相談だけど思い出したけど目的が決まったけど
「あ、やっと来ましたね」
森の中央に戻ると、そこにはロウターとアイディールさん。そしておばば様にヴィエラと全員が揃っていた。
私は皆の前まで歩いていき、頭を下げた。
「心配かけてごめんなさい」
頑張らなきゃいけないところで無様に気絶しただけだった。
起きた後も現実に対する理解が甘くて、その上さらに自分を甘やかした。
皆にとっては大いに迷惑だっただろう。
「以後このようなことが無いよう自らを戒めます」
「あの、謝罪とかどうでもいいんで、早く会議に参加してくれませんか?」
オイコラ。
私が珍しく反省モードなんだぞ。
それをこの子は……
「それは流石に酷くないですかねアイディールさん」
「だって謝罪とかしたところで結局許すのは貴女自身ですしねぇ。他人に許されたいのは自分が謝ったことに対して満足したいだけでしょう」
そうかもしれない。
別に許しが欲しいから謝るわけでは無いのだ。
本当に大事なのは自分が先程言った通り、自らを戒めて次に繋げることなのだ。
「私はどうでもいいですし、貴女の優しい仲間達はどうせ気にしちゃいないでしょう。さっさとこっち来て今回の件について教えてください」
アイディールさんが私を手招きするので、私は皆が座っているところへ向かう。
おばば様が即席で私とアイディールさんに椅子を用意してくれ、ロウターは足を折り曲げて地面に座り込んでいる。
おばば様、ヴィエラさん、私、ロウター、アイディールさんの順で円を組むように座っている形だ。
私の目の前にいるアイディールさんが、電子パネルのようなものを持って何かを確認している。
「被害状況は昨日のうちに大体確認しました。どのように襲撃が行われたかについても、すでにユグドラシル様から伺ってます」
アイディールさんが、現在会議がどこまで進んでいるのか教えてくれる。
「ですがこちらの得た情報によると、襲撃は本来一ヵ月より先の予定だったはずです。それが突然繰り上げになり、治安委員局の潜入部隊もかなり混乱しています」
治安委員局には潜入部隊なんてのもあるのか。
その人たちが今回の情報を集めていたのだろう。
「掴みかけてた組織の連絡経路や全体像も、結局振り出しに戻されてしまいました。テンジョウインさん、貴女から何か昨夜の襲撃について思い出すことはありませんか?」
そういうアイディールさんの目からは、あまり期待してないといった思いが伝わってきた。
まぁそれはそうだろう、私は昨日殆ど気絶してしまっていたし、私の知り得る情報の殆どはおばば様から既に伝わっているはずだ。
だがこのまま何も協力出来ない自分が悔しいので、何か無いかと必死に思考を張り巡らす。
「特に無いなら別に無理しなくてもいいんですよ?」
「待って」
ある、何かあった気がする。
あの場で私しか知ることがなくて、その後の出来事のせいでインパクトが薄れてしまった情報が。
……思い出した。
「原産国」
「はい?」
「昨日救出した少女の服の裏に、原産国はトレボール? って書いてあった」
そうだ。
どこかで聞いた気がすると思っていたが、アイディールさんの顔を見て思いだした。
つい先日アイディールさんへ、ドレッドからの情報を伝えに行った時、その国名を聞いたのだ。
確か中央王都と争っているというロボット達の住む国だったはず。
「テンジョウインさん」
「なに?」
「証明出来たりしませんか?」
アイディールさんが、今まで見たことがないほど凄い真剣な顔でパネルに何かを書き込みながら、私に聞いてきた。
「それ、超重要な情報です」
アイディールさんの気迫が怖い。
「ごめん、流石に服のタグを持ってたりはしてない」
「くっ……それは仕方がないですね。ユグドラシル様によれば、子供達は突然引火して自爆してしまったらしく、証拠になる者は一つも残ってませんし……」
アイディールさんは尚も電子パネルを操作し、読んだり書き込んだりしている。
「しかしこれは貴重な証言です。トレボールは人間に反旗を翻したロボットの国なので、人の国には輸出入は一切行っていまし、当然人間が入国することも禁じています」
なんと、そんな閉鎖的な国があるのか。
では人間の子供が、その国の服を着ているのはおかしい。
いや、そもそもロボット達しかいない国に服があることに疑問を覚えるが。
「燃え残った骨粉を現在必死に鑑定に掛けていますが、恐らく誘拐された子供達と判断してよいでしょう。その場合、今回の襲撃にはトレボールが絡んでおり、誘拐した子供達の体を改造したと推測出来ます」
人体改造。
聞くだけで気持ちの悪い話だ。
「ですが何のためにトレボールはここを襲撃したのでしょうか。植物人と人間の対立を深める為? 対立どころか元から殆ど関わりはありませんから、効果は薄そうですし……」
アイディールさんはブツブツと呟きながら考えを広げるが、軽く頭を振ってため息をついた。
「まぁ、何を想像したところで証拠が無いから妄想に過ぎないんですけどね」
悲しい結論である。
