作戦変えたけどお別れだけど旅が始まるけど
「何言ってんだ!」
「私が囮になるからドレッドが攻撃して!」
だがどうやって囮になるべきか。
その囮になろうにも、まず姫子ちゃんの注意をドレッドから私に引き戻さなければいけない。
そのためにはまず姫子ちゃんにしがみついてるドレッドが離れなければいけないのだが、今ドレッドが手を離すと海にダイブだ、それはマズい。
ドレッドを船上に着地させ、固定砲台となって姫子ちゃんを狙ってもらい、私が姫子ちゃんの注意を引く。
要は最初の状態に戻さなければいけない。
現在は私が上空から姫子ちゃんとしがみつくドレッドを見下ろしている状態だ。
私はまずドレッドを受け止めるべく、姫子ちゃんの下に回り込む必要がある。
「いくよ!」
私の狙いを姫子ちゃんに気付かれてはマズい、なるべく不自然にならないよう姫子に向かって急降下すると、案の定私の攻撃を綺麗に避けて私よりも上空に回避してくれた。
これでドレッドを受け止められる。
「ドレッド! 姫子ちゃんから手を離して!」
私の言葉にドレッドはイマイチよくわからないといった顔をしながらも、姫子ちゃんから手を離して私に向かって落ちてきてくれた。
ドレッドをキャッチし、船の上まで運ぶ間に作戦を伝える。
「いい? 合図したら何も考えず姫子ちゃんにレーザー打って」
「あぁ? それじゃまた避けられるだろが」
「大丈夫、今度は当たるから」
そう言って船上にドレッドを無事送り届けると、私は姫子ちゃんに振り返った。
ここからが本当の勝負だ、姫子ちゃんの注意をなるべく私に集めなければいけない。
私の右足を繋いでいた鎖も、ドレッドが姫子ちゃんにしがみついていたおかげで解除されていた。
姫子ちゃんと戦う前の状態へ仕切り直しの成功だ。
「姫子ちゃん、鬼ごっこは終わりだよ」
「……」
姫子ちゃんはもう何も言わない。
無言で腕を鎖へと変化させ、私に向かって伸ばして来た。
私はそれを避けるが、ただ避けるだけじゃない。
避けながらも姫子ちゃんに向かって接近していく。
ある程度近付くと姫子ちゃんは持ってる刀を振り回して牽制してくるが、それにビビってる場合じゃない。
私は思い切って姫子ちゃんに一歩踏み込む。
若干、というより思いっ切り左肩が切られたが、姫子ちゃんに抱き着くことに成功した。
いやほんとなんで私の完全変態モード服着てないの?
ドレッドもガラードちゃんも、なんなら姫子ちゃんも普通に服着てるよ?
あ、姫子ちゃんの和服から独特ないい匂い……じゃなくて。
「ドレッド! 私ごと打って!」
「ッ!」
ドレッドは一瞬とても険しい顔をしたのだが、意を決してレーザーを放ってくれた。
うん、こうでもしないと今の姫子ちゃんを押さえることなんて出来ない。
たとえ私もレーザーの餌食になったとしてもだ。
今現在ドレッドのレーザーを食らってるわけなんですが、なんて表現すればいいですかね。
日差しが強い日って「あ、紫外線感じる~」ってなるじゃん?
あれの超ヤバいバージョン。
「あ、レーザー感じる~」って感じ。
なにが言いたいかって言うと姫子ちゃんに斬られた左肩とかどうでも良くなるレベルで痛いってことです。
「「あぁああああああ!」」
時間にしては10秒も経っていないのだろう。
だが体感時間としては永遠にも感じるほどの時間だった。
いや、まぁ実際どんくらい辛かったとかよく覚えてない。
なんでかっていうと余りの痛みに気絶したから。
永刻祭でドレッドはガラードちゃんのコレに耐えれたってマジ?
