依頼
男たちは、突如現れた俺とアレクを見て、どうやらただの旅人ではないと気づいたようだった。警戒の中に、 未知の存在への恐怖が混ざる。
「僕が何者か。さっきそう聞いたよな」
すくみ上る男たちに敵意を向けた途端、僕の身体は形を変え、人ならざるモノへと姿を変えた。骨格の変化で肉が千切れ、そこを新たな肉が覆う。全身から骨と肉の悲鳴が聞こえる。中身の変化によって当然皮も裂け、血液が滲む。全身余すところなく痛みに包まれた僕は、呻き声を漏らしながら男たちを睨んだ。
「ば、ばけもの!」
「ひぃぃ!」
彼らは、腰を抜かしながらどこかへ逃げていった。
***
「助けてくれてありがとうございます」
弱々しいが、どこか芯を感じさせる声で少女は言った。
「いや、僕は何も。それより君は怖くないのか? 僕のこの姿を見て」
少女は、黙って首を横に振った。
「私のお兄ちゃんも、あなたとそっくりだから」
「お兄ちゃん?」
「いや、まあ、あのね、ひとまずお礼をしたいから、おうちまで来てくれると嬉しいです」
アレクの方を伺うと、彼女は少し安心したような顔をした。
「私のこと無視して決めるものだと思ってた。その子に着いていっても、別に問題はないと思うわ。なぜなら……」
「なぜなら?」
「いや、なんでもない」
少女の住む家へと、俺たちは着いていくことにした。
俺がアレクの魔法で、再び人型に変形させられたのは、言うまでもない。
少女の家は、森に囲まれた小さな集落の一角にあった。薄暗く、みすぼらしいあばら家の軒先には、萎びた根菜が干してある。
「どうぞお入りください。お茶くらいしか出せませんけど」
布で仕切られた部屋の奥から、微かに呼吸音が聞こえる。何か汚れの染み付いたテーブルでお茶を飲みながら、小屋の中を見回す。干物が干してあったり、ひざ掛けが床に落ちていたりして、どこか雑多で生活感に満ちている。
「あまり見られると恥ずかしいです……」
「ああ、ごめん」
少女に目線を向けると、彼女はどこか気まずそうに下を向いた。テーブルの上のカップを握りしめて、何か迷っているようだった。小屋の中は木々が風に揺れる音と、奥から聞こえる微かな息遣いに支配される。わずかな沈黙の後に、彼女は僕の目線を捉えた。
「実は、あなたにお願いがあるのです」
「お願い?」
「あなたに、私の兄を殺してもらいたいのです」
小屋の奥の薄闇から、咳き込む音が聞こえた。