だが、私自身は間違いなくこの目でトレボールという文字を見たのだ。
「じゃあさ」
「なんですか?」
「私、行くよ。トレボール」
私の言葉に、アイディールさんは頭を数回搔いたあと、軽く首を回した。
「やっぱり貴女はバカ女ですねぇ」
「なにおぅ」
私の講義の声を聞き流し、彼女は心底バカにした目つきで私を見下してくる。
「先程の私の言葉を聞いてましたかぁ? 入国拒否という点で同じとはいえ、元から関係を断っていた植物人と会いに王家から許可取ってここに入るのと、人間と争うために国交を断絶したトレボールに行くのとはワケが違うんですよ?」
まぁ……それはそうだろう。
だが、そんなことでは引き下がれない。
私が胸に背負ったモノの為にも、ここは行かなきゃいけない。
「でも、私はトレボールに行くよ」
「行ってどうするんですか? 速攻で拘束されて子供達の二の舞になるだけですよ」
「必ず証拠を掴んで、アイディールさんに渡してあげるよ」
「あぁ、もう……!」
私の言葉に、アイディールさんはかなりイライラしたようで、髪を掻きむしって険しい顔をする。
「本当に平和ボケしてやがるんですねぇ! そこまでいくと本当にバカですよ。トレボールなり何処へでも好きに行きなさい! 私は責任取りませんし、知ったこっちゃないですけどね」
「うん、そうするよ」
ロボットの国だか知らないが、そこに子供達を殺して、私に殺させた元凶への手がかりがあるかもしれない。
なら私はそこへ向かって、それを必ず突き止めてやる。
完全に私怨だが、私はこの行動を間違ってるとは思えない。
「じゃあ、早速行ってくるね」
「さっさと行ってくるがいいです。今度こそ貴女の顔を見ることはなさそうですけどね!」
私は立ち上がって、皆に礼をして、ラポシン王国へと繋がる出口に向かって歩いていく。
ロウターは黙ってその場から立ち上がり、私に付いて来てくれた。
散々心配させたのに、本当に優しい子だ。
しかし、そんな私達の歩みを止める人物がいた。
「どこへ行くのですか? ヤコ」
そう言って私の前に立ちふさがった、いや、浮かびふさがったのはヴィエラさんだ。
彼女は両手を広げて、まるでとうせんぼをするかのように私の歩みを邪魔する。
「えーっと、トレボールって国に行って、この森を襲った奴らのことを突き止めようと思うんだ」
「必要ありません。森の再生、始まってます。次に来ても返り討ち、出来ます」
彼女は意地でも通してくれないようだ。
だがこちらも引き下がるわけにいかない。
意地になっている女の子がいるのなら、懐柔すればいいのだ。
「私はヴィエラさんを傷付けた奴らが許せないんだ」
「気にしないで下さい。私は問題ないです、ヤコ」
どうやらそこまでチョロくないらしい。
これがチョロイン代表のフィストだったら「もう、ヤコったらまたそんなこと言って」とか言ってなんだかんだ通してくれるぞ。
いかんいかん、他の女の子と比べるだなんて最低にも程がある。
「問題ないです。だからどこにも行かないで、ずっとここにいて。ヤコ」
……疑いが確信に変わった。
いや、前々からそうなんじゃないかと思ってたんだけど、今のセリフでかなり確信したわ。
この子アレだ、私の知り合いで似たような子いるじゃん。
「誓いを破るのですか? 運命の人、ヤコ」
完全に姫子ちゃんだわコレ。
やっばいな、ヴィエラさんはそっちサイドの人だったか。
てっきり病んでないガラードさんみたいなフワフワタイプかと思ってた。
だってもう目が怖いもん。ハイライト消えてるもん。
「違うよ、私は必ず戻ってくる」
「私は一時たりとも離れたくないです、ヤコ」
しかもかなり独占欲が強い。
しばらく無言の時が続き、ヴィエラさんは何故かアイディールさんの方を睨んだ。
「あの女ですか?」
「へ?」
「あの女が、ヤコを唆したのですか?」
待て、その流れはマズい。
睨まれたアイディールさんは、何故自分に飛び火してきたのか理解できていない顔をしている。
うん、私もわからない。
アイディールさんなんも悪くないと思います。
「運命で結ばれた二人を引き裂く邪悪」
そう言ってヴィエラさんは軽く手を組むと、目をカッと開いてアイディールさんを睨んだ。
「排除します」
ヴィエラさんがそう言うと、アイディールさんが座っていた木造りの椅子が、たちまちその形状を変えてアイディールさんの手足を拘束する。
「何事ですか!?」
驚いたアイディールさんだったが、右手で素早くいつぞやの天秤を取り出して空に掲げた。
たちまち光に包まれ、上半身裸に腰巻、右手に錫杖という完全変態モードへと移行する。
これであの姿見たの私三回目だなぁー、と呑気に考えた。
「ちょっとテンジョウインさん! 何故私が攻撃されなければいけないのですか!」
「いやぁ、私にもわかんない」
「なんでそんなに楽観的なのですかぁああああ!」
アイディールさんは、ヴィエラさんの命令によって襲い掛かる木の根を捌きながら私に怒鳴りつけてくる。
ふむ、なんでそんなに楽観的なのかって?
