表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
107/293

第71節 街道の探索と戦闘 その11

残虐な部分があります。

苦手な方は、避けてください。


いよいよ、山城の探索2回目に入ります。


 僕は、馬車に揺られていた。馬車といったって戦闘馬車だ。


今日の御者はレオン様の従者だ。レオン様は単独で馬に乗って先頭を走っている。


戦闘馬車の中では、アポロニアさんとクラウディアさんが、座って、いわゆる女子トークをしている。アレクシスさんは、馬車の後部に一人で立ち上がって見張りをしている。盾職の二人は馬車の左右に外を向いて立っている。いつも二人は輝いているから、目立つよね。すこし油臭いけどね。本当に、磨きすぎてすり減っちゃうんじゃないのってぐらい手入れしているもん。カールさんは、荷台の一番前に立って、左右前方をにらんでいる。


フィリップさんは、今日は荷台に乗らないで、御者の隣に座っている。天蓋を乗せているので、聴こえないけど、色々と従者と話しているようだ。


 僕は、カールさんの後ろに座りながら、黙っていた。朝日が昇ってきていて、だんだんと日差しが強くなってきた。寝不足だからか、暖かくなると眠くなってくる。


 塩街道から曲がって、ローマ式の橋を渡って、緩やかな坂を上っていくと、すぐにエーデルヴァイスの丘に入った。なんか到着するまでの時間が短くなった感じがするのは、道に慣れたからなのかな。


丘の終わりで僕らは居残り組と、分かれて歩いて道を歩いていった。


 門と番所はあれから変わっていなかった。


フィリップさんは、同じように番所の入り口付近の壁にある、フックを下げて、暖炉が壁の中に入っていったあとに現れた入口に入り、階段をどんどん上っていった。


前回と違うのは、オットー様がレオン様に変わったところだったが、このレオン様が、ことあるたびに驚きの声をあげるので、なんか面白かった。暖炉横の狭い入り口では、レオン様が通れないのではないかと心配したが、杞憂だった。


 山城の中庭に出た僕たちは、まず、手前の左側の塔から調査することにした。

昨日、入らなかった塔だ。ドアは破られていて、全くない。ただ蝶番があるのでドアがあった感じがするぐらいだ。蝶番も錆びているけど、形は残っている。


 1階は、何もなかった。石造りの階段があって、上の階にいけるようになっている。床は木でできている。意外と腐ってないようだ。兵士達の死体もなかった。


「この床の作り、木造ということは、この下にも部屋があるはずだな」

フィリップさんが呟いて、床の点検を始めた。

「フィリップ殿、ここの床が開くようだ」レオン様が床をバンバンと踏んだ。そのたびに少し床の一部が開くように浮き上がる。フィリップさんは、近づいて、レオン様が踏んだ時に短剣をさして、浮いた床を浮かした状態で固定した。それから、レオン様が槍斧をさして梃の原理で扉を開いた。


 二人は覗き込んだ。階段や梯子は無かった。フィリップさんはリヒトを唱えた。中が明るくなった。

「ああ、牢屋だったみたいだな。いつ死んだのかわからないが・・・鎖に繋がれたままの骸骨が、何体があるぞ」

「フィリップ殿、降りようか?」レオン様が尋ねた。

 僕はレオン様の股越しに覗いてみたが、よく見えなかった。こんなところで死ぬのは嫌だな・・・と思う。フィリップさんは、すこし地下を観察してから言った。


「・・・いや、更に下が無いようだから、捨て置こう。お片付けの時にやってもらおうじゃないか」

「あはは、確かに、じゃ、上にあがりとしよう」

レオン様はそういうと、そおっと床板の扉を元に戻した。それから、フィリップさんを先頭に階段を上っていった。


階段は螺旋階段で、ぐるぐる回って上っていくタイプだ。僕は最後について上っていった。カールさんは、塔の入り口で警戒する役目なので、1階に残った。


「フィリップ殿、こういう場合は2階と呼ぶのだろうか、3階なのだろうか」

「うむ、高さ的にはさっきの階が2階だな。城壁の通路と同じ高さだから。塔は、こういう作りが多いよ。

大抵は1階部分が倉庫だとかだが。さっきの牢屋も床は石でできていたぞ。囚人が掘って逃げられないからな。あと、倉庫として使うのにも床が石のほうがいい。大きな樽も重ねておけるだろう?」

