表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
77/291

覚醒したけど反撃開始だけど流れ変わったけど

「お前……何言って」

「意味わからないでしょ? 言ったじゃん、気持ちの悪い理由だって」


 ガラードがドレッドの眉間に銃を突きつける。


「エンジュランドを出て行ったドレッドは、きっと居場所を無くして孤独なはず。同じ獣人からは馬鹿にされて、肉親からの愛もなくて……そう、かつての私の様に」


 ガラードはニッコリと微笑む。

 だがそれは出会った時に見たような天使の笑みなどでは決してない。

 邪悪さすら感じられるような、うすら寒い笑みだった。


「だから私は頑張ったの、ドレッドがエンジュランドに帰って来た時、この国の誰よりも強くなっていようって。そうすればきっとドレッドは私を、私だけを頼りにしてくれる」


 陶酔したような表情をしていたガラードだったが、その笑みは掻き消えて能面のような無表情になった。


「でもドレッドは愛されてた。クランちゃんだけじゃない、ヤコさんにも、アルト王にも」


 ただただ冷たい表情で、ガラードはドレッドに語り続ける。

 ドレッドはそれを何も言わずに聞いていた。


「許せないよ、ドレッドを愛していいのは世界で私だけだし、ドレッドが頼っていいのは世界で私だけ。そして」


 ドレッドの眉間に当てていた銃口を離すと、ガラードはその髪の毛をぐい、と上に引っ張る。

 そしてただ口元を引き締めてぶら下がるドレッドの脇下に手を差し込むと、そのまま両手で抱きしめた。


「私が頼っていいのも、世界でドレッドだけなんだよ?」


 共依存。

 そんな言葉が天上院の頭に過ぎった。

 特定の相手に依存し、その相手を繋ぎ止める為に相手にも自分への依存を求める。

 その願いが叶わなかった場合は。


「ねぇ、ドレッド。私と仲直りしたいんでしょ?」


 ガラードはドレッドを抱きしめ、その耳に囁く。

 その後頭部に再び銃口を当てながら。


「ドレッドが私とだけ居てくれるって言うなら、許してあげるよ」

「……お断りだ、バカが」

「そっか」


 銃声が鳴った。


「これでお別れだね、バイバイ」


 そう言ってガラードは抱きしめていたドレッドを地面に放る。

 もう興味が無くなったとでもいうように。

 ドレッドの体の獣化が解かれる。

 強制睡眠状態に移行し、地面に伏せたまま動かない。

 ガラードが審判の老人に目配せする。

 だが老人はそれを受けても、判定をしようとしなかった。


「……何故?」

「分かるぞ、見えるぞ、聞こえるぞ。覚醒の胎動が」


 ガラードが怪訝な顔をすると、老人は何やら謎めいたことを言い出した。

 そしてその言葉に応えるように、倒れたドレッドの体が輝きだす。

 この光は、私にはとても見覚えがある。

 でもアレにはもう一つ必要だ。

 そのもう一つ、いや一人は私の隣で輝きだした。


「ドレッド、始めますよ」



◇◆◇

「ここは……」


 目を覚ますと、そこは形容しがたい謎の空間。

 私は夢でも見ているのか?

 ひょっとしたらここが死後の世界なのかもしれない。


「ドレッド」


 誰かに呼ばれて振り返ると、そこには体中から光を放つクランの姿があった。


「クラン……?」

「これから私と貴女の精神を繋げます……こう言えば、貴女ならわかりますね?」


 精神の繋がり、それが示すモノは一つしかない。

 私が求め続け、裏世界の情報を用いて研究に研究を重ねても手に入らなかった力。


「なぁクラン、お前は一体なんだんだ?」


 コイツは出会った時から謎があった。

 まず私に対する信頼度が異常に高い。

 そして様々な状況に対する対応力。

 もう一つ不可解な点がある。

 コイツと私の出会いは本当に偶然だった。あの日、情報局で受けた依頼の指定場所にコイツはいた。

 中央大陸には勿論少数ではあるが獣人はいる。

 だが本当に少数、それこそ外交役として派遣されている獣人とその家族くらいだ。

 今まで気にはなっていたものの、聞くことは無かった疑問がこの瞬間に湧き上がってくる。


「その質問には『そんなことより優先すべきことがあるでしょ?』とお答えしましょう」

「なんだその答え……」

「いずれわかります」


 そう言ってクランは私の目を見つめてくる。

 本当にコイツはクランなのだろうか。


「貴女の願いを聞かせてください、ドレッド」


 クランの質問に、私は目を瞑って考える。

 私の願い、それはガラードとのことだ。

 だけど私は彼女となにをどうすればいいのだろう。

 ガラードは間違っている、それは間違いない。

 だがそれを正す方法を、私は思いつかない。


「思ったことを純粋に伝えればいいんですよ」


 思ったこと?