「私が殺されることは無さそうだからかな……」
逃げてアイディールさん。
今回、私は大丈夫なパターンな気がするから。
「あぁもう、うっとおしいですね!」
そう言ってアイディールさんは錫杖を空に掲げると、雷の雨が辺り一帯に降り注いだ。
うおっ、何あれカッコいい。
雷に当たった根っこや木々は焼き切れて消滅するが、また別の根っこが地面から生えてきてアイディールさんに襲い掛かる。
「ユグドラシル様! どうか攻撃をお止めください!」
私が使えないと判断したらしいアイディールさんは、おばば様に助けを求めた。
そういえばおばば様どこ行ったんだろう、先程から姿が見えない。
「くっ……きゃっ!」
アイディールさんが可愛い悲鳴を上げたかと思うと、ついにその足が木の根っこに捕まってしまったようだ。
「このっ!」
どうにか抜け出そうと、錫杖からレーザーで根っこを焼き切ろうとするアイディールさんだが、足を掴まれたその隙に、別の根っこが襲い掛かる。
たちまち彼女は根っこによって空中で大の字に拘束されてしまった。
万歳状態になってしまったことにより、制服が少しめくれておへそが見える。
かなりえっちだ。
「やっと捕まえました」
おぉ、凄いなヴィエラさん。
完全変態モードの人を相手に捕まえちゃったよ。
逆に私はこれを突破してヴィエラさんまで辿り着いたのか。
自分を褒めてあげたい。
「くぅ、なんで私がこのような目に合わなければいけないのですか!」
「貴女、私のヤコを唆した。死ぬまで罪を贖って貰います」
私のヤコだなんて情熱的ですねヴィエラさん。
でも後半は情熱的通り越して熱狂的ですねヴィエラさん。
「バカ女のトレボール行きについて、私は一切関係無いです! むしろ止めたくらいです!」
「ヤコをバカ呼ばわり。許しません」
「きゃあっ!」
私をバカ呼ばわりしたアイディールさんを、ヴィエラさんが植物の鞭で叩く。
パチィン! とかなりいい音がしたので、相応に痛いだろう。
なんかSMプレイみたいになってきたなぁ。
若干涙目のアイディールさんが私を見て怒鳴りつけてくる。
「テンジョウイン! 私を助けなさい!」
そう言われた私の心に、悪魔が生まれた。
悪魔は私に唆してくる。「オイ、先日の足舐めに対する復讐のチャンスじゃねえか?」と。
私は答えた。「そうだね」と。
「ヴィエラさん」
「なんですか、ヤコ」
私はアイディールさんを未だに植物の鞭で叩いているヴィエラさんに話しかけた。
「その人、特殊な性癖だから鞭で叩いても喜ぶだけだよ」
「叩かれて喜ぶ……? 変態ですか?」
「何言ってやがりますか!」
勝手にどM呼ばわりされたアイディールさんが、私に抗議の声を上げてくる。
しかし、これ以上鞭で叩くなというフォローだとでも思ったのか、若干安心したような顔である。
甘いね、アイディールさん。
貴女の地獄はここからですよ。
「だから、くすぐってあげなさい。狂うほどね」




