入口は無か
ったものな・・・」オットー様が頭を捻っている。
「とりあえず、向うの塔に行ってみるか。最悪、屋根を剥がせば、隠されている部屋に入れるか
もしれないぞ」フィリップさんが提案した。
「確かに、でも、壊すのが得意な奴らが、壊さなかったのも納得できない」
「オットー殿、そうだな・・・こういった場合、屋根が木造だろうし」
「館の北側の壁は、館の屋根下するまで伸ばされていて、このように通路になっている。北側か ら攻められることは立地的には考えてなかっただろう。崖だからな」オットー様が言った。 「しかし、木を170年伐採しなかったので、崖の途中から育った木がいくつかあって、そこか ら、なんとかすれば、入れそうな感じもする」
暫く行くと、金属製のフックが城壁に掛かって、そのままロープが下に伸びていた。
「おや、これは・・・」フィリップ様が気づいた。
「なるほど、ゴブリンはここから城に侵入したようだ」オットー様が続けた。
「そうか、そこの木に登って、射出装置かなにかでフックを掛け、ここまで登り・・・」
「フィリップ殿、ということは・・・」
「うむ、近くに感知装置なり、トラップがあるぞ・・・皆注意してくれ」
オットー様は、先頭に立ち、城壁の通路を歩いていく。左側には屋根があり、右側には城壁の立
ち上がり部分がある。通常、こういうところは凸凹にしてあるのだが、城壁の天端は真っすぐで
平らだった。
「かなり高いから下をみないように」
うひゃ、本当だ。くらくらしちゃうよね。僕は背が低いからいいけど、背が高い人は、倒れたら
落ちそうに感じるだろうね。それでなくても怖いのに、更にトラップがあるのだと聴いているか
ら、冷や汗が出てくる。
「注意して見ているが、それらしいものはないようだな」レオン様がオットー様に声をかけてい
る。
「うむ、しかし高い位置に通路を作ったものだ。さっきから窓や狭間がないかと思っているのだ
が、見当たらないな・・・謎の空間が気になる」フィリップさんが時々壁から乗り出して下を観
察している。とうとう、通路が終わり、塔の屋上に着いてしまった。
「おかしいな。この塔は、下からは上がれないのか」オットー様はあちこち調べているが、いく
ら探しても屋上には石の床しかなかった。
「おい、破風をみてくれ、窓というか、何か穴がある」
破風というのは、屋根とつながる壁で、三角形の形になっているところらしい。ローマの神殿建
築はよくあるらしい。ギリシャ神殿の真似だって、ブルーノ神父様が教えてくれた。異教徒の神
を祭る建物だが、破風のところには彫刻を飾ることが多いらしい。神父様も実際に見たわけでは
なく、文献で見て知っているだけだそうだ。
ここから見ると、確かに、屋根の一番高くなっているところから、少し下がったところに四角い
穴が開いている。フィリップさんは屋根に上がって観察している。見ていて怖くなるようなとこ
ろだ。
「ここから、この下にある窓を破って中に入ったのだろう。これは我々には無理だな。身軽で身
体が小さいのは、王子だけだが、危険すぎて、お願いできない」
おお、さすがフィリップさん、無茶なこと言わないね。
あれ、皆が僕を見ている・・・期待に満ちた目だよ・・・なんで?
アポロニアさんがボソッと呟いた。
「ボニファティウス様だと、空を飛べますが、使徒様は、ボニファティウス様のお弟子さんです
よね・・・」
うげ・・・なんてことを言うのだろう・・・
「そうだったのう・・・聖人のお弟子様だから、もしかして・・・」ブルーノ神父様が酷いこと
を言う。なんか、僕がなんとかしなきゃいけないみたいじゃない・・・ひどいよ。
僕は塔の上から下を見た。凄い高さだよ。あのゴブリンのミイラが死んでいた、家臣の居住区だ
って4階ぐらいの高さがあったよね。そこより高いんだから、無理だよ・・・
皆誰も話さない。ただ、風が吹き抜けていくだけだった。もしかして、僕、期待されているよね
。誰か何か言ってよ・・・ピンチだ。
いかがでしたか。
お話を書く上で、実はお城の見取り図みたいなのも作っています。アップできるといいのですが、下手なので、お見せできそうにありません。
でも、楽しいですよ。
明日は、夜にアップという感じです。
ブクマお待ちしております。