 あぁ、そう言えば彼女の言葉で一つ、絶対に否定しなきゃいけない言葉を思い出した。

 私はそれを伝えなきゃいけない。

 あのバカに叩きつけてやらなきゃいけない。


「心は決まりましたか?」

「……あぁ」

「わかりました、では早速始めましょう」


 そう言えば身武一体ってどうやるんだ?

 その扱い方は散々に研究したが、肝心なやり方を私は全く知らない。


「身武一体のやり方は、その人の『天命』で変化します」

「『天命』?」

「えぇ、自然と思い浮かびませんか? 私と一つになる方法が」


 そう言って私は考えた。

 クランと一つになる方法を。

 あまり深く考えたわけではないが、恐らくこれだろうと直感する。

 私はクランに手を差し出した。


「……頼む」

「えぇ、共に戦いましょう」


 私とクランが握手をすると、私達の体が輝きだした。


◇◆◇


 光と共にドレッドが現れた。

 その姿は体中に太陽のような温かい光を纏い、凛々しくも威圧的なオーラが醸し出されている。


「わりいな、ガラード。依存する意味が無くなっちまったわ」

「……」


 ドレッドの言葉にはガラードを突き放すような音が含まれていた。

 そんな、身武一体を果たしたドレッドの姿をガラードは腕を交差させて半目でねめつける。

 そして鼻で嗤うと、交差させていた両手を空に掲げ、掌を握り締めては開いてを繰り返す。

 そして最後に強くその手を握り締めた。


「あぁ……もう無いんだね」

「そうだ、もう無えよ」


 ガラードは眼前に持って来た拳を震わせ、怒りの表情を見せる。


「もう無いんだ、私の幸せ」


 そう言ってガラードは吠えた。

 一度ではない、二度、三度、四度。

 それは泣き叫ぶかのような、聞いたものの悲哀を誘うような遠吠えだった。


「ぶっ壊す」


 そう言ってガラードは身武一体を始めた。

 今まで見た銀色に輝く体毛と光は消え失せ、今は黒い体毛に赤いオーラが彼女を包んでいる。


「出でよ、〝清銃ディラン″」


 彼女の言葉と共に背中から現れた銃は、まるで地獄に生える朽木のような、銃とは思えないほどいような形をした何かだった。

 以前見た美しく白い銃ではない。

 デザインも禍々しくなっており、


「改め、〝制銃ディラン″」


 そう言うとガラードはその赤いオーラを体中に纏わりつかせ、ドレッドに襲い掛かった。


「ぶっ壊す、だぁ?」


 そんなガラードの様子をみて、ドレッドは鼻で笑う。


「こっちのセリフだバカ」


 襲い掛かってくるガラードに対して、ドレッドは苦々しい顔をしながら避ける。

 愚痴を呟く程度には余裕なのか、それともイラつきながらもどうにか避けているのか。

 身武一体をした結果、両者の総合的な能力はほぼ互角らしい。

 だが今までの絶望的とも言っていい状況から大きく前進しているのは間違いない。


「お前に一個言わなきゃいけねえことがある」


 ガラードはドレッドの言葉に答えない。

 ただただドレッドに向けて攻撃を仕掛け続けている。


「お前は言ったな、お前が信じていいのは私だけだってよ」


 ドレッドは今まで一度も反撃をしなかった。

 出来なかったのではない。

 ただ虎視眈々と待ち続けていたのだ、絶好の機会を。


「だけどよ、私はもう一人知ってるぜ。お前の近くにずっといて、お前を救い上げてくれたかもしれねえ奴を」


 その言葉に、ガラードの瞳が一瞬ドレッドを見つめた。

 それをドレッドは絶対に逃がさない。

 ガラードの顎をアッパーが打ち抜く。


「ボーズ卿なら、絶対に孤独なお前を助けただろう」


 ドレッドの反撃を食らい、ガラードは頭を押さえて地面に倒れ込む。


「お前が頼っていいのは私だけ? 違うな、お前はただ頼っていい人間を探さなかっただけだ」


 ドレッドは止まらない、倒れ込んだガラードに向かって追い打ちをかける。

 だがガラードもやはりそのまま押し切られるほどヤワではない。

 追撃を受けながらも、ドレッドの腕を掴んでそのまま引き倒す。

 そして二人はその場でお互いを組み敷き合う。


「私が頼っていい人間を探さなかっただけ? ふざけないで。どんな基準でそんな人を見つければ良かったっていうの!」