「なるほど、じゃ、今度砦下の平野につくる塔も、そうされるおつもりですな?」

「それがいいと思う。入口も1階につくらず、2階に作って、梯子で上り下りしたほうが、敵の侵入をふせげるからな」


 なるほどね。僕は感心していた。要塞とか監視塔とか砦っていうやつは、考え抜かれているんだな・・・ま、生き残るために、考えているわけだから、真剣になるよね。


 20段ぐらい昇ると、唐突に壁に穴があいていた。扉は無かった。階段はそのまま続いている。フィリップさんは、少し迷って、扉のない、四角い穴に入っていった。

「外から見た高さだと、恐らく詰所だと思うが、どうだろう」

 中には、窓が無かったが、狭間はあったので、比較的明るかった。テーブルがある。そして仮眠用だろうか、寝台がいくつかあった。武器ラックがあるが、なにもおかれてはいない。エールを飲んだのだろうか、木製のジョッキや料理用の木皿がテーブルに置いてあった。


「ここに詰めていた兵士はどこにいったのだろう」フィリップさんが呟いた。

「上に行ってみますか」レオン様が答えた。


僕らは、2階の部屋を出て、上の階に上っていった。同じように螺旋階段が続いている。そして、視界が急に開けた。階段は床の穴に繋がって終わっていたのだ。手すりもなにもないので、勢いよく上ると転びそうになる。


「最上階だな。地下室が牢屋で、1階は用途不明、2階は詰所、最上階は監視塔といったところか。そして、最後にここに籠ったわけだが、全滅したのだな・・・」

最初に上っていったフィリップさんが、呟いた。


 最上階は、塔の屋上に、木造の屋根と壁をつけたものだったようだが、木が腐り、ボロボロの廃墟のようになっていた。丸い塔の屋上の腰壁より上に、木で小屋を組んでいたようだ。屋根はあちこち破れており、小屋の中に光が差し込んでいる。窓はないのだが、かつて挟間だったところから光が差している。壁も穴だらけだが・・・


 床には、兵士たちの死体がゴロゴロ転がっていた。


レオン様が検分しながら、考えを口に出していた。

「おお、ヘルメットごとカチ割られているぞ。即死か。敵は背が高かったようだな・・・

 この感じだと、オーガかもな・・・すごい切れ味の斧だな」


「・・・うむ、オーガだろうな。中庭にあった魔物の死体の中には無かったが、恐らく、この砦の兵士の実力では、オーガは倒せなかっただろう」

「確かに。当時の知識では、対処法など無かったからしかあるまい。追い詰められて、上へ上へ逃げて・・・可哀想だな」


 床には、階段を塞いでいたと思われる、丸い蓋が砕かれた状態で転がっていた。兵士が使っていただろう盾もバラバラに砕け散っている。兵士は皆サーコートを着ていたようだが、ボロボロになっていて、色あせてしまった紋章は、かろうじて見えるぐらいだ。


 レオン様は、死体の一体一体を、検分して、死因を特定しているようだ。


「ともかく、受けてはだめなのだよな。鋼鉄の盾でもあれば別だが、受け止めたら体にダメージが残るからな・・・麻痺して動けなくなる。攻撃は反らして流さないとだめなのだ。そして、とにかく先制攻撃に限る。大体オーガは頭が悪いから、すぐフェイントに引っかかるのだよ。裏をかくと面白いぐらいにやっつけられるのだがな・・・くそっ」

