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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第四章 植物人のヴィエラ
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また説明だけどコンプレックスだけど話を戻すけど

 私は今、古代森林の中にある湖で体を洗っている。

 愛の証明を終えた後、おばば様が凄い申し訳なさそうな顔で「その……なんだ、水浴びでもするか?」とか言ってきたので、ありがたく頂戴している。

 湖の水は少し冷たいが、水底まで濁りも無く綺麗に見える。

 一通り体を洗ったあと、水を拭きとるタオルが無いと気付いた。


「ロウター」


 仕方ないのでロウターを呼び出して乾かしてもらうことにした。


「どうした主」

「悪いんだけど乾かしてくれない?」

「承知した」


 ドライヤー扱いに対して一切の文句を言わず、お願いを聞いてくれるロウターは本当に良く出来たいい子だと思う。

 ロウターは軽く両前足を上げると、翼を羽ばたかせた。

 すると私に温かい風が吹き、たちまち体に付いた水滴が吹き飛んでいく。


「服にも浄化の魔法をかけといたぞ」

「いつもありがとうね」


 ロウターには普段からこうして洗濯をお願いしているのだ。

 今回に関しては水浴びが出来たが、普段の時は私自身に浄化の魔法をかけて貰ったりもしている。

 本当に素晴らしい、一家に一頭ロウターである。

 私の体が完全に乾いたので、綺麗にしてもらった服を着てロウターに礼を言う。


「ありがとう、ロウター」

「いつでも用があれば呼んでくれ、主殿」

「ほほぅ、そのペガサスは導き手殿に従っているのか?」


 おっと、今最も殴りたい人物堂々の一位がやって来たぞ。


「あぁ、私は主殿の旅を微力ながら力添えをさせて頂いている」

「元はユニコーンから"存在進化"するペガサス。奇跡の象徴と言われる気高き獣じゃな、導き手殿の下僕にはピッタリじゃ」

「"存在進化"?」


 なんだそれ、聞いたことない単語だな。

 ロウターが元々ユニコーンだったっていうのも初耳だ。

 ユニコーンってアレだよね? 一角の馬。


「ロウターって元々ユニコーンだったの?」

「あぁ、そうだ。私も昔は翼が無かった」


 そう言ってロウターはしみじみと何かを思い出すように遠くを見つめた。

 ロウターって今何歳なんだろう……


「"存在進化"って何?」

「生き物の体内に存在する力が、一定の条件下で覚醒することにより、その存在が次の次元に進化することじゃ」

「へぇ……」

「他には地獄の番犬であるケルベロスが、三つ首龍であるギドラに進化する例が有名じゃな」


 ん?

 三つ首龍? 凄い見覚えある気がするんだけど。


「そんな導き手殿とペガサス殿に見せたいものがあるんじゃよ、ちょっと付いて来てくれ」


 そう言っておばば様は、森の奥に向かって歩いて行った。

 私とロウターは一瞬顔を見合わせ、おばば様の向かった方へ歩を進めた。


 案内された場所は、ヴィエラさんとの結婚式を挙げた花畑だった。

 どこもかしこも木が生い茂っているこの森で、その空間だけ開けた場所になっている。

 花畑の中央にはとても大きな木が生えており、荘厳な雰囲気を醸し出していた。


「綺麗な場所だな」

「そうだね」


 事態が急すぎて気にしている余裕も無かったが、私の結婚式場はとても美しい場所だったのだ。

 微かに頬に当たる風はとても優しく、いるだけで安心させてくれるような空間が広がっていた。


「気に入ってくれたようで何よりじゃな」

「それで、見せたいものとは?」

「あの木じゃよ」


 そう言っておばば様が指差したのは、中央の大きな木だった。

 うん、この花畑に入った時から見えてたけど、あの木に何かあるのだろうか。

 見つめているだけで、どこか自分も神秘の一部になれたような気持ちにさせる美しい木だ。


「あの木はワシの本体なんじゃよ」


 見つめているだけで、私が復讐の悪鬼になれたような気持ちにさせる憎たらしい木だ。

 よし、アレがターゲットだな?


