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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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世界に生きる人達

「長官! スラム区域の瓦礫撤去作業がほぼ完了しました!」

「長官! 中央王都から支援物資が届きました!」

「長官! 今日もカッコいいですね!」

「長官! 歌姫様のライブ始まりますよ!」

「長官! ライブの最前席をとっておきました!」

「うるさい!」


 私の名前はヒストリア・ストレイン。

 真面目な報告とどうでもいい報告をごちゃまぜにしてくる部下共に一喝し、次の目的地に向かう。

 新しい都市長サマのお陰で、スラム区域は大改革が成された。

 子供達は学校に通えるようになったし、大人も希望者がいれば生活保護を含めた教育を受けられる。

 さらに生活環境もガラリと変化した。

 都市内で希望者を募ったボランティアにより、スラムと都市との融和もゆっくりと勧められている。

 新都市長自ら陣頭に立って行われた新政策のおかげでスラムの環境も改善され、生活レベルは段々と都市と変わらなくなってきている。

 勿論その改善を出す分税金などの負担が生まれた。

 だがスラムで日々を無為に過ごすよりはと、私の元に集まってくれた人魚達の努力によって不満を聞くことは殆ど無い。

 彼らは今、海底都市で存在する企業の労働者として働いている。

 学が無い彼らはまだ下級労働者にしかなれず、幹部クラスやトップになどなれるものはいない。


「あっ! ヒストリア長官だ!」

「ここはもう私達に任せてライブ会場行ってくださいよ! 日頃頑張ってるんだから!」

「作業はなんの滞りもなく順調ですから休んでください!」


 彼らは海底都市の建築会社に就職した元スラムの住人だ。

 彼らの顔は明るい。

 海底都市の中央にその養分を吸われ、残りカスをかき集めてくらしていた頃と変わらない。

 会社の上役にこき使われ、その上前をはねられる。

 だが彼らの表情は明るい。


「ヒストリア様! 学校終わったよ!」

「これから友達と都市長様のライブ会場に行くの!」

「ヒストリア様も来るんでしょ? 一緒に行こ!」


 私に駆け寄ってきたのは彼らの子供達。

 その笑顔は私の目には少し眩しすぎる。

 きっとこの笑顔がいつか海底都市の中央でも輝く時が来るのだろう。

 大人達はそれを信じて働くのだ、子供を育てる為に。

 我が身が泥にまみれても、きっと子供たちが輝いてくれる。


「ヒストリア様、行きましょう」

「……あぁ」


 車に乗り込む私を、元スラムの連中が見送る。

 そして彼らは再び仕事に戻っていった。

 彼らは私に休めと言った。

 ならば休ませて頂こう。

 それがスラムの意志なのだ。



◇◆◇

「機材セット出来てんのか!?」

「間に合ってねえよ! 寧ろスピーカー無さ過ぎて電気屋からかっぱらってくるレベルだわ!」

「おいまたウチの区域にもライブの音流せって連絡来たぞ!?」

「画面の外から眺めてろと返信しとけ!」


 怒号が飛び交うライブ会場裏。

 俺とワイゼルが楽器の最終調整をしながら次々に来る投書の処理をする。

 いやぁ……すげえなティーエスライブの反響は。

 ティーは『歌姫』の力とかいう力をコントロール出来るようになってから、人の心に直接届く歌声を出せるようになったらしい。

 その力は精神を介して肉体に癒しや高揚感といった影響を与えるらしい。

 もうヤバい薬なんじゃねーのアイツの声とか思った。

 既に復興中に数回ライブを行っているんだが、もう一度との催促がヤバい。


「ティーエス様成分切れてるんです助けてくださいだってよ」

「今日のライブで補給しろと言っとけ」


 いやなんか最初は復興ライブとかのつもりでやってたんだが。

 普通にイイ感じで軌道に乗って来た今やる必要あるのか?

 いや、ライブには普通に俺達がメンバーとして出れるからいいんだけどよ。

 まだ皆とこうしてライブやれるのは嬉しいし。


「サーバー落ちする予感しかしないんだが」

「そもそも何人が今日のライブ放送見るんだよ」

「この海底都市の人数1/4の映像媒体アクセスは確定してるな」

「マジかよ、3/4以外暇人ばっかかよ」

「と思うじゃん?」


 そう言ってワイゼルが頭を抱えて苦笑いする。

 あん? なんだって言うんだ。


「普通映像媒体……つまりテレビとかって一世帯に付き一個じゃん?」

「……まさか」

「多分残りの3/4も見てるな」


 ティーエスマジですげえな……。


「ワイ! アレックス!

「ん? どうした、リース」

「ティーがいないの!」


 その言葉に舞台裏が静まりかえる。


「それはガチでヤバいぞ」

「いや待て、俺に心当たりがある」


 ティーは仕事を放り出すようなタイプの人間じゃない。

 遠くには行ってないはず、んで俺はアイツのいる場所に心当たりがある。


「連れ戻すのにどれくらいかかりそう?」

「なに、そんなかからねえだろ」


 そう言って俺は舞台裏から走り出した。


◇◆◇


 私の目の前にあるのは真っ赤なガラスで作られた巨大な球体のステンドグラス。

 過去に地球から来た異世界人が言ったらしい。

「この世界にも太陽があるのか」と。

 この世界に太陽はある。

 いや、私は海上に行ったことがないし、ある「らしい」なのだが。書物で読んだ知識だ。

 それは全ての生物に暖かい光を放つらしい。

 ヒストリアが言っていた。「この海底都市には光が届かない」

 海底都市の建設方法は謎に包まれている。

 200年前の中央戦争より前から存在していたと記されているが、海の底にこのようなドーム状の建物をどのようにして作ったのかは本当に謎だ。


 私は巨大なガラス製の太陽を作った。

 発想を得たのはライブ会場で見たミラーボールだ。

 電灯一個ではとても海底都市全体を照らすことなど出来ない。本物の太陽はどれだけの光量なのだろうか。

 本当の太陽を作ることなど無理だろう、だが皆がそれを見て元気になれるようなシンボルを作ることなら出来るはずだ。


「やっぱここにいたか」


 ここは都市長邸宅の近くにある工場。

 今日のライブの目的はこの太陽を天井に設置することだ。

 ライブを始める前に気になってつい一人で見に来たのだが、アレクにはバレてしまったようだ。


「ねぇアレク」

「あん?」

「私は太陽みたいになれるかな?」


 皆の希望となり、皆に安らぎを与える。

 ついこの間まで学生をしていた私にとって、正直早すぎたと自分で思う。


「いけるだろ」


 優しい彼は、私がどこかで求めてる回答を即座に返してくれた。


「心配することはねえ。ティーは今日まで海底都市のリーダーとしてやってるし、成功してる」


 うん、私は出来る。

 最近自分に暗示をかけるようになったのだ。

 思い込むことが力になる。心はリアルに影響する。

 『歌姫』の力もそう言った。


「行こうぜ。主役が居なくなったって皆大慌てだ」

「うん!」




 人々のザワザワとした声だけが響く薄暗い会場。

 色んな方向に設置された収音マイクやカメラがこちらに向かってる。

 ここが今の私が戦うべき戦場だ。


(昂ってるぅ~?)

(『歌姫』ちゃん)

(いいねいいね。そのまま行こう!)


 スポットライトが私を照らす。

 歓声が会場に響き渡ると、ワイゼルのドラムと共に演奏が始まる。

 最前列のセンターで集団コールしてるのヒストリアさん……?

 見なかったことにしよう。


 さぁ、私のライブを始めるんだ。

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