 なんだか、骸骨達に向かって説教を始めたようだ。悔しいのか、不甲斐ないと感じているのだろうか。


フィリップさんがニヤニヤして話しかけた。

「レオン卿、彼らには無理だったのだよ。魔物に面するだけで、気持ちで既に負けてしまうのだ。ま、全員が卿のような戦士なら、良かったのだが・・・」

「フィリップ殿、なんだか悔しいのだ。恐らく、大攻勢の直後だったのだろう。オットー卿の話だと、どうやら他の城から逃げてきた兵士もいたようだから、魔物に押されて、逃げまどい、ここに立て籠もったが、為す術なく、屠られたといったところだろうか」

「うむ。気持ちはわかる。さて、次の塔を検分しよう。まだ城の中もあるのだから、時間がなくなる」


僕らは、城壁に降りていった。カールさんが、僕らの表情を見て、察したように無言になった。僕らはそのまま、次の塔に向かって、城壁の通路を歩いていった。


2番目の塔は、見た目は最初の塔と同じだった。前回オットー様だけが、中を見て通り抜けた塔だ。

最初の塔は入口が一つしかなかったが、こちらは二つある。どちらの入り口も城壁の通路とつながっている。城壁を歩くと、そのまま通過して90度曲がって歩いていけるようにできている。

もともとは、扉があったのだろう。ドアの痕跡がある。ドアは打ち破られたのだろう。単なる四角い穴になってしまっている。中に入ると、床は木でできていた。床には、サーコートを着たいくつもの骸骨が倒れていた。みなフル装備だったようだ。

入口のある側とは反対側の角に、階段があるようだ。最初の塔とは異なり、螺旋階段で地下にも降りていけるようだ。


下りていくに従い、空気がヒンヤリとしていく。

明りがないので、フィリップさんがリヒト(明り)を唱えて周囲を明るく照らした。ぐるぐると回っていく階段の最後に、扉があった。扉には鍵がかかっていなかったが、錆びてしまった蝶番のせいで、押し開くのは大変だった。

扉の向こうは、暗く、ヒンヤリとしていた。中には、横に寝かされた樽がラックの上に並んでいる。2段ラックだ。


「これは・・・酒の樽のようだな・・・」

レオン様が指を曲げて、コツコツと叩いた。鈍い音がする。

「中にまだ残っているぞ」

「レオン卿は、酒となると人間が変わるな・・・中に毒が入っているかもしれないから飲むなよ・・・」

「フィリップ殿、酒で死ねるなら本望だが、ここは自重しよう」

二人は笑った。


とりあえず、あとで回収して、調べることになった。毒の調査は、フィリップさんがやってくれるそうだ。何しろ錬金術師だからね。色々な試薬ですぐにわかるらしい。レオン様は、ニコニコしている。

上に上がっていくと、カールさんが心配そうな顔をして待っていたが、レオン様の表情を見て、すこし安心したようだ。あとでだが、2か所入口があると、警備しにくいと言っていた。大抵一人しか通れない入口なので、そこを武装して塞ぐのはたやすいが、他にも入口があると、それがすぐ側なだけに、きついと言っていた。同時に攻められたら対処できないからだそうだ。

1階には沢山の死体以外に、ひっくりかえった机や椅子が転がっていた。2階にいくと、さっきの塔とほぼ同じ造りだった。2階にはベッドがあったが、死体はなかった。3階、というか、屋上に木造の小屋を乗せているのだが、こちらは、がらんとしていて、弦の張っていない弓と矢筒が何本か落ちているだけだった。筒には矢が残っている。


「ここには立て籠もらなかったのか・・・城が先に襲われて、城に戻れなかった、城壁の警備兵達は、まず魔物に倒され、生き延びたやつらが、みな最初に調べた塔に逃げたのかもな。逃げ遅れた奴らが1階で倒れているのか・・」レオン様が想像して言ったが疑問形だ。

「多分そうだろう。最初に人間を倒したところだから、魔物もあまり探さなかったのかもな。酒が残るのが不思議だし」

フィリップさんは、レオン様の意見に賛成しているようだ。


僕らは、城壁の通路を歩いて、城のほうへ向かった。


いかがでしたか。

次の話では、伏線回収がありますよ。


お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