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少女

一章開幕です

気がつくと、体の左側が軽くなっていることに気づいた。


腕がない。


肩から先がなくなっている。なぜ? などと自問している場合ではない。一刻も早くここから離れなければ。離れて逃げなければ。誰かに助けを求めなければ。


どこに逃げろと言うのだ?誰に助けを乞えと言うのだ?


俺の居場所はこの世界のどこにもない。誰も俺を助けてはくれない。なぜならここは俺が元いた世界ではないからだ。異世界に突然呼ばれて、待っていたものは死か。

重い体を引きずって、痛みに呻いて、たどり着いたのは廃棄物処理場だった。

城に来たものの、使い物にならない品が最後に行きつく場所。

打ち捨てられた夥しい数の食べ物、生き物、刃物。

僕もこの一員になるんだ。


「おっ、生き残りが1人。都合よくゴミ捨て場じゃん。首と胴を切り離したら、あとで腕も拾って来てやるよ」


異形の殺人鬼が一匹。四肢が昆虫の脚のように変形している。


「じゃあなガキ。あの世で赤髪の女によろしく伝えてくれや」


ゆっくりと這うことしかできない俺の首筋に、刃物が振り下ろされる。


***


またこの夢だ。ヒトの形を取り戻して旅を始めてから、毎晩この夢を見る。

起き上がって、近くの川で顔を洗った。水面に映る自分の顔を見る。アレクの「そうぞう魔術」で外見だけはヒトの形を取り戻したが、俺は依然として怪物のままだ。ヒトでは捉えられない魔の存在を感知できるし、飛んでいる蝿は止まって見える。身体能力も、常に魔剣のブーストがかかった状態で、普通のヒトと同じ空間で行動するのは危険だ。もっとも、俺と行動を共にしているのはオートマタだから、あまり気にはしていないが。


「こんな朝早くに何してんの」


「悪い、起こしちゃったか」


「いや、別に平気」


アレクが持つ龍脈図を辿り始めてから3日経った。俺が、ヒトならざるものになり、旅を始めてから3日経った。人が住む集落にも近づかず、山を行軍するゲリラ軍とも会わず、アレク以外と顔すら合わせずにひたすら西に向けて歩き続けて、3日経った。


「その龍脈節ってやつに着くには、あとどれくらい歩かなきゃならないんだ? てかとは以外の移動手段は無いのかよ。馬とかさ」


「君は、半分悪魔なんだよ? そんなものを背中に乗せてくれる生物がいると思うかい?」


朝靄がアレクの体をしっとりと湿らせて、彼女もやはり人間では無いのだと、改めて教えてくれる。顔立ちもプロポーションも、可愛らしい少女のものだが、球体関節や胴の継ぎ目は人形のものと同じである。彼女が人間でないと実感すればするほど、その赤い髪の色や話す言葉は嘘っぽく見えて仕方ない。

彼女の言う通りにすれば、本当に俺は戻れるのか。彼女の本当の目的は何なのか。始まったばかりの旅はまだ何の実りもなく、同伴者は全く信頼できない。自分の状態すら正確にわからない。早速気が重くなったが、これも元の世界へ帰るため。元の体に戻るため。とりあえずこの少女の言う通りにして、自分でゴールを見つけられたり、目的を見つけることができたら、その時は別れてしまえばいいのだと。そう思うことにした。

アレクが、俺をからかうために作っていた笑顔を取り払って、辺りを見回した。


「どうした?」


「何か聞こえないか?」


確かに、少し遠くに足音が3つ。1つの足音を、2つの足音が追いかけているようだ。


「これは……体重的に女の子を男が2人がかりで追いかけてるな」


「助けに行くの?」


僕は僕のために旅を始めた。なら、厄介ごとに首を突っ込むのは無駄足でしかないわけだ。でも


「助けに行かないってのは後味が悪い」


「お人好しだね」


足音の方向に走っていくと、ちょうど男が女の子にナイフを突き立てようとしているところだった。

腰の剣を鞘ごと抜き、ナイフを持つ手を打つと、剣越しに、骨が折れた感触がした。


「お前……自分がなにをしたかわかっているのか!」


腕を抑えながら男が叫ぶ。布の服、安っぽいナイフ、無精髭。悪党というより木こりっぽいな。


「いや、女の子刺しちゃダメでしょ」


「そもそも何者だお前!」


木こりの後ろにいる、若い男が怒鳴る。こいつも木こりっぽい見た目だな。


「何者? 何者なんだろうな」


さっきから漂う、濃厚な甘い香りはどこから匂うのだろう。木こりコンビからでないなら、この子か。

振り返って、改めて女の子を見てわかった。この匂いの元はこの子だ。そして、この子も、体内に悪魔を宿している。


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