「Come on,ペニバーン」


 私の呼びかけに応じて召喚されたペニバーンをキャッチし、その場で構える。

 さぁ、大きい風穴を開けたらぁよ。


「ちょっと待つのじゃ導き手殿。何をしとる!」

「決まってるでしょう? オイタが過ぎた老人に引導渡してやろうってのよ」

「昨日のことはすまんかったと思っとる! 正直悪ノリが過ぎた!」

「うるせえバ〇ア! ごめんで済んだら治安委員はいらねえってことをその身に刻み込んでくれるわ!」


 私は大樹に向かって飛びかかると、その幹に向かって思いっ切りペニバーンを突き刺そうとする。

 しかし突如として花畑から木の根が飛び出し、空中で私の体を拘束した。

 クソッ、またこれか!

 身動きが取れずにもがく私の目の前におばば様がやってくる。


「いや、こう見えて昨日のことは本当に反省しておるんじゃよ。何百年も人との関わりが無かった反動でやり過ぎてしまったんじゃ。許しておくれ」


 それでもやっていいことと悪いことがあるでしょうが!

 別に誓いのキスや愛の証明をやらされたことは構わない。

 問題なのは、それをヴィエラさんが『正しい行為』と勘違いすることであり、言われたことをそのまま鵜呑みにしてしまう彼女に対して嘘を吹き込んだ罪は重い。


「ヴィエラに関してもワシから説明しておく。謝れというのであれば謝るし、お詫びの印として決してお主の損にはならんこともやらせてもらう! だから許しておくれ」


 そう言っておばば様は私を地面に降ろし、木の根から解放した。

 顔は相変わらずフードに隠れて見えないものの、私の前で謝るおばば様の声音と雰囲気は困った老人そのもので、怒る気が失せてしまった。


「……ヴィエラさんに対して、ちゃんと説明しといて下さいね」

「重々承知しておる。本当にすまなんだ」

「それで、貴女の本体が何だって言うんです?」


 私が話題を元に戻すと、おばば様はほっとしたように一息をついた後、少し誇らし気に背筋をのばした。


「あの木、つまりワシはこの世界を支える一柱。『世界樹・ユグドラシル』なのじゃよ」


 おばば様はとても得意気である。

 いやあのね、貴女も中央王都の王様もそうだけどね、突然「私は『世界樹・ユグドラシル』だ!」とか言われてもサッパリなんですよ。

 名前からして凄そうだし、実際凄いのかもしれないけど、もうちょっと分かるように説明していただきたい。


「あの……『世界樹・ユグドラシル』ってなんですか?」

「なにっ!? エクストから伝えられておらんのか?」


 あれっ、エクスト王と知り合いなのか。

 ん? でもさっき何百年間も人と会ってないとか言ってたよね。


「仕方ない、じゃあワシから説明するとしようかのう」


 そう言っておばば様は、自らがユグドラシルと呼んだ木のそばに歩いて行った。


「七色の英雄の話はもう聞いておるか?」

「あ、はい」

「なら話は早いな。我々『世界の柱』は、七色の英雄が覚醒後にしっかりと育つために存在しておる」


 ほう。

 じゃあアレか、逆に言えば世界の柱とやらがいるところに、七色の英雄もいるのか。

 今のところ、この森ではヴィエラさん以外見たことない。


「導き手殿の行った場所を言ってみとくれ」

「え? えーっと、中央王都と、海底都市。あとはエンジュランドかな」

「む? 魔大陸にはいかんかったのか? そこの英雄も目覚めておるが」


 ふむ、魔大陸の英雄。

 そのワードに関係しそうな知り合いは一人しか思いつかない。

 ならば恐らく彼女も、七色の英雄とやらの一人なのだろう。

 ……えぇ、マジで?

