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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第四章 植物人のヴィエラ
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どうすればいいでしょう天上院様

 愛しの人が遠く離れていくのを右目が私に伝える。


(あーあ、行っちゃったねぇ?)


 憎らしい左目が、呆然と立ち尽くす私を嘲笑います。


「逃げられましたか……」

「追いますか?」

「いえ、越権行為になります。諦めて公務に戻りましょう」


 私と共に天上院様を追いかけていた誰かがどこかに歩いていくのが聞こえましたが、どうでもいいです。

 小さくなっていく小型の船。

 何も考えることが出来ない、いえ、何も考えたくない私の頭にその光景だけが淡々と映る。


 船が完全に見えなくなると、私は叫びました。

 何を叫んだかは覚えていません、ただ甲高い声で何かを叫んでいたのは覚えています。


(アハハハハハ!)


 そんな私の頭の中で不快に嗤う悪魔。

 全てはコイツが元凶です。


「なぜ! なぜあんなことを!」

(アハハハハハ! だって契約したでしょ?)


 契約?

 私がこの悪魔と契約したことは一つしかない。

 天上院様と会うために、この世界に来るという契約だ。


(うん、それで私は君に言ったよね?)


 一つは天上院様にお会いした後、最上級の地獄に堕ちる。

 そしてもう一つはこの世界でもう一度人生を過ごす。


(私はそれを執行しただけだ。君にとって最上級の地獄に案内するためにね)


 最上級の地獄への案内?

 どういうことだ、この悪魔の言うことが理解できない。


(地獄なんてさ、人によって違うんだよね。同じ苦しみを与えても人によっては物凄い苦しんだり、全く苦しまなかったりする)


 私の見えないはずの左目が、ここにはいないはずの悪魔の存在を目の前に映し出した。

 悪魔は手を後ろに組んで、地べたに座り込む私を見下す。


(だから僕たち悪魔は地獄を作るんだよ。その人の罪に合わせてね)


 悪魔は私の顔に手を伸ばす。

 実体がないはずの悪魔の手は私の顎に触れると、私の目線が自身の目と合うように持ち上げました。


(君にとっての地獄は、天上院弥子に嫌われることだよ)


 悪魔はニコリと笑います。

 それは人に安心を与えるようなものじゃない。

 背筋を凍り付かせるような冷たい笑顔。


(でも天上院弥子って子、物凄く器が大きいんだよね。君に殺されたっていうのに、君に対して全く忌避感が無い)


 悪魔は両手で自身の顔を覆い隠すと、ブツブツと何かを呟きました。


(アハハ、でもこれは久々に心が躍るよ)


 両手の覆いを顔から離すと、そこには新しい玩具を見つけた子供のような笑顔を浮かべた悪魔がいました。


(絶対にあの女が君を嫌うようにしてやる)


 私は一も二も無く岩徹しを抜き、形状を変化。

 小太刀に変化した岩徹しを自分の胸に突き刺しました。

 刺した場所から和服が血に染まる。

 侵入してくる異物感。

 刃は背中を抜けて、喉を突き上げるような吐き気が襲う。

 含み切れなくなった血がポタリという音を出して地に落ちました。

 痛くはない、痛くはない。

 これで終わりだ。


(無駄だよ)


 悪魔が嗤う。

 地に落ちた血がフワリと浮き上がり、私の和服に吸い寄せられるように戻りました。

 それだけでは無い。

 私の腕が独りでに動き出し、岩徹しが引き抜かれる。

 それに合わせ、まるで逆再生でもするかのように傷口が収まっていく。


(第二の誓約、君にはもう一度人生を過ごしてもらう。私はそう言ったよね?)


 刃は最後まで引き抜かれない。

 刃先から数センチを残して私の胸に刺さり続けている。


「がぁ……おごっ」

(私の許可なく死なせはしないよ、姫子ちゃん)


 そして再び悪魔に操られた腕によって胸を貫かれる。

 先程は興奮状態により痛みを感じることのなかったそれ。

 だが二度目のそれは確かな痛みを伴って襲い掛かる。

 悲鳴をあげようにも声が出せない。

 喉に血が込み上がり、空気を吸えない。


(興奮は時に痛みを、そして罪の意識を薄れさせる)


 血を吐きだす。

 だが息は吸えなかった。

 呼吸器官が上手く働かない、呼吸の方法を忘れてしまったかのようだ。

 そして再び血が喉に溜まる。


(悪魔は、君のような人間に自らの罪を思い知らせる為に存在しているんだ)


 脳味噌を鷲掴みにされたかのような感覚の中、悪魔の声だけが響く。

 血反吐を吐きながら転げまわる。


(これじゃあ足りない。君はこれからも罪を贖っていくんだから)


 その言葉と共に、私の視界は暗転した。




「……ここは?」


 目を覚ますと巨木に開いた大きな穴の中だった。

 あれほど痛かった胸には傷跡一つ残っていない。

 和服にも小太刀で切れたような痕は残っていなかった。


(ここはヘイヴァーの近くにある森だよ。いやー、気絶して一ヵ月近く自我を取り戻さないもんだから大変だったよ)


 聞きたくもない声が左目から響きます。

 拗ねた子供のように、私はその言葉を無視しました。

 誰のせいで気絶したと思っているのですか。一ヵ月ってなんですか、長過ぎでしょう。

 そもそもへいばー等と言われてもどこがどこだかサッパリです。

 以前悪魔の話を聞き流した時は左目に痛みを与えられましたが、今回は何もされませんでした。


「……けるべろす」


 その言葉と共に私の前に現れた三つ首のもふもふ。

 左から順にポチ、ペロ、タマと呼んでいます。


(一匹猫じゃね?)


 うるさいのです、いいのです。

 我が家は親が動物アレルギーだった上に、毛が散らかるし家宝が壊されてはたまらないという理由でペットが飼えなかったのです。

 はむすたーでもいいから欲しいと言えば、ネズミなど飼ってどうすると言われたのです。

 ネズミをバカにしないでください。アレはアレでちっちゃい指が可愛いのですよ。


(姫子ちゃんが動物好きなのはわかった)


 わかればいいです鬼畜悪魔。

 あー、鬼畜悪魔に傷付けられた心の傷がもふもふで癒されます。

 正面から見て左のポチはいつも怒っているような表情をしています。

 あまり撫でることが好きではないように見えますが、撫でるのを止めると顔を押し付けてくる甘えんぼな一面もあります。

 真ん中のペロはキリッとした表情でかっこいいです。

 もふもふすると「しかたねーな」とでも言いそうな表情で撫でられた後に軽く手を舐めてくるのでくすぐったいです。

 一番右のタマちゃんはいつも悲しそうな表情をしています。

 なでなですると少し安らかな表情をするのですが、撫でるのをやめると再び悲しそうな表情に戻ってしまうのでやめ時を見失います。


 私の手は残念ながら二本しか無いのでけるべろすちゃんを撫でる時は一匹余ってしまいます。

 基本的にはペロちゃんがその余りになってしまうのですが、気にしてないとでもいうように優しい瞳で他の二匹を見守っています。ペロちゃんはクールでかっこいいです。


(存分に撫でてあげるといーよ。姫子ちゃんが気絶した後にヘイヴァーからここまで運んできて、今日まで守ってくれてたんだから)


 まぁ、なんという忠犬。

 これからも恐ろしい悪魔から私を守ってくださいね。


 そう思いながらけるべろすちゃんを撫でていると、その体が突然光りだしました。

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