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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第四章 植物人のヴィエラ
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調べてみるけど気絶したけど煽られたけど

 現在私の住処となっている木の下へ辿り着く。

 おばば様によって穴の中に子供達が運ばれていた。

 

「よいしょっと」


 私は子供を落とさないようにロウターから降りて、木に向かって歩いた。

 見た限り、私が手に持っている子も含め、全員で5人。

 そう、5人。私が助けた人数と全く同じ。


「ねぇ、おばば様」

「……なんじゃ」

他の子は(・・・・)?」


 襲撃されたのは、私が対処した三カ所だけじゃない。

 他にも沢山の場所が襲われていたし、子供達も拘束されていたはずだ。


「……他のマシンに、子供は拘束されておらんかったわ」

「……そう」


 嘘だ。

 問いただすまでもなく分かる。

 きっとおばば様は、子供達の救出よりも森を守ることを優先したのだろう。

 だから、一刻も早くあのマシンを破壊する必要があったのだ。

 そう、例え子供達を巻き込んだとしても。


 仕方がない、というのは分かる。

 最初からそういう取り決めだった。

 もし森に大きな被害が及ぶと判断した場合は、こちらが何と言おうと対象を排除すると。

 むしろ、数人助けるチャンスをくれただけ御の字だったのだろう。


 頭では理解出来る、私が出来ることなんてタカが知れてる。

 そもそも攻めるべきは犯罪組織の方であって、必死に守ったおばば様を攻めるのは筋違いだ。


「おばば様」

「……なんじゃ」

「ありがとう」


 おばば様は最大限、私を気遣ってくれたのだ。

 そうでなければ最初から子供達を助けるためにマシンを拘束しないし、『他のマシンに子供はいなかった』なんて嘘もつかない。


「おばば様、ヤコ」


 沈黙してしまった私とおばば様の間に、ヴィエラさんが木の上から降りてきた。


「おばば様、侵入者の殲滅と消火活動が終了しました」


 おばば様はヴィエラの報告を聞いた後、暗いフードの奥から私に視線をよこした。


「子供の手当てをしてきます」

「……薬草や清潔な水は用意しておく」


 そう言っておばば様は、世界樹・ユグドラシルがある方向へ消えて行った。

 残されたのは私とヴィエラさんだけ。


「ヴィエラさん」

「なんですか、ヤコ」

「子供達の治療、手伝ってくれる?」

「わかりました。ヤコ」


 幸いここには治癒魔法のスペシャリストであるロウターもいる。

 手当に時間はかからないだろう。


「……すぅー。はぁ」


 何故か深呼吸をしてしまった。

 もう燃え盛る火の中ではなく、息苦しくなどないはずなのに。

 私は軽く頭を振ると、倒れている子供達の安否を確かめるべく、木の下に歩いて行った。


 絶望は続いているとも知らず、無警戒に。


 狭い穴倉に五人は入りきらなかったので、先程連れてきた二人は申し訳ないが草の上に寝て頂いている。

 わずかに呼吸をしているので、恐らく生きてはいるのだろう。


「目立った外傷は無いみたいだね」

「あぁ、ただ眠っているだけのように見えるな」


 だが、間違いなくただの眠りではない。

 ここに来る途中何度も呼びかけたし、今も軽く肩を叩きながら呼びかけている。

 子供達の内訳は、男の子が二人、女の子が三人といったところか。

 流石に身元まではわからないので、アイディールさんに任せようと思う。


「皆、ヤコとは違う。でも同じ服着てますね」

「ん? あぁ、そうだね」


 ヴィエラさんの言う通り、子供達は皆同じ服を着ている。

 それも無地の白いシャツと短パンという、なんの装飾も無い服だ。

 誘拐されていた時に、着替えさせられていたのだろうか。

 私は少し気になって、一人の女の子を抱き寄せ、服の後ろ襟に付いているタグを調べた。

 そこに記載されていたのは、服の素材と、原産国。


「トレ……ボール?」