 ガラードはそう叫ぶと、ドレッドの肩に思いっ切り噛み付く。

 痛みで顔を歪めるドレッドだったが、決してドレッドを掴む手を緩めない。


「あぁ、確かに不可能だったろうさ。お前にとっては世界の全てが敵に見えたかもしれねえ!」


 ガラードには友人がいなかった。

 家族も自分を癒してはくれなかった。

 そんな彼女に人を信じろと言って、信じられるわけがない。


「お前一人を置いて逃げ出したのは私が悪い。だがそれでお前がどん詰まろうが知ったことか!」

「酷いじゃない! 私にはドレッドしかいないの!」

「うるせえ! お前が友達出来ねえ理由を押し付けんな!」


 あれ、なんだろう。

 そこまで深刻な問題に見えなくなってきた。


「みんな掌返して私に話しかけてくるのよ! 全部全部嘘くさい!」

「いいじゃねえか! こちとら全員掌返して嘲笑だ!」


 二人の少女の叫び合いはまだまだ続く。


「つーか永刻王になったらそれが日常になるんだよ! 」

「嫌! ドレッドがなってよ!」

「ざけんな! 私が永刻王になったらそれこそ荒れるわ!」


 え、ドレッドさん永刻王になる気無かったん?

 え、私のドレッド政権による獣人総レズ化計画はどうなるんですか?

 え? なんのために私は彼女と特訓したんですかね?


「じゃあ何でドレッドは永刻祭に出たのよ!」


 いいね、その質問。

 私も聞きたい。


「理由は二つだな。一つはヤコのせいで捕まったから中央大陸にいられなくなって逃げてきた。もう一つは自分にケリをつける為だ」


 理由の一つ私かよ。

 だけど肝心なのは二つ目だ。

 ケリをつける為とはどういうことか。


「私は決めたかったんだよ。この国で中途半端に生きるか、中央大陸で好き勝手生きるかをな」

「……どういうこと?」

「そのまんまさ。エンジュランドで適当な地位に着いて適当に生きるか、中央大陸でこれまた適当に生きるかを決める為にな」


 攻防が一旦弱まる。

 ドレッドがガラードを押し倒している形だ。


「最初は中央大陸に戻るつもりだった。居心地は悪かったし、何より恥ずかしい話だがお前に勝てる気がしなくてな」


 そう言ってドレッドが一瞬こちらに視線を寄越す。

 間違いなく私を見たのだろう。


「だけどよ、私を救い上げてくれた奴がいたんだ」


 救い上げたというが、私はただドレッドの特訓に付き合っただけ。

 むしろ私がドレッドに鍛えてもらったと言ってもいい。

 彼女がここに留まって、今この舞台にいるのは紛れもなく彼女が努力した結果だ。


「だから選択肢が出来た。もう一つのな」

「……それは?」

「お前とエンジュランドを支配してやるって選択肢だよ」


 その言葉を聞いたガラードは一瞬目を見開くと、口元を緩めて笑った。


「なんだ、結局私のお願い聞いてくれるの?」

「いーや違うね。別に私はお前だけを頼るわけじゃねえし、お前にも私だけを頼らせるようなことはしねぇ」

「ドレッド以外信用出来ないもん」

「バカこけ、私だって似たようなもんだ。それも踏まえて付き合っていかなきゃいけねえんだよ」


 ドレッドはガラードの体から手を離して立ち上がる。

 そして倒れるガラードに手を伸ばすと、その手に捕まってガラードも立ち上がった。


「私も頑張るんだ、お前も頑張れるだろ?」

「……うん」

「おっしゃ、じゃあ決めようぜ」


 そう言ってドレッドは後ろに数歩飛び退く。

 そして背中から白い砲身に金の装飾が成された銃を伸ばし、ガラードに向けた。

 ガラードもまた距離を取って、ドレッドに向ける。

 ガラードの銃は異様な形から再び以前の姿を取り戻し、体毛も元の美しい銀色の光を放つ。


「勝った方が上だ、いいな?」

「負けないよ」


 ガラードの〝清銃ディラン″の銃口から高い音が鳴りだした。

 共鳴するようにドレッドの銃からも音が響く。


「〝清銃ディラン″!」


 ガラードの銃口から光の奔流が溢れ出す。

 ドレッドはそれを避けるようなことをしない。

 真正面から迎え撃つ。


「〝(はん)銃クラレント″!」


 二つの力がぶつかり合い、フィールドを眩い光が埋め尽くした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