 私からしたらあの子は、スマホの返信がクソ早い今時の女の子なんだが。


「うむ、中央王都には『絶対王・エクスト』、海底都市には『歌姫・ミューズ』、エンジュランドには『精霊龍・ペンドラゴン』、そして魔大陸には『魔王・サタン』と、どれも世界の柱となる存在がいるな」


 そして目の前の存在が『世界樹・ユグドラシル』と。

 ここまでで五人だな。

 英雄は七人なのだから、あと二人は『世界の柱』さんがいるはずだ。


「あとの二人は?」

「いや、世界の柱は全部で六柱。残る一人はまだ言ってはならんのじゃ、許せ」


 エクスト王も言っていた、あくまで私が私の思う通りに行動するのが大事ってやつかな。

 それを言ってしまえば、私の行動に変化が出てしまうやつだろう。

 それはいいのだが、それよりも気になることが一つある。


「英雄は七人なのに、柱は六人なの?」

「あぁ。それも詳しいことは言えんがな」


 ふぅん。

 それにしても、よく私が向かうところ向かうところに都合よくそんな『七色の英雄』だの、『世界の柱』だのがいるもんだ。

 私がそういう運命を辿るよう、何かに導かれているのだろうか。


「世界の知識も重要なのじゃが、もっと重要なことがあるんじゃよ」


 あぁ、そういえば元々は私とロウターに用があるんだっけ。

 いきなり壮大な話が始まるもんだから忘れてたよ。


「『世界の柱』にはな、導き手殿自身には干渉出来んが、それに従う者の身体的な強化を促すことが出来るんじゃ」


 ふむ、だからロウターを見て私達に声をかけたのか。

 ん? その理論ならペニバーンも強化出来るんじゃないか?


「そういう意味ならこの槍も強化出来る?」

「ぬ? 流石に武器の強化までは専門外なんじゃが……」

「一応この槍も凄い槍で、コミュニケーションが取れるんだよ」

「ほうほう、ちょっと見せとくれ」


 そう言っておばば様は、木から私の目の前まで飛び降りてペニバーンに顔を近付けた。


(なんというか……人に凝視されるというのは気まずいな)


 ペニバーンさんが照れてらっしゃる。

 おばば様とは会話出来ないのだろうか?


(無理だな。私はロウター殿と異なり、契約した所持者以外と会話することは出来ん)


 へぇ、さり気に初めての知識だ。

 そういえば私はペニバーンとロウターのことを全く知らない。

 いつか向き合って話してみよう。


「やっぱり無理じゃな、この槍は完成され過ぎておる」

「へ?」

「個の存在として究極であり、限界なんじゃよ。これ以上は無いのじゃ、凄いことじゃぞ」


 うっわマジかペニバーン。

 貴女そんな凄い槍だったんだね。

 いや、神槍グングニルとか言ったっけ元々。

 神様の槍っていうくらいなんだからそりゃ凄いわうん。


「当然だな。私とペニバーン殿では、魂としての格が違う」

「そうなの?」


 取得ポイント的には全く同値だったけど。

 いやもうアレで考えんのやめた方がいいかな。

 この自慢の二人が究極性技1/2とか謎過ぎるもんね、うん。


「主殿が最初にペニバーン殿を呼び出した時、ペニバーン殿は主に襲い掛かっただろう?」

「そんなこともあったねぇ」


 凄い懐かしい記憶だ。

 あの直後にフィストと出会ったんだっけ。


「アレは最上位の格を持つ存在が、所有者の資格を試す儀式なのだ」


 あー、なんとなく試されてるってのは分かってたけど、やっぱり大事な儀式だったんだね。


(だがロウター殿も、かなり高位の存在なのだぞ)