 どこかで聞いた気がする国名だ。

 だが思いだせない、どこだったか。

 つい最近聞いたような気がするのだが。


「主殿ッ! その子から手を離せッ!」


 記憶を掘り出そうとしていた私の耳に、ロウターの声が響く。

 そしてほぼ同時に、私が抱いていた女の子の顔を、ロウターが蹴りつけた。

 蹴りつけられた女の子の首はおかしな角度に曲がり、穴倉のある木に向かって突っ込んで行った。


「ロウター!?」


 突然の出来事に、思わず私はロウターへ叫ぶ。

 あの首の曲がり方は、間違いなく折れている。

 わずかに助けることが出来た子供達へ、私の友は何をしているんだ。


「ヤコ、後ろを見てください!」

「主殿! 後ろを見ろ!」

「え?」


 二人の恐ろしいほどの剣幕に、私は振り向く。

 振り向いた先には、ロウターによって蹴飛ばされた女の子。

 その不自然に曲がった首より下に、私は視線を落とした。


 そして見てしまった。

 服を貫通して生えている4本の鉄の脚。

 ギギギ……

 そんな音とともに、曲がった少女の首がこちらを向く。

 私と少女の目が合った。


「……!」


 少女の左目は、目などではなかった。

 右目は確かに人間のソレだ。

 だが左目は、カメラのレンズのような何か。

 こちらを凝視するように開ききったまま動かない右目に対し、左目は何度も、まるでシャッターを切るように瞬きを繰り返す。


 そして少女だった何かは、ぎこちなく立ち上がった。


「危ないです、ヤコ」


 あまりに非現実的な光景を前に固まってしまった私に、ヴィエラさんが少女の前に立ちふさがった。

 そして手を前に伸ばすと、地面から根っこを召喚して少女を拘束する。


「GYEEEEE!」


 少女が、まるで再生したCDがバグった時のように不快な叫び声を上げる。

 ヴィエラさんはそのまま少女を地面に組み伏せるが、少女は8つの手足を使って必死に抜けだそうとする。


 そして私は見てしまった。

 倒れた少女のその先、木の穴倉の中にいた3人の子供達と、もう一人の男の子もまた、痙攣しているように不可解な動きをしている。


「嘘でしょ……?」


 だが悪い予想は当たってしまった。

 痙攣する子供の一人が動きを止めたかと思うと、少女と同じく4本の鉄脚が服を破って現れ、まるで蜘蛛のように穴倉から這い出てきた。

 勿論1人だけじゃない、他の3人の子供達もまた、ほぼ同じタイミングで化け物となって襲い掛かってくる。


「下がっててください、ヤコ」


 しかしその4人もまた、ヴィエラさんによって拘束された。

 木の根によって拘束され、もがいている子供達の姿は最早化け物にしか見えない。

 だが最初に拘束した少女が抵抗を止めたかと思うと、腹から生えた4つの足をピンと伸ばしてプロペラのように回転させた。

 それは鋭い刃物にでもなっているのか、根っこを切り裂いて脱出し、再び私へ襲い掛かって来た。


「サン……プル、かく。ほ」

「ッ!」


 私は思わず手に持っていたペニバーンで、少女の胸を突いた。

 手に直接伝わる固い感触。

 そして突かれた少女が痙攣することによって感じる振動。


 人を、刺した。


「ァッ……」


 どこかからそんな声が聞こえてくる。

 私は自分が刺した少女の胸以外目が離せない。

 スプラッタな映画で見たように、血がドバッと溢れてきたりはしない。

 ただ刺した穂先から、一筋の赤い線が流れるだけだ。


 ゆっくりと視線を上げて、少女の顔を見る。

 少女の顔は化け物から解放され、救われたような笑顔。


 なんて生易しいものじゃない。


 両目を見開いて、刺された自らの胸を凝視している。

 槍の穂先を見つめて、口を開いたり閉じたりしながらも、ゆっくりと右目が光を失っていく。


「あ……」


 そしてスルリと胸から槍が外れ、少女は膝から地面に倒れ込んだ。

 私の記憶は、そこから無い。


◇◆◇


 ここは何処だろう。

 視界がぼやけていて良く見えない。

 誰かが私を呼ぶ声がする。


「ヤコ、起きなさい。ヤコ」


 何か温かいものが被せられている。

 これはなんだろう、布団?