あいつ凄いな見直したわ。
◇◆◇
「あ、起きたか」
目覚めると船の上だった。
服がびっしょりである、不快極まりない。
となりに姫子ちゃんが倒れてる、こっちは服を脱がされていた……
「え、事後?」
「何言ってんだお前は」
なんだ私が異世界に転移したり姫子ちゃんが三面六臂の阿修羅になったりした夢を見た気がするけど、ここは日本で、私は姫子ちゃんとイチャイチャしてただけだったんだ。
「寝ぼけてねえで目ぇ覚ませ。ヘイヴァーに着いたぞ」
「はーい」
まぁ冗談です、おはよう異世界。
「この女の着物は海水吸っててエライことになってたから脱がせたぞ」
「ありがとー」
そのまま着せてたら風邪ひいちゃうもんね。
ここは素直にお礼を言おう。
それにしても、こうして姫子ちゃんを近くで見るのは久しぶりだ。
「その女とはどういう関係なんだ?」
「……友達、かな?」
だがドレッドは私の返答を聞いて鼻で笑った。
「嘘だな」
嘘とはなんだコノヤロー。
「お前がそのクラスの美少女を見て手を出そうとしないはずがねぇ」
ごもっともですわ。
「ま、友達以上恋人以上って感じ」
「恋人未満じゃねえのかよ」
「まぁそんくらい大切な子なんだよ」
ドレッドはしばらく考え込むような仕草をした後、なにかを決意したように軽く頷いた。
「その女、私に預けてくれねーか?」
「……どういうこと?」
「コイツが起き上がったらきっとまた暴れだす。その対処はこれからあっちこっち移動しまくらなきゃいけないお前にゃ無理だ」
確かにそれはそうかもしれない。
だが姫子ちゃんとの件はしっかりと片を付けたいのも事実だ。
「じゃあその子……姫子ちゃんっていうんだけど、その子が目覚めて正気を取り戻したら伝えて欲しい言葉があるんだ」
「なんだ?」
「『私は全く気にしてないよ』って伝えて」
「……わかった」
ドレッドは船でエンジュランドに帰って行った。
別れはそんなに大層なもんじゃない。
ドレッドが「またな」って言ってきたから、私も「またね」って返しただけだ。
湿っぽくなるのは船の上でやったからもういい。
別れ際にチラッと見ると、太陽に照らされたのかアイツの瞳が"橙色"に輝いていた。
「さて、じゃあ行きますか!」
姫子ちゃんとはきっとまた会えるだろう。
私はそれを望んでいる。
だから今の私がすべきことは、新たな美少女と出会いに全力を出すことだ。
「ロウター!」
私は次の目的地に移動する為、ロウターを呼んだ。
「エンジュランドを出たのか」
「うん、次の目的地まで乗せてってくれない?」
「勿論だ、そして次はどこに?」
「中央王都の治安委員局」
うん、凄い行きたくない。
いやね、植物人に会うためには中央王都に行って許可貰いに行かなきゃいけないらしいんですよ。
でもその許可が出されたのは過去に一度も無いんだってさ。
「治安委員局といえば……あの女か?」
「うん、あの人」
裁断者アイディールさん。
いやほんとあの子何なんでしょうね。
そういえば身武一体して全裸になるの、あの人とフリジディ王女だけじゃない?
あの子もカマトトぶりながらこちらサイドだということだ。
つまり何が言いたいかっていうと多分話せばわかるさ。
私はロウターの背に跨る。
「正直不安しかないけど、ドレッドの情報をアイディールさんに伝えなきゃ話が始まらないんだよね」
「ふむ、まぁ主はこの一ヵ月で見違えるように強くなった。今の主を害する事が出来る人物はこの世界でも指折りだろう」
正直私もそう思う。
身武一体をそもそも使える人が少ないし、それを使いこなせる人は今のところエンジュランド以外で見たことない。
そういえばフリジディ王女が「貴女はその力を使いこなせていない」って王都祭の時、私に言ってたな。
フリジディ王女自身もまだ使いこなせていないようだったけど、彼女はその領域に限りなく近いのかもしれない。
「まぁなんにせよ安全第一、油断せず、それでいて早急に行こうか」
「うむ、承知した」
ロウターは翼を広げてヘイヴァーの空へ飛び立つ。
指名手配されていたのが記憶に新しい中央王都へ、いざゆかん。
アイディールさんにまた追いかけまわされる気しかしないけど、そん時はそん時だね。
どうにか説得してこちらの要求に応じて頂くしかないでしょ。
説得の方法はノープランである、まぁなんとかなるでしょうとしか考えていない。
うん、失敗する気しかしない。