「ペニバーン殿が桁違い過ぎるのだ。宇宙が生まれるずっと前、創世記という時代から存在していたはずだからな」


 なんで生き物も存在してない時代から槍があるんですかね……

 おばば様に対して、説明してくれないと分からないと言った手前アレだが、私の仲間達も大概わけわからんね。


「ペニバーンはエッチも凄い上手だしねぇ……」


 ふと、私の口からそんな言葉が漏れ出た。

 本当に何も考えず言ったのだ。

 その一言が、誰かを傷付けるとも知らずに。


「そうだ、ペニバーン殿は上手い……私と違ってな」


 ロウター出た言葉に、ようやく私は自分の失言に気付いた。


「いや、違っ……今のはそういう意味じゃなくて!」

「そうだ! 私はいつまで経っても下手くそなのだ! 身武一体をする時も、二人にリードされなければ満足に出来ない!」


 やべえ、ロウターのコンプレックスだったのか。

 これはマズいことやっちゃったぞ。

 どれくらいマズいかっていうと『アンタなんかよりあの人の方がエッチ上手なのよね~♪』と言っちゃった感じだ。

 もう一度言うが、そういう意図は全く無かった。

 だが今更訂正するのも逆効果である。


「いや、ロウターだって最近凄く上手くなってきたよ!」

(気に病むことではない、あんなもの所詮は経験がモノを言う世界だ。むしろ慣れない者が必死にやる健気な姿はとても尊いのだぞ)


 私とペニバーンが二人がかりでフォローするも、ロウターは力無く花畑の上に座り込んでしまった。


「クソッ……! また進化したらエッチが上手くなるのか!?」


 いや、ならないと思います。


「えーっと……説明の続きをしていいかのう?」


 そんな私達を見て、おばば様は非常に気まずそうにしていた。


「話の腰折っちゃってごめんね」

「いや、別にいいんじゃが。では説明を続けるぞ」


 そう言っておばば様はロウターを軽く手招きすると、世界樹・ユグドラシルの方へ移動した。

 手招きされたロウターもまた、ユグドラシルに近付く。

 ロウターがユグドラシルの根本まで来たあたりで、おばば様はロウターを制止させた。


「ではここで祈ってくれ。其方の主に対する忠誠と共に」


 おばば様にそう言われると、ロウターは4つの足を軽く折り曲げて目を瞑った。

 私に対する忠誠かぁ……

 そんなもんあるのか?

 自分で言っといてアレだけど、ロウターに尊敬される要素一つも無いと思うぞ。

 友情くらいは持ってくれてると信じたい。


 しばらくすると、ユグドラシルからロウターに向かって光の玉のようなものが飛んで来た。

 それはロウターにぶつかると、溶けるようにして消えた。


「うむ、進化の種はしっかりと植え付けられたようじゃな」


 ロウターの姿や雰囲気に変化は見えない。

 進化の"種"と言っていたし、恐らくこれから実るのだろう。


「なんか変わった感じする? ロウター」

「うむ。進むべき道が示されたような感じがするな」


 へぇ、心理的に何か変わるのか。

 じゃあやってみた価値はあったんだろうな。


「ありがと、おばば様」

「いやいや。この程度は導き手殿を支援する者として当然じゃよ」


 導き手って呼ばれることに関しては、もう気にしないことにしよう。

 自分はどうやら彼女らにとってそういう存在らしいが、特にあぁしろこうしろと言われているわけではない。

 むしろ好きに生きてくれと言われているのだし、好きにさせてもらおうと思う。

 こうやって私の仲間たちも強化されていくのだし、今はそんなに深く考える必要は無い……はずだ。


「あぁ、おばば様に大事な話があるんですよ」

「ん、なんじゃ?」


 そうそう、ここに来てから色んな出来事が立て続けに起こったせいで、本来この森での最大の目的を忘れていた。

 アイディールさんとは、私が古代森林に入って、植物人との協力が結べそうであれば連絡を飛ばす手筈になっている。


「現在この森が犯罪グループに狙われていまして、私は本来その事を伝えにここへ来たんです」

「ふむ……こう見えて導き手殿以外の侵入を許したことは、過去200年一度もないのじゃぞ? 今更問題では無いと思うが」


 そうなんだよなぁ……

 正直その実績を前にされると交渉しずらい。


「今回に関しては、かなり大規模な犯罪組織が関わってまして、そこの一斉逮捕をするのに協力していただきたいんですよ」

「導き手殿の頼みを断ったりはせんよ。で? 何をすればいいんじゃ」


 頼みを聞いてくれるそうなので、私とおばば様は情報の交換と相談をすることになった。

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