「ヤコが寝坊なんて珍しいのね。早くしないと遅刻するわよ」

「え?」


 段々視界がハッキリしてきた。

 ここは日本にある私の家である。

 なんで私はここにいるの?

 さっきまで私は、古代森林で


「ほら、早く起きなさい。そろそろ朝ご飯出来るわよ」

「お母さん?」


 布団を揺すって私を起こしてくれたのは、まぎれもなく私のお母さんだ。

 もう二度と会えないと思っていたのに。


「早く着替えて降りてらっしゃい。服はそこにあるから」


 そう言ってお母さんは部屋を出て行ってしまった。

 呆然としつつも、私は布団のすぐそばに用意されていた服を着る。

 まだ寝ぼけているのか、どんな服なのかが良く見えない。

 しかし服を着ることに支障は無いし、どうせ椿ノ宮の学生服だろう。


 着替えた後に顔を洗い、階段を下りてリビングに行く。


「おはよう、ヤコ」


 階段を下りた私に挨拶をしてくれたのは、白い割烹着姿に身を包んだ父さん。

 私の家は豆腐屋で、父さんも母さんも一緒に働いている。

 家事も夫婦で分担しており、今日は父さんが料理をする日のようだ。


「おはよう、父さん」

「今日は大事な日だからね、豪勢な朝ご飯だよ」

「え?」


 父さんに言われて食卓に目をやると、そこにはボウルに入ったサラダに、丸ごとのローストチキン。

 ご飯に至っては赤飯である。

 これが朝食? 豪華すぎやしないか?


「ほら、ヤコ。座って座って」


 母さんが私を椅子に座らせて、食べ物を取り分けてくれる。

 二人が私を見つめてくるので、いただきますを言って赤飯を一口食べた。

 温かくて、口いっぱいに広がる風味。

 とても美味しい。


「なんで今日はこんなに豪華な朝食なの?」


 サラダやチキンにも舌鼓を打ちながら、母さんに質問をする。


「もう、忘れたの? ヤコったら」


 母さんは頬に手を当てながら、困った子を見るような目で私に微笑む。

 忘れたどころか本当に知らない。

 一体何のお祝いなんだろうか。



「今日はヤコが死刑される日でしょ?」

「え?」


 母さん、今なんて言った?


