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化物

体に魂が馴染み、ガラス越しに見ていた景色が、自分の視界と重なってくる。

手袋をはめているようだった手が、皮膚と馴染み、手の感覚が戻る。

心臓の位置に、暖かいものが収まり、自分の体に戻ってこれたことがわかった。

そして、今の自分の状況もわかった。


辺り一面に転がる肉、骨、指、ぬいぐるみ、剣、脚……

自分が握りしめていた剣を見る。滴る液体、胃袋が中身を押し戻す。

反吐の酸っぱい匂いと共に、嗅いだことのない匂いがする。脂の匂い? いや、違う。脂にしては甘い匂いのような……

辺りを見回すと、肉から体液とは異なる汁が、流れ出ているのが見えた。この匂いはあそこからか。

コールタールのようにドロリとした、黒い液体。

指につけて舐めると、信じられないくらい美味しかった。蜜のように甘い。手ですくって舐める。手ですくっていては時間がかかりすぎる。他の誰かに取られるような気がして、汁に直接口を付けて啜った。

なんだコレは? 何かはわからないが、たまらなくうまい。いつまでも味わっていたいくらいだ。


「やっぱり、キミだったんだね。ウシノ」


振り返った先にいたのは、赤毛の少女。


「アレク……? なぜここに」


彼女は死んだはずでは?


「そんなことはどうでも良いでしょ。それに、キミの顔の方がひどい。契約の代償に頭上げちゃうなんて、どうかしてるよ」


「頭? 契約?」


なぜ彼女が生きているのか、自分は一体どうなってしまったのか、この街はどうなってしまったのか。何1つわからないまま、彼女に手を引かれて、森にある小屋へ戻った。



小屋には、誰もいなかった。


「あの魔術師の男は?」


「お爺様なら、お出かけ中です」


「そうか」


椅子に座って、呆然とする。この短時間で色々なことが起きすぎた。


「とりあえず、今の状況について、説明します」


アレクの声を、ぼんやりと聞く。


「まず、この国の首都は壊滅しました。次に、私は一度死にましたが、お爺様のおかげで、なんとかなりました」


静まり返った街と違って、森は色々な生き物の声がするな。


「次に、悪魔との契約についてですが」


アレクが言いかけた瞬間、小屋が砲弾で破壊された。

崩れてくる壁と、落ちてくる屋根がスローモーションのようにゆっくり動いて見える。

自分でも、信じられないスピードでアレクを抱え、外へ飛び出した。


「そこを動くな!」


外は、武装した集団でいっぱいだった。

集団の中の、ひときわ美味しそうな香りのする男が、前に出て高々と述べる。


「我々は、この国の兵士である。首都を襲った悪魔の討伐に参った」


悪魔? 悪魔なんてどこにいる?


「この悪魔め! その女性をはなせ! これ以上、ここでは好きにさせない! 兵長の名にかけて!」


男が腰の剣を抜くと、両腕が黒く染まり、筋肉が膨れ上がった。

一瞬で間合いを詰めて、俺の首を狙った刃を、間一髪でかわす。

まだ知りたいことは沢山ある。なのに次から次へと、いろんなことが起きて、頭が追いつかない。

男の攻撃を避けて、少しよろめいた瞬間、兵士たちの槍が、次から次へと体に打ち込まれた。

痛い。とても痛い。でも、致命的ではない痛さ。


「やめろ!」


腕を振り回すと、僕の近くにいた兵士たちは数メートル吹き飛んで、動かなくなった。

槍を持って遠巻きにしていた兵士が、恐怖で顔を歪ませる。


「ば……ばけもの!」


バケモノ? そんなものどこにいる? 詰め寄って、その兵士を木に押し付けた。うまく回らない口をぎこちなく動かして、兵士に問う。


「バケモ……ノ?」


「ヒッ」


兵士がつけている甲冑の表面に、歪んだ自分の顔が映っていた。

爬虫類のように光沢のある黒い体表、長い牙が口からはみ出し、黄色い目が、縦についた瞼で瞬きをした。


「そうか……」


放してやると、兵士は、失禁しながら走って仲間の元へ走っていった。

そうか。バケモノは俺か。自分の手を見れば、不自然に長い指と、鋭い爪。不自然に長い腕、逆関節の足。どこに出しても恥ずかしく無いバケモノだ。


異世界まで来て、俺は、バケモノになってしまったのだ。

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