「オマエガシヌヒダ。ヒトゴロシ」


 思考が止まった私の耳に、地獄から這い出たかのような声が聞こえた。

 私の首が、後ろから誰かに絞め上げられる。

 苦しい、助けて。


 首を絞める何かを振り払おうとした私を、父さん達が見つめてくる。

 助けて、父さん、母さん。


「まさか娘が人殺しになるなんてな」

「えぇ、ガッカリね」


 二人はそう言って、私から目を逸らして遠くにどこかへ歩いて行ってしまった。


「ヒトゴロシ」


 私の首を絞め上げる何かは、凄い力で私を上に持ち上げる。

 必死で振りほどこうとするが、万力のように全く動かない。


「タスカリタカッタ」


 苦しい、助けて。


「カゾクニアイタカッタ」


 私の着ている服が目に映った。

 白と黒のボーダーライン。


 囚人服。


「ヒトゴロシ」


 そして私は再び意識を失った。

 最後の瞬間は、不思議と苦しくなくなった。

 ただ、許してという思いだけが心を満たしていた。



◇◆◇


「助けて!」


 私はそう叫んで目を覚ました。

 目の前に見えるのは、ヴィエラさんと一夜を過ごした穴倉の中。

 ……夢、か。

 全身にぐっしょりと汗を搔いていて凄く気持ちが悪い。

 未だ誰かに首を絞められている気がする。


「うっ……」


 そして込み上げてくる吐き気。

 飲み込もうと思ったが、喉を突き上げてくるように襲ってくる。

 ここで吐くのは間違いなくマズい、どうにか移動しなければ。

 私は立ち上がって穴倉から出た。


「目覚めたか、主殿」


 ロウターの声が聞こえたが、申し訳ないけど今それどころじゃない。

 外に移動したしもういいよね。

 いよいよ堪えきれなくなったのものを外に吐き出す。

 一回では効かなかった。

 一度吐いたら止まらなくなって、何度も何度も吐いてしまう。


 もう汗と吐しゃ物で最高に最悪な気分だ。


「はぁ……はぁ」


 そんな私の体を、淡い緑の光が包んだ。

 ロウターの浄化魔法だ。

 胸の辺りがすっとして、多少気分がマシになる。


「ありがとう、ロウター」

「……まぁ、心までは癒すことは出来んがな」


 ロウターに心配かけさせちゃったな。

 申し訳ない。


「あはは、私、自分で思ってたよりメンタル弱かったみたい」


 雰囲気をごまかそうとヘラヘラと笑ってみるが、ロウターは私をじっと見つめてくる。

 なんか言ってよ。

 沈黙が耐えきれなくなった私は、話を変えることにした。


「私が気絶した後、どうなったの」

「私が倒れた主殿の護衛を行い、ヴィエラ殿とおばば様とやらが……対処した」

「そっか。ありがとね、ロウター」


 私を気遣って、子供達をどうしたかについてはボカしてくれたのだろう。

 それは私もやったことで、私が気絶した原因だから。


「あのね、ロウター」

「なんだ」

「人殺しをしちゃいけないって言われる理由、なんかわかったよ」


 私の独り語りを、ロウターは黙って聞いてくれる。


「やってわかった。人殺しってさ、凄いショックを受けるんだ」


 小学生の頃に、道徳の授業で習った「人を傷つけてはいけない」

 その中で最も酷い「人殺し」

 道徳的にいけないこととか言われて、ちゃんと納得してたつもりだったけど、自分が人殺しをしてしまったことで本当の意味で理解が出来た。


「私が殺した少女にも、私と同じ様に両親がいた。きっと友達もいたし、好きな人がいたかもしれない」


 私は、少女が紡いだかもしれない一つの物語を、この手で破り捨てたんだ。


「来世があるとか、そんなことは関係ない」


 私が殺した少女も、私と同様にあの世に行くんだろう。

 でもそういうことではないのだ。

 彼女がこの世界で書こうとした物語を、私が潰した。

 私は、あの少女をなんとしてでも救いだそうとすべきだったのだ。

 それを、衝撃のあまり、もう助からないと思って。

 いや違う、私が彼女に殺されるのが怖かったから殺してしまった。


「……失格だね」


 殺されるのなど怖くないとか言っていた自分が馬鹿らしい。

 盛大にビビった挙句、人を殺したのだ。


「ごめん、ちょっと一人で散歩してくる」


 私は何も言わないロウターをその場に残して、目的地も無く歩き出した。

 これから私はどうするか。

 ちょっと今だけ、一人で考えたい。


 誰もいない森の中を一人で歩く。

 ある程度歩くと、襲撃された場所に着いた。

 焼け跡はかなり広い範囲で残っており、そこの範囲は木々が炭になって倒れているのだ。

 そこを避けて通っても、今度はまた別の焼け跡に辿り着く。


「……」


 しばらく考えて、私は焼け跡の地帯に入り、探し物を始めた。

 だが探し物は見つからない。

 あるのは、砕けながらも燃え残ったマシンの鉄片だけだ。

 しばらく探し続けたが、見つけることの出来なかった私は、マシンの鉄片をつまんで拾い上げ、少しの間だけ物思いに耽る。


 しばらくして私は素手で地面を掘って、少し開けた穴にその鉄片を埋めた。

 埋めた後に、土まみれで汚くなった手を合わせ、目を瞑る。


「何をしてるんですか、バカ女」

「え?」


 振り向くと、そこには青い制服に身を包んだ小柄な少女がいた。

 アイディールさんだ。


「いつからここに?」

「貴女がゲロを盛大に吐いた頃からいましたよ」


 そんな時からいたのか。

 美少女感知センサーは勿論彼女の存在を私に伝えていたのだろうが、夢うつつの状態だった私は気付かなかった。


「なんでここに?」

「すぐに向かうと言ったでしょう? 昨日の夜にはいました。まぁ、色々間に合いませんでしたけどね」


 アイディールさんの表情はとても険しく、悔しいと言った感情がありありと滲み出ている。


「で? 突然散歩を止めて、犬みたいに地面を掘って何をしていたんですか?」

「……なんでもない」

「昨日自分が殺した子供への供養のつもりですか?」

「なんで、それを」


 なんでそれをアイディールさんが知っているんだ。

 いや、昨日の夜には古代森林に着いていて、今日私が起きた時点ですぐそばにいたのだ。

 ロウターとは考えにくい。

 おそらくおばば様が起きた出来事を彼女に伝えたのだろう。


「貴女、まさか自分だけ綺麗だったつもりですか?」


 彼女は軽く鼻で笑うと、手を顔の横で軽くブラブラと振る。


「汚いことはぜーんぶ貴女の仲間にやらせて、最後だけちょっといいカッコするだけですか?」


 アイディールさんは口角を上げ、目線だけは私を見上げながら見下してくる。


「フィストさん、でしたっけぇ? あの女は、貴女を逃がす為に命懸けで私を殺しに来てましたよ」


 私とアイディールさんが初めて出会った日のことを言っているのだろう。


「だけど貴女はなんですかぁ? なんかデカい態度でご高説垂れて、私に諦めろだのなんだの抜かしてましたよねぇ?」


 それは……だって、殺すわけには。


「その時点でフィストさんと貴女は格が違うんですよ。フィストさんは、貴女を守るために危険因子を全て殺そうとした、その覚悟を持ってた。でも貴女は違う」


 アイディールさんは私に背を向け、肩を竦めて鼻で嗤う。


「あの時はてっきり私と同じ様に、弱者を甚振って愉しんでるんだと思ってたんですけどねぇ? 今の貴女を見て考えを改めましたよ」


 そして軽く顔を私に向け、口を大きく上げて哄笑した。


「アハハ! 呆れましたよ。貴女は不殺を気取った自分が可愛いだけのバカ女だ!」

「ふざけないでよ」

「はぁ?」


 じゃあ私はどうすれば良かったんだ。

 アイディールさんをあの場で殺せば良かったっていうのか。

 エンジュランドで出会った犯罪組織の男も。

 昨日の少女も、殺して良かったのか。


 そんなこと、出来るわけがない。


「じゃあ、私はどうすれば良かったの」


 私は、人を殺していいとは思えない。


「そんなん知ったこっちゃありませんよ。ただ、まぁ」


 そう言ってアイディールさんは、私がマシンの鉄片を埋めた地面を指差した。


「貴女のすべき事は地面に埋めて無かったことにするんじゃなくて、それを一生背負って生きていくことじゃないんですか?」


 そして再び彼女は鼻で笑う。


「その汚れた手は後で洗いなさい。でも汚したことを忘れるんじゃないですよ」


 アイディールさんはクルリと背を向け、森の中心へと戻って行った。

 私はしばらく考えたあと、埋めた穴からマシンの鉄片を掘り返した。

 そして鉄片と自らの手を泉で洗った後、鉄片を制服の懐に入れ、皆が待ってるであろう森の中心へと